9973

小林, 三郎

Japanese

Meiji Repository (Meiji University)

駿河台校地-旗本中坊氏屋敷跡-の発掘調査言語: Japanese出版者: 明治大学大学史料委員会公開日: 2011-04-11キーワード (Ja): キーワード (En): 作成者: 小林, 三郎メールアドレス: 所属: メタデータhttp://hdl.handle.net/10291/10556URL一25一駿河台校地　　旗本中坊氏屋敷跡iの発掘調査小　林　三　郎　（［）駿河台に等兄立つ、明治大学記念館も部分的な老朽化が進み、建て替えの必要性が指摘されていた。関東大震災の教訓から、丈夫一式の建物として評価され、駿河台のシンボルとして親しまれてきた建物だけに、姿を消すことが残念でならない。しかし、二十一世紀に向けた明治大学のまた駿河台の新らしいシンボルの創造は、明大関係者すべての要請であったかも知れない。いくたびか記念館の修理、復原、保存についても検討されたと聞く。記念物としての生命を復活させたいとの願望が強かったが、修理、修復も技術的にむずかしいということもうかがった。　一九九三年の駿河台地区の再開発が決まり、一九九五年からいよいよ工事がはじめられた。　　　（二）　駿河台校地周辺は、大都会江戸の中心部分として、旗本や大名の屋敷が密集した地区である。ことに、江戸城内堀と外堀とに囲まれた地域は、江戸城・将軍家を守護する役割をもつ旗本衆が居を構えていた重要な部分であった。駿河台という地名は、駿河衆・旗本が定着したことに由来する。　駿河台は、もと神田山という台地が南に向って延びていた。東海道品川宿あたりからもよく見えたという。神田山は、近世初期に江戸湾の埋め立てのための土取で削平されて寺町となった。家康の死後、駿府にいた家臣団（駿河衆）を江戸にもどしてこの地に住まわせた。　神田山の原状を復原することは困難であるが、山の上ホテルと明治大学百周年記念図書館との間に、わずかに残る台地上面、五・六・七号館前を通る道路面、十一号館前の道路面の高さが、神田山の頂部平坦面であった可能性が強い。このことは、リバティタワーの建設時に、建物西側にのこる崖面の土層観察によって、ローム層と表土層の堆積状態を確認していることによる。標高二五メートル前後の台地であったことが推定できる。　駿河台周辺には、縄文時代遺跡がかなり見られる。明治大学周辺では大学院棟西側の貝塚や三省堂周辺の貝塚などが知られる。現地形と遺跡のあり方からみると、神田山はもともと、現在の靖国通の辺りまで延びていて、明大通りの緩斜面の上に、厚さ一〇米位の土が堆積して一26一いたものと考えてよい。　　　（三）　発掘調査に先立つ、入念な周辺地形の検討を経て、一九九五年十一月末から、記念館前庭の発掘調査を開始した。発掘調査に先立つ調査として、東京都公文書館所蔵の中坊家下屋敷の平面図を参考とした。しかし、道路の方向や建物全体の配置について、いくつもの疑問が提出されていた。このことは、発掘調査を開始して間もなく、お茶の水図書館・成簑堂文庫所蔵の「中坊氏屋敷絵図」の発見とその資料提供によって解決した。また、旗本中坊氏のこ子孫にあたられる中坊嘉裕氏のご好意による文書類などのご教示による材料によって、さらにその原状が明らかとなる。　発掘調査は、まず地層の確認調査から開始した。予想通り、ローム層の堆積は全くなく、ローム層下部の粘土層が全面にあった。地層の確認は、文学部地理学研究室の杉原重夫教授の教示を得ている。江戸時代の遺構は、粘土層上面に展開していた。記念館建設時の基礎工事、先代明治大学校舎などの工事によって、かなりの部分が失われていた。先代明治大学正門内側の石畳や門扉用のレールなどが、地表下数十センチメートル下に確認されている。図面と写真による記録をとりながら、次第に江戸期の遺構を検出するという方針をとった。　　　（四）　駿河台周辺の切絵図をみると、旧記念館、皿号館、図書館と現在の研究棟とを含む部分が中坊氏屋敷に相当し、旧二号館、三号館と旧記念館の一部が亀井氏、東條氏の屋敷地であったことがわかる。記念館前遺跡とした部分は、中坊氏屋敷の表門に接して建てられた長屋部分に相当する。屋敷地は旧記念館正面付近で中坊氏と亀井氏に分けられ、地境として排水溝が明大通り方向に向けて設けられていた。　中坊・亀井両氏屋敷全体の遺構については、その殆んどが失われているが、両氏屋敷の長屋跡とその周辺には各種の遺構がのこされていて、旗本家臣団の生活の一端がうかがえて興味深いものがある。ことに長屋建物の床一27一下に展開する地下室（地下蔵）は、同じ箇所にいく度も造り替えられて、長期にわたって継続して使用されたことを推定させる。地下室から発見される遺物は、地下室の年代や、当時の生活用具の細かな部分を解明するために貴重である。　地下室から発見されるものには、陶磁器類、金属器、漆器をふくむ木製品、動物や植物の残骸などがある。陶磁器は江戸初期のもののほか中国製陶磁器がある。十七世紀中ごろのものがあって、屋敷創建年代とかかわりをもつと推測される。柿右衛門様式の色絵小鉢や鍋島様式の皿や、中国景徳鎮窯の製品などは、旗本の生活の一端を垣間みせてくれる。　優秀な漆器類もみられ、全国各地の製品が愛用されていたことを窺わせる。塩壺やかまどのミニチュア品、子供の玩具や人形など、当時の生活状態を偲ぽせる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　え　な　長屋建物の基礎部分に接して発見される「胞衣」も、子供の健全な成長を祈るという、生命の貴さを強調する人々の姿に、改めて畏敬の念を禁じえない。発掘調査後の整理作業はまだ継続している。旧一号館の明大通りとの間にわずかにのこる空地は、調査の結果、ほとんどが失われていることも判明した。また、現明治大学敷地の東南角にわずかにのこる石垣も、明大通り拡幅によって、その基礎部分からほとんどが再構築されていることも明らかとなった。　明治大学記念館前遺跡調査団は、すでに『江戸駿河台の旗本屋敷』として発掘調査の概要をまとめて発表した。全体の詳細についてはそれを参照していただきたい。☆『江戸駿河台の旗本屋敷』明治大学考古学博物館にて　　配布。一28一

駿河台校地-旗本中坊氏屋敷跡-の発掘調査

https://meiji.repo.nii.ac.jp/record/14412/files/shikonnorekitei_3_25.pdf

駿河台校地-旗本中坊氏屋敷跡-の発掘調査

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Meiji Repository (Meiji University)