Fujiwara Manabu

藤原 学

Kansai University Repository

大韓民国全羅南道長興郡 : 韓亨俊瓦窯の実測調査著者 藤原 学雑誌名 阡陵 : 関西大学博物館彙報巻 45ページ 8-9発行年 2002-09-30URL http://hdl.handle.net/10112/00024043一大輯民国全羅南道長興郡—韓亨俊瓦窯の実測調査藤 原 学2002年3月25日午前11時20分、関西大学で考古学を学ぶ3回生中野咲・ 2回生青木美香と私の3人は、韓国の金海国際空港到嗜ロビーで東国大学校慶fl-Iキャンパス博物館の金鏑詳研究員の出迎えを受けた。韓国への入国はもう25回を超えているが、今回は多少緊張している。大きな図面ケースを抱え、バッグの中にはカメラやメジャー類に加えて、水準器や水糸、定規、チョーク等いろんな実測用具を詰め込んでいるので、確かにいつもとは肩に掛かる重さが違う。そしてなによりも、この調査は私自身で計画して、韓国の研究者に呼びかけ実現した初めての海外での実測調壺なので、その責任の重さを感じているのであろう。いつも満身の笑顔で出迎えてくれる金研究員に 2人の同行者を紹介して、早々に彼の車に乗り込み、西230キロメートル先の全羅南道の「長興」を目指した。長興に到落したのは午後4時。そこで韓国を代表する窯跡研究者である韓盛旭氏と昨年11月以来の再会を果たし、直ちに調査現場に向かった。長興から車で10分余り、奇岩を抱いた標高518mの億佛山の東裾を南下すると安良面茅嶺里という小村につく。その村外れの街道の脇に調査目的の達磨窯は築かれている。到着してすぐに窯の操業者である、棘国重要無形文化財第91号製瓦匠・韓亨俊氏の出迎えを受けた。 1997年12月に取材に応じて頂いているので、 4年4ヶ月ぶりである。その晩、韓亨俊． 氏を囲んでの宴席となったのは言うまでもないが、杯を交わしながらの雑談がまさに聞き取り調査でもあった。翌26日から 2日間、窯の実測には日本から参加した 3人に加え、金鏑詳研究員、そして慶北大学校大学院生の李仁淑氏の 5名で1945年製の達磨窯と格闘することとなった。海外なので十分な測景器械も持ち込めない。 1台のレベルとわずかなメジャー、水球などで全長 6m高さ2.50mの複雑な構造物の実測に挑戦するのであるから大変である。それでも27日の午後3時すぎには、おおよそ窯の図面に目途がついてきた。夕日も大きく傾いた頃、最後に燃焼室内部の写真を撮ろうと、青木・中野さんが順に窯の中． 写真 1 実測調査中の韓亨俊瓦窯- 8-写真2 瓦窯燃焼室の天井構造に潜り込む。小さな燃焼室なので一人ずつしか入れないが、しばらくして出てくる 2人はいずれも Iすごい！」の一声。「何がすごいんだろう？」と思いつつ窯に入るが、ほとんど真っ暗だからカメラのピントも合わせようもない。しかたなくカメラを抱いたまま燃焼室の床に仰向けになっていると、そのうち焚き口から入る光で次第に目も慣れ、視野に飛び込んできたのが、瓦で溝開の花のように見事に組み上げられた天井の構造であった。北関東藤岡瓦の窯築師伊藤倉次氏との対談で聞いた「瓦を慎重に迫り出しながら両側から持ち送りつつ天井を架けてゆく」伝統的な天井架設技術の話が頭を過ぎる。見事！と言う外ない。これを見ただけでも、ここに来た甲斐があった。達磨窯は16世紀以来、日本の燻瓦の焼成を担って来たわが国独特の窯炉である。 20世紀初頭には日本より翰国に伝えられていたから、それが韓国に展開している理由は、日本による「韓国併合」という歴史以外の何物でもない。おそらく、歴史上、 E本から雄国に伝えられて定洛した唯一の窯炉技術が達磨窯なのである。そのことについては、拙書 「達磨窯の研究』 (2001年刊）にできる限り吉いておいたが、まだ解明されなければならないことは多い。そしてこの窯は1945年に輯亨俊氏ともう一人の蒋国人により構築されたと伝え、以来57年を経た現在も操業され、現役の達磨窯のなかでは、日本・緯同を見渡しても、また世界を見渡しても、おそらく最年長の達磨窯なのである。この窯については、韓国国立文化財研究所の民俗芸能研究室が調査に入り、すでに 「製瓦匠一韓国の重要無形文化財①一』 として1996年に写真3 焼成室内の瓦報告され、瓦の製作・焼成記録が90分のビデオ映像として残されている。その報告には窯の寸法を記入した構造概要図が掲載されているが、8本各地の達磨窯の系譜を踏まえて、本窯が構築されるに至った事情を歴史的に評価をするには、もっと詳細な構造図を必要とする。今回の実測は正にそのための作業のひとつでもあった。緯国考古学の世界では、韓国に伝えられた日本の文化所産を「日系遣物」という。全羅南道では「円筒形土器Jと呼ばれる古墳を巡る埴輪円筒が代表格であるが、この達磨窯は古代・三国時代のものでなく、正しく近代の「日系遺構」で、植民地時代の日系生産遺構を日緯両国の研究者が調査していることとなる。そして、確かに達磨窯は日本から伝わった窯炉形態ではあっても、製瓦技術全体を見渡した場合、現代の製瓦各工程の用具、技術のどれが韓国独自のもので、どれが日系なのかは随分難しい問題であることがこの瓦工場を見るだけでも分かる。千数百年の造瓦の長い双方の歴史があって、この窯があるといえども最後の数十年の歴史だけを特に増幅してみることは、少なくとも技術の世界では間違っている。この難しい課題は、日韓両国の研究者が各分野に及ぶ級密な調査を続けるしか解決の方法がない。この調査はそのためのささやかな一歩である。ぜひ、いい成果の実測図と調査所見を、日輯の双方で発表したいと考えている。- 9-

大韓民国全羅南道長興郡 : 韓亨俊瓦窯の実測調査

https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=20020&item_no=1&attribute_id=19&file_no=1

大韓民国全羅南道長興郡 : 韓亨俊瓦窯の実測調査

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Kansai University Repository