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WAKABAYASHI, Hideki

ワカバヤシ, ヒデキ

若林, 秀樹

Japanese

Utsunomiya University Academic Information Repository

2．『教員必携　外国につながる子どもの教育』全３刊〇刊行までの経緯　HANDSプロジェクト「外国人児童生徒支援会議」の成果は前項で述べましたが、このような、日本語指導教室担当教員による取り組みだけでは、ニーズの一部分にしか手が届きません。その大きな理由は、日本語指導を必要とする児童生徒の在籍は、日本語指導教室が設置されていない小中学校にも広がっているからです。　平成30年度、栃木県における「日本語指導が必要な外国人児童生徒」の在籍は、小学校96校に554人、中学校41校に129人、計137校に683人でした（文部科学省調査H30.5.1）。一方、この年の拠点校が40校だったことから、担当教員だけが研修しても、拠点校ではない多くの学校（以下、非拠点校）のニーズに手が届かないことは明白です。このように、外国につながる子どもの在籍が広範囲に散らばる現象は、”散在化”と呼ばれ、その傾向は全国に広がっています。日本語指導教室が無く、担当教員も居ない、非拠点校における支援がいま大きな課題となっています。　拠点校担当教員の経験年数にも、新たな課題が見つかりました。支援会議を立ち上げた平成22年、担当教員計54人に対し調査したところ、35％に当たる19人が、外国人児童生徒教育経験1年目であることが分かりました。また、経験3年以内に至っては、70％に当たる37人にのぼりました。　この2年前の平成20年、HANDSプロジェクトの前身である、宇都宮大学特定重点推進研究で同様の調査をおこなった記録がありました。その時も、担当教員の61％が3年以内、31％が1年目という結果でした。教員の多くは「経験を積んで指導力を身につけたいと希望している」という調査結果も得ていましたが、実態はそうでないことが分かりました。そこで、担当教員が短期間で替わりやすい現状、適切な支援の継続を目指すためには、実用的なHow-to情報の発信が必要であると考えました。　以上、散在化の進行による非拠点校支援の重要性や、経験の浅い教員へのHow-to情報の必要性という2つの背景を踏まえ、支援会議は教員向け手引き書の作成に着手しました。そして、支援会議メンバーの経験を豊富に取り入れ刊行したのが、『教員必携・外国につながる子どもの教育』全3刊（以下、『教員必携』）です。（1）『教員必携 外国につながる子どもの教育 Q&A・翻訳資料』（H23、3月）　実用的であるためには、利用者が担当教員であれ学級担任であれ、子どもと接する教員が何をすればよいのか具体的に示されていることが必要です。そうした手引き書としての価値を確保するため、本書は「即効性」「分かりやすさ」「親しみやすさ」という3つの要素を大切に考えました。　教員が、指導の場面に直面したとき、後回しにせずその場で適切な対応が出来ることは重要です。忙しい学校の流れの中で、学級担任や教科担当者が、その場で活用出来る手引き書であることを目指しました。また、Ｑ＆Ａの掲載順を、学校における1年間の行事の流れに沿って構成したことも、役立ててもらうためのポイントでした。　外国につながる子ども支援が初めてという教員にも、内容を直感的に理解してもらう必要があります。そこで、キーワードを噛み砕いて解説する「ワンポイント学習」や、課題を身近に感じてもらえるよう、教員や保護者による「体験談」なども設けました。また、煩雑な机上でも目立つ明るい装丁や、常時携帯しやすいサイズなど、手引き書そのものの親しみやすさにもこだわりました。　後半の「翻訳資料」は、簡潔な家庭向け通知であることを最優先しました。読み手を外国人保護者に限定し、形式だけの時候の挨拶など、文化的に通じにくい部分や、外国語に翻訳すると誤解を招きやすい曖昧な表現は省きました。また、家庭向け通知に付きものだった、学校長氏名も省略しました。これにより、通知は簡潔な内容に生まれ変わり、要件が単刀直入に伝わるようになりました。やさしい日本語の普及が叫ばれる現在、これら斬新的とも言える工夫が、当時から実現していたことは注目に値します。（2）『続・教員必携 外国につながる子どもの教育』（H24、3月）　『教員必携』1の刊行後、読者から「外国人の子どもを支援する理由が分からない」という質問がいくつも寄せられました。このことは、本書が、これまで外国につながる子ども支援に関わらなかった人たちに届いたことを実感すると同時に、原点的ともいえる意識の土壌を耕す必要があることに気づかせてくれました。そこで、『続・教員必携』には、第1部「外国につながる子どもの教育の原点とは何か」を収録し、寄せられた質問への回答としました。支援の輪を広げる３つの取り組み～支援会議、『教員必携』、だいじょうぶnet.～　国際学部客員准教授　若林 秀樹1．