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Yamamoto, Junko

山本, 純子

Japanese

Chugoku Gakuen Repository (中国学園リポジトリ)

肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）Nutritional Assessment of Patients with Hepatocellular          Carcinoma and Liver Cirrhosis                 （1990年4月9日）Key words＝肝細胞癌，栄養評価，たん白質栄養山 本 純 子Junko Yamamoto1 はじめに 肝臓病の中で，肝炎，肝硬変，肝癌は一連の過程と考えられており，特にわが国では肝癌と肝硬変はより密接な関係にあるとされ，肝硬変症例の多くに肝細胞癌（Hepatocellular carcinoma）の合併が認められる。肝癌合併肝硬変（以下，HCCという）例では，肝硬変にみられるたん白栄養不良状態に加えて，腫瘍への窒素移動が起こるためたん白崩壊をきたし，著しいたん白欠乏状態にあると考えられる。 化学療法や外科手術などの治療効果を高めるためにも，HCC例の栄養管理は重要である。そこで，本報では栄養治療のあり方を考える上での資料とするため，HCC例の栄養評価を試みた。豆 対象および方法 岡山大学医学部附属病院第一内科に入院したHCC例，9例〔男7例，女2例，平均年齢52±8歳〕を対象とした（表1）。 すなわち，慢性肝炎・肝硬変治療食給与が5例，肝不全治療食給与が2例，糖尿病治療食給与が2例で，このうち慢性肝不全用分枝鎖アミノ酸栄養剤であるアミノレバンEN〔大塚製薬，東京〕の併用例が3例あった。表1 対象症例  年齢    性別症例  （歳）腫瘍の大きさ（最大径）および数  腫瘍総体積2cm未満 2cm以上5㎝未満 5cn臼以上   （c㎡）食 種①②③④⑤⑥⑦⑧⑨616068675752606743男男男男男男男女女51302410010310121100000100016．43，654．711．53．281。49。34．84．2’慢性肝炎・肝硬変治療食    〃    ク    〃    （アミノレバンEN 100 g／日）    〃    （  〃    50g／日）肝不全治療食（ 〃   100g／日）糖 尿 病 治 療 食    ク肝不全治療食一49一肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報） 栄養素の摂取状況は，2日間の食事摂取量を献立表，残置の秤量および補食の聞きとりによって調査          ユラ                         し，四訂日本食品成分表ならびに日本食品アミノ酸組成表にもとづいて，1日の給与量と実際の摂取量を算出しそれぞれの平均値を求めた。 食事調査と同時期に，身長，体重，上腕囲，皮下脂肪厚（上腕背部と肩甲骨下部）を測定し，標準体    体   重 （kg）               ×100］および〔上腕囲（cm）一3．14×上腕背部皮脂厚（cm）〕から重比［    （身長（cm）一100）×0．9上腕重囲を算出した。皮下脂肪厚の測定は栄年式皮脂厚計によった。また，24時間尿から尿中総窒素排泄量をミクロケルダール法によって測定し，窒素平衡を求めた。そして，クレアチニン排泄量を測定し         ヨラクレアチニン身長指数を求めた。皿 結 果                      対象例の食事摂取状況は表2に示した。既報の肝細胞癌を合併しない肝硬変（Liver cirrhosis，以下，LCという）例と比較して，摂取エネルギー量73．3±14．7q）ともに低値であった。LC例，1775±252kcal），たん白質量（LC例，表2 食事摂取状況エネルギー  （kcaI／日）      （kcal／kg／日）たん白質  （g／日）      （9／kg／日） BCAA／AAAモル比（アミノレバンENを除く〉脂 質 （9／日）脂肪エネルギー比（％〉糖   質カルシウム 鉄ビタミンAビタミンBビタミンC（9／日）（mg／日）（mg／日）（lu／日）（mg／日）（mg／日）1633± 361 30±  565．5＝ヒ22．01．18±0．384．15±2．26（3．02±0．09）35．8±14．519．7± 7．1260．3±63．5 669±245 8．6±2．61755± 6721．19±0．37 104± 44平均値±標準偏差 給与食事の平均喫食摘をみると，エネルギーで，治療食のみ給与された例では87％，アミノレバンEN併用例では95％，たん白質は，治療食のみで78％，併用例で92％であった。 食事たん白のBCAAエバリン（Val）＋ロイシン（Leu）＋イソロイシンGle）／AAA＝フェニルアラニン（Phe）＋チロシン（Tyr）モル比は，治療食のみ給与された例で3．02±0．09，アミノレバンEN併用例の食事のみからで2．98±0．09となり，アミノレバンEN併用では6．40土3．01の高値であった。                           ら  カルシウムの平均摂取量は669mg／日で日本人の栄養所要量を満たしているが，肝不全食摂取例で224mg／日，320mg／日というきわめて低値の症例が2例あった。つぎに，鉄の平均摂取量は8．