本稿は，2024 年3 月に福建師範大学で行われた教育実習をきっかけとした一連の文化交流イベントに関する報告である。中国での日本語教育の実態を観察したり，様々な新しい体験をしたりすることによって，相互理解を深めてよい収穫を得られた。textapplication/pdfdepartmental bulletin pape

庄, 佩珍

陳, 燕青

黒川, 美那子

Japanese

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

さいたま言語研究 第 8 号 29  出会いの旅 友好の絆 ―福建師範大学・埼玉大学学生文化交流活動イベント―        黒川美那子・庄佩珍・陳燕青  【キーワード】 日本語教育実習，福建師範大学，中国，福州  【要旨】 本稿は，2024 年 3 月に福建師範大学で行われた教育実習をきっかけとした一連の文化交流イベントに関する報告である。中国での日本語教育の実態を観察したり，様々な新しい体験をしたりすることによって，相互理解を深めてよい収穫を得られた。   1. はじめに  2024 年 3 月 4 日から 16 日まで，中国福建省福州市にある福建師範大学外国語学院で2 週間にわたる教育実習をきっかけに，福建師範大学・埼玉大学学生文化交流イベントが行われた。当イベントは教育実習，文化交流と福州見学という三つの内容から成っている。  図１ 初日集合写真 黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 30  2. 教育実習  今回の教育実習に参加したのは埼玉大学の安倍千晴さん，高橋あすみさん，梶日和さんと飯田来未さんという 4 名の学部生である。福建師範大学外国語学院日本語学科の授業見学し，それらを参考に実際に授業を行うのが主な目的である。教育実習は，授業見学，授業の実践，反省会に分かれている。  実習生達は「基礎日本語」，「日本語会話」，「日本語読解」，「日本語聴解」，「異文化コミュニケーション」，「日本語文学概論」など 10 科目以上の授業を聴講し，中国の大学における日本語教育の現状を直接観察した感想として，「日本語母語話者，非母語話者の教師のそれぞれに異なった強みと役割があることを間近に感じられた。海外で実習を行えたからこそ得られる気づきだった」や「常に学習者が気になるであろうところや間違いやすいところを先にくみ取って，生徒に寄り添うように進める技術はまさに『プロの技』であり，このような聴講の機会でしか得ることができない収穫であった」，「緊張感とリラックスのバランスが保てるようにテンポを意識し，空間の雰囲気にも気を配ること，また，生徒の反応を敏感にキャッチし，理解と学習意欲を高めていくことの重要性を学んだ。教師と学習者がお互いに歩み寄りながら，『知識』を自分の言葉として発信できるように導く過程を観察できたことは，これから学習を続けていくにあたっての基盤になっていく」，「どの授業においても生徒たちの主体的な発話が意識されており，学習者の誤用や疑問として残りやすい事項にも触れることができたのは，私たちに新たな視点を与えてくれた」などと語ってくれた。  11 日と 13 日の午前中，四人の実習生はそれぞれ学部一年生と二年生を対象に授業を行った。梶日さんと安倍さんは『日本語会話』を担当し，高橋さんと飯田さんは『日本語基礎作文』を担当した。実習の指導教員からは，次のようなコメントがあった。  （1） 時間の使い方が上手で，イントネーションの確認や文法の説明なども十分に行っていた。全ての要点を抑えつつ，時間通りに授業を終わらせていたため，一度しか模擬授業をしたことがないとは思えないほど，とても完成度の高い授業だった。 （2） 作文テーマ（「自分へのご褒美」）は，学生のニーズを踏まえて設定されていた。スライド教材は，学生の興味を引き付け，作文執筆へのモチベーションが上がるよう十分な工夫がなされていた。授業の流れや時間配分など，授業計画も十分に練られていた。 （3） 全体的に楽しい雰囲気で学生と頻繁にインターアクションを取り，発言を促しながら授業を進めていた。発話スピードや使用語彙等が学生のレベルに合っており，指示も明確に伝わっていた。そのため，普段は発言しないような学生も，積極的に発言していた。ペアワークでは，適宜各ペアの話に加わりながら，丁寧に机間巡視を行っていた。授業後は，授業で回収した作文を積極的に添削し，その難しさを実感したようだった。 さいたま言語研究 第 8 号 31  （4） 学生からの授業評価も非常に高く，授業後に行ったアンケートでは，全体的な授業の難易度について，86.5％の学生が「ちょうど良かった」，PPT や黒板の見やすさについては 91.9％の学生が「とても見やすかった」を回答していた。また，「作文テーマは，私たちの状況に合っている。自分がしたいことが書けて本当に良かった」「どうすればこの作文がより具体的に書けるのか，すぐに理解できた」「授業は面白かった。（実習生が）例として自分の体験を話してくれたのもよかった」などの声もアンケートに寄せられていた。  図 2 模擬授業風景その 1        図 3 模擬授業風景その 2  13 日の午後，教育実習報告会が行われた。埼玉大学の実習生はそれぞれ教育実習の状況について報告し，貴重な経験を得られたと感想を述べた。受講生として，福建師範大学日本語学科の学生代表の王子露さんと黄宇昊さんが，実習生の授業に対し，内容，面白さ，授業の雰囲気などの面での感想を述べた。続いて，福建師範大学日本語学科の庄佩珍先生，黒川美那子先生と廣瀬先生による授業コメントが行われた。授業準備の大変さ，生徒のニーズに応じたテーマ決めや授業ペースの把握の難しさがあったにもかかわらずそれをよく乗り越えられた実習生を高く評価し，今後教師としての道を目指すにあたり有益な助言を行った。今度の実習を通して，言葉の教育とは言葉を育むだけではなく，人と人とのコミュニケーションの上に成り立つ温かい真心が大切であるという共通の認識にたどり着いた。