外国人児童生徒支援会議　日本語指導教室は、日本語が理解できない子どもが一定数以上在籍する小中学校に、教育委員会等が設置している教室です。栃木県を例に挙げれば、平成30年度は40校の小中学校（小学校31、中学校9）が、県教育委員会から「外国人児童生徒教育拠点校」（以下、拠点校）に指定され、1名または複数の日本語指導担当教員が配置されています。　しかし、日本語指導担当教員と言っても、日本語指導など専門的な研修を受けていない教員がほとんどです。普通学級の担任から配置換えになるケースや、他校からの転任と同時に担当するケースなど、多くの担当教員は未知な分野への不安を抱えています。着任後、様々な課題に直面しても、外国につながる子どもの教育は歴史が浅いため、周囲に相談できる教員も少なく、何をどうすればよいか悩んでしまうのが現状です。　一方、外国人が多く居住する地域には、長いあいだ支援に関わってきた教員もいます。彼らの豊かな経験とスキルを、新人の担当教員が共有することは、外国につながる子ども支援の向上と同時に、指導者の有効な世代交代にもつながります。また、不安ながらも孤軍奮闘している担当教員たちが、課題を持ち寄り話し合うことが出来れば、その成果は「足し算」ではなく「かけ算」となって子どもに還元されるはずです。　HANDSプロジェクトは、以上のような課題背景をもとに、栃木県内の拠点校担当教員をメンバーとする組織「外国人児童生徒支援会議」（以下、支援会議）を立ち上げました。プロジェクト発足の平成22年度から平成27年度までの6年間、支援に関する情報交換や悩みの共有をしたり、専門家を講師に招き最先端の日本語指導研修をしたりなど、毎年3回定例の会議を行いました。　当初、支援会議に参加した教員からは、「何をすれば良いか誰も教えてくれない」「管理職が理解を示してくれない」「校内で孤立してしまった」など、想像を超える悲痛な叫びが聞かれました。それが、会を重ねる毎に、「自分でも何とかなりそう」「何をすればいいか見えてきた」など、参加する教員の声は安心へと変わっていきました。　希少という点においても、支援会議は特筆に値します。日本語指導教室担当教員が、都道府県レベルで集まる研究組織は、この支援会議が全国初であるとともに、令和2年の現在も、未だ例がありません。外国人の増加により、学校はますます多様な支援が要求されますが、教員の研修は思うように進まないのが、全国共通の課題です。支援会議は、外国につながる子どもの教育に大きな足跡を残したと同時に、その再開を待ち望むニーズも聞かれています。　支援会議は、確かに、日本語指導教室担当教員という「特別な先生たち」による、「特別な集団」だったかもしれません。しかしそれは、マニュアルや上司の命令にしたがうのではなく、「目の前の子どものため、道がなければ自分たちで切り拓く」という、強い熱意を持った教員の集団でした。支援会議が終了して4年経った現在も、その精神は県内に息づき、外国につながる子どもの支援に関わる人たちを支えています。　平成27年度、支援会議6年間の終わり、それまで関わっていただいた全メンバーに、個々の思いについて寄稿を依頼しました。そして得られた14人の原稿を、「声」として小冊子にまとめました。本項の終わりに、その中から3つの「声」を紹介します（文末参照）。不安ながらも子どもと向き合おうとする担当教員にとって、HANDSプロジェクト外国人児童生徒支援会議はどのような存在だったのか、また、外国につながる子どもの教育を通して、かれらは何を感じ、何を学んでいったのか、お伝え出来ることを願っています。Ⅵ.  支援会議、『教員必携』、だいじょうぶnetThe HANDS 10 year History78 79ります。　最初の変化は、『教員必携』1を刊行して間もなく見られました。『教員必携』は、栃木県内の小中学校や教育委員会、HANDSプロジェクトと関連のある団体を対象に、献本の形で配布していました。ところが、「だいじょうぶnet.」の問い合わせ欄に、『教員必携』を入手したいという問い合わせが、連日のように届きはじめたのです。同時に、『教員必携』の内容に対する質問も寄せられるようになり、私たち支援会議が抱えていた課題は、同じように全国の支援者も抱えていたことが証明されました。　また、「だいじょうぶnet.」には、HANDSプロジェクトが刊行する、『中学教科単語帳』への問い合わせも届くようになりました。ブラジル本国からは、「航空便で送って欲しい」という依頼もありました。「子ども一人ひとりに持たせたいから30冊欲しいです」。言語の違いによって学習の壁に悩む人たちが、海外でも奮闘していることを知りました。　やがて「だいじょうぶnet.」は、外国につながる子どもの教育分野において、定番の情報サイトとして認知されるまで成長しました。特に、『中学教科単語帳』や「進学ガイダンス資料」のダウンロードには、現在も多くのアクサスが寄せられています。また、「だいじょうぶnet.」は、その知名度を活かし、HANDSプロジェクト部門や多文化公共圏センター行事の広告塔として、いまも大切な役割を果たしています。　　　