6mg／日と低値で，7mg／日以下の症例が肝不全食摂取例では1例，慢性肝炎・肝硬変食摂取例では2例あった。ビタミンでは，特にビタミンAで低値の症例が目立ち，10001U／日以下の症例が肝不全食摂取例およびi曼50一肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）性肝炎・肝硬変食摂取例で各々1例あった。 対象例の栄養評価および臨床検査成績を表3に示した。表3 栄養評価および臨床検査成績標  準  体  重  比皮脂厚（上腕背部＋肩甲骨下部）上   腕窒   素クレアチ血 清 総   ア  ル 筋   囲 平   衡ン身長指数た ん 白ブ  ミ ン血漿BCAA／AAAモル比赤へG 血   球モ グ ロ ビ   P   KICG 数ン 量 T総ビリルビンペパプラスチンテストα一フェトプロテイン（％）（mm）（cm）（9／日）（％）（9／dの（9／dの（万／dの（9／dの（Iu／の（mg／dの（％）（ng／mの103± 2025．8±17．922，2± 2．4－2．3± 2．6 74± ！86．5± 1．43．1±・0．81．12±0．24332± 5411．6± 1．9178±4020．06±0．032．63±2．11 54± 191840±2272（71～141）（16－1247）（0．51～7．50）（18～5624）                       平均値±標準偏差 標準体重比が80％未満のやせが1例，120％以上の肥満が2例あった。標準体重比は皮脂厚（r＝0．876，P＜0．01）とのみ有意の相関を示し，上腕筋囲とは相関せず体重のみによって筋肉量を推測することはできなかった。                             の 窒素平衡は著しく負に傾いており，9例中8例が負であった。これを既報のLC例（一〇．57±3．22）と比較すると，著しい下値を示す症例が多いことがわかる。また，窒素平衡は摂取たん白質量と有意の相関を示した（図1）。 例数は少ないが，窒素平衡をアミノレバンEN併用の有無で比較すると，併用例で高値となる傾向にあった。（図2）。窒素平衡⑤百20－2－4－6●●●●●●Y＝4．6X－7．8r＝0．687P＜0．05  2窒素 0平衡＿2？百一4）＿ U●●●●●●●●●0」5        1．0        1．5       2ゆ   摂取蛋白質量（g／kg／日）図1 摂取蛋白質量と窒素平衡の関連一51一    治搬愚粛バン図2 治療食のみ給与された例と  アミノレバンEN併用例と  の窒素平衡の比較肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）一方，摂取エネルギー量とは有意ではなかったが相関傾向が認められた（図3）。窒素平衡？百2o246●●●● ●●●●Y＝0．2X－9．1r＝0．48220 25     30     35摂取エネルギー量（kcal／kg／日）40図3 摂取エネルギー量と窒素平衡の関連 クレアチニン身長指数はHCC例では74±18％と著しい等値で， LC例（83±18％）と比較してもさらに低値の傾向で，筋たん白質の分解充進がうかがえた。IV 考 察                                      の 現在，日本人の死因の首位にある癌の中で肝癌は上位にあり，男性では増加傾向が著しい。日本人の肝癌では約90％が肝硬変を合併しており，高分化型の小肝癌がみられることが多く，肝癌に基づくとい                          りうより，肝硬変の非代償期にみられる症状を呈することが多い。 今回調査したHCC例では，平均KIcG値が0．06，ヘパプラスチンテスト54％と肝機能が非代償性肝硬変と同程度に著しく低下していた。HCC例の栄養状態を判定するにあたっては，腫瘍の大きさが問題となる。腫瘍の大きさおよび数は各症例で相違するため，腫瘍総体積を算出し腫瘍の大きさとした。腫瘍の大きさは，摂取エネルギー量（r＝一〇．360），摂取たん白質量（r＝一〇．347）および標準体重比（r＝一〇．241）と負の関連性を示し，腫瘍の大きな症例ほど摂取量の低下と，たん白栄養状態の低下があることが示された。 窒素平衡は，入院患者のたん白栄養評価法として最も基本的でしかも意義ある方法である。窒素平衡の求め方として・Bl㏄・b一ざ）は・〔響たん騨（9L（尿中三門量（・）＋・）〕とし，〔尿中総窒素量＝尿中尿素窒素量＋3〕 とみなしている。今回，窒素平衡を求めるにあたり，便中窒                              ラ素排泄量が入院対照例（1．2g／日）に比べ， LC例では（2．4g／日） と大であること，第四次改訂日        ら 本人の栄養所要量では皮膚その他からの損失を8mg N／kg／日とみこんでいることを考慮に入れ，〔摂取たん E量（9）一（尿中縫素量（・）・・）〕・した。 窒素平衡を維持するのに必要なたん白質量は，1．68g／kg／日以上（図1）という高値で，一般に食欲 10＞                                                                  11）不振のあるHCC例では食事のみからの摂取は困難である。しかも，非代償性肝硬変ではたん白不耐もみられるので，多量の食たん白の補給には注意を要する。