0000-0002-4220-7304

100001767

35470

50850070

55985797500

Matsumoto, Koki

マツモト, コウキ

松本, 紘宜

Seikei-Kakou

Japanese

Kyutacar : Kyushu Institute of Technology Academic Repository

１．は じ め に筆者は特別研究員（ポスドク）の研究活動の一環として，２０１８年４月半ばから７月半ばまでの３ヶ月間イタリアミラノに滞在し，ミラノ工科大学（Politecnico di Milano）にて研究を行った．コースドクターで博士学位取得後，ポスドクの身分に移行して間もない時期であったが，高分子材料に関する知見を広げ，国際的なネットワークの強化を行うにあたって，絶好の機会と思い今回の渡航を決意した．ミラノ工科大学と同志社大学は海外協定大学契約を結んでおり，両大学の先生のお力添えと学位を取得していたこともあって，受入は非常にスムーズであった．本報ではミラノ工科大学の研究体制や学生の研究生活について紹介する．また，これから留学を目指す学生にも是非一読いただければと思う．２．ミラノの都市についてミラノの都市はイタリアの北西部に位置し，首都ローマの次に大きな都市である．筆者が滞在していた時期の５月は３０℃を超える猛暑日もあり，非常に暑い日が続いた．イタリアでも花粉症が流行し，７月になればセミが鳴き出すため，まるで日本にいるかの如く錯覚してしまう程の環境であった．交通面では，トラム・バス・地下鉄・ミラノ近郊鉄道が整備され非常に利便性が高いが，都市がそれほど大きいわけでもないため，歩いて回ることも出来る．さらに，日曜日でもあらゆる店が開いており，生活をする上で不自由を感じることもなく，治安についても不安に思うことはあまり無かった．また，ミラノ近郊の観光都市としては，スイス側に位置するコモやベルガモ等が挙げられる．電車にて小一時間程度で訪れることができ，アルプスの山とイタリアの街が一望でき非常に美しい場所であった．ベネチアやローマはミラノから電車で２～３時間程度の距離に位置し，他都市とのアクセスも非常に良い．ミラノは芸術・建築・ファッションの分野で非常に有名であり，多くの展示会（サローネ）が開かれている．諸外国から常に多くの人が訪れ，国際的な都市であることがわかる．そのため，街中のどんな場所でも英語で会話が出来るという点について驚きを隠せない．プラスチック成形加工に関しては PLASTと呼ばれる大きな展示会が３年毎に開催され，ヨーロッパ諸国の会社がプラスチック・ゴム成形に関するパイロット機を展示しアピールしている．多層ブロー成形やプロファイル押出・多層フィルム成形・発泡シート成形・リサイクル等のコアな成形技術展示が多い印象を受けた．また，ゴムに関する射出成形技術や３Dプリンター技術の展示も見られた．今年度は１，５１０社の出展と１５万人の参加者となり，多くの参加者で賑わっていた．３．ミラノ工科大学とその教育体制大学設立は１８６３年であり非常に長い歴史を有している．ミラノ工科大学のキャンパスは都市郊外も含めて７つに別れ，その中でも中心的な役割を行うレオナルドキャンパス（図１）は“Città Studi”（City of Study）という町に位置する．主に工学・建築・インダストリアルデザインの３分野からなり，学生数は４２，８２２名，ティーチングスタッフ（教授等）は１，３６４名在籍している．１９２７年に建てられた歴史的な建物が現在も使用されているが，建築やデザインの学科もあるため，非常に現代的な建物も見られ，非常にユニークで特徴的なキャンパスである．３年間の学部コースにおける研究活動については，６ヶミラノ工科大学の研究・教育体制について松 本 紘 宜＊海外だよりThe Introduction of Research and Education System ofPolytechnic University of Milan＊ Matsumoto, Koki同志社大学 研究開発推進機構 先端複合材料研究センター京田辺市多々羅都谷１―３（〒６１０―０３９４）komatsum@mail.doshisha.ac.jp２０１８．７．２受理Seikei―Kakou Vol. 30 No. 9 2018 483月間のグループ研究のみで，日本の大学の１年間かけて行う卒業研究とは意味合いが異なる様である．修士コースからは，全ての授業が英語で行われるため，ヨーロッパ・中東・アジア等から多くのインターナショナルな学生が留学しており，４，０００人程度（修士全学生数の約３０～３５％相当）の学生が在籍している．そのため，キャンパス内ではイタリア語と英語がほぼ同等に使われており，学生の英語に対する抵抗は全くないと言ってもいいぐらいであった．また，博士コースの授業にも幾度か参加したが，国内外関係なく，最先端の研究を行っている大学・企業から人を活発に呼び，最先端の授業を受けることが出来る．このように国際的な教育体制を取ることで，世界中で活躍できる人材を育成している．キャンパス内では，自習できるスペースが多くあり，多くの学生が朝早くから夜遅くまでグループで自習しており，積極的に学問に励む姿が見られた．４．ミラノ工科大学と“Giulio Natta”レオナルドキャンパスの敷地は広くなく，５分程度あれば端から端へ歩くことが出来る．キャンパス内には学科ごとにそれぞれ小さな建屋が並び，研究施設や授業のための部屋が格納されている．筆者はその建屋の一つであるDI-PARTIMENTO DI CHIMICA, MATERIALI E INGEG-NERIA CHIMICA“GIULIO NATTA”（DCMC）という学科が入っている“Giulio Natta”という建屋に在籍していた．ポリマーに関する研究者であれば，その名を聞いたことがある人も多いと思うが，Giulio Natta はイソタクチックポリプロピレン（iPP）の触媒の発明で１９６３年にノーベル賞を受賞した研究者である．