富美文庫蔵「ふしみときは」について

Abstract

publisher奈良本稿で紹介する富美文庫蔵「ふしみときは」は、上下二冊からなる絵入りの写本である(以下、富美文庫本と称する)。内容は、平治の乱の後、源義朝の愛妾常盤御前が今若、乙若、牛若の三兄弟を連れて都落ちする途次、伏見の老夫婦のもとに逗留するというもので、これは舞の本のうちの一つである。舞の本というのは、室町時代後期から江戸時代初期にかけて流行した幸若舞の語り台本を読み物用に転用したもののことである。慶長年間には古活字版が、また寛永年間には製版本が刊行されており、その後も版行が繰り返されていることから、かなり広く普及したものと思われる。また、舞の本は絵巻や「奈良絵本」と通称される絵入本の題材にもなっており、多数の作例が伝存する。「ふしみときは」についても既に十数件の存在が確認されているが、富美文庫本はその新たな一例となるものである。本稿では、この富美文庫本の概要を紹介し、本文を翻刻するとともに、その特質について若干の考察を加えることにしたい。なお、富美文庫が所蔵する絵入本及び絵巻については、別に報告書を作成するので、そちらも併せて参照されたい

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