男性高齢者の食事支援プログラムの実施による学びと効果を検証する。「通いの場」の男性高齢者が毎日の食生活に生かすことができるような食事支援プログラムを作成した。その食事支援プログラムの開始後，第 2 回の実施を振り返り検討した。結果，食事支援プログラムの講義と演習を行い，自身の食事生活を振り返ることからの気づきやグループで話し合い共に作成することで，仲間同士の連帯感が生まれていた。journal articl

ANDO, Junko

KUBO, Ayumi

MATSUDA, Takemi

SUZUKI, Hideyo

久保, あゆみ

安藤, 純子

松田, 武美

鈴木, 英予

Japanese

Kinjo Gakuin University Repository / 金城学院大学リポジトリ

― 12 ―男性高齢者の「通いの場」における食事支援プログラムからの学びと効果Learning and effect from meal support program in"community venues" of elderly men松　田　武　美 1　　　鈴　木　英　予 2　　　　　　　　 Takemi MATSUDA　　　　　  Hideyo SUZUKI久　保　あゆみ 1　　　安　藤　純　子 3 　　　　　　　         Ayumi KUBO　　　　　          Junko ANDO要　旨男性高齢者の食事支援プログラムの実施による学びと効果を検証する。「通いの場」の男性高齢者が毎日の食生活に生かすことができるような食事支援プログラムを作成した。その食事支援プログラムの開始後，第 2回の実施を振り返り検討した。結果，食事支援プログラムの講義と演習を行い，自身の食事生活を振り返ることからの気づきやグループで話し合い共に作成することで，仲間同士の連帯感が生まれていた。カテゴリー：男性高齢者，「通いの場」，食事支援1金城学院大学2  各務原市地域包括支援センターフェニックス・ かかみ野3名古屋学芸大学― 13 ―男性高齢者の「通いの場」における食事支援プログラムからの学びと効果（松田武美ほか）Ⅰ．概要わが国の高齢化率は，人口の28.9％（2021調査）を占めており，高齢化や単独世帯の増加と社会的孤独といった課題がある（内閣府，2022）。令和 2年国勢調査人口等基本集計の結果から，65歳以上人口の単独世帯（一人暮らし）の人口は平成22年の479万 1 千人から令和 2年671万 7 千人（65歳以上人口に占める割合は16.4％から19.0％）と増加している。男女別にみると，女性の単独世帯人口（％）は，平成22年340万 5 千人（20.3％）から440万 9 千人（22.1％）であった。男性の単独世帯人口（％）は，平成22年138万 6 千人（11.1 ％）から，令和 2 年230万 8 千人（15.0％）となり，男性の単独世帯人口が増加している。現在，65歳以上の男性の 7人に1 人が一人暮らしとなっている（総務省，2021）。今日，人と地域社会とのつながりを作り，地域での居場所として「通いの場」の活動がある。この活動は，住民主体で展開する「通いの場」に在宅高齢者が参加することで健康を維持し介護予防につながると期待している（厚生労働省，2015）。「通いの場」の特徴は，幅広い年齢層の近隣住民同士が交流できることである。しかし，地域における「通いの場」の活動では，「男性の参加が少ない」という課題が挙がっている（杉浦，白井，早川，2015；白瀬，泉田，2016）。男性高齢者については，本研究の地域の中でも同様の課題があった。そのため，男性が参加しやすいことを考えた男性特化型高齢者の「通いの場」を開設した。その中で参加者との食事における交流会から，独居男性高齢者や妻が不在の高齢者がバランスを考えた食事をしていないことがわかった。独居男性高齢者を調査した先行研究からも「食事内容が偏っている」「家事を一人でするのが苦労である」や「栄養のバランスがとれていない」「調理が十分にできない」という課題があった（河野ら，2009；鈴木，2018）。そのために男性高齢者が毎日の食生活に生かすことができるような食事内容を考えることができるプログラムを実施した。プログラムは， 2 - 3 か月に一度，高齢者の「通いの場」で実施した。開始後から第 2回実施後の振り返りから報告する。