日本医科大学博士（医学）2022doctoral thesi

ハヤシ, トシユキ

林, 俊行

English

Nippon Medical School: NMS Air (Academic Institutional Repository) / 日本医科大学 機関リポジトリ

論文内容の要旨  Sustained atrial fibrillation is related to a higher severity of stroke in patients taking direct oral anticoagulants  （訳）直接経口抗凝固薬服用下で発症した脳梗塞患者では持続性心房細動と重症度が関連する  背景・目的 心房細動(Atrial fibrillation, AF)は臨床的に一般的な不整脈であり、脳梗塞の主要な危険因子である。直接経口抗凝固薬（Direct oral anticoagulants, DOAC）は、ビタミン K 拮抗薬と同等の効果があり、頭蓋内出血のリスクも低く、最近のガイドラインでは、AF 患者における塞栓症予防の第一選択薬として DOAC が推奨されている。AF は、発作性、持続性、永続性に分類される。抗凝固薬内服中の発作性 AF と持続性または永続性 AF の患者が脳梗塞を発症した場合の重症度の差異について結果は一致していない。また、既報の殆どは、ビタミン K拮抗薬と DOAC の両者が混在した解析であり、DOAC 投与中の患者に絞って解析し報告は非常に限られている。PASTA 研究は、2016 年 4 月から 2019 年 9 月にかけて、日本の 25 医療機関における経口抗凝固薬投与中に発症した脳卒中患者 1043 人の多施設前向き観察研究である。本研究では、PASTA レジストリを用いて、DOAC 内服中に発症した前方循環系脳梗塞の重症度や閉塞血管と AF の種類との関連を明らかにすることを目的とした。  方法 PASTA レジストリの登録患者 1043 人のうち、脳出血患者（n＝