ショウジョウバエ(DrosoPhila melanogaster)がわれわれの体の構造や機能の特に,遺伝子や分子レベルでの理解に果たしている役割は計り知れない.ショウジョウバエの全遺伝子塩基配列が2000年3月に解読され,約13,600個の遺伝子から成ることがわかった.そのうち約半数についてはすでに同定されていたり,他の動物種と相同の遺伝子であるため,それらの機能が推測できた.しかし,残りの数多くの遺伝子について,それらの機能は不明である.今,それらの機能未知遺伝子の機能を同定(アノテーション)することが最大の課題となっている.全ゲノムのシークエンスを終えた動物種では,種々の関点から普通,逆遺伝子学的方法(遺伝子ノックダウン)を使い,ゲノムワイドの(網羅的)研究がされるようになった.最近最も良く使われる方法は,転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)の1つの, RNA interference(RNA干渉)である.外来遺伝子による内在の特定遺伝子(mRNA)の発現阻害(RNAi)に2本鎖RNA(double-strandedRNA, dsRNA)が生物普遍的な機構として有効であることがわかってきた.しかも,使用するdsRNAは低濃度長時間作用し,ターゲット遺伝子に対し特異性も高い.このRNAi法を使う逆遺伝子学的手段で,遺伝子一個一個をつぶして,その効果をみてゆくという戦略で,神経ネットワーク(シナプス回路)形成に関与する遺伝子を抽出し,ショウジョウバエの機能未知遺伝子の機能の同定を行うことがNIH(National Institutes of Health)のNHLBI(National Heart, Lungand Blood Institute)で計画された.著者の一人(H.H.)は2000年の研究開始から参加し,金沢大学でRNAiを用いたショウジョウバエのゲノムワイドスクリーニングプロジェクトを多数の人々の参加を得て推進してきた.昨年秋一定の解答を得てProceedings of the National Academy of Sciences of USA誌に発表した.本稿ではこの論文の内容を中心に我々のプロジェクトを紹介したい.また,同様な方法による心臓発生に関与する遺伝子につてはKimらにより報告されているので,興味のある方はそちらも参照して欲しい