学位記号番号 : 博理工乙第253号博士の専攻分野の名称 : 博士(工学)
学位授与年月日 : 令和元年9月20日textapplication/pdfthesi

29795

カワサキ, マサトシ

川埼, 真俊

Japanese

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

－ 84 － － 85 －氏 名 川埼　真俊博士の専攻分野の名称 博士（工学）学 位 記 号 番 号 博理工乙第 253 号学位授与年月日 令和元年 9 月 20 日学位授与の条件 学位規則第 4 条第 2 項該当学 位 論 文 題 目 多翼送風機の非定常流れと騒音発生メカニズムに関する研究論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 平原　裕行委　員 教 授 小原　哲郎委　員 准 教 授 前田　慎市委　員 准 教 授 本間　俊司委　員 准 教 授 姜　　東赫論文の内容の要旨　自動車空調の現在の課題及び将来に向けた方向性を鑑み、多翼送風機の翼間、羽根車内部、スクロールケーシングそれぞれにおいて、設だけでなく、低流量動作時の低周波数騒音も含んだ騒音発生メカニズムを解明することを目的として研究を実施した。　まず、多翼送風機の様々な翼設計因子を変化させ、送風性能と騒音に及ぼす影響について、系統的な実験的検討を行い、合わせて、2 次元単独翼の CFD 解析を用いて翼間流れと関連付けて調査した。その結果、羽根車の内外径比 D1/D2 ＝ 0.8 ～ 0.84、羽根枚数 Z ＝ 35 ～ 45、傾斜角 α ＝ 30°～ 40°、翼出口角 βd2 ＝ 155°～ 165°を同時に満たすとき、ファン効率は高くなり、比騒音は低くなる。この条件においては、前縁剥離した流れは、後続翼の正圧面に沿って流れ、その後、前方翼の負圧面に再付着して速度すべりの少ない状態で流出されることが明らかになった。また、翼間における主な損失及び騒音発生源は、負圧面前縁から後縁にかけて剥離泡の周囲を取り巻いている、せん断層部、再付着部、後縁下流直後における剥離によって生成される微小な死水領域と流出主流とのせん断領域部にあり、400 ～ 700Hz の騒音はこれらの流動特性に起因していることが明らかになった。内外径比が大きく、傾斜角が小さい場合は、出口速度のすべりが大きくなることによって、送風性能低下及びファン効率低下が著しくなると言える。この条件では、騒音レベルは広帯域で増大し、特に 400 ～ 700Hz の増大が顕著となる。これは、前縁剥離が再付着できないことが主な要因である。　次に、羽根車単体（スクロールレスファン）における内部流れから発生する騒音ついて PIV 計測と数値解析によって検討した。まず、スクロールレスファンと、スクロールファン（ファンとスクロールがアッセンブリされた通常の送風機）の騒音測定を行い、それぞれの特性を比較したところ、両者のスペクトル分布は、翼通過周波数を除き、定性的に一致したことを確認した。このことから、多翼送風機において発生する騒音は、羽根車内部で発生する翼間流れ変動及び渦流領域といった、多翼送風機特有の流れによる影響が大きいとが明らかになった。この現象を詳細に調べるため LES モデルによる CFD を用い、流れに起因する騒音を調査－ 84 － － 85 －した。その結果、およそ z/b=0.5 において、翼周りの相対速度ベクトル、静圧変動強さ分布、渦構造に大きな変化が見られた。これは、z/b=0.5 はハブ側（主板側）の比較的安定した翼間流れの領域とシュラウド側（側板側）の渦流領域との境界と考えられ、その近傍で静圧変動が最も大きくなる。また、翼間流れが発達するz/b=0.1 ～ 0.4 においては、前縁剥離せん断層周辺でこの帯域の変動が大きいことから、これも騒音発生要因といえる。z/b=0.5 における大きな変動は、翼への脈動的な流入形態によって引き起こされて翼間内部で変動が増大しているものであり、これが最も大きな騒音発生に関連する現象であり、これらの流れが最も騒音が大きくなる 400 ～ 700Hz の騒音に影響を与えていることが明らかになった。　以上の研究は、2 次元翼及びファン単体に着目していたが、これ以降はスクロールケーシングにファンが組み込まれた、通常の多翼送風機について調査した内容を述べる。　まず、高流量動作点における騒音特性に対して LES による数値解析を行い、送風機内部の非定常流れと騒音発生の関係について調査した。翼通過周波数騒音よりも大きな騒音が 400 ～ 800Hz において確認され、この騒音源は舌部と羽根車上方及び負圧面全域の翼面に存在することを確認した。