Inoue Chikara

Yamaguchi Takuya

Yamashita Daisuke

井上 主税

山下 大輔

山口 卓也

Kansai University Repository

博物館研究班「本山コレクション貝塚研究班」 研究成果報告（2020・2021年度）著者 井上 主税, 山下 大輔, 山口 卓也雑誌名 関西大学博物館紀要巻 28ページ A53-A58発行年 2022-03-31URL http://doi.org/10.32286/00026430― 53 ―博物館研究班「本山コレクション貝塚研究班」研究成果報告（2020・2021年度）井上主税　関西大学文学部教授（研究代表者） 山下大輔　関西大学博物館学芸員　　　　　  山口卓也　関西大学博物館学芸員　　　　　１ ．はじめに　総点数約 2 万点を数える登録有形文化財「本山コレクション」には、多くの縄文時代の遺物が含まれる。その中でも、岡山県笠岡市所在の津雲貝塚出土資料や、東北・北関東の貝塚群から得られた資料については、当コレクションの先史時代資料の中核を成すといっても過言ではない。この他にも九州熊本に所在し、縄文土器型式の標式となる遺跡及び貝塚出土資料も学史的に重要な位置を占める。　この本山コレクションに関しては、2017年度以降、資料の個体識別や接合作業、型式ごとの出土量の確認など、より詳細な再整理作業に取り掛かっている。単一遺跡出土資料だけでなく、より広域にわたる同時期あるいは近い時期の遺跡群の出土資料を総合的に整理・研究することで、本山コレクションがもつ地域史復元のためのポテンシャルを引き出すことが可能になると考える。　津雲貝塚資料については、2020年 3 月に、各機関・個人が収蔵する関連資料を網羅的に調査した、総合的な調査報告書が笠岡市教育委員会により刊行され（安東他 2020）、改めて当貝塚の重要性が確認された。同時に、さらに詳細な分析・研究を継続的に行っていく必要性も提起されている。関西大学博物館もこれまで津雲貝塚出土の収蔵資料の紹介・公表等を行ってきたが（関西大学博物館 1998、山下 2002）、まだ所蔵する資料全てに詳細な調査が及んでいるとは言い難い。資料の個体識別や接合作業、型式ごとの出土量の確認など、より詳細な整理作業を実施することで、当貝塚を今日的なレベルで再評価し、これを公表していくことで、地域史の復元という観点からも大きく寄与できるものと考える。また当然ながら、次世代への文化財の継承という意味でも、このような基礎的な調査・整理とそれに基づいた総合的な研究は所蔵機関としては必要不可欠な作業といえる。　本研究班では、このような現状に鑑み、これまで断片的な紹介のみであった本山コレクションの貝塚出土資料について、個体識別や接合・復元作業など、より詳細な整理作業を実施するとともに、他機関が所蔵する関連資料と比較検討することで当館所蔵の資料について今日的な評価を与え、その成果を公表することを目的とする。本研究班は、文学部教授井上主税（2020年度は准教授）を研究代表者とし、関西大学博物館学芸員山口卓也と山下大輔が班員として調査・研究にあたっている。― 54 ―2 ．2020・202１年度の研究成果　2020・2021年度は、津雲貝塚を中心に、各地の貝塚出土とされる資料の全体的な把握を進めるとともに、出土資料の種別ごとの出土量（点数）を確認するなど、これまでより一歩進んだ資料整理を実行した。個体識別・接合作業によって細別時期の標式となりえるような土器資料を抽出し、展示に向けた復元・補強を行った。また、関連遺跡の調査のため、2020年度に青森県における関連遺跡の踏査および出土資料の調査を行った。（ 1）津雲貝塚出土資料　津雲貝塚出土資料に関しては、本山彦一が蒐集した資料の目録である『本山考古室図録』・『本山考古室目録』・『本山考古室要録』の中でその一部の実測図や拓本、写真が示されている。さらに、1998年に刊行した『関西大学博物館図録』では、幼児甕棺や貝輪、土偶といった主要な遺物を図化し、解説を加えた（関西大学博物館 1998）。