近年、ホームページやSNSを含むICTの活用は、その効果がますます注目されています。特に、新型コロナウイルスの流行により、非接触によるコミュニケーションが見直され、技術の進歩もめまぐるしい現在、ICTの活用は、最優先事項とも言えます。　「だいじょうぶnet.」には、今も『教員必携』や『中学教科単語帳』への問い合わせが寄せられ、外国につながる子どもの教育における存在感は変わりません。「だいじょうぶnet.」が、これからも全ての子どもの未来と、多様性豊かな社会実現のために役に立つことを願います。　支援する理由と言っても、法的アプローチを図るのではなく、教員としてのモチベーションに訴えることを目指しました。外国につながる子ども支援に大切な要素を、「安心」「日本語」「学習意欲」「連携」そして「情報提供」の5つに絞り、教員なら誰でも手の届く支援であることに気づいてもらえるよう工夫をしました。　理念に偏らないよう、支援のための具体的な情報や、経験者によるヒントも盛り込みました。実践を身近に感じてもらうため、外国につながる子どもを初めて担当する学級担任に向け、支援会議メンバーの実体験を“支援会議の声”として収録しました。また、WEB上で入手できる教材や翻訳資料を紹介し、それらの簡便性や有効性についても伝えました。　第2部は、多文化公共圏センターHANDS部門がいまも実施している、「栃木県における外国人生徒の進路状況調査」第1回の結果、そして、日本で外国につながる子どもとして過ごしたあとペルーに帰国した子どもたちの追跡調査に関する報告、2つが収録されています。（3）『教員必携 外国につながる子どもの教育3』（H25、3月）　平成26年4月、外国につながる子どもの教育は、文部科学省「特別の教育課程」の施行によって大きく前進しました。「特別の教育課程」の概要は、「日本語指導が必要な児童生徒に対する在籍学校による支援義務」を明確に指示したものです。これまで述べた課題になぞらえれば、拠点校か非拠点校かにかかわらず、外国につながる子ども支援は全ての学校にとって必須事項であると、文部科学省が宣言したことになります。　外国につながる子どもの教育が、これからは誰もが関わるべき教育活動なら、まずはその現状や課題を、多くの教員に簡潔に伝える必要があります。そこで、『教員必携 外国につながる子どもの教育３』を編さん、外国につながる子どもの教育の「これまで」と「これから」を、忙しい教員に1時間で伝える目的で、第1部「みんなで考える時がやってきた」を収録しました。　外国人児童生徒の在籍が増えながらも、かれらへの支援が、これまで思うように進まなかった大きな理由は、「特別な教員による特別な教育」というレッテルを貼られていたためだと、私は強く感じていました。外国につながる子どもの教育は「特別なことではない」「みんなで考える課題なのだ」。これを機に、現場教員の意識を変えることができればと願いました。　私は機会があるたびに、「外国につながる子どもの教育は外国人だけのためではない」と主張してきました。国籍や言語に関係なく子どもを支援することは、本人のキャリア形成だけでなく、教室で共に学ぶ日本人の子どもにとっても、かけがえのない教育活動です。学校教育は、全ての子どもの可能性を、最大限に育てなければなりません。そして、多様な子どもの教育に対する理解の広がりは、寛容性のある、差別のない社会の形成につながるはずです。　第2部には、『続・教員必携』第2部にも掲載した、栃木県における外国人生徒の進路状況調査について、第2回調査結果を収録しました。　　第3部は、「はじめての日本語指導テキスト」と題し、外国につながる子ども支援が初めての教員を対象としたテキスト類の紹介や、実際に活用している支援会議メンバーからのアドバイスを掲載しました。また、ベテランの支援会議メンバーが、豊かな経験を活かして作成した、自作教材も本人の承諾を得て収録しています。3．ホームページ「だいじょうぶnet.」　支援会議を立ち上げて間もなく、HANDSプロジェクトは、ホームページ「だいじょうぶnet.」を開設しました。年に３回だけ顔を合わせるのではなく、ホームページを通して、常に情報交換や課題共有が出来る環境を整え、支援会議をより有意義なものにしたいと考えました。しかし、限られたメンバー同士の交流が目的だった「だいじょうぶnet.」は、しだいに予想以上の働きを示すようになⅥ.  支援会議、『教員必携』、だいじょうぶnetThe HANDS 10 year History80 81神奈川県立地球市民かながわプラザ・あーすぷらざに所蔵されている3巻の『教員必携』 　　　　　ホームページ『だいじょぶnet.』

支援の輪を広げる３つの取り組み～支援会議、『教員必携』、だいじょうぶnet.～

https://uuair.repo.nii.ac.jp/record/13156/files/UU_2020HANDS10th_25.pdf

支援の輪を広げる３つの取り組み～支援会議、『教員必携』、だいじょうぶnet.～

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