学位記号番号 : 博理工甲第901号博士の専攻分野の名称 : 博士(理学)
学位授与年月日 : 平成25年3月22日textapplication/pdfthesi

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山口, 雄規

Japanese

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－　　－32論文の内容の要旨発光性化合物は幅広い分野で利用され、現在も盛んに研究されている。従来、発光性有機化合物の中心的な研究対象としてアントラセンやピレンなどの拡張 π共役系化合物がその役割を担っており、現在もそれらを用いた誘導体合成が多数報告されている。近年、それらに代わる新しい蛍光性化合物として、ホウ素や窒素、ケイ素、リンなどの典型元素の特性を活かした化合物が注目されており、それらの優れた蛍光特性が数多く報告されている。また、高効率な有機EL材料としてリン光性化合物も脚光を浴びており、イリジウムや白金錯体がよく研究されている。一方、当研究室では四員環セレナプラチナサイクル 1とDMADとの反応により対応するカルボセレネーション付加体 2を合成し、この化合物が強い青緑色の蛍光を示すことを見出している（λem	=	494	nm,	ΦF	=	0.86）。一般に、セレンを含んだ化合物は重原子効果により、蛍光が弱まることが知られているが、得られた 3- メチレン -2,3- ジヒドロセレノフェン誘導体 2は重原子効果の影響をほとんど受けない特異な発光特性を示した。この特異な発光特性は嵩高く剛直な骨格に発光部位を組み込んだことに起因していると考え、本研究では同様の骨格を用いて発光部位にカルコゲン元素を含んだ新規な発光性化合物の合成をおこない、それらの発光特性の解明を目指した。まず、より強く多彩な発光の発現を目指し、2の硫黄類縁体の合成を検討した。2当量のPd(PPh3)4 存在下、ビス（ジベンゾバレレニル）ジスルフィドとDMADとの反応をトルエン加熱還流下で行ったところ、目的の 3- メチレン -2,3- ジヒドロチオフェン誘導体 3が収率 50%で得られた。3はジクロロメタン溶液中、紫外可視吸収スペクトルにおいて 359	nm（ε	=	7400）に吸収極大を示した。また、3は非常に強い蛍光を示し、大きなStokes シフト（7360	cm-1）を伴って 488	nm に発光極大を持ち、その蛍光量子収率は 1.00 に達した。さらに、3は固体状態においても比較的強い青色の蛍光を示した（λem	=	443	nm,	ΦF	=	0.30）。氏 名	 山口　雄規博士の専攻分野の名称	 博士（理学）学 位 記 号 番 号	 博理工甲第 901 号学位授与年月日	 平成 25 年 3月 22 日学位授与の条件	 学位規則第 4条第 1項該当学 位 論 文 題 目	 Synthesis	and	Photophysical	Properties	of	Luminescent	Compounds	Containing	 Chalcogen	Atoms	Incorporated	Bulky	and	Rigid	Skeletons	 （嵩高く剛直な骨格に組み込まれた含カルコゲン発光性化合物合成と発光特性）論 文 審 査 委 員	 委員長　　教 　 授　　石井　昭彦	 委　員　　教 　 授　　斎藤　雅一	 委　員　　教 授　　若狭　雅信	 委　員　　准 教 授　　杉原　儀昭－　　－33次に 3のエステル基の官能基変換反応による誘導体合成を行った。3を塩基性条件下（NaOH	aq.）で加水分解したところ、対応するジカルボン酸 4が収率 90%で得られた。また、ジカルボン酸 4の脱水反応を、無水トリフルオロ酢酸を用いて行い、対応する酸無水物 5を収率 71%で得た。4および 5は溶液中において、強い黄緑色の蛍光を示した（4:	λem	=	503	nm,	ΦF	=	0.72;	5:	λem	=	514	nm,	ΦF	=	0.95）。セレン類縁体と比較するといずれも発光極大はわずかに短波長シフトし、蛍光量子収率は増加した。3- メチレン -2,3- ジヒドロカルコゲノフェン誘導体のさらなる誘導体化を行うにあたり、より効率的な合成法の開発が求められた。そこで次に、より良い触媒反応の条件を探るため、3- メチレン -2,3- ジヒドロカルコゲノフェン誘導体生成のメカニズム解明を目的とし、ビス（ジベンゾバレレニル）ジカルコゲニドとパラジウム（0）錯体との反応を検討した。まず、ジスルフィド (DbbS)2 と Pd(PPh3)4 との反応をトルエン加熱還流下で行ったところ、新たなC–S結合を形成したスルフィド（ジチオラト）パラジウム（II）錯体 6aが収率 32%で得られた。また、二つのC–S 結合と一つのC–C結合を形成した環化生成物 7aを収率 30%で得た。一方、同様の熱反応をジセレニド (DbbSe)2 を用いて検討したところ、対応するセレニド（ジセレノラト）パラジウム（II）錯体 6b	（収率 10%）と二種類の環化生成物（7b:	50% ;	8b:	12%）が生成した。