制度:新 ; 文部省報告番号:甲1995号 ; 学位の種類:博士(工学) ; 授与年月日:2005/3/15 ; 早大学位記番号:新392

Nagase Kenichi

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DSpace at Waseda University

 早稲田大学大学院理工学研究科     博 士 論 文 概 要         論 文 題 目  Efficient Oxygen Uptake from Water with Newly-Developed Artificial Gills   新規人工鰓システムによる 水中からの高効率な酸素の取り込み           申  請  者 長瀬 健一 名  専攻・研(課程内      氏  Kenichi Nagase 究指導 のみ) 応用化学専攻 化学工学研究 2004 年 11 月    魚類のように水中を自由に活動することは人類の長年の夢である。この夢が実現すれば、人類の生活圏は、陸上のみならず海中へと大きく拡大することが可能になる。アクアラングを用いたスキューバダイビングや、海上あるいは海底船舶からホースにより酸素を供給する他給式潜水により、人類は水中での活動を可能にした。しかし、スキューバダイビングでは、潜水時間を酸素ボンベの容量により制限され、他給式潜水においては、酸素供給ラインにより潜水者がつながれているため、行動範囲が制限される。つまり、ヒトの水中での活動は時間的あるいは空間的に制限されてしまう。  魚類は、鰓という呼吸器官を用いて水中の溶存酸素を血液内に効率良く取り入れている。水中溶存酸素を気相に取り込む装置は人工鰓と呼ばれ、現在までにさまざまな形式の人工鰓が開発されている。この人工鰓が実現すれば、ヒトは酸素ボンベ容量や酸素供給ラインに制限されることなく、自由に水中を遊泳できる。また、海底牧場、海底工場、海中資源探査などのさまざまな分野への応用が可能であり、人類の生活圏拡大のためのキーテクノロジーの一つといえる。しかし、現在までに開発されている人工鰓の酸素移動速度は小さく、気相に得られる酸素の分圧が低いため、ヒトの水中呼吸には不十分である。  そこで本論文では、化学工学における物質移動論、医用工学における人工肺設計理論を応用し、水中から気相への酸素移動を促進する人工鰓システムや、気相にヒトの呼吸に必要な高濃度酸素を供給する人工鰓システムを開発した。これらの人工鰓システムは二つの中空糸膜モジュールと酸素キャリア液から構成される。生体内の酸素運搬物質であるヘモグロビン、金属錯体であるモリブデンポルフィリン、酸素溶解度の著しく大きなフッ化炭素であるパーフルオロカーボンを酸素キャリア液として装置内に循環させた。一つ目の中空糸膜モジュールを用いて水中溶存酸素を酸素キャリア液に取り込み、その後もう一つの中空糸膜モジュールを用いて酸素キャリア液から気相へ酸素を放散させた。このシステムにより水中から気相へ効率良く酸素を移動させた。  本論文は全 8 章で構成される。  第 1 章では、現在までに開発された人工鰓の特徴、人工肺設計における基礎理論、人工血液や金属錯体の酸素運搬性能など、新規人工鰓システムの開発に応用できる技術情報を化学工学、医用工学の視点からまとめた。これにより、新規人工鰓システム開発の指針を示した。   第2 章では、ウシヘモグロビンの温度変化に応答して酸素を結合・解離する性質に着目し、ウシヘモグロビン溶液を用いた温度応答性酸素キャリア液を開発した。ウシヘモグロビン溶液にアロステリック効果剤としてイノシトール 6 リン酸( IH P )を添加し、ウシヘモグロビンの酸素親和力を最適化した。ウシヘモグロビンに対して IHP を 5 倍量添加し、ウシヘモグロビン溶液の p H を 6 . 9 に調整することで、ウシヘモグロビンの酸素親和力は最適化され、水相から気相へ酸素を効率1   良く移動できることがわかった。また、 D -グルコースなどをウシヘモグロビン溶液に添加し、メトヘモグロビン（酸化ヘモグロビン）還元酵素を働かせることで、メトヘモグロビンの生成を抑制することが可能であった。また、気相への最適酸素放散温度は、必要な熱移動速度と酸素キャリア液流量を低く抑える 3 1 0  K が最適であることがわかった。   第3 章では、第 2 章で最適条件を設定した IHP 添加濃縮ウシヘモグロビン溶液を用いた小型人工鰓を設計した。 2 9 3  K で水中から酸素キャリア液へと酸素を吸収させ、その後、酸素キャリア液を 3 10  K まで加熱して、酸素キャリア液から吸気へ酸素を放散した。酸素移動促進を示すパラメータであるヘモグロビン酸素化反応係数 E を中空糸膜モジュールにより測定した。酸素吸収では約 3、酸素放散では約 1 6 の値を示した。これはヘモグロビンの酸素化反応、酸素解離反応が大きく起因している。また、 4 種の人工肺モジュールの総括物質移動係数を測定し、流体レイノルズ数、流体線速度の大きなモジュールを選択し、人工鰓のガス交換モジュールとして用いた。この人工鰓システムの必要膜面積、必要海水流量は、酸素キャリア液を用いない従来の人工鰓システム（膜型人工鰓）に比較して約半分におさえることができた。これにより、携帯可能な小型人工鰓の開発の可能性を示せた。  第 4 章では、同じく第 2 章で最適条件を設定した IH P 添加ウシヘモグロビン溶液を用いて、海中探査艇や海底住居などの水中密閉空間へ酸素を供給するプラント型人工鰓を設計した。海水酸素濃度、海水流量、中空糸膜モジュール体積に関する次の 3 つの条件で設計をおこなった。すなわち、 A：通常の海水酸素分圧である 2 0  kP a で用いる条件、B：低酸素濃度領域の海中 ( 1 2  kP a )で使用し、中空糸膜モジュール体積を小さくする条件、 C：低酸素濃度領域の海中 ( 1 2  kP a )で使用し、海水流量を小さくする条件、である。