本論文では、車椅子介護者の負担を軽減するロボット車椅子システムとして、測距センサによって得られた介護者の位置情報及び周囲の障害物情報を用いて車椅子の進行方向や速度を制御するシステムを提案する。これにより介護者が特別な操作をすることなく、自分がしたいように動くだけで車椅子を思うとおりに誘導することが可能となる。廊下での走行実験を行い、シスムの有用性と安全性を示した。総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)
特定領域重点型研究開発　次世代ヒューマンインタフェース・コンテンツ技術
視覚情報に基づく人間とロボットの対面およびネットワークコミュニケーション(051303007)
平成17年度〜平成19年度　総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)
研究成果報告書(平成20年3月)
研究代表者 久野 義徳(埼玉大学大学院理工学研究科 教授)より転載textconference pape

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クノ, ヨシノリ

中村, 明生

久野, 義徳

岩瀬, 智裕

Japanese

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

介護者の意図に沿って動くロボット車椅子 Robotic Wheelchair Moving in Accordance with Caregiver’s Intention  岩瀬 智裕† 中村 明生† 久野 義徳† Tomohiro Iwase†, Akio Nakamura†, and Yoshinori Kuno† †埼玉大学大学院理工学研究科情報システム工学専攻 †Department of Information and Computer Sciences, Saitama University E-mail: {iwase,nakamura,kuno}@cv.ics.saitama-u.ac.jp  Abstract 本論文では、車椅子介護者の負担を軽減するロボット車椅子システムとして、測距センサによって得られた介護者の位置情報及び周囲の障害物情報を用いて車椅子の進行方向や速度を制御するシステムを提案する。これにより介護者が特別な操作をすることなく、自分がしたいように動くだけで車椅子を思うとおりに誘導することが可能となる。廊下での走行実験を行い、シス ムの有用性と安全性を示した。 テ １ 研究の背景と目的  近年、高齢化や少子化の進行に伴い、高齢者や障害者の方の介護、支援を行う人材の不足が懸念されている。そのため、少ない人材でも効率的に介護や支援が行えるように、ある程度の自律移動を行う知的車椅子の開発が求められている[1][2]。しかし、搭乗者の操作負担の軽減を目的とした、視線や顔の向きによるインタフェースの研究[3][4]などはいくつか行われているが、介護者のことは考えられていなかった。本研究では搭乗者の操作性向上ではなく、介護者の負担軽減という観点で考える。介護者が直接押したり引いたりすることなく、容易に意図に沿った車椅子の動きを実現できる車椅子システムを提案する。単純に車椅子が介護者の動きに追従しているだけでは、状況によっては不都合が生じてしまう。例えば車椅子側方にあるドアを開け、そこに車椅子を誘導したい場合などは介護者の動きに追従するだけでは実現不可能である。そこで、本研究では車椅子の周囲に介護者の動きを車椅子の動作に反映させない不感領域を設けると同時に、介護者の車椅子に対する位置・車椅子周囲の障害物状況について簡単なルールを設け、それに基づいて周囲の状況を判断して車椅子の動作が決定されることにする。これにより介護者の動きに追従しつつ、周囲の状況に即した車椅子の移動が可能となる。  ２ ハードウェア 車椅子はスズキ社製の SC3000S を用い、光電センサ (PB9-01, 北陽電機製) を測距センサとして車椅子の前後左右４箇所に設置している。図 1 は本研究で使用している車椅子の概観である。   図1 車椅子の概観  ３ 車椅子の自律移動 本研究で提案するシステムを実現するためには車椅子がある程度の自律移動を行えることが必要となる。本研究では以下の二つの自律行動を実現している  3.1 障害物回避 前方のセンサにより環境情報を取得し、ある範囲以上障害物のないスペースを探しだしその中心の角度方向 進路を修正する(図2(a))。 に 3.2 壁沿い走行 センサにより得られた距離データを前後二つのデータとして扱う。この前後の距離データの平均がつりあう場合、壁と平行に進路をとっているということになる(図2(b))。 前後のデータがつりあわない場合や、壁と保つべき距離より近づきすぎてしまった場合、制御信号に適切な重みを加え、壁と平行になるように進路を調整する。   図2 (a)障害物回避          (b)壁沿い走行  ４ 介護者に協調動作する車椅子システム 介護者が車椅子に同行する際、殆どの場合は車椅子の後方から人力により車椅子を押したり引いたりする。もし車椅子が介護者の動きに協調しつつ自律的に行動して介護者の手を煩わせることがなければ介護者の負担は軽減される。  4.1 介護者の認識 介護者の動きに車椅子が協調動作する本システムでは、まずなにより介護者の位置情報を常にシステムが把握していることが必要となる。 本システムでは起動と同時に測距センサを用いて介護者を発見し、リアルタイムでその位置情報をディスプレイに表示する。