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ヤマグチ, ヒロキ

山口, 宏樹

Japanese

Saitama University Cyber Repository of Academic Resources

構造健全度評価のための常時微動計測とモード・減衰変化同定の精緻化： 富州原橋（ローゼ橋）を例として  プロジェクト代表者：山 口 宏 樹（理工学研究科・教授）  １．はじめに 現在、日本では、土木構造物の老朽化が大きな問題となっている。米国ミネアポリスでの落橋事故や日本国内での鋼トラス橋における破断事故が相次いで発生したことからも、客観的・定量的判断に基づいた、橋梁の合理的な維持管理手法の確立が急務であると言える。人員不足や目視が困難な部分の損傷の検知等から、目視検査のみでは限界があると言われている。そこで、多大な労力と経験的技術を要する目視検査を補う手法として、本研究では、振動により健全度評価を行う一手法であるModel Updatingに着目し、研究目的を、損傷を有する実橋梁に対しModel Updatingを適用することにより、橋梁の状態を把握できるか検討することとした。 ２．富州原橋の常時微動計測 腐食や損傷を有する単径間鋼アーチ橋（L=102.4ｍ）である富州原橋を対象に、供用時の振動計測を行ってModel Updatingを適用し、構造物の状態を把握できるかの検討を行った。計測振動はサーボ型速度計と圧電式ピックアップを用い、加速度成分を主溝上では鉛直、吊材では水平方向について計測した。サンプリング周波数は200Hzで、多点同期計測を行った。3種類の計測器の配置で計測を行ったが、本研究の目的に沿って、橋梁全体の振動モードの把握を目的として行った、図１の計測器配置でのデータを用い、Model Updatingの適用を試みた。時系列波形とフーリエスペクトルの一例を図２に示す。 0 200 400 600-0.500.55 10 15 2000.511.5x 10-3フーリエ振幅(m/s2) 時間(sec)加速度(m/s2) 振動数(Hz）３． 富州原橋の振動特性  得られた振動データを解析し、富州原橋の振動特性把握を行った。解析方法は、まず常時微動波形からRD法を用いて自由振動波形を抽出し、ERA (Eigensystem Realization Algorithm) 解析を用いてモード同定を行う。また、構造解析ソフトであるMultiframeを用いて、図３(a)に示した３次元骨組モデルを作成して固有振動解析を行い、理論的な振動特性値の把握を行った。図３(b)にモード形状の一例を、表１に各解析結果を示す。解析結果の精度の指標として、理論値と実験値のモード形状の相関性を表すModal Assurance Criteria (MAC)と振動数における誤差を併せて示した。          図１ 富州原橋平面図と計測位置   ：鉛直 ：橋軸直角 図２ 時系列波形とスペクトル表１ 解析結果比較表 理論値 実験値 誤差ねじれ逆対称1次 1.75 1.68 4% 63%鉛直逆対称1次 1.87 1.01 85% 86%鉛直対称2次 3.80 2.39 59% 47%ねじれ対称2次 4.58 3.54 29% 69%固有振動数(Hz)モード形状 MAC(a) 解析モデル (b) モード形状 図３ ３次元骨組モデルによる固有振動解析４．Model Updating 法の適用 (1) Model Updating 概要 Model Updatingとは、振動試験から得られた振動特性の同定値と、構造モデルを解析して得られた振動特性の理論値を、モデルを様々な方法で更新することによって近づけるものである。本研究は、その過程における変化から損傷等を捉えようとするものである。表１の結果より、理論値と振動試験から得られた同定値に大きな相違があることが分かった。そこで、解析モデルの更新を行い、これらの値が近づくか否かの検討を行った。モデル更新の内容は、床版に目地のような溝が入っていたことから床版剛性を低下させる更新と、錆などにより可動支承が固定となっている可能性があるため支承条件を変化させる更新を行った（図４(a), (b)）。また、富州原橋は多くの箇所で腐食や小さな亀裂が発生している（図４(c)）。そこで、腐食や小さな亀裂を断面欠損として表すことを仮定し、それらを捉えることが可能か検討を行った。       (b) 支承部分(a) 床版の目地  図４ 更新に関連する要因   (2) Model Updating 結果 更新前後のモデルと振動試験から得られた固有振動数、モード形状を比較した結果を表２に示す。床版剛性が無い場合は有る場合に比べ、振動試験により得られた固有振動数に大きく近づいている。また、MACの値も床版剛性をなくすことによって大きくなっており、モード形状も振動試験から得られたものに近づいていると言える。したがって、床版の桁としての剛性が効いていない可能性があるのではないかと言える。次に、表２の理論値において、解析モデルの支承条件を変化させた場合を見ると、初期モデルと比べ、固有振動数の誤差は若干ではあるが大きくなっている。また、MACを見てもほとんど変化が無いことから、支承は固定となってはおらず、可動支承として機能しているのではないかと言える。さらに、表２の結果から床版剛性が無いモデルが実橋梁により近いと考え、断面欠損による影響の検討にはこのモデルを用いた。断面欠損は、主溝と横桁の面積と質量において約20%の欠損を与えた。結果を表３に示す。実験値に近づいている傾向は見られるものの、変化はわずかである。したがって、この結果から腐食や小さな亀裂等の有無の判断における本研究の方法の有用性を明確に示すには至らなかった。 (c) 腐食・亀裂部分表２ 理論解析値と振動試 験から得られた同定値の比較       振動数(Hz) 誤差 MAC 振動数(Hz) 誤差 MAC 振動数(Hz) 誤差 MAC鉛直逆対称1次 1.87 85% 86% 1.12 11% 98% 1.87 86% 86% 1.01ねじり逆対称1次 1.75 4% 63% 1.71 2% 60% 1.75 4% 63% 1.68鉛直対称2次 3.80 59% 47% 2.50 5% 69% 3.85 61% 47% 2.39逆対称2次 4.58 29% 69% 3.69 4% - 5.41 53% - 3.54実験値理論値床版剛性あり(初期モデル) 床版剛性なし 支承条件(Fix-Fix)モード形状５．結論 腐食・損傷を有する実橋梁において、モード同定を行った後、Model Updating を適用して橋梁の状態の把握を試みた。その結果、床版の剛性が効いていない可能性が分かり、支承の状態を議論する事ができた。現時点では、損傷の詳細な位置や腐食の状態を把握する事は難しかったが、床版という大きな部位で異常がある可能性を導いた。つまり、維持管理のための健全度評価において、構造物全体における異常の有無の判断という初期段階には用いる事ができる可能性があると思われる。 表３ 断面欠損による影響 振動数(Hz) 誤差 MAC鉛直逆対称1次 1.11 10% 96%ねじり逆対称1次 1.70 1% 63%鉛直対称2次 2.49 4% 69%逆対称2次 3.68 4% -理論値モード形状 断面欠損考慮

構造健全度評価のための常時微動計測とモード・減衰変化同定の精緻化 : 富州原橋（ローゼ橋）を例として

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