全ての条件において、海水から酸素キャリア液への酸素吸収に大きな膜面積を必要とすることがわかった。また、海水酸素分圧が減少するにともない、必要膜面積、海水流量、酸素キャリア液流量、必要熱移動速度は約 2 倍増加することがわかった。これにより、海底探査艇などでの使用では、低酸素濃度領域での使用を考慮して、余分な膜面積を確保する必要があることが示された。   第5 章では、 IH P 添加濃縮ウシヘモグロビン溶液を用いた小型人工鰓とマゴイの鰓の酸素移動性能を対比させ、人工鰓システムの更なる性能向上のための指針を示した。マゴイの鰓（生体鰓）と人工鰓の酸素吸収部における酸素流束、水側のレイノルズ数、水と血液（酸素キャリア液）の酸素分圧差、酸素吸収効率を比較した。マゴイの鰓の酸素流束は人工鰓に比較して約 2 倍大きく、生体鰓は少ない表面積で効率良く酸素を取り込んでいることがわかった。一方、水側のレイノルズ数は人工鰓の方が大きな値を示した。これにより、生体鰓の大きな酸素流束は水の対流輸送によるものではないことがわかった。酸素移動の推進力である水2  と血液（酸素キャリア液）の酸素分圧差を比較したところ、水とマゴイの血液の酸素分圧差は、水と酸素キャリア液との酸素分圧差と比較して約 2 倍大きかった。また、水中の溶存酸素の利用効率を算出したところ、生体鰓は人工鰓と比較して大きな値を示した。これらの結果より、生体鰓は、血液の酸素分圧を小さくし、水との酸素分圧差を大きくすることで酸素を効率よく取り入れていることがわかった。よって、人工鰓の酸素吸収を促進させるためには、酸素吸収部において酸素キャリア液の酸素分圧を小さくすることが必要であることがわかった。  第 6 章では、光刺激応答性の金属錯体として知られているモリブデンポルフィリン（ O x o -mo l yb d e nu m(Ⅳ ) 5 ,1 0 , 15 , 2 0 - t e t r a me s i t y l p o r p h yr i n  ( MoⅣ O ( t mp ) )を用いた光刺激応答性人工鰓の設計をおこなった。酸素キャリア液として、M oⅣ O ( t mp )―o -キシレン溶液を用いて、一つ目の中空糸膜モジュールで水から酸素キャリア液へ酸素を吸収させ、その後、酸素キャリア液に光を照射し、酸素化状態にあるMoⅥ O ( t mp ) ( O 2 )から酸素を解離させ、もう一つの中空糸膜モジュールで気相へ酸素を放散した。このシステムにより、低酸素分圧の水中から、ヒトの呼吸に十分な高濃度酸素を気相空間へ供給することが可能であることがわかった。  第 7 章では、人工鰓用のガス交換モジュールの設計をおこなった。酸素キャリア液には、酸素移動速度解析が簡便におこなえるパーフルオロカーボン（ F M IQ（ P er f l u o r o -N -  me t h y l de c ah yd r o i s o qu in o l i ne））を用いた。酸素吸収部ではコイル状の中空糸を平行に配列させた中空糸配列が最適であることがわかった。また、酸素放散部では、直線状の中空糸を平行に配列させた中空糸配列が最適であることがわかった。これらの中空糸配列モジュールを用いた人工鰓システムは、人工肺モジュールをガス交換モジュールに用いた人工鰓システムと比較して、必要膜面積を大幅に削減することが可能であることがわかった。  第 8 章では、新規人工鰓システムの開発で得られた知見を人工肺モジュール設計や酸素療法など、医療分野へ応用した。人工肺モジュールの設計においては、従来の中空糸膜充填率による無次元相関式よりも、第 7 章で用いた流体の最大線速度による無次元相関式が有用であることがわかった。また、第 6 章で用いた光刺激応答性人工鰓システムを応用して、気相中の酸素を濃縮する光刺激応答性酸素濃縮システムの設計もおこなった。   このように本論文では、ウシヘモグロビン溶液を用いた温度応答性人工鰓システム、モリブデンポルフィリン溶液を用いた光刺激応答性人工鰓システムなどの新規人工鰓システムを開発した。これらの人工鰓システムは従来型人工鰓システムに比較して、水相から気相への酸素移動を促進でき、気相への高濃度酸素を供給することが可能である。また、中空糸膜モジュールの最適設計や操作条件の最適化により、水相から気相への酸素移動効率をさらに向上させることが可能である。これらのシステム開発および最適化設計は、人工鰓の実現に大きく寄与するものである。  3  研 究 業 績         種 類 別   題名、  発表・発行掲載誌名、  発表・発行年月、  連名者（申請者含む） ○論文    Design of hollow fiber modules for artificial gill using oxygen carrier solution,  Journal of Membrane Science (投稿中) Kenichi Nagase, Fukashi Kohori, Kiyotaka Sakai, Hiroyuki Nishide  ○論文    The photoresponse of a molybdenum porphyrin makes an artificial gill feasible,  Journal of Membrane Science (投稿中) Kenichi Nagase, Urara Hasegawa, Fukashi Kohori, Kiyotaka Sakai, Hiroyuki Nishide  ○論文   Efficiency of biological and artificial gills,  Bio-mechanisms of Swimming and