京都大学0048新制・課程博士博士(農学)甲第19769号農博第2165号新制||農||1040(附属図書館)学位論文||H28||N4985(農学部図書室)32805京都大学大学院農学研究科森林科学専攻(主査)教授 井鷺 裕司, 教授 北山 兼弘, 教授 神﨑 護学位規則第4条第1項該当Doctor of Agricultural ScienceKyoto UniversityDFA

Izuno, Ayako

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TitleEcological and conservation genomics for the tropical treespecies Metrosideros polymorpha and Shorea leprosula(Abstract_要旨 )Author(s)Izuno, AyakoCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2016-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k19769Right学位規則第9条第2項により要約公開; 許諾条件により要約は2017-03-22に公開; 許諾条件により本文は2017-04-01に公開Type Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University - 1 - （  続紙  1 ）                             京都大学  博士（  農 学  ）  氏名  伊津野 彩子  論文題目  Ecological and conservation genomics for the tropical tree species Metrosideros polymorpha and Shorea leprosula (熱帯産樹木Metrosideros polymorphaと Shorea leprosulaを対象にした生態・保全ゲノミクス ) （論文内容の要旨）    樹木の環境への適応メカニズムに関わる遺伝基盤の解明は、生物多様性創出機構の理解に重要な示唆を与えるとともに、人為攪乱や気候変動に対する樹木集団の応答予測、森林保全や育種を通した適切な資源管理にも貢献しうるものである。塩基配列解読における近年の著しい技術革新によって、様々な生物において、大量遺伝情報に基づくゲノムレベルの遺伝解析  (ゲノミクス ) が可能になり、環境適応や種分化の遺伝的基盤の解析や生物多様性のより正確な実態解明が可能になってきた。本論文では、生物多様性ホットスポットとして保全価値の高い熱帯林を構成する2種の樹木を対象に、環境適応の遺伝的基盤の解明と植栽樹木集団の持続性評価を行った。    第 2章及び第 3章では、ハワイ諸島への定着以来、種内で著しい形態変異を生 じ 、 多 様 な 環 境 へ の 放 散 的 な 進 化 ・ 適 応 を 遂 げ て い る Metrosideros polymorpha (フトモモ科 ) を対象にした解析を行っている。   第 2章では、M. polymorpha種内の遺伝的変異をゲノムレベルで解明し、その劇的な形態変化を伴う進化プロセスを解明するために、ハワイ島マウナロア山麓に生育する個体を対象に新規全ゲノム解読を行った。得られた配列を連結  (アセンブル ) した結果、全長304 Mbpのゲノム配列が得られ、その中には 39,305遺伝子と、ヘテロ接合塩基サイト 847,078箇所が見出された。また、ヘテロ接合サイトの出現頻度に基づくコアレセントシミュレーションを行い、過去の有効集団サイズを推定したところ、本種は約400万年前にハワイ諸島に移入した際にボトルネックを受け、新島の誕生にともなうニッチ拡大とともに個体群が成長し、その後に著しい個体群減少を経験したことが示唆された。   第3章では、第2章で新規に構築したゲノム配列と、縮約ゲノム解読  (RAD-seq) により得られた一塩基多型遺伝子座  (SNPs) を用いて、空間遺伝構造のゲノムレベルでの評価、ゲノム中の適応遺伝子座の候補の探索、空間遺伝構造に自然選択と遺伝子流動が及ぼす影響の検証を行った。ハワイ島マウナロア山麓の9集団72個体のSNPs遺伝子型から評価された全遺伝分散のうち、90%は集団内に保持されており、ゲノム全体では集団間の遺伝的分化は低いことが示された。集団間遺伝分散  (10%) は、標高および土壌堆積年数に沿った遺伝的分化で説明された。また、1.6%のSNPsは、中立進化から外れたアウトライヤー遺伝子座としての集団間分化パターンを示し、適応的遺伝子座の候補である可能性が示唆された。空間遺伝構造の形成要因を一般化線形混合モデルを用いて検証したところ、全 SNPsとアウトライヤー SNPsにおける集団間分化はそれぞれ、地理的隔離と環境による隔離により説明された。従って本種では、集団間の地理的障壁がないために大きな遺伝子流動が維持され、ゲノム全体の集団間分化は小さい一方、集団ごとに異なる自然選択が強く働くため、適応的形質に関連する一部の遺伝子座において大きな集団間分化が生じていることが明らかになった。    - 2 -  以上のように、形質において著しい種内変異を示すM. polymorphaのゲノム変異を明らかにすることにより、環境適応の遺伝的基盤を示し、進化学、生態学の分野におけるゲノム解析の有効性と可能性を示すことができた。     第 4章及び第 5章では、中央カリマンタンの林業会社PT. Sari Bumi Kusuma (SBK) によって商業的に維持管理されているShorea leprosula (フタバガキ科 ) の植栽地を解析対象とした。対象地域では天然林の一部を択伐した後、同地域内に由来する山採り苗を列状植栽しており、植栽された樹木は現在のところ良好な成長を示している。東南アジア熱帯林の生物多様性保全および森林管理のために、当地域において生態的・経済的に重要なフタバガキ科樹木の持続的な人工更新手法の確立は意義深いものの、植栽集団の遺伝的特性や生物多様性は十分には評価されていない。   第4章では、S. leprosula植栽集団の遺伝的特性を、核ESTマイクロサテライトマーカーを用いて評価し、近隣の天然林と比較した。