アミノレバンENは慢性肝不全の血漿アミノ酸インバランスを改善し，たん白不耐のある症例にも血中アンモニア濃度の上昇をみることなく安全一52一肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）に投与できるたん白虹である。アミノレバンEN併用による窒素平衡改善傾向（図2）からみても，たん白栄養の改善に有意義と受けとめられる。 窒素平衡維持に要する摂取エネルギー量は39kcal／kg／日以上（図3）と推測されたが， L C例では         ニ ラ糖代謝異常の合併例が多く，また今回の対象にもみられるように肥満例も多い。過剰のエネルギー摂取は，肥満，肝への脂肪沈着を招くことが予測され，注意されねばならない。 クレアチニン身長指数は，ヘモグロビン量（r＝0．711，P〈0．05），上腕筋囲（r＝0．603），標準体重比（r＝0．500）および血清アルブミン量（r＝0．483）と関連がみられ，栄養状態の指標としての意義を有すると思われた。しかし，窒素平衡とは負の関係にあり筋肉量が維持されている症例では，筋たん白分解に伴う窒素排泄量増加も推測された。 一方，ビタミンAはある種の癌発生に関与することが疫学的にも認められている。肝はビタミンAの貯蔵臓器であるが，肝組織内ビタミンA量は栄養状態によって変動し，特に肝癌細胞組織においてはビ                    ユのヒユのタミンA欠乏状態にあることが報告されている 。ビタミンAおよびカロチンは脂溶性であるため，脂                                         ユらう肪摂取量によって吸収率が左右される。肝臓病治療食の脂肪量はなお低値である場合が多く，吸収率もまた低下している症例が多いものと推測される。HCC例のビタミンA摂取量は十分とはいえない状況（表2，平均摂取量で1755±6721U／日）にあり，吸収されやすい調理方法を用いた十分な補給が望まれる。V おわりに 栄養指標からみた場合，HCC例はLC例より一層のたん白栄養不良状態にあることが明らかであり，適切な栄養管理が必要であると考えられる。HCC例における栄養補給は癌発育との関連や，外科手術，化学療法との関連を勘案しながら，今後なお検討されねばならない問題であろう。 今回，回数が少なく腫瘍の大きさと栄養状態の関係について明らかにすることができなかった。今後さらに置数を増加して検：魅したい。 本研究を進めるにあたり，ご指導を賜りました岡山大学医学部第一内科学教室 辻孝夫教授，東俊温海生ならびに岡山県立短期大学食物科 沖田美佐子教授に深く感謝いたします。文献1）科学技術庁資源調査会編：四市日本食品標準成分表（1982）大蔵省印刷局2）科学技術庁資源調査会・資源調査所編：改訂日本食品アミノ酸組成表（1986）大蔵省印刷局3）Blackburn， G．L， Bristrian， B．R．， Maini， B．S．， Schlamm， H．T．， Smith， M．F．：Nutritional and metabolic assess－ ment of the hospital patient．∫PE／V，1 ：11－22 （1977）4）沖田美佐子，渡辺明治，長島秀夫：肝硬変例の筋力と栄養状態．臨床と研究，64：144－146（1987）5）厚生省保健医療局健康増進栄養課監修：第四次改定 日本人の栄養所要量（1989）第一出版6） （財）厚生統計協会：国民衛生の動向．厚生の指標，36：57－60（1989）7）元雄良治，小林健一：肝癌．臨床栄養，72：619－622（1988）53              肝癌合併肝硬変例の栄養評価の試み（第1報）8）Mackenzie， T．A．， Blackburn， G．L， Flatt， J．P，：Clinical assesment of nutritional status tlsing nitrogen ba－  lance． Fθd 1）7roc，33：683 （1974）9）沖田美佐子，渡辺明治，長島秀夫：肝硬変の栄養治療における分枝鎖アミノ酸補給の意義，日本臨床栄  養学雑誌，7：135－141（1985）10）岡 博，杉浦光雄：臨床肝臓病学（1989）朝倉書店11）Marchesini， G．， Bianchi， G．， Zoli， M．， Dondi， C．， Forlani， G．， Melli， A，， Bua， V，， Vannini， P．， and Pisi， E．：  Plasma amino acid response to protein ingestion in patients with liver cirrhosis． Gα蕊γoθ3z’gγoZ，85：283－  290 （1983）12）Marchesini， G， Melli， A．， Checchia， G．A．， Loretta Mattioli．， Capelli， M， Cassarani， S．， Zoli， M．， and Pisi， E．：  Pancreaticβ・Cell Function in Cirrhotic Patients with and Without Overt 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Nutritional Assessment of Patients with Hepatocellular\nCarcinoma and Liver Cirrhosis

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