彼はミラノ工科大学の卒業生であり，卒業後も学術分野で多くの功績残した．そのため，彼の名前にちなんでジュリオ・ナッタと称した建屋が記念に建てられている．そこでは，化学・材料工学・化学工学・生物工学に関する教育・研究が積極的に行われている．また，毎日のように外部から多くの人が訪れており，多くのセミナーが開催されている．５．研究室の研究体制と研究生活について筆者は，ジュリオ・ナッタの建屋にあるポリマー工学研究室（Polymer Engineering Lab）に在籍していた．その研究室には４名のティーチングスタッフ，３名の博士コースの学生，１２名の修士コースの学生からなる（図２）．研究内容については，プラスチック・ゴム複合材料の破壊メカニズムやそのプロセスに関する研究を行っており，ゴムとプラスチックを分け隔てなく取り扱っている．実験設備はいずれもラボレベルのもので，自作の装置が多い研究室である．実際，筆者はここで材料の比体積を測定する PVT装置（水銀を利用するタイプ）に関して，LabVIEWを用いた測定システムの作製・実験を行っていた．オリジナリティに富んだ実験をするためには，自作の装置・システム図１ ミラノ工科大学レオナルドキャンパスの風景図２ 研究室のメンバーと筆者（左下）484 成形加工 第 30巻 第 9号 2018が必要という考えのもとで研究していることが特徴的である．修士・博士コースでは一人に一つのテーマが与えられ，それぞれの学生に指導者（スーパーバイザー）が付く．特徴的であるのは，異なる学科の指導者が付くことであり，学科を超えた協力的な研究が非常に活発であった．例えば，ポリマー工学研究室では PPないしは PAの織物とマトリックスも同じ材料を用いる自己強化コンポジットの研究が行われている．また，建築学科では織物と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性複合材料に関する内容も活発に研究されているため，建築学科の教授がこの研究室のスーパーバイザーになっていた．大学内で知識を共有し，研究速度を上げるために，このようなシステムを採用しているとのことであった．研究室内では，週に一度ミーティングが行われ，学生は一人２時間程度の研究進捗報告を行う．発表・質疑共に英語で行われ，国際的に活躍できる人材を育成していることがわかる．また，筆者の在籍時には，プラスチックの成形加工において有名なチェコのトーマスバータ大学から先生を呼び，講演を聴講することが出来た．これ以外にも，ヨーロッパ諸国の大学・企業から多くの人を呼び，学生は最先端の研究に触れることができる．このような連携が活発に行われている様である．授業のない学生は９時から登校し，研究を始める．皆が試行錯誤しながら責任をもって自主的に研究を進めている印象を受けた．一見真面目な様ではあるが，しっかり休憩も取る．面白いことに，休憩を取る時は皆“コーヒー”という．イタリアではエスプレッソが当たり前であり，最低でも一日３回は５０セント程度のエスプレッソを飲み，ジョークを言いながら会話を楽しむ．日本で飲まれるコーヒーはアメリカーノと呼ばれ，残念ながら彼らにとってはコーヒーではない様である．各自お昼ご飯を持参し，研究室内で一緒に食べる．非常に陽気な性格の学生が多く，教授と学生との距離感も近く和気あいあいとした雰囲気であった．もちろんヨーロッパなので，１７時付近になれば殆どの学生はすぐに切り上げ，帰宅し，夕方を楽しむ様な研究生活を送っている．６．就職活動と博士学位の状況イタリアの就職活動について，ほぼ修士で就職してしまい，博士学位取得後は企業への就職は難しい様である．修士の就職活動については，日本の様に採用時期が決まっていないため，個人でコンタクトを取っていくことが必要となる．イタリアには日本の様に沢山の大学があるわけではないため，出身大学を重視するという風潮はやはり見られない．そのため，これまでの経験が非常に重要になってくる．博士取得後の進路については，アカデミックの分野に残る人が多く，大学の研究補助員（テクニカルスタッフ）やポスドクに応募する人もいる．しかしながら，その様なポジションを獲得することは日本と同様，非常に困難な様である．７．お わ り にミラノ工科大学は国際的な教育に注力し，研究レベルも非常に高い大学であることがお分かりいただけただろうか．ヨーロッパに滞在する度に思うことは，大陸続きであるため，ヨーロッパ諸国への移動が容易であることである．ヨーロッパ諸国で開催される学会や展示会等にも飛行機ですぐに向かうことが出来る．実際に筆者はミラノ滞在中に，ドイツで開催されたAMI 主 催の Compounding WorldEXPO２０１８にも参加することが出来た．日本国内での移動と時間が変わらないにも関わらず，諸外国の最新情報を得ることが出来るのである．非常にうらやましい環境であると共に，彼らが普段から不自由なく英語で会話できる事もうなずける．確かに日本の研究レベルは高いが，欧州諸国のこのような研究体制下での競争や協力関係に対して，日本の状況は比較するとどうであろうか．多くのアジア系の学生がミラノ工科大学に在籍しているにも関わらず，残念ながら大学で日本人に出会える事はほぼ無かった．研究留学を通して，同世代がどの様に研究を行い，どのように考えているのか，その時間を共有することは，かけがえの無い財産である．特に博士課程の学生には積極的に海外へ赴き，様々な事を経験して欲しいと切に願うと共に，是非それを日本にフィードバックしていただきたいと思う．Seikei―Kakou Vol. 30 No. 9 2018 485

ミラノ工科大学の研究・教育体制について

https://kyutech.repo.nii.ac.jp/record/2000643/files/10429895.pdf

ミラノ工科大学の研究・教育体制について

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Kyutacar : Kyushu Institute of Technology Academic Repository