早稲田大学博士(工学)早大学位記番号:新9381doctoral thesi

Zubair, Yusuf Olalekan

ズバイル, ユスフ オラレカン

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Waseda University2023/07申　請　者Graduate School of Creative Science and EngineeringYusuf Olalekan ZUBAIRズバイル　ユスフ オラレカンDepartment of Earth Sciences, Resources and Environmental Engineering　Research on Environmental Purification and Resources Processing鉄系機能性吸着材によるヒ素含有廃水処理に関する機構解明ならびに実用化検討博 士 論 文 審 査 報 告 書論　文　題　目Removal of arsenic from wastewater by functional Fe-based adsorbents: mechanism elucidation and practical implicationDoctoral Dissertation Review ReportDissertation Title(Applicant Name) 1 有害なヒ素を含む廃水は，鉱山開発や化石燃料の使用に伴う人為由来のものに加え，地下水や湖沼においてヒ素含有鉱物の化学的風化作用による自然由来のものが知られる。これらの汚染問題は，アジアやアフリカの途上国で広がり，各国でヒ素の汚染水処理技術の導入が進められている。例えば，イオン交換樹脂や浸透膜，ファイトレメディエーションといった効果的な技術が開発されているが，これらの導入にコストがかかることから，地域レベルでの導入は進んでいない。また，ヒ素と親和性の高い元素として鉄 (Fe)が挙げられ，安価なヒ素除去法として水酸化第二鉄 (Fe(OH) 3 )を用いた吸着・共沈法が広く用いられているが，発生する大量の汚泥の管理方法や固液分離性の改善といった課題が残る。このような背景から，本研究ではヒ素除去を目的とした鉄系新規材料として，磁性 Fe ナノ粒子 (Fe-NPs)と Fe-層状複水酸化物 (Fe-LDHs)を開発し，合成物質のヒ素除去特性の評価および具体的な化学反応機構の考察，廃水中に含まれる共存イオンの影響の定量的評価を目的とした実験を行っている。具体的には，水環境中でメジャーな化学形態となるヒ酸 (H 3As(V)O 4 )，亜ヒ酸 (H 3As(III)O 3 )を含む模擬廃水を用いた除去実験を行い，ヒ素の吸着挙動の速度論解析による各物質の除去性能の評価，反応固体試料の表面性状解析による固液界面で生じる具体的な化学反応機構の評価を行っている。  本論文は 6 章で構成されており，第 1 章では，緒言として本研究における社会的背景および目的を明らかにしている。ヒ素汚染水の分布が南アジア地域のヒマラヤ山脈に沿って集中しており，その地域におけるヒ素の濃度分布，ヒ素含有鉱物の化学的風化作用と水質形成機構の関係について説明されている。このような自然由来のヒ素汚染が全体事例の 45%を占めるほか，鉱山開発起源のものが 30%と人為由来汚染の割合も高いことを説明している。鉱山廃水のような低溶存酸素環境では，ヒ素の大部分は 3 価の亜ヒ酸として存在し，第一鉄イオンの酸化を目的とした曝気操作などにより，亜ヒ酸は除去にヒ酸へと酸化される。このように，ヒ素の異なる存在形態が予測されることを踏まえ，それぞれについて効果的な除去技術や具体的な化学反応機構について説明している。その中でも多様な Fe 系材料のヒ素吸着容量が，廃水処理技術で多く利用される活性炭やギブサイト(Al(OH) 3 )と比較して 10～ 20 倍以上も高いことが示されており，本研究で Fe-NPsと Fe-LDHs を用いる科学的根拠について説明している。  第 2 章では，まず Fe-NPs の新規合成法について示している。新規合成法では，チオ硫酸ナトリウムを還元剤として用いることで 0 価鉄 (ZVI,  Zero Valent Iron)と磁鉄鉱 (Fe 3O 4 )による不均化構造を持たせることで，吸着態ヒ素の安定化と磁性の向上させている。その結果，亜ヒ酸およびヒ酸の最大吸着容量はそれぞれ 47.5 mg/g および 75.2 mg/g となり， Fe 3O 4 単体の場合と比べて 3～ 5 倍程度向上すると説明している。また，合成した Fe-NPs は高い磁性を保持しており，磁石による固液分離が可能であることも示している。ヒ素溶液と反応後の Fe-NPs の表面化学性状を X 線光電子分光 (XPS)および X 線吸収微細構造 (XAFS)を用いて分析 2 し，亜ヒ酸と反応させた Fe-NPs 表面で，酸化反応によりヒ酸が単核単座の内圏錯体を形成して安定化する反応機構を示している。また，ヒ酸と反応させた場合は Fe-NPs 表面に存在する第二鉄による還元反応が生じ，亜ヒ酸が二核二座の内圏錯体として安定化すると説明している。この結果より， Fe-NPs がヒ素の酸化剤・還元剤いずれの役割も担い，ヒ素の存在形態によらず Fe-NPs 表面で化学的に安定化されることが示されている。  第 3 章では，Fe-LDH の新規合成法として，マグネシウム (Mg)およびカルシウム (Ca)を用いた方法に加え，有機物のコハク酸 (SA)を用いることで Fe-LDH の低結晶化 (比表面積増加 )が可能かどうか検討している。亜ヒ酸およびヒ酸の最大吸着容量は MgFe-LDH で 80～ 116 mg/g， SA/Mg-LDH で 102～ 180 mg/g，CaFe-LDH では 180～ 337 mg/g となり，Fe-NPs と比較して 2 倍以上高い値となることが示された。