Flying, Springer-Verlag (2004) Kenichi Nagase, Fukashi Kohori, Kiyotaka Sakai   ○論文    Designing an artificial gill using oxygen carrier solution for effective supply of oxygen to closed-space underwater,  Journal of Research and Engineering, 1, 31-36 (2003) Kenichi Nagase, Fukashi Kohori, Kiyotaka Sakai  ○論文   Development of a compact artificial gill using concentrated hemoglobin solution as the oxygen carrier, Journal of Membrane Science, 215, 281-292 (2003) Ken-ichi Nagase, Fukashi Kohori, Kiyotaka Sakai  ○論文  Optimum control of oxygen affinity of hemoglobin as an oxygen carrier solution for an artificial gill, Journal of Artificial Organs, 5, 44-49 (2002) Ken-ichi Nagase, Noriaki Matsuda, Kiyotaka Sakai  総説 人工鰓の技術的展望、日本バイオレオロジー学会誌(B&R)、15、68-74  (2001) 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝  国際 会議   Development of a photoresponsive artificial gill using a molybdenum porphyrin complex, AIChE 2004 annual meeting, Austin Convention Center,  Austin, TX, USA November 7-12, 2004 Kenichi Nagase, Urara Hasegawa, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai, Hiroyuki Nishide  国際 会議  A Compact Artificial Gill using a Hemoglobin Solution as a thermo-responsive Oxygen Carrier, 10th the APCChE Congress, Kitakyusyu International Conference Center, Fukuoka, Japan, October 17-21, 2004 Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai  国際 会議  A Photoresponsive Artificial Gill, 10th the APCChE Congress,  Kitakyusyu International Conference Center, Fukuoka, Japan, October 17-21, 2004 Kenichi Nagase, Urara Hasegawa, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai  国際 会議 Supplying oxygen to human in water using novel artificial gill,  4th European Congress of Chemical Engineering,  Granada Conference and Exhibition Centre, Granada, Spain, September 21-25, 2003 Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai   5    6   研 究 業 績        種 類 別  題名、  発表・発行掲載誌名、  発表・発行年月、  連名者（申請者含む） 国際 会議   Development of an artificial gill using an oxygen carrier solution Second International Symposium on Aqua Bio-Mechanisms,  Tokai University Pacific Center, Honolulu, U.S.A September 14-17, 2003  Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai  国際 会議   Development of an artificial gill using oxygen carrier solution for effective supply of oxygen to closed-space in water, Chemical Engineering Congress 2002,  De La Salle University, Manila, Philippines, December 6-7, 2002 Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai  国際 会議   Development of a compact