Ⅱ．目的男性高齢者の食事支援プログラムの実施による学びと効果を検証することである。Ⅲ．方法研究対象は，「通いの場」に参加の男性高齢者である。実施方法は，「通いの場」の行事として福祉センターで実施した。研究内容は， 2 - 3 か月毎に一度の食に対する講義と実施後のアンケート調査である。講義内容は，看護教員と保健師で検討し，高齢者にとって必要な講義内容や順序性を考えた（表1）。今回の研究では，第 1回目「食事（栄養素）について考えよう」，第 2回目「丈夫な骨をつくろう」の講義と演習後に高齢者からの意見を確認した（表 4）。講義実施は，看護教員と保健師などで行い，時間は 1時間程度を予定した。参加者は 6 - 7 名程度のグループで着席した。講義を聴講した後，参加型を意識し，各グループで内容にそった演習を考え，試食も入れて最後に発表とした。終了後に同意を得た参加者から，自記式質問紙に自由記述で感想を記載とした。倫理的配慮：研究参加者に対しては，研究開始前に目的と方法などを説明し同意を得て実施した。研究実施場所の責任者においても事前に書面で同意を得て調査した。中部学院大学・中部学院大学短期大学部倫理審査委員会（E-18 -0014）の了解を得て実施した。金城学院大学論集　自然科学編　第19巻第 2号― 14 ―2023年 3 月分析：男性高齢者の食事支援プログラムの実施内容と方法を振り返る。自記式質問紙調査の自由記述は，その内容を意味が違わないように気を付け，似通った回答内容は，まとめ記載した。記載内容は，意味内容の類似性により分類しカテゴリー化を行った。表１．食事支援プログラムの内容題名 試食第 1回 食事（栄養素）について考えよう 弁当第 2回 丈夫な骨を作ろう 牛乳第 3回 塩分について考えよう 豆腐第 4回 中性脂肪って何？ サラダ第 5回 酢の効果 酢Ⅳ．結果第 1回目17人，第 2回目20人の男性の参加者であり，平均年齢は75.1±6.4歳であった。独居高齢者は， 1回目 3 人（17.6％）， 2 回目 4人（19.0％）であり，全国のデータと同様の結果であった。グループワークでは，どのグループも課題の達成のために一人一人が協力し作成していた。第 1回目（表 2）は，「食事（栄養素）について考えよう」という題目で実施した。講義時間は，60分のうち20分を使い，講義の中では栄養素の意味とバランスよくとることが大切であることを説明した。次に，グループでの演習を行った。その内容は，「各栄養素をグループで考えよう」（20分）普段食べている食品を栄養素別に分類し，バランスの良いメニューを検討した。その後，実際に作成した内容の発表を行った。同時にいつも食べている食品の栄養素について質問もあった。最後に講義内容にちなんだ試食の時間を設けた。バランスの良いお弁当を見せて説明した後，試食を行った。実際にバランスの良いメニューを見ることで「まだまだだと感じた」など一人暮らしではない高齢者からの発言もあった。第 2回目（表 3）は，「丈夫な骨を作ろう」と骨折予防に向けた内容で講義を行った（20分）。骨折予防，カルシウムを効果的にとるためにどうしたらよいかを考えるための演習では，まず，個人ワークの時間を設けて食品バランス表に， 1日に食べたものに〇をつけてもらいカルシウムをとっているかを確認した。次にグループワークで，「カルシウムをとっているか，色々な食品からカルシウムがとれる食卓をどのように並べるか」を考え作成した。実際の写真を各グループに複数セットして組み合わせを考えた。出来上がったら，考えた食卓の内容を発表してもらった。その後，骨折予防の体操を行った。手軽に栄養とカルシウムをとるために生協の協力で「乳製品のとりかた」について説明があり，実際の乳製品（カルシウム）の試食を行った。実施後のアンケート調査を行った結果は，「今までの振り返りから」「講義からの学び」「要望」の 3カテゴリーとなった（表 4）。『今までの振り返りから』では，「食事は日常的に気を付けていたがまだまだと気付いた」「食生活を考え直そうと思った」「食事の取り方や栄養摂取について妻に頼っていたが色々考えてくれていると思った」であり，『講義からの学び』では，「色々な食物を教えていただいて大変良かった。色々な野菜の名前がわからないので絵で示されるのは良い」「食生活について改善すべき点が多々あると思います」などであった。