Tohoku University博士（工学）要約のみthesi

Ikami, Tsubasa

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Tohoku University Repository (TOUR) / 東北大学機関リポジトリ

論文内容要約 この論文では，カーボンナノチューブ感温塗料（carbon nanotube Temperature-Sensitive Paint, cntTSP）と呼ばれる流体計測技術を，低速流れにおける運動する物体表面の非定常流れ場計測技術として確立することを目的として，新たな調合のcntTSPの開発およびその評価を行い，実際の非定常流れ場計測へ適用することでその有用性を示している． 低レイノルズ数で飛行する航空機は，物流や観測など社会のさまざまな分野で利用され始めている．低レイノルズ数における翼の空力特性や流れ場は，高レイノルズ数とは大きく異なり，多くの調査がなされている．低レイノルズ数流れを実験的に再現するためには，低速流れで実験を行うことが最も単純な方法の一つであり，空力特性改善の指針を得るためには，その流れ場を計測し理解することが重要である．加えて，低レイノルズ数航空機の多くは，高い推力や揚力を得るために，ピッチング，回転，羽ばたきなどの運動する翼を使用する．したがって，低レイノルズ数航空機の研究開発において流れ場の計測は重要な役割を果たし，低速流れにおいて運動する物体周りの計測が可能であることが望まれている．ただし，運動する物体周りの流れ場は，非定常性と複雑な空間構造を有している．そのため，高い時空間分解能もまた求められている．そこで本研究では，機能性分子センサである感温塗料（Temperature-Sensitive-Paint, TSP）とカーボンナノチューブ（carbon nanotube, CNT）の薄膜加熱層を組み合わせた温度計測技術であるcntTSPに着目した．cntTSPは，温度センサとしての役割を持つTSP層と，TSPの発光を反射するスクリーン層，TSP層を加熱するCNT層の3層で構成され，全ての層はスプレーで塗装することによって模型に適用できる．CNTは高い電気伝導性を持ち，CNT層に電圧を印加することで発熱する．cntTSP計測の特徴として加熱システムを簡素化し模型表面で発熱するため，運動する模型であっても継続的に均一に加熱することが可能である．さらに，TSP の計測に高速度ビデオカメラを用いることで高い空間分解能と時間分解能で計測することができる．これらの背景から本研究では，低速流れにおいて運動する物体の非定常流れ場の計測に cntTSPを用いることを提案し，その開発と評価を行った． この論文は5章からなり，第1章では，これらの研究背景を述べている． 第2章では，低速流れの非定常計測のための新たな調合のcntTSPを開発した．これまでのcntTSPは主に低温風洞での境界層遷移計測を目的としては開発されており，本研究とは異なる流れ場で使用することが想定されていた．また，先行研究では，TSP 層の特性に対してその調合が与える影響を調査するためのパラメトリックスタディは行われているが，CNT           いかみ つばさ 氏 名          伊 神 翼 研究科，専攻の名称 東北大学大学院工学研究科（博士課程）航空宇宙工学専攻 学 位 論 文 題 目          Unsteady Flow Field Measurement in Low-Speed Conditions using carbon nanotube Temperature-Sensitive Paint （低速におけるカーボンナノチューブ感温塗料を用いた非定常流れ場計測） 論 文 審 査 委 員          主査 東北大学教授 永井 大樹 東北大学教授 大林 茂              東北大学准教授 野々村 拓 准教授 坂上 博隆                               （University of Notre Dame） 層の調合に着目した研究は行われていない．cntTSP の調合では，層間の接触熱抵抗を削減するために，同じ種類のポリマをバインダとして共通に使用する必要がある．