その後、当研究班の班員の一人である山下が、やはり主要な出土資料について改めて図化し、資料紹介を行っている（山下 2002）。また、2010年に刊行した『関西大学博物館蔵本山彦一蒐集資料目録』でも、『本山考古室目録』・『本山考古室要録』に収録された本山彦一蒐集考古学資料と関西大学博物館所蔵資料を対照した目録を作成する中で、津雲貝塚出土資料についても現状の収蔵状況を確認している（関西大学博物館 2010）。当研究班での再整理作業においては、2010年の対照作業の段階で本山考古室での番号が不明であった資料の中からも接合可能な破片を確認し、復元作業を行っている。その中で、本山番号599の資料（第 1 図 1 ）は、2002年の資料紹介の際に図化し（山下 2002、第 4 図 2 ）、器形についても推定復元を行っているが、今回の調査でさらに多くの破片が接合可能であることが判明した。底部は接合しないものの全体の器形を窺い知ることができる資料であったため、今回改めて図化を行い、ここに再提示する。　本資料は、底部を除く口縁部から胴部下半にかけて全体の約 1 / 3 まで接合・復元が可能であった。復元口径は34.8cm を測る。底部はそれ以外の部位と接合はしなかったものの、図上で復元を行った結果、器高は約36cm 程度になるものと考えられる。器面には「二号人骨頭蓋ヲ覆ヒアリシ土器」・「備中津雲」と墨書される。器形は胴部が張り、そこから口縁部に向かい緩やかに外反する。底部はこの時期の典型的なものとは異なり薄い平底となるが、内外面の調整や断面形態などから底部片と判断した。口唇部には刻目が施され、外面の口縁部から頸部にかけては横方向の貝殻条痕で調整される。胴部上半も条痕後にナデ調整が加えられる。胴部下半には縦方向のケズリ状の削痕が認められる。内面は口縁部直下に強いナデ調整により浅い凹線が巡る。口縁部から頸部にかけてはオサエによって調整される。それ以下は浅い条痕調整とナデ調整が加えられ、比較的平滑となる。また、内面の一部には白色の付着物が認められるため、頭蓋骨を被覆する際に付着した人骨の痕跡である可能性が指摘できる。時期は晩期前半の所産であると考えられる。　さらに、本山番号611の浅鉢形土器（第 １ 図 ２ ）についても2002年の段階で実測図を提示しているが（山下 2002、第 5 図 5 ）、さらに接合・復元が可能であったため今回改めて図化し、ここに提示する。　当資料は、底部を欠くがそれ以外の部位の器形を知ることができる資料である。くの字に屈曲する頸部から口縁部にかけては一部のみが遺存するため、全体の器形は図面上で復元している。― 55 ―0 10cm１２第 1図　津雲貝塚出土土器実測図（S= 1 / 3 ）-----,---___:--——— ／） ヘ口＼ー／ ＼ ーク一-＝ ＝―-／  - ---ミニ--一- --- - ＼ - ． 一ミ- づ三-、（） ／＼ ー／二~-＝三三三--==-- --ーーニニ二三―三 ＝一＼ ~ I I I[;ニロ三三三三二三三―- ーニ＿ ーニ----- -三ローミ-- =--＼凡,'’ ＇ _ ＼， ••• , ， ．． •\ ＼ I •• ’ , ．． ,9,. ＼ , •• ,9, ヽヽ‘-，，， ＼、ニ- I ヽ― 56 ―復元口径は19.6cm を測る。底部は丸底を呈するものと考えられ、胴部から頸部にかけては S 字状に屈曲し、口縁部に至る。口縁部内面直下には 1 条の凹線が巡る。晩期前半期の浅鉢形土器で、内外面共に丁寧に磨かれ黒色を呈する。底部は意図的な打ち欠きにより欠損する。（ 2）東北地方出土関連資料　本山コレクションには、東北地方、特に三陸地方を中心とする貝塚出土資料が含まれている。今回の整理・調査では、これら個別資料の種別・点数の再確認を行った。2020年度には、青森県の関連遺跡の踏査と博物館園を訪れ調査を実施した。