次に、5当量のPPh3 存在下でジカルコゲニド (DbbE)2 と Pd(PPh3)4	2 当量との熱反応を検討したところ、錯体 6の生成は確認されず、環化生成物 7および 8と四員環カルコゲナパラダサイクル 9が中程度の収率で生成した。以上の結果から、リン配位子の解離や中間体である四員環カルコゲナパラダサイクルの高い安定性が触媒反応を進行しにくくしている要因であることがわかった。3- メチレン -2,3- ジヒドロカルコゲノフェン誘導体が重原子効果の影響をほとんど受けない特異な発光特性を示したことを受け、セレンよりもさらに高周期のテルル誘導体の発光特性にも興味が持たれた。過剰量のPPh3 存在下、ビス（ジベンゾバレレニル）ジテルリドと 2モル当量の [Pt(η2-nb)(PPh3)2] をトルエン中で加熱還流し、四員環テルラプラチナサイクル 10を収率 43%で合成し、錯体 10とDMADとの反応によりテルル誘導体 11を 61%の収率で得たが、11はほとんど発光を示さなかった（ΦF	=	0.004）。しかしながら、前駆体として合成した四員環テルラプラチナサイクル 10が溶液中では発光しないものの、固体状態においては室温でも強い橙色の発光を示すことを見出した（λem	=	618	nm,	ΦPL	=	0.450）。発光寿命を測定したところその値は 2.6	μsであり、この発光はリン光であることがわかった。一般にリン光性化合物は低温、溶液中で発光を示すが、固体状態においても強いリン光を示すものはあまり多くはないため、10の発光挙動は珍しいものである。また、テルルを含んだリン光性化合物はこれまでに例がなく、全く新しい知見が得られた。10の硫黄およびセレン類縁体も発光を示し、それらの発光波長は 10よりも長波長シフトし、発光量子収率は減少した（Se:	λem	=	629	nm,	ΦPL	=	0.247;	S:	λem	=	659	nm,	ΦPL	=	0.013）。－　　－34次に、錯体 10の類似錯体として五員環テルラプラチナサイクルの合成を検討した。ビス（トリプチシル）ジテルリドと [Pt(η2-nb)(PPh3)2] の熱反応を検討したところ、対応する五員環テルラプラチナサイクル 12が黄色結晶として収率 51%で得られた。この錯体も溶液状態では発光を示さないが、固体状態においては 12よりも強い橙色の発光を示した（λem	=	626	nm,	ΦPL	=	0.604）。すでに当研究室で合成していた 12の硫黄およびセレン類縁体も固体状態で強いリン光を示し、12の場合とは異なり、どちらも 12よりも短波長側に高い量子収率で発光した（Se:	λem	=	493	nm,	ΦPL	=	0.644;	S:	λem	=	518	nm,	ΦPL	=	0.808）。錯体 12についてはリン配位子の配位子交換反応についても種々検討し、青緑色から赤色までの多彩な発光色（λem	=	521–662	nm）を示すリン光性錯体の合成にも成功した。発光量子収率は最大で 0.919 にまで達した。以上のように、嵩高く剛直な骨格に組み込まれた硫黄あるいはセレンを含む化合物およびカルコゲン -白金結合を有する化合物がそれぞれ強い蛍光および強いリン光を発することを見出し、それらの発光特性を明らかにした。－　　－35論文の審査結果の要旨本学位論文は，新規な構造を有する蛍光化合物およびリン光錯体の合成と光物性に関するものである。第１章（序論）で研究背景，第２章から第５章において研究成果，第６章で結論が述べられている。第１章（序論）では，発光性化合物の重要性と従来の研究の状況分析として，それらが幅広い分野で利用され，現在も盛んに研究されており，発光性有機化合物の中心的な研究対象はアントラセンやピレンなどの拡張π共役系化合物がその役割を担っていることが述べられている。現在もそれらを用いた誘導体合成が多数報告されている。一方近年では，それらに代わる新しい蛍光性化合物として，ホウ素や窒素，ケイ素，リンなどの典型元素の特性を活かした化合物が注目されており，それらの優れた蛍光特性が数多く報告されている。また，高効率な有機EL材料としてリン光性化合物も脚光を浴びており，イリジウムや白金錯体がよく研究されている。申請者の研究室では四員環セレナプラチナサイクル 1とDMADとの反応により付加体2を合成し，この化合物が強い青緑色の蛍光を示すことを見出している。この化合物は重原子のセレンを含むが，重原子効果の影響をほとんど受けない特異な発光特性を示す。申請者は，この特異性は嵩高く剛直な骨格に発光部位を組み込んだことに起因していると考え，同様の骨格を用いて発光部位にカルコゲン元素を含んだ新規な発光性化合物の合成をおこない，それらの発光特性の解明を目指した。第２章では，より強く多彩な発光の発現を目指した 2の硫黄類縁体の合成について述べられている。2当量の [Pd(PPh3)4] 存在下，ビス（ジベンゾバレレニル）ジスルフィドとDMADとの反応をトルエン加熱還流下で行うことで，目的の化合物 3を収率 50%で得ることに成功した。これはジクロロメタン溶液中，非常に強い蛍光を示し，発光極大 488	nm で蛍光量子収率は 1.00 に達した。