そこで，ポリアクリル酸（polyacrylic acid, PAA）またはポリメチルメタクリル酸メチル（polymethyl methacrylate, PMMA）をバインダに使用した TSP 層および CNT 層を開発し，ポリマの種類の選択がTSP 層と CNT 層の特性に与える影響を調査した．TSP 層の色素分子には，非定常計測を行うために発光寿命の短いRuthenium(II)-tris-(1,10-phenanthroline)（Ru-phen）を採用した．その結果，PAA をポリマバインダに使用した調合では，調査した 5℃ - 50℃の広い温度範囲において，較正曲線は良い線形性を示した．一方，PMMA をポリマバインダに用いたTSP では，溶媒にトルエンを用いた場合，較正曲線は室温付近で強い非直線性を示した．しかし，溶媒にジクロロメタンを用いた場合，その非線形性は緩和され，さらに色素濃度を 100 mg/gまで低減することで線形性が向上することを明らかにした．次に，CNT層に関して，PMMAをポリマバインダに使用したCNT層の方が PAAを使用したものと比べて電気抵抗率が低く，表面粗さは低下した．さらに，走査電子顕微鏡による表面の観察により，ポリマの種類の違いにより CNT 層の構造に違いが生じていることが明らかになった．PAAベースのCNT層では，CNTやポリマが凝集し大きな塊を形成していた．したがって，表面粗さが大きくなり，またCNT同士の接触面積が小さくなることで電気抵抗率が大きくなった．一方，PMMAベースの CNT層では，凝集が少なく，表面が平滑になり電気抵抗率は小さくなった．CNT層は電気抵抗率が高いほど膜厚を削減することができ，表面が平滑であるほど表面流れとの干渉が小さくなる．したがって，PMMA をポリマバインダに使用したCNT層の方が優れた特性を有していると評価できる．これらの調査により，調合が TSP層およびCNT層の特性に与える影響が明らかになった．本章で得られた知見によると，低速流れにおける非定常計測用の cntTSP のポリマバインダには PMMAが適していると言える．これは，PMMAベースのCNT層では膜厚を削減し表面を平滑にできるためである．また，PMMAをポリマバインダに用いる場合，溶媒にジクロロメタンを使用することでTSP の較正曲線の非線形性を抑制できることから，溶媒にはジクロロメタンを採用することとした．なお以降の章では，ポリマに PMMA，溶媒にジクロロメタンを用いた cntTSPを使用した． 第 3章では，2章で開発した cntTSPに対して，低速流れでの非定常 cntTSP計測の周波数特性を評価した．TSP計測では，これまでの研究で極超音速風洞での空力加熱計測に向けた時間応答の調査が行われてきた．しかし，本研究が対象とする低速流れでの非定常計測では，cntTSP 層は空力加熱計測とは異なる境界条件に曝される．低速流れでは空力加熱は発生しないが，CNT 層で生じた熱と表面流れによる対流熱伝達より，模型表面と主流との間で熱交換が発生する．また，そのときの熱伝達率は表面摩擦に関係し，流れ場の変化により表面摩擦も変化する．そのため，流れ場の周期的な変化に対する cntTSP計測の周波数特性を把握しておくことは，非定常 cntTSP計測を行う上で重要となる．そこで，3章ではまず，低速流れにおける cntTSP 計測の周波数特性を実験的に評価する手法を確立した．実験は低速風洞で行った．風洞測定部に平板を設置し，平板境界層にラウドスピーカを用いて局所擾乱を導入した．このとき，擾乱を間欠的に導入することで，所望の周波数での流れ場の変化を発生させた．そして，間欠的な擾乱によって生じた温度変化をTSPにより取得することで， cntTSP 計測の周波数特性を評価した．その結果，温度変化の振幅は，間欠擾乱の導入周波数に対して，両対数グラフ上で線形的に減少し，その傾きは，周波数 10倍に対して温度振幅は 0.36倍となることがわかった．この結果は，高い周波数の現象を計測するためには，非常に小さな温度変動を評価する必要があることを示唆している．具体的には，本実験では25 Hzで0.0082 Kの温度振幅が得られている．