京都大学新制・課程博士博士(医学)甲第25186号医博第5072号京都大学大学院医学研究科医学専攻(主査)教授 安達 泰治, 教授 森本 尚樹, 教授 羽賀 博典学位規則第4条第1項該当Doctor of Medical ScienceKyoto UniversityDFA

Maeda, Takahiro

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京都大学 博士（ 医 学） 氏 名 前 田  峻 宏 論文題目 Decreased Elastic Modulus of Knee Articular Cartilage Based on New Macroscopic Methods Accurately Represents Early Histological Findings of Degeneration （新しい軟骨弾性係数測定法による膝関節軟骨の弾性係数低下は組織学的な早期軟骨変性所見を正確に反映する） （論文内容の要旨） 【背景】 膝関節軟骨損傷は疼痛や下肢機能低下を引き起こす。よって軟骨損傷の修復法として自家骨軟骨や自家培養軟骨の移植術が実用化され、修復状態の評価はこれまで肉眼的または組織学的に行われてきた。ただし肉眼的評価は表面構造しか確認できず、主観的であるため検者間信頼性は不十分であった。また組織学的評価は軟骨全層を評価できるが、侵襲が過大であった。そこで本研究では、軟骨の損傷・修復状態と力学的特性との関連に着目した。過去の研究からナノインデンテーション法は、関節軟骨の力学的特性を生体外で評価する際に用いられ、軟骨が損傷すると弾性係数が低下すると報告されている。しかしこの手法を生体内で利用するには装置が大きく、測定範囲が微小なため生体使用での振動に耐えられない。そこで本研究では、軟骨硬度を測定可能なデバイスを新規開発し、測定結果と肉眼的および組織学的所見の関連を調査することで、将来的に生体内計測を実現することを目的とした。 【方法】 人工膝関節全置換術を受ける患者を対象とし、手術時に発生する切除骨軟骨片を検体とした。50膝から大腿骨内・外側顆の遠位と後方部分の計 4 カ所採取し、直ちに弾性係数(N/mm)測定を行った。測定は工業用弾力測定器を応用し、検体と接触する探触子を本研究専用デザインに改良した。軟骨押し込み速度は生体運動に近似させ、歩行周期と歩行中の軟骨の変形率を参考に、0.7mm/secで探触子を押し込み、その深度を0.2mmに設定した。精度検定は、同一部位を5回繰り返し計測して級内相関係数(ICCs)を算出した。肉眼的所見は、国際軟骨再生学会(ICRS)のマッピングシステムに準じて、部位ごとに ICRS グレード(グレード 0：正常、1：表層損傷、2：1/2 の深さまでの損傷、3：1/2 以上の損傷、4：軟骨下骨に達する損傷)で評価した。組織学的検討は骨軟骨組織切片をサフラニンOファストグリーン染色し、Mankinスコアで評価、軟骨の厚さも計測した。弾性係数の計測結果が、ICRSグレードとMankinスコアと関連するか検討を行った。 【結果】 本研究の弾性係数測定の ICCs は 0.98 と excellent であった。正常から中等度損傷に相当するICRSグレード0から2の軟骨では、軟骨変性が進行するにつれて軟骨弾性係数は有意に低下し、軟骨の弾性係数はICRSグレード0で12.2±3.8 N/mm、ICRSグレード1で6.3±2.6 N/mm、ICRSグレード 2 で 3.8±2.4 N/mm であった（p<0.001）。同様に、弾性係数はMankin スコアと負の相関があった（r=-0.51, p<0.001）。重回帰分析では、Mankinスコアの増加が軟骨の弾性係数の低下に最も関連する因子であり（t=-4.53、p<0.001）、次いで軟骨の組織学的厚さ（t=-3.15、p=0.002）であった。他方、ICRSグレード3および4の軟骨の弾性係数はそれぞれ8.9±4.9 N/mm、29.7±7.5 N/mmとグレード4で著しく上昇した。 【考察】 正常から中等度の軟骨損傷である ICRSグレード0-2において、軟骨の弾性係数は肉眼所見および組織学的所見と負の相関を示した。また軟骨の弾性係数は、肉眼的所見よりも組織学的所見と強く相関した。軟骨の厚さは厚いほど弾性係数は低く、浮腫状に膨化した軟骨は軟化している可能性が考えられた。本研究で用いた方法による軟骨の弾性係数測定は高い ICCsを有しており、組織学的所見を予測する低侵襲な評価法として利用可能と考えられる。  （論文審査の結果の要旨） 軟骨変性の評価には肉眼的所見と組織学的検査が用いられるが、前者は客観性に欠け、後者は侵襲的である。本研究はナノインデンテーション法による軟骨変性と弾性係数の関連に着目し、軟骨弾性係数測定法を開発して検討を行った。 人工膝関節患者50膝の骨軟骨切除片の弾性係数(N/mm)を計測した。探触子の押し込み速度は歩行周期同様0.7mm/secとし、解析深度は0.2mmに設定した。同一部位を5回計測し、級内相関係数(ICC)を算出した。肉眼的な軟骨変性は国際軟骨再生学会グレード(グレード0：正常、1：表層損傷、2：1/2 の深さまでの損傷)で評価した。組織学的には骨軟骨切片を染色し、Mankinスコアと軟骨の厚さを評価した。 ICCは0.98と高かった。グレード0の弾性係数は12.2 N/mm、グレード1で6.3 N/mm、グレード2で3.8 N/mmと軟骨変性進行により有意に低下した。また弾性係数はMankinスコアと負の相関（r=-0.51）を示した。弾性係数低下に Mankin スコア悪化が最も寄与、次いで軟骨の厚さ増加が関与し、変性軟骨は膨化・軟化することを示唆した。 これらの結果から、本研究の新しい軟骨弾性係数測定法は組織学的早期軟骨変性を鋭敏に検知可能な評価法と考えられた。 以上の研究は関節軟骨変性と力学的特性の関連解明に貢献し、関節軟骨評価及び治療法選択に寄与するところが多い。   したがって、本論文は博士（ 医学 ）の学位論文として価値あるものと認める。   なお、本学位授与申請者は、令和６年２月７日実施の論文内容とそれに関連した試問を受け、合格と認められたものである。 要旨公開可能日：      年   月   日 以降 

新しい軟骨弾性係数測定法による膝関節軟骨の弾性係数低下は組織学的な早期軟骨変性所見を正確に反映する

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/288620/2/yigak05072.pdf

新しい軟骨弾性係数測定法による膝関節軟骨の弾性係数低下は組織学的な早期軟骨変性所見を正確に反映する

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