その結果、植栽集団内には天然林と同等の高い遺伝的多様性が保持されており、また多くの植栽集団において、天然林集団との間に有意な遺伝的分化が無いことが明らかになった。従って植栽集団の遺伝的組成は良好であり、現行の施業方法の持続的森林管理への貢献が期待される。一方で、少数の植栽集団において天然林集団との有意な遺伝的分化が見出されたことから、今後遺伝的モニタリングが必要であることも示唆された。   第5章では、S. leprosula植栽林に保持されている生物多様性を明らかにするために、植物葉組織内に生息する菌類  (葉圏菌類 )の種多様性を評価した。植物葉から抽出したDNA中に含まれる菌類に由来する塩基配列を、次世代シーケンサーを用いて網羅的に解読し、樹木個体ごとの菌類群集組成を明らかにした。S. leprosula 31個体の葉から検出された菌類に由来する153,194配列は、合計488 OTUs (operational taxonomic units, 操作的分類単位 ) に識別され、その内の 94.6%は未記載種と考えられるものであった。調査地の S. leprosula植栽林には、葉圏菌類の未知の種多様性が存在することが明らかになった。   これらの解析により、現在施行されている S. leprosula植栽林の管理方法は、植栽樹木の種内遺伝的変異や林分レベルの種多様性を高く維持しうるものであり、急速な消失が懸念される東南アジア熱帯林の持続的管理へ貢献すると期待される。              注）論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は１頁を３８字×３６行で作成し、合わせて、３ ,０００字を標準とすること。  論文内容の要旨を英語で記入する場合は、４００～１ ,１００wordsで作成し、審査結果の要旨は日本語５００～２ ,０００字程度で作成すること。   - 3 - （  続紙  2 ）                            （論文審査の結果の要旨）    種内の遺伝変異は、適応進化の痕跡かつ駆動源であり、種の生態・進化の遺伝的基盤を知る手がかりを与えるとともに、種の適切な保全や生物資源の持続的管理を行うにあたっても有益な情報となりうる。本論文は、次世代シーケンサーから得られた大量塩基配列情報を有効に活用し、種内の遺伝変異をゲノムレベルで解析し、一種で著しい適応進化を遂げた Metrosideros polymorphaの適応進化の理解を深めたものである。また、東南アジア熱帯多雨林において生態的かつ経済的に重要なShorea leprosula植栽林の遺伝的特性と、その葉組織に共生する菌類の種多様性も明らかにしている。本論文の成果として評価すべき点は、以下の4点である。   (1) 著しい種内形態変異を示すM. polymorphaの全ゲノムを新規に解読した。得られたゲノム配列は、ゲノムの約半分について元の染色体上の塩基配置を復元した良質なものであり、今後、進化生態学や植物系統進化学の分野において、種間のゲノム比較解析に有効に活用されると期待される。また、1個体の全ゲノム情報に基づき、過去の有効集団サイズの変遷を推定することに成功した。   (2) 野生植物を対象にゲノムワイドな遺伝変異に基づく集団遺伝解析を行うことで、従来の遺伝マーカーでは検出できなかった空間遺伝構造を検出し、適応に関与する遺伝子座の候補を特定した。著しい種内形態変異を示すM. polymorphaのゲノムは、領域ごとに異なった強さやパターンで遺伝子流動や選択が起こっており、その結果、ゲノム全体で見るとモザイク状に遺伝的分化が起こっていることを解明した。本成果は、 M. polymorphaの適応進化に対する理解を深めたのみならず、非モデル生物におけるゲノムワイド解析の有効性と可能性を示したものである。   (3) 世界的に著しい面積の減少が続いている熱帯多雨林は、その持続的維持管理方法の開発が強く求められている。本研究は、中央カリマンタンにおいて商業的に植栽され、良好に成長している S. leprosula集団が、原生林における集団と比較して遺伝的に分化しておらず、また、高い遺伝的多様性が保持されていることを明らかにした。このことは、妥当な森林管理方法によって熱帯林においても持続的管理・収穫が可能であることを示したものである。    (4) 環境試料中に含まれる塩基配列を網羅的に解読し種同定を行うメタバーコーディングにより、中央カリマンタンのフタバガキ植栽林における葉圏菌類の未知の種多様性を解明した。調査が不十分な東南アジアの菌類相解明に貢献し、持続的な熱帯林管理手法の確立が試みられているフタバガキ植栽林に、新たな保全価値を付与することができた。    以上のように、本論文は、大量塩基配列情報に基づいて熱帯林生態系の種内遺伝変異・種多様性を評価し、樹木の適応進化と保全手法に関して新しい知見を与えたものであり、進化生態学、保全遺伝学、森林管理学の発展に寄与するところが大きい。   よって、本論文は博士  (農学 ) の学位論文として価値あるものと認める。    - 4 -   なお、平成28年2月4日、論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果、博士  (農学 ) の学位を授与される学力が十分あるものと認めた。   また、本論文は、京都大学学位規程第 14条第 2項に該当するものと判断し、公表に際しては、当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める。                                         注）論文内容の要旨、審査の結果の要旨及び学位論文は、本学学術情報リポジトリに掲載し、公表とする。  ただし、特許申請、雑誌掲載等の関係により、要旨を学位授与後即日公表することに支障がある場合は、以下に公表可能とする日付を記入すること。  要旨公開可能日：  年  月   日以降（学位授与日から３ヶ月以内）  

熱帯産樹木Metrosideros polymorphaとShorea leprosulaを対象にした生態・保全ゲノミクス

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