舌部における騒音については、翼の後縁から放出された大小さまざまなスケールの渦の集団が、ケーシング上流からの流れと混合し、ある大きさのクラスターとなって舌部に衝突・変形した際に発生する不規則な圧力変動によるものと考えられる。羽根車上方の翼面については、ベルマウスの下端からの剥離によって生じた渦が非定常的に翼へ流入した時と、非定常的に生じる翼間流れにより、翼間内で大きな圧力変動として現れる。翼負圧面については、前縁剥離によって生じるせん断層及び剥離再付着によって圧力変動を生じる。これらの流れが羽根車から生じる騒音の要因となる。スクロールレスファンとスクロール付きの送風機での翼間内変動の違いは、スクロール付きでは翼への流入流量がθ方向に応じて変化するため、主流領域と渦流領域の高さもθ方向に対して変化するためである。　次に、低流量運転時（流量係数 = 0.12）に発生する約 100Hz の低周波数騒音と発生メカニズムを時系列 PIV 計測と CFD を用いて調査した。その結果、低周波騒音発生源は、舌部表面と羽根車翼表面であることが判明した。これは、スクロールケーシングに存在する変動流が舌部側へ流れ、舌部表面に衝突した時と、羽根車内部逆流による変動が翼表面に衝突した際に騒音が発生することを明らかにした。また、翼流出の始動角（本研究では θ = 120°）近傍において、羽根車から流出する流れはこの低周波数で大きな変動を伴う事が明らかとなった。この変動はスクロールケーシングの下流に移送されるが、この変動流れは翼流出の始動角以降の羽根車から流出する主流に対し、径方向外側を通過して搬送される。この時、翼流出の始動角以降の羽根車からの主流には低周波変動は発生していないことを確認した。更に、スクロールケーシング内を移流する低周波数変動流れは、スクロールケーシングの巻き終わり付近で、羽根車側へ流れていくものと、舌部へ向かう流れに分岐し、一方が羽根車へ逆流する。羽根車内部へ逆流した低周波数変動を伴った流れは、再び θ = 120°付近の翼へ流入した後、スクロールケーシングに流出される。舌部側へ向かった流れは、そのまま舌部に衝突し、低周波音発生の原因となっている。また、低周波音の発生周波数の決定要因を明らかにするため、次のような調査を行った。羽根車内部逆流及びスクロールケーシング内の羽根車主流の外側に存在する変動からそれぞれの低周波数変動が大きい点を抽出し、それを結ぶことでそれぞれの低周波変動流れの代表経路を表した。この両者経路の距離と経路上における平均流速を求め、更にこの経路の通過周期を求めたところ、両者共に低周波騒音周波数と同じ約 100Hz であることを確認した。このようなスクロールケーシングにおける変動流が、羽根車内部逆流と結びつくと、低周波変動流の同期流路として確立され、低周波騒音を大きく発生させることが明らかになった。－ 86 － － 87 －論文の審査結果の要旨　本学位論文に関して審査を行った結果を以下にその論文の概要と評価について記述する。　本論文は、自動車空調の課題及び将来に向けた方向性を鑑みて、中でも、自動車用空調機（HVAC）に用いられている多翼送風機の小型・低騒音・高効率化に向けた新たな形状の考案を最終目標としたものである。その実現のために、重要な設計情報となりべき流体力学的起因による送風機騒音発生メカニズムを詳細に分析、把握することを主眼としている。主たる研究の目的は、多翼送風機の翼間、羽根車内部、スクロールケーシングのそれぞれの流れに起因する騒音発生メカニズムを解明することである。論文の、第 1 章では自動車業界の現在及び将来の動向、自動車空調における問題及び課題を整理し研究の背景を述べると共に、多翼送風機に関する従来研究、本研究の目的を述べられている。第 2 章は、2 次元翼における送風性能と騒音について調査する。翼間における流体力学的特性と騒音特性との関係が明らかにされておらず、様々な翼形状に対する騒音への影響が不明となっている。そこで、翼の設計因子とそのパラメータを変化させ、2 次元翼間 CFD 解析と試作評価を行い、翼間流れと騒音及び効率との関係を明らかにする。まず、翼設計因子を系統的に変化させた時の試作品を製作し、送風特性及び騒音特性試験を行っい、次に、各仕様に対し 2 次元翼間のみを考慮した CFD 解析を行い、それぞれの翼間流れと騒音及び効率とを関連付けて調査した。その結果、送風機騒音の中で最も大きい周波数帯である 400 ～ 700Hz は、前縁剥離が大きな影響を与えることと、前縁剥離が再付着できない仕様では、すべり（翼出口流れの向きが半回転方向へずれる現象）が急激に増加するとの結果を得ている。