最後に，学科長の陳燕青先生は，今回のイベントは中日両国の大学生の絆を一層深め，相互理解を促進する点で重要な意義を持つものとし，中国で見たことや感じたことを帰国後日本の友人にも共有してほしいと総括を行った。  黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 32    さいたま言語研究 第 8 号 33     図 4 交流会風景  3. 文化交流  教育実習のほかに，福建師範大学日本語学科の「藤山日本学サロン」，日本語コーナーや閩琉エイサーチームの練習など沢山の文化交流活動にも参加した。 黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 34   6 日に開催された「第 60 回の藤山日本学サロン」では，「中日の大学生活」，「福文化・和文化」という二つのテーマをについてそれぞれ発表した。埼玉大学の安倍千晴さん，高橋あすみさん，梶日和さんと飯田来未さんは日本各地の特色ある文化や大学の生活などを紹介し，福建師範大学の李宏宇さん，何雨轩さん，黄宇昊さん，許若琳さんは多彩な大学生活，福州の有名な観光スポット，福州グルメ，福建師範大学外国語学院日本語学科の看板活動エイサーなどを紹介した。最後に，出席した陳建梅先生，廣瀬裕作先生，小柳圭先生と黒川先生は自分の感想も交えながらコメントした。    さいたま言語研究 第 8 号 35    図 5 第 60 回の藤山日本学サロン風景    13 日の午後に，日本語学科の看板サークルである閩琉エイサーチームに招待され，エイサーチームのメンバーと一緒にエイサー体験をした。何度も福建省のエイサー大会で優勝した福建師範大学の閩琉エイサーチームのメンバーは，名曲の『一笑懸命』と黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 36  『唐船ドーイ』を披露した。沖縄出身の飯田さんも仲間に入り，皆で楽しんでいた。最後に，「お疲れさまでした」という一言でその日の練習を終えた。  図 6 エイサー練習風景   同じ夜，日本語コーナーにも参加した。日本語学科の学生達と共にゲームをしたり，自分の日常生活や経験を共有したりすることで，言葉の勉強はもちろんお互いの距離感が一層縮まった。  さいたま言語研究 第 8 号 37     図 7 日本語コーナーの風景  4. 福州見学  放課後には，李宏宇さん，何雨轩さん，白丽莎さん，陳琪さんという 4 人のチューターの案内のもと，福建師範大学の隣にある有名な夜市である「学生街」，新キャンパス，福州の有名な観光スポットである「三坊七巷」「煙台山」「西湖公園」などを散策し，中国のおおらかな雰囲気と緑豊かで美しい街並みを肌で感じた。 黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 38   4 日の夜，皆で一緒に学生街に向かい，焼き冷麺や芋泥餅などの有名な軽食を食べ，輪投げ，シューティングゲームなどの面白いゲームなどを体験した。実習生は，大学の周辺にはその他の教育機関や学生向けのお店が並んでいることに驚いていたと同時に，学生たちがこの土地の中心になっているような活気のある雰囲気も感じた。また，ライチ肉や魚団子など福州の伝統料理などを食べ，日本では味わえない多種多様な本場の中華料理に魅了されていた。     図 8 大学近辺の見学 さいたま言語研究 第 8 号 39   9 日に福州の郊外にある新キャンパスをも見学した。チューターが広いキャンパスを散策しながら，福建師範大学の歴史，学部の構成など紹介してくれたおかげで，実習生は大学の歴史の重みを感じていた。  10 日，福州の名所と言われる「三坊七巷」に足を運び，福州ならではの「福文化」を感じた。そして，有名な翻訳家である「厳復」記念館を見学し，実習生は福建が中国の近代史に残る偉人を輩出したことに思わず驚きと感心の声を上げた。また，様々なお茶の店で福建のお茶を味わい，日本と異なる茶文化を体験した。実習生は，福州の有名なジャスミン茶を大変気に入り，お土産として福州名産のジャスミン茶やジャスミンのお菓子を購入していた。昼には，日本人教師と一緒に「老福州」という老舗で南煎肝（レバーの炒め物），紫菜炸海蛎（カキの磯辺揚げ），炒白粿（餅の炒め物）など福州の特色ある料理を味わい，埼玉大学の友人たちから絶賛の声が上がった。    黒川美那子・庄佩珍・陳燕青 出会いの旅 友好の絆 40    図 9 福州市内見学  5. おわりに  一連の交流イベントを通して，埼玉大学と福建師範大学の学生達は多くのかけがえのない時間を一緒に過ごした。両国文化の違いはもちろん，中国の特色ある風土を肌で感じられたことは，お互いの人生において大切な思い出として刻まれていくであろう。互いに学び合う中で理解を深め，絆を強めていきながら成長していくこそが今回の文化交流イベントの意義あるところなのではないだろうか。  図 10 お別れの記念写真  黒川美那子（福建師範大学外国語学院日本語学科常勤講師） 庄佩珍（福建師範大学外国語学院日本語学科講師） 陳燕青（福建師範大学外国語学院日本語学科准教授・学科長）  

出会いの旅 友好の絆 : 福建師範大学・埼玉大学学生文化交流活動イベント<実習報告>

https://sucra.repo.nii.ac.jp/record/2000526/files/KY-2432857X-08-03.pdf

出会いの旅友好の絆 : 福建師範大学・埼玉大学学生文化交流活動イベント<実習報告>

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

出会いの旅 友好の絆 : 福建師範大学・埼玉大学学生文化交流活動イベント<実習報告>

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

出会いの旅友好の絆 : 福建師範大学・埼玉大学学生文化交流活動イベント<実習報告>