初期状態では介護者は車椅子の後方にいるものと仮定し、後方のセンサから得られたデータより、車椅子に近い距離にある、すなわち距離データの値が小さいオブジェクトをいくつか抜き出し、介護者の候補とする。このとき図 3 で示されるようにデータの谷になっている部分が介護者候補のデータになる。いくつかの候補が存在する場合には、位置や車椅子との距離、オブジェクトの範囲などを考慮に入れて一意に介護者を決定する。   図3 介護者情報  4.2 介護者の位置による速度、進行方向制御 前節で述べた手法で得られる介護者の位置情報を用いて車椅子の速度及び方向の制御を行う。 本システムでは、介護者と車椅子の間での保つべき一定の距離Ｌを定義し、介護者との距離がＬより大きければ速度を落とし、逆に小さければ速度を上げるという方法で速度の制御を行っている。方向制御に関しては、介護者の位置が車椅子の中心を通る線に対してどれだけずれているかをセンサ情報から読み取り、一定の重みを与えることで実現している。 介護者の位置は車椅子を中心とし、車椅子から壁への垂線をx軸とする座標において として表される。 ),( yx PP速度制御信号 、および方向制御信号 は以下の式で表される。 sV dV xdcdysisPhVVLPhVV−=−∆+= )( ここで、 は速度を０とする電圧値、 は進行方向を中心に向ける電圧値、 はそれぞれの値を電圧値に反映させるための重みである。 iV cVds hh , 4.3 不感領域の設定 前節までに車椅子が介護者の動きに協調し前後左右の動きを制御することを実現した。しかしこのシステムでは介護者が車椅子の後方にいることを前提としている上に、何らかの理由で車椅子を追い越したい場合などのとき、不必要に介護者に追随してしまい追突などの事故を起こしかねないという問題がある。 実際には介護者が車椅子の横について、おしゃべりしながら進むような場合や、前方や側方のドアを開けるために車椅子の前や横に介護者が出なければならない場合がよくある。 そこで、車椅子の周囲に左右の幅を大きくとった楕円形の領域を設定し(図 4)、介護者がその領域にいる場合には介護者の動きが車椅子に反映しないようにする。この領域を不感領域と呼称する。   図4 不感領域  4.4 介護者の位置による行動の変化 不感領域を設けることによって介護者は車椅子の側方についての車椅子の補助も可能になった。しかし、介護者が車椅子の側方にいる場合、後方にいる場合と同様の速度、方向制御を用いては不都合が生じる場合がある。例えば、現状の方向制御では、壁沿い走行により壁との衝突の危険がないため廊下等屋内での使い勝手を考慮して介護者が動いた方向と逆の方向に車椅子が進路をとるようにしているが、介護者が側方にいる場合に同様の制御を行うと不自然な動きになってしまう。 そこで、介護者が車椅子に対してどの位置にいるかによって制御する度合いや制御方法を変えることにす 図6 システムの流れ  4. 不感領域をことにより、具体的にはで停止している車椅子ある状況で停止している車椅子子の側方について車椅子を誘導実 の様な行動を行っている例を図 7 に示す。 る。 本システムでは介護者の位置を表すのに車椅子を中心とした x-y 座標を用いている。この場合は方向制御の際に用いた壁との垂線を x 軸とする座標ではなく、単純に車椅子の進行方向が y 座標の正の方向、y 軸に垂直な線を x 軸とし、車椅子の右方向を正の方向とする座標で表す(図5)。   図5 介護者の位置情報  介護者の位置座標を としたとき、),( yx PP 1−≤yP のとき介護者は車椅子の後方にいるものとし、 のとき車椅子の前方にいるものとする。 のときは車椅子の側方にいるものとする。 1≥yP11 <<− yP介護者が後方にいる場合には、先に述べたように介護者の動いた方向と逆の方向に進路をとるようにし、速度も同様に先に述べたような方法で制御を行う。介護者が後方にいて、なおかつ不感領域の中にいる場合には介護者の動きは車椅子には反映されない。ただし、安全性のことを考慮し、減速に関してだけは介護者の動きを反映させることにする。 介護者が側方にいる場合は、通常では不感領域の中にいるものとする。この場合は速度、進行方向ともに現状を維持する。介護者が車椅子の側方にいて、なおかつ不感領域を出ている場合には進行方向の制御を行う。ここで、前項では進行方向制御の式を xdcd PhVV −=  としたが、介護者が側方にいる場合には xdcd PhVV +=  とする。すなわち、介護者の移動方向に追随する形で進路を修正する。 最後に、介護者が前方にいる場合だが、この場合車椅子は停止するものとする。 以上のようにして介護者が車椅子に対してどの位置にいるかによりそれぞれ対応した制御方法をとることにする。ただし車椅子が障害物に遭遇したときにはこれらの行動よりも優先して障害物回避や緊急停止を行う。また、どの場合においても常に壁沿い走行は行っているものとする。以下にその流れを示す(図6)。 5 利用した行動 前述のように不感領域を設ける以下のような行動が行える。  前方にドアがある状況の前方に介護者が出てドアを開放、その後車椅子を通過させる  側方にドアがの側方に介護者が出てドアを開放、その後車椅子を通過させる  走行中に車椅する 際に以上    図7 不感領域を利用した行動例  ５ 実験 域を利用した行動に関する実験 周囲に不にドアがある状況、側方にドアがある状況、エレ、ドアの開放に関しては車椅5.1 不感領第４章で述べたように、本研究では車椅子の感領域を設けることにより介護者の動きに車椅子が単純に追随した時に生じる不都合に対する解決策を提案した。