ヒ素溶液と反応後の Fe-LDH 試料を XPS，XAFS および粉末 X 線回折 (XRD)で測定し，各 LDH がヒ素を初期的にイオン交換反応により層間に取り込み，より化学的に安定な内圏錯体へと徐々に変化する化学反応機構について整理している。その際， Fe-LDH 表面ではヒ素の価数変化は確認されず，酸化還元反応に寄与する Fe-NPs とは異なる化学反応プロセスでヒ素除去が生じていることが示された。  第 4 章では，新規合成した Fe-NPs および Fe-LDH によるヒ素除去における，塩化物 (Cl - )，硫酸 (SO 4 2 - )，重炭酸 (HCO 3 - )，リン酸 (PO 4 3 - )，ケイ酸 (SiO 3 2 - )等の陰イオンやアルミニウム (Al 3 + )，亜鉛 (Zn 2 + )などの陽イオンの共存影響について評価している。Fe-NPs については PO 4 3 -がヒ酸および亜ヒ酸の吸着反応を妨害し，収着量が最大で半分程度まで減少することを確認している。これは，他の Fe 系吸着剤でみられる現象と同じであるが， Ca 2 +を廃水に余剰添加することで Fe-As-Ca-As 錯体を生成させ阻害影響を抑制できることを明らかとしている。また，Fe-LDH については，Al 3 +に阻害効果を確認している。  第 5 章では，開発した吸着剤の実際の利用を見据え，吸着態ヒ素の化学安定性および再溶出可否の評価，吸着剤の再利用の可能性について示している。ヒ素を含む模擬廃水と反応後の Fe-NPs および Fe-LDH 各種を，国際基準となる米国環境保護庁 (USEPA)の毒性特性浸出手順 (TCLP)に基づき溶出試験を実施している。その結果，ヒ酸，亜ヒ酸ともに Fe-NPs および Fe-LDH 各種からの再溶出は確認しなかった。比較物質として用いた針鉄鉱 (FeOOH)，Al(OH) 3 では基準値以上の亜ヒ酸の再溶出が認められたことから，同じ Fe 系吸着剤のなかでも Fe-NPs，Fe-LDH への吸着態ヒ素の化学的安定性が高いことを示している。また，長期的な化学安定性を評価する目的で，各吸着剤からのヒ素再溶出量を速度論解析したところ，いずれの物質でも亜ヒ酸の再溶出が確認され，その溶出速度は SA/MgFe-LDH > MgFe-LDH > CaFe-LDH > Fe-NPs であると示している。この結果から，イオン交換を主な除去機構とする LDH は，吸着容量が大きい一方で，形成されたヒ素の表面錯体の長期的安定性は Fe-NPs で著しく高いことが示された。すなわち， 3 単なるイオン交換や表面錯体のみならず， Fe-NPs のように固体表面で酸化還元反応を介した内圏錯体を形成することで長期的安定性が担保されることを説明している。さらに， Fe-NPs は 0.1 M 水酸化ナトリウム水溶液で 6 時間反応さえることでヒ素を完全に再溶出させ，吸着剤として再利用できる可能性を示している。その際，同様の処理を 4 回程度繰り返しても吸着容量は数%の減少であることから， Fe-NPs は吸着剤自体の化学安定性も高く，リサイクル可能な物質として廃水処理へ応用可能であると説明している。  第 6 章では、以上の内容を総括し、本研究の結論、成果について述べている。上述の通り本論文は，ヒ素含有廃水の処理技術に用いる Fe 系吸着剤を新規に開発し，その有用性について比較している。特に，磁性を持つ Fe-NPs は固液分離性に優れ，固液界面で生じるヒ素の酸化還元反応により化学的安定性の高い内圏錯体を形成し，処理後も長期的安定化が望まれることを示している。また，実際の廃水中に含まれる陰イオンの影響を定量的に評価することで，実際の廃水に応用した際の吸着効果の変化や，適用可能な廃水水質の予測，水質に応じた適切な添加量の予測に役立つ結果を示している。  以上のように本研究では，世界的な課題であるヒ素含有廃水の高度処理に対して，磁性 Fe ナノ粒子と Fe-層状複水酸化物という新規性の高い処理材を開発し，当該材料の高いヒ素処理特性のみならず，共存イオンに対するヒ素処理選択性や，固液分離性，再溶出抑制の点でも優位であることを，その詳細な機構解明とともに示している。本研究で明らかにした結果は，廃水中のヒ素除去プロセスにおいて新たな技術を確立する重要な基礎情報であり，途上国など高額な処理設備の導入が難しい地域での実用化に向けて大きく貢献し得るものである。  よって本論文は、博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。   2023 年 7 月  審査員  (主査 )  早稲田大学理工学術院教授     博士 (工学 ) (東京大学 )      所千晴                 早稲田大学理工学術院教授     工学博士 (早稲田大学 )     大和田秀二                 早稲田大学理工学術院教授     博士 (工学 ) (東北大学 )      山口勉功                 東京海洋大学学術研究院准教授  博士 (理学 ) (大阪市立大学 )  淵田茂司                

Removal of arsenic from wastewater by functional Fe-based adsorbents: mechanism elucidation and practical implication

https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/2000685/files/Shinsa-9381.pdf

Removal of arsenic from wastewater by functional Fe-based adsorbents: mechanism elucidation and practical implication

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