早大学位記番号:新8280早稲田大

Fehaid Alaa Ahmed Ahmed

早稲田大学博士(理学)早大学位記番号:新8280doctoral thesi

Fehaid, Alaa Ahmed Ahmed

Waseda University Repository

   早稲田大学大学院 先進理工学研究科     博士論文審査報告書      論  文  題  目   Effect of silver nanoparticles on the cellular responses of tumor necrosis factor alpha           申  請  者 Alaa Ahmed Ahmed FEHAID  フェヘード  アラー  アヘメド  アヘメド  ナノ理工学専攻 ナノバイオ材料研究   2019 年 7 月    1 銀ナノ粒子はその抗菌性から防臭スプレーや抗菌ソックスなど様々な製品に含まれている。通常これらの製品の安全性は健常者で実証される。しかし、今後さらに銀ナノ粒子をドラッグデリバリーシステムやバイオイメージングに応用するためには健常者のみならず、病態での安全性を検証する必要がある。病態での安全性を検証する方法として細胞を用いた病態モデルがある。腫瘍壊死因子αは炎症、アポトーシス、 DNAダメージによる発がんなど様々な病態を引き起こすことが知られている。実際、腫瘍壊死因子αを標的とした生物薬剤が開発されていて、炎症や自己免疫疾患などの治療に使われている。これまでに様々なナノ粒子が細胞の様々な受容体に作用することが明らかにされている。これは銀ナノ粒子が健康な状態と病態ではその作用が異なる可能性を示唆するものである。したがって、銀ナノ粒子が腫瘍壊死因子αの受容体に何らかの影響を与えることが予想される。  申請者は上記の考えのもと、「銀ナノ粒子は健康な状態と病態に対して異なる作用を示す」という仮説を立て、それを立証するために、腫瘍壊死因子αを用いた病態モデルを利用して「腫瘍壊死因子αが誘導する細胞応答に銀ナノ粒子が与える影響」を検討している。本論文は全五章で構成されている。以下にその概要を述べる。  第一章では銀ナノ粒子の毒性や生体および細胞との相互作用に関する研究について総括している。さらに腫瘍壊死因子αと疾患やそのモデル実験系に関して述べている。そして「銀ナノ粒子は健康な状態と病態ではその作用が異なる」という仮説について論じている。  第二章では、腫瘍壊死因子αが誘導するアポトーシスに銀ナノ粒子が与える影響に関して検討している。アポトーシスはアルツハイマー病、パーキンソン病、炎症など様々な病気に関連している。申請者は腫瘍壊死因子αを細胞に作用させアポトーシスを誘導する実験系に銀ナノ粒子を暴露することでどのような影響を与えるかを検討した。その結果、銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導するアポトーシスを抑制することが明らかになった。さらにその分子メカニズムを明らかにする目的で、腫瘍壊死因子αの受容体の発現と局在の変化を検討した。その結果、腫瘍壊死因子αの受容体は通常は細胞表面に発現しているが、銀ナノ粒子を暴露することによって局在が細胞質に移動していることが明らかになった。これは、銀ナノ粒子が腫瘍壊死因子αと受容体の複合体と結合して細胞内に取り込まれてその結果、細胞表面の受容体の発現が低下したと考えられたことにより、腫瘍壊死因子αの作用が銀ナノ粒子により抑制されたと考えられる。以上の結果から、銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導するアポトーシスを受容体の再発現を減少させることで抑制していると結論している。    2 第三章では、腫瘍壊死因子αが誘導する D N Aダメージに与える銀ナノ粒子のサイズ効果について検討している。 D N Aダメージは癌や老化など様々な疾患に関係していることが知られている。そこで申請者は腫瘍壊死因子αを細胞に作用させ D N Aダメージを誘導する実験系に粒子径の異なった銀ナノ粒子を暴露することでどのような影響を与えるかを検討した。その結果、粒子径 1 0  nmの銀ナノ粒子は D N Aダメージを促進したが、粒子径 2 0 0  nmの銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導する D N Aダメージを抑制した。その分子メカニズムを明らかにする目的で、腫瘍壊死因子αの受容体の発現と局在の変化を検討した。その結果、粒子径 2 0 0  n mの銀ナノ粒子を暴露することによって局在が細胞質に移動していたが、粒子径 1 0  n mの銀ナノ粒子の暴露では受容体の局在には変化が見られなかった。これは、粒子径 2 0 0  nmの銀ナノ粒子は細胞表面の受容体の発現を低下させたことにより腫瘍壊死因子αの作用が抑制されたが 1 0  n mの銀ナノ粒子の暴露では受容体に関係なく銀ナノ粒子自体が D N Aダメージを誘導したことを示唆している。以上の結果から、粒子径 20 0  n mの銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導する D N Aダメージを受容体の再発現を減少させることで抑制したが、10  nmの銀ナノ粒子は DNAダメージを促進すると結論している。  第四章では、腫瘍壊死因子αが誘導する炎症に銀ナノ粒子が与える影響に関して検討している。申請者は腫瘍壊死因子αを細胞に作用させ炎症を誘導する実験系に銀ナノ粒子を暴露することでどのような影響を与えるかを検討した。その結果、銀ナノ粒子そのものは炎症を誘導するが、腫瘍壊死因子αが誘導する炎症を抑制することが明らかになった。さらに銀ナノ粒子は N Fκ Bを介した転写制御とインフラマゾームを介した転写後の炎症の制御に作用することを明らかにした。以上の結果から、銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導する炎症を受容体の再発現を減少させることで抑制したが、銀ナノ粒子そのものは炎症を促進すると結論している。  第五章では、本研究の成果を総括および考察すると共に、将来の研究に対する方向性について述べている。申請者は「銀ナノ粒子は健康な状態と病態ではその作用が異なる」という仮説を立証するため「腫瘍壊死因子αが誘導する細胞応答に対する銀ナノ粒子の影響」を検討した。細胞による疾患モデルを用いて検討した結果、銀ナノ粒子は腫瘍壊死因子αが誘導する細胞応答を抑制するという結果を得ている。この結果はここでの仮説を支持するものである。以上の結果は銀ナノ粒子を医学領域に応用するのに有用な情報を与えると結論している。さらに将来展望として、腫瘍壊死因子αが誘導する疾患の治療薬としての銀ナノ粒子の可能性について議論している。    3 以上、本研究において申請者は、腫瘍壊死因子αが誘導する細胞応答に対して銀ナノ粒子が与える影響を検討した。病態モデルでの銀ナノ粒子の作用を検討した例は世界的に見ても皆無であり、非常に独創的な研究である。得られた結果はナノ材料の医学・生物学分野への安全な利用に多大な貢献をなすものであり、今後のナノバイオ・ナノメディスン分野の進展に寄与するところが大きい。よって、本論文は博士（理学）の学位論文として価値あるものと認める。   2019 年 7 月    審査員  （主査）早稲田大学教授（任期付）博士（薬学）東邦大学  谷口  彰良      早稲田大学教授  工学博士  東北大学      庄子  習一      早稲田大学教授   博士（工学）早稲田大学      谷井  孝至      早稲田大学教授（任期付）  博士（理学）東京大学   中西  淳  

Effect of silver nanoparticles on the cellular responses of tumor necrosis factor alpha

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銀ナノ粒子の腫瘍壊死因子αが誘導する細胞応答に与える影響

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