したがって，より高い周波数の現象を計測するためには，高周波数領域における温度振幅の減少を抑制する，あるいは全周波数領域で温度振幅そのものを増加させ，周波数特性を改善する必要がある．そこで，風洞実験にもとづいた 1 次元非定常熱伝達モデルを構築し，各実験パラメータがcntTSP計測の周波数特性に与える影響を調査することで，周波数特性が改善するための条件を明らかにした．その結果，TSP 層の熱容量を小さくすることで周波数特性が改善し，温度振幅が大きくなった．また，cntTSP を塗装する基板の熱拡散率が高い場合は，高周波数域での温度振幅の減衰は抑制できるが，全周波数域で温度振幅自身は小さくなることがわかった．さらに，CNT 層の熱入力を大きくすると高周波数域での温度振幅の減衰割合は変わらないが，全周波数域で温度振幅が大きくなることがわかった．つまり，これらの結果はcntTSPを塗装する基板に熱拡散率が高い材料を採用し，CNT層での熱入力を大きくすることで，高周波数領域での温度振幅の減衰を抑制し，全周波数で十分な温度振幅を得られることを示している． 第4章では，実際に運動する物体の非定常流れ場の計測にcntTSPを適用し，そのときの流れ場について考察した．本章では，運動中の翼の代表例として低レイノルズ数回転翼を用いた．感圧塗料や感温塗料を用いた回転翼の流れ場の計測の例は，これまでに多く報告されている．しかし，低レイノルズ数流れを想定したものは少なく，回転速度や翼端速度が高い実験を行ったものがほとんどである．本研究では，回転数 500 rpm，翼端速度 7.2 m/s の低速条件で，定常であるホバリング状態と非定常性を伴う前進飛行状態のブレード表面流れを可視化し，その流れ場構造を明らかにした．まず，ホバリング状態では，ピッチ角 0°での温度分布は，室温からの温度上昇 ΔT はブレード前縁から後縁にかけて増加した．この温度分布は，前縁から後縁にかけて境界層が発達したことで，後縁ほど表面摩擦が小さくなったことに対応しており，ブレード全体にわたって流れは付着していたことを表している．一方，ピッチ角が大きくなると異なる温度分布が現れ，翼端側の前縁に高い ΔT領域が出現した．この高 ΔT領域は，前縁剥離によって生じた死水領域を表している．さらに，高 ΔT領域の後方でコード長中心付近には低ΔT領域も現れた．この低ΔT領域は，再付着による高い表面摩擦によって形成される．つまり，前縁剥離と再付着を伴った流れになっており，前縁剥離渦が形成されていることが明らかとなった．さらにピッチ角が大きくなると，前縁剥離渦が生じる領域が翼根方向へ拡大した．特にピッチ角 15°では，前縁剥離渦の副次的な構造も現れた．また，ピッチ角 20°以上の高ピッチ角でも，ブレード全体に前縁剥離渦が形成されており，その空間分布は翼端ほど渦構造が拡大する円錐形状であることを明らかにした．一方で，ホバリング状態の計測では，計測時間が長く，計測中に色素劣化が生じ，計測される温度がオフセットしており，色素劣化が計測上の課題となることが明らかになった．次に，前進飛行状態では，ブレードの1回転に同期した温度変化が生じていた．この温度変化は，前進飛行での流れ場の性質によって有効迎角の周期的な変化により，前縁剥離渦の強さと規模が周期的に変化していることを表していた．具体的には，ブレードが後退側から前進側に移動するアジマス角では，有効迎角が大きくなり，前縁剥離渦の規模は増大した．一方，ブレードが前進側から後退側に移動するアジマス角では，有効迎角が小さくなり，前縁剥離渦の規模は減少していることを解明した． 第 5章は結論であり，本論文で得られた知見をまとめ，今後の課題を述べている．本研究で開発した cntTSPの課題として，色素劣化の影響が挙げられる．色素劣化の影響を抑えるには，TSP の調合の更なる改良や，寿命法を用いた計測を行うといった計測上の改善も必要である．  

低速におけるカーボンナノチューブ感温塗料を用いた非定常流れ場計測

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低速におけるカーボンナノチューブ感温塗料を用いた非定常流れ場計測

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