また，3は固体状態においても比較的強い青色の蛍光を示した。さらに，3のエステル基の官能基変換反応による誘導体合成が行われ，塩基性条件下の加水分解により対応するジカルボン酸 4を得，それの分子内脱水により酸無水物 5を合成した。ジカルボン酸 4および酸無水物 5は溶液中において強い黄緑色の蛍光を示した。セレン類縁体と比較するといずれも発光極大はわずかに短波長シフトし，蛍光量子収率は増加していることを明らかにした。第３章では，より効率的な触媒反応の条件を探るため，3- メチレン -2,3- ジヒドロカルコゲノフェン誘導体生成のメカニズム解明が行われた。まず，ジスルフィド (DbbS)2 と [Pd(PPh3)4] との反応をトルエン加熱還流下で行い，新たなC–S結合を形成したスルフィド（ジチオラト）パラジウム（II）錯体 6aを収率 32%で－　　－36得た。また，二つのC–S 結合と一つのC–C結合を形成した環化生成物 7aを収率 30%で得た。一方，同様の熱反応をジセレニド (DbbSe)2 を用いて検討し，対応するセレニド（ジセレノラト）パラジウム（II）錯体6b（収率 10%）と二種類の環化生成物（7b:	50% ;	8b:	12%）を得た。次に，5当量のPPh3 存在下でジカルコゲニド (DbbE)2 と [Pd(PPh3)4]	2 当量との熱反応を検討したところ，錯体 6の生成は確認されず，環化生成物 7および 8と四員環カルコゲナパラダサイクル 9が中程度の収率で生成した。以上の結果から，リン配位子の解離や中間体である四員環カルコゲナパラダサイクルの高い安定性が触媒反応を進行しにくくしている要因であることを解明した。第４章では，セレンよりもさらに高周期のテルル誘導体の合成と光物性が検討された。過剰量のPPh3 存在下でビス（ジベンゾバレレニル）ジテルリドと 2モル当量の [Pt(η2-nb)(PPh3)2] をトルエン中で加熱還流し，四員環テルラプラチナサイクル 10を得，これとDMADとの反応によりテルル誘導体 11を合成した。結果として 11はほとんど発光を示さず，テルルの重原子効果によるものと考えられた。しかしながら，申請者は前駆体の四員環テルラプラチナサイクル 10が固体状態・室温において強い橙色の発光を示すことを発見した（λem	=	618	nm,	ΦPL	=	0.450）。一般にリン光化合物は低温・溶液中で発光を示すが，固体状態で強いリン光を示すものはあまり多くはないため，10の発光挙動は非常に珍しい。また，テルルを含んだリン光性化合物はこれまでに例がなく，全く新しい知見である。第５章では，錯体 10の類似錯体として五員環テルラプラチナサイクルの合成と光物性が検討された。ビス（トリプチシル）ジテルリドと [Pt(η2-nb)(PPh3)2] の熱反応により，五員環テルラプラチナサイクル 12が黄色結晶として収率 51%で得られた。この錯体も固体状態において 12よりも強い橙色の発光を示した（λem	=	626	nm,	ΦPL	=	0.604）。また，すでに合成されていた 12の硫黄およびセレン類縁体も固体状態で強いリン光を示した（Se:	λem	=	493	nm,	ΦPL	=	0.644;	S:	λem	=	518	nm,	ΦPL	=	0.808）。錯体 12についてリン配位子の配位子交換反応が検討され，青緑色から赤色までの多彩な発光色（λem	=	521–662	nm）を示すリン光性錯体の合成に成功し，発光量子収率は最大で 0.919 にまで達した。以上のように申請者は，嵩高く剛直な骨格に組み込まれた硫黄あるいはセレンを含む蛍光化合物の合成を行い（第２章），それらの生成機構を解明し（第３章），さらにこの系をテルルにまで拡張した（第４章）。これらの研究の過程で固体・室温で非常に強いリン光を発する新規錯体を発見し，誘導体化とともに光物性の解明を行った（第５章）。これらは，有機典型元素化学，カルコゲン元素と遷移金属の配位化学，さらに，近年特に注目されているフォトルミネッセンス化合物の化学の基礎研究に新規な知見をもたらし，応用研究への波及効果も期待される研究成果である。従って，本論文は博士（理学）の学位論文として高く評価でき，合格とした。

Synthesis and Photophysical Properties of Luminescent Compounds Containing Chalcogen Atoms Incorporated Bulky and Rigid Skeletons

https://sucra.repo.nii.ac.jp/record/9912/files/GD0000395.pdf

Synthesis and Photophysical Properties of Luminescent Compounds Containing Chalcogen Atoms Incorporated Bulky and Rigid Skeletons

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