さらに，今回の講義と演習からの『要望』では，「一人暮らしは難しい。簡単に食することができるものを知りたい」「男性没一選抜の食事クラブを立ち上げたい」「今後も続けてほしい」などの食事支援を求める意見があった。― 15 ―男性高齢者の「通いの場」における食事支援プログラムからの学びと効果（松田武美ほか）2 ．食事支援プログラムのアンケート調査からの検討食事支援プログラム第 2回終了後のアンケートからは，自身の食事生活を振り返ることからの気づきや日々共に生活し支えてくれている妻への感謝の気持ちも振り返ることができていた。友竹ら（2020）の高齢者健康教室の介入後に食に関する意識得点に有意な効果がみられていた。定期的な食事支援プログラムを実施して意識を高めてもらうことは，バランス良く栄養を取ることへつながる重要な機会であると考える。生天目ら（2018）の配偶者と死別したひとり暮らし男性高齢者が食を通した交流へ参加したきっかけと継続しⅤ．考察1．食事支援プログラムの内容の検討男性高齢者が毎日の食生活に生かすことができるような食事支援プログラムを高齢者にとって必要な内容で作成し実施した。そのプログラムの開始後第 2回の内容を振り返り検討した。その結果，食事支援プログラムの講義と演習を行うことは，講義で聞きその内容を生かしてグループの仲間と共に一つの表を話し合い作成し，その中で仲間づくりの連帯感が生まれていた。講義形式の一方向だけの学びではなく，自分たちで考え話し合うといった共同作業をすることで，より深い学習の効果が得られたのではないかと考える。表２．プログラムの内容：１回目時間 内容 詳細20分 講義： 「食事（栄養素）について考えよう」各栄養素の意味とバランスよく食事をとることの必要性など20分 演習： 「各栄養素をグループで考えよう」各グループに分かれてグループワーク『普段食べている食品を栄養素別に分ける』　まとめ 実際に作成した内容の発表と質問タイム20分 試食： 「おいしくバランスの良い食べ方」実際のお弁当を見せてもらい学び，試食タイム．談話．表３．プログラムの内容：2回目時間 内容 詳細20分 講義：「丈夫な骨を作ろう」 骨折予防，カルシウムを効果的にとるためにどうしたらよいか．30分 演習： 「カルシウムをとっているか」個人ワーク『カルシウム表を使って 1日に食べたものに〇をつける．グループワーク『カルシウムをとっているか，色々な食品からカルシウムがとれる食卓作成』　まとめ 実際に作成した食卓の内容（絵）を発表．体操など20分 試食：「乳製品のとりかた」 乳製品を見せてもらい学び，取り方と試食タイム．談話．金城学院大学論集　自然科学編　第19巻第 2号― 16 ―2023年 3 月ていくプロセスから，参加を続けることで，食事と人の温もりによる癒しにより，ひとり暮らしを支える助けになっていた。交流会へ参加し，人との交流が拡大することはひとりの生活を支える一助となっていた。本研究でも高齢者は，参加することからの連帯感や仲間同士の信頼関係も築けていた。男性独居高齢者にとって 1日 3回の食事を考えて食べることは，大変なことである。地域の「通いの場」に男性高齢者が集まり，協働で一つのことを行うことで連帯感を感じ「クラブを立ち上げたい」という次への意欲と繋がっていった。この学びを実際の生活の中にどのように生かすことができたかについては，今後の課題である。以上のことから，高齢者サロンにおける男性高齢者のための食事支援プログラムは，今後も継続していく必要があることが示唆された。しかし，このプログラムが住民主体で，産官学民で軌道にのってきたところで，コロナウイルス感染症の流行となり，食事に関する内容については中止せざるをえなくなった。今後は，コロナウイルス感染状況を確認し，男性高齢者の食事支援の方法について「通いの場」で高齢者の意向を確認しながら，住民が主体となって継続していけるようなサポートを行っていきたい。表４．参加者の意見今までの振り返りから・食事は，日常的に気をつけていたが，まだまだと気付いた。・一人生活のため食事は自分の好きなものが多い。・ 食事の取り方や栄養摂取についてを妻に頼っていたが，色々考えてくれていると思った。・食生活を考え直そうと思った。・ 子供の頃から牛乳嫌いでした。味がなんとも言えない記憶がありました。今日飲んだ牛乳は飲みやすく抵抗なく飲めました。　