ここでは提案手法を検証するために、実環境で遭遇し得る状況に対処できるかを調べる実験を行った。 前方ベータについてそれぞれ介護者がドアを開け車椅子を通過させる。それぞれ１０回ずつ実験を行い、それぞれの原因による失敗回数および成功回数を計測した。また、不感領域を設けることによって曲がり角を曲がる際に不都合が生じないかを調べるため、曲がり角でも同様に実験を行った。 実験結果(表 1)を見ると子の誤作動は全く起きなかった。衝突による失敗がそれぞれ１回ずつあるが、これはドアの広さと車椅子の幅がほぼ同じであったための失敗である。また、曲がり角は問題なく曲がれていることがわかる。エレベータの開放に 2 回エレベータ内部に入ってから失敗している。エレベータ内部は狭い空間になっているため障害物回避などで多少動いただけでも衝突してしまう恐れがある。障害物回避と緊急停止の兼ね合いに関しては今後も様々な状況を想定していく必要がある。  表1 実験結果   5. 廊下での走行実験 椅子システムの実用性を確認において１０回ずつ行い2 介護者に協調動作する車するため、廊下での走行実験を行った。実験は、前節で検証した、前方のドア、側方のドア、曲がり角など不感領域を利用することにより解決できる障害物を含むコースで行う。また、逆周りのコースでも同様にして走行実験を行った(図 8)。 走行実験はそれぞれのコース、壁との衝突回数、手動操作をしてコースへの復帰を行った回数を計測した。    図8 走行実験コース  表2 実験結果   以上のような結果(表 2)となった。障害物回避や緊急  ６ 結論 研 、介護者の負担を軽減するために、介護者に協調動作する車椅子システムを提案した。また、周係が対等に見られないという問題もよって解本研究の一部は科学研究費補助金（14350127）による。 献  Levine, David A. Bell, Lincoln A. Jaros, Richard C. Simpson, Yoram Koren, Senior Menber, [2SJ International [3Friendly Interfaces of [4ing visual information [5 停止を優先的に行っているため壁と衝突することはほとんど無かった。しかし、壁との衝突回数に比べて、手動操作によるコースへの復帰の回数は多くなってしまっている。これは先にも述べたように障害物回避や緊急停止を優先的に行うようにしているため、例えば袋小路に入ってしまうと緊急停止してしまいコースへの復帰が難しくなる、というようなケースが多くなってしまうからである。今後はカメラによる視覚情報なども用いて周辺環境情報の取得をより正確に行っていく必要がある。   本 究では辺環境情報を利用することにより単に追従するだけでは対応できないいくつかの問題点の解決や安全性の向上を果たした。 介護者が車椅子を押しているような状況では、介護者と被介護者との関指摘されているが[5]、ここで提案したシステムでは介護者は車椅子の周囲を動くだけで直接的に操作していないため、介護者-被介護者という関係が目立たず、対等な関係と見なされる効果も期待できる。 今後は、実環境における様々な状況を想定し、それらを現状のような簡単なルールの組み合わせに決し、介護者や車椅子ユーザが特に意識することなく自然に操作できる車椅子システムの完成を目指す。  謝辞  参考文[1] Simon P.IEEE, and Johann Borenstein, Member, IEEE, “The NavChair Assistive Wheelchair Navigation System” IEEE Transaction On Rehabilitation Engineering, VOL.4, December ] ES Boy, CL Teo and E Burdet, “Collaborative Wheelchair Assistant” IEEE/RConference on Intelligent Robots and Systems, VOL2, pp1511~1516, 2002 ] Jae-Woong Min, Kyoobin Lee, Soo-Chul Lim and Dong-Soo Kwon, “Human-Wheelchair Robotic System for Handicapped Persons”, Proc. IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, vol.2, pp.1505-1510, 2002 ] Y. Adachi, Y. Kuno, N. Shimada, and Y. Shirai, “Intelligent wheelchair uson human faces,” Proc. 1998 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems, vol. 1, pp. 354-359, 1998. ] “社会理論としてのエスノメソドロジー”, 山崎 敬一 著, pp139-148  

介護者の意図に沿って動くロボット車椅子

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介護者の意図に沿って動くロボット車椅子

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