artificial gill using the concentrated hemoglobin solution,  AIChE 2002 Annual Meeting, Indiana Convention Center,  Indianapolis, Indiana, U. S. A., November 3-8, 2002 Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai   国際 会議  Development of an artificial gill using concentrated hemoglobin solution as an oxygen carrier, The 13th World Congress of International Society for Artificial Organs,  Osaka International Convention Center, Osaka, Japan, November 5-8, 2001  Kenichi Nagase, Fukasi Kohori, Kiyotaka Sakai  講演 光刺激応答性酸素運搬体を用いた省エネルギー型人工鰓の開発、 化学工学会秋田大会、秋田ビューホテル、2004年 7月 長瀬健一、長谷川 麗、小堀 深、酒井清孝、西出宏之  講演 ヘモグロビン溶液を用いた携帯型人工鰓の開発、 化学工学会秋田大会、秋田ビューホテル、2004年 7月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝、西出宏之  講演 ガスキャリア液を用いた人工えらの最適設計による酸素移動促進、 化学工学会第 69年会、大阪府立大学、2004年 4月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝  講演 光刺激で酸素を取り込む人工鰓システムの開発、 第 14回 エアロ・アクアバイオメカニズム研究会、東京大学、2004年 3月 長瀬健一、長谷川 麗、小堀 深、酒井清孝 講演 ガスキャリア液を用いた人工えらによる水中密閉空間への酸素供給、 化学工学会第 68年会、東京大学、2003年 3月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝  講演 ガスキャリア液循環型人工えらの最適設計、 化学工学会第 35回秋季大会、神戸大学、2002年 9月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝、宮坂武寛、望月精一、吉見靖男     7   研 究 業 績        種 類 別  題名、  発表・発行掲載誌名、  発表・発行年月、  連名者（申請者含む） 講演  ガスキャリア液を用いた小型人工鰓の開発、 化学工学会第 67年会、福岡工業大学、2002年 3月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝、宮坂武寛、望月精一、吉見靖男  講演 ヘモグロビン溶液を酸素キャリア液とした人工鰓の酸素移動促進、 日本医工学治療学会 第17回学術大会、 京王プラザホテル（新宿）、2001年 9月 長瀬健一、小堀 深、酒井清孝、宮坂武寛、望月精一、吉見靖男  講演 ガスキャリア液を用いた人工鰓の酸素移動促進、 化学工学会第 66年会、広島大学、2001年 4月 長瀬健一、松田範昭、酒井清孝  講演 ヘモグロビン溶液を酸素キャリア液とした人工えらにおける 酸素親和力の最適制御、第 38回日本人工臓器学会大会、 四日市市文化会館、2000年 9月 長瀬健一、松田範昭、酒井清孝  賞罰 化学工学会第 67年会全国学生賞、2002年 3月   第 1回慶早ワークショップベストポスター賞、2002年 8月   化学工学会秋田大会学生賞 銀賞、2004年 7月   10th APCChE  Outstanding Paper Award、2004年 10月 その他 （記事等） ダヴィンチの予言、テレビ朝日 2002年 3月  GAP TO THE FUTURE 第 5回海底都市編～人工えら、週刊アスキー、2002年 9月  明和電機のマイ・リトルラボー 人工えら・肺の巻、大人の科学、2004年 4月  「人工えら」試作 水中の酸素供給装置に、日本経済新聞、2004年 7月  酸素ボンベ代わりに「人工えら」、週刊新潮、2004年 8月   ホッカホカ科学 第 6回「人工臓器」、ロゼッタストーン、2004年 10月   

新規人口鰓システムによる水中からの高効率な酸素の取り込み

制度:新 ; 文部省報告番号:甲1995号 ; 学位の種類:博士(工学) ; 授与年月日:2005/3/15 ; 早大学位記番号:新3928textthesi

長瀬, 健一

34171

Nagase, Kenichi

Waseda University Repository

       Appendix Abstract (in Japanese), Curriculum vitae  and List of publications     

Efficient oxygen uptake from water with newly-developed artificial gills

https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=20535&item_no=1&attribute_id=20&file_no=25

新規人口鰓システムによる水中からの高効率な酸素の取り込み

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