今日の大きな収穫です。少しずつ飲む習慣を作っていきたいと思いました。講義からの学び・今まで骨に関する話を聞いたことがなかったので大変勉強になった。・教員ｍのお話と資料良く理解できました。・ 色々な食物を教えていただいて大変良かった。色々な野菜の名前がわからないので買い物に行ってもわからない。　絵で示されるのは良い。・コープさんのおかげで骨を強くする勉強ができました。ありがとうございます。・非常に勉強になった。いかにカルシウムを摂取していなかったかがよくわかった。・わかりやすい説明で改めてビタミン・カルシウムの必要性大切さを理解することができた。・食生活について改善すべき点が多々あると思います。・ 大変わかりやすく参考になりました。血液さらさらにする薬を服用していると納豆を食べてはいけないことを知らなかった。　生協の牛乳は20年くらい飲んでいる。・骨粗鬆症にならないように①食事②運動③日光浴とチーズを食べます。・強い骨になるために運動，日光浴，食事ともう一つ体内に入れてから骨に届ける血流をよくする。・夕食はお弁当をとっている。要望・一人暮らしは難しい。簡単に食することができるものを知りたい。・ カルシウムなどその他のことを考えて食事を考えたい。費用が少なく，量が多くならない方法も考えながら教えてほしい。・男性没一選抜の食事クラブを立ち上げたい。・ 毎月 1回，生協と教員ｍとの講義をセットした学びのコースをやってほしい。今日の内容とても良かったです。・この会に参加する人を増やす方法を何か考えられると良いと思います。・男のみでは野菜などは名前を示されてもわからない。野菜のみの絵で示してもらうとよい。・今後も定期的に栄養学の講義をお願いしたい。今後も続けてほしい。― 17 ―男性高齢者の「通いの場」における食事支援プログラムからの学びと効果（松田武美ほか）本研究にご協力いただきました「通いの場」に参加の男性高齢者の皆さま，地域包括支援センターの職員のみなさまに心より感謝いたします。高齢者の食事の支援への多大なるご協力をしていただきました生活協同組合錦見泰浩氏には心より感謝いたします。本研究の一部は，第24回日本老年看護学会学術集会において発表しました。【文献】1 ）内閣府：令和 4年版高齢社会白書（全体版）．https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf（2022年 9 月30日閲覧）2）総務省統計局：令和 2年国税調査人口等基本集計結果，2021.11.30．https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/outline_01.pdf（2022年 9月30日閲覧）3）厚生労働省 老健局老人保健課：地域づくりによる介護予防を推進するための手引き（地域展開編），平成27年（2015）．4）杉浦正士，白井義男，早川富博：「いきいき生活支援事業」報告―外出目的創出を目指した「生き甲斐」づくり事業の取り組み，日本農村医学会雑誌，64（2），180-186（2015）．5）白瀬由美香，泉田信行：高齢者ふれあいサロンへの参加と外出行動―サロン参加者・非参加者の比較―，厚生の指標，63（15），14-19（2016）．6）河野あゆみ，田髙悦子，岡本双美子，他：大都市に住む一人暮らし男性高齢者のセルフケアを確立するための課題 高層住宅地域と近郊農村地域間の質的分析，日本公衆衛生雑誌，56（9），662-673（2009）．7）鈴木直子：就業している独居高年齢者における日常生活に関する意識の特性，厚生の指標，65（7），39-44（2018）．8）友竹浩之，安富和子，富口由紀子，他：高齢者健康教室における咀嚼，栄養，運動指導の効果，日本栄養・食糧学会誌，73（5），207-213（2020）．9）生天目禎子，水野敏子，坂井志麻：配偶者と死別したひとり暮らしの男性高齢者が食を通じた交流へ参加したきっかけと継続していくプロセス，日本在宅ケア学会誌，22（1），74-81（2018）

Learning and effect from meal support program in "community venues" of elderly men

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