その際に、貝塚出土資料ではないものの、当コレクションの中にその出土遺物がみられる、青森県つがる市所在の亀ヶ岡石器時代遺跡や八戸市所在の是川石器時代遺跡の踏査も行い、関連資料の調査を行った。その成果も含め、2021年１１底部２ ２底部写真 1　津雲貝塚出土土器（本山番号599・611）― 57 ―写真 2　青森県所在の本山コレクション及び貝塚関連遺跡（上段：つがる市亀ヶ岡石器時代遺跡　中段：八戸市是川石器時代遺跡　下段：七戸町二ツ森貝塚）写真 3　「北海道・北東北の縄文遺跡群」世界遺産登録記念小企画展疇一．． ＜ヽ，， が、ビーLヽ贔麗R,1輝. -';ヽ、 9 -” ・. J'. ャ 名． ..、．`-．-・知 ”. ， ． >-L .、•.: ;p->さこ― 58 ―7 月の「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産への登録に合わせ、当館所蔵の関連遺跡出土資料を展示する小企画展を開催した。中でも是川石器時代遺跡出土の円筒上層式土器（今回の整理で接合・復元）とオニグルミの内果皮はこれが初展示となった。（ ３）北関東地方出土関連資料　茨城県稲敷市に所在する福田貝塚と椎塚貝塚出土資料の確認作業を行った。特に椎塚貝塚出土土器資料は充実しており、可能な限り個体識別を試み、型式ごとの出土量の把握を行った。今後は主要な出土遺物の図化及び写真撮影を行っていきたい。3 ．今後の予定　当初は、2021年度に、それまでの整理・研究成果を公表する計画であったが、上述のような基礎的な整理および調査作業において、当初計画よりも接合や石膏による補強が必要な資料が増加し、個別資料の調査に時間を要した。また、新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、予定していた関連遺跡の踏査や出土資料調査が実施できなかった。そのため、博物館運営委員会に諮り、研究期間を延長し、本研究を2023年度まで継続して行うこととした。　2022年度は引き続き資料整理を進めるとともに、関連遺跡・資料の調査を継続的に行う。その後、最終年度となる2023年度に整理・研究成果の公表するため、本研究の成果に関する展示会を開催し、標式的な土器資料を中心に、石器や貝輪、骨角器など本山コレクションに含まれる貝塚出土資料取り上げ、広く公開することとしたい。4 ．おわりに　約 2 万点を数える本山コレクションは、2011年に一括して国の登録有形文化財に登録された。これは、当コレクションが有す学術的価値が評価されるとともに、コレクション形成史の観点からも大きく評価されたためといえる。そのような学術的・コレクション形成史的に貴重な情報を有すコレクションをより詳細に評価・顕彰するためには、さらに徹底した調査・研究が必要であることは言を俟たない。本研究班では、本山コレクションの中でも中核を成すといえる縄文時代の資料、特に貝塚出土資料に焦点を当て、個別資料の把握と縄文時代研究の中での今日的な位置づけを行うことを目的とする。 4 カ年にわたる研究の成果は、最終年度となる2023年度に展示会として報告する予定である。（文責： 1 ・ 4 章　井上・山下・山口、 2 ・ 3 章　山下）【参考文献】安東康宏他　2020『津雲貝塚総合調査報告書』笠岡市埋蔵文化財発掘調査報告書 6 　笠岡市教育委員会関西大学博物館　1998『博物館資料図録』末永雅雄　1935『富民協会農業博物館本山考古室要録』岡書院山下大輔　2002「関西大学博物館所蔵の津雲貝塚出土資料」『関西大学博物館紀要』第 8 号　関西大学博物館

博物館研究班「本山コレクション貝塚研究班」 研究成果報告（2020・2021年度）

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博物館研究班「本山コレクション貝塚研究班」研究成果報告（2020・2021年度）

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