これによって送風性能（効率）が大幅に低減することを明らかにしている。第 3 章では、羽根車周りの 3 次元的な流体力学的特性が騒音に与える影響を調査されている。羽根車内から発生する騒音発生メカニズムは不明な点がある。研究の方法として、スクロールケーシングがない状態の羽根車単体の軸対称流れ状態における騒音を測定し、PIV による CFD 結果検証も含め、LES 乱流モデルによる CFD解析を用いて翼スパン方向の翼間流れ、速度及び圧力変動成分、羽根車周りの渦構造を詳細に調べている。その結果、羽根車単体モデルと通常の送風機の騒音スペクトルは定性的によく似た特性であることが判明したと主張している。これは、羽根車内部の翼間流れ変動と渦流領域の影響が大きいことを示唆した結果である。また、前縁剥離によるせん断層周辺の変動も 500Hz 周辺で大きくなり、後縁周辺の変動は 1500Hz 以上の高周波数側で大きくなるためである。更に、翼間全域で変動が大きくなる z/b ＝ 0.5 では、主流部と渦流部の境界で不安定な流れの為と考えられると結論付けている。第 4 章は、一般的なスクロールケーシングに搭載された通常の多翼送風機において、高流量動作点時において最も音圧レベルが高い周波数帯である 400～ 800Hz の騒音について、LES 乱流モデルによる CFD 解析を用い、送風機内部の非定常流れと騒音発生との関係について考察している。調査の結果、次のことが明らかになっている。すなわち、最も大きな周波数帯である 400 ～ 800Hz の騒音発生源は舌部、羽根車上方翼面、翼負圧面に存在する。舌部における騒音は、翼から放出された大小さまざまな渦がスクロールケーシング上流からの流れと混合し、舌部に衝突・変形した際に発生する。羽根車上方翼面については、騒音発生源の一つである渦流 / 主流境界位置において、巻き角θが進むに従い羽根車上部に移動していくことで変動領域が拡大する。翼負圧面の騒音は、前縁剥離せん断層に起因すると結論付けている。－ 86 － － 87 －　第 5 章では、送風機の低流量動作点で発生する約 100Hz の低周波数騒音の発生メカニズムを解明したことについて述べている。多翼送風機に関する低周波数騒音の研究例は非常に少ないため不明な点が多い。メカニズムの調査では、送風機性能設計で実験解析では時系列 PIV を用い、翼間及びスクロールケーシング内部の非定常流れ場を計測、解析している。また、LES 乱流モデルによる CFD 解析も行い、FW-H モデルによる音圧スペクトル予測を行い、実測の音圧スペクトルと比較してその予測精度の妥当性を示されている。更に、CFD 結果と時系列 PIV 結果との流れ場の比較、時系列 PIV 解析で得られた低周波数騒音メカニズムに強く関係する特異な流れを CFD でも同様に再現することを確認し、CFD 解析の妥当性も併せて示されている。このような手法を用いた調査の結果、低周波数騒音発生に強く関連する特異な流れが存在することを発見し、報告している。具体的には、低周波騒音発生源は、舌部表面と羽根車翼表面で、舌部における騒音は、スクロール内の変動流が舌部表面に衝突した時、羽根車翼表面の騒音は、羽根車内部逆流が翼面に衝突した時に発生すると述べている。スクロール側と羽根車側の変動流路それぞれの通過周期は、いずれも約 100Hzと一致し、また、変動周波数決定要因は変動パスの距離と通過流速に依存することが明らかにしている。スクロールにおける変動流と、羽根車内部変動流とが繋がることで低周波変動流の同期が確立され、低周波騒音を大きく発生させることが明らかにされている。第 6 章は、本論文の総括である。　以上のように、小型低騒音送風機の開発において、要素解析から基本的な流れ場を解析する手法へと発展させ、実験計測と数値解析から問題を掘り起こし、騒音発生のメカニズムの解明に大きな進展があった。騒音の問題では、低周波数の騒音と高周波数の騒音の騒音源に関してその発生メカニズムが異なることを示し、数値計算から詳細にその発達過程を解明している。　以上のように、本論文に関連した一連の研究において、学術的、工学的に非常に有意義な新しい知見が得られていることが認めらその成果は高く評価することができる。

多翼送風機の非定常流れと騒音発生メカニズムに関する研究

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多翼送風機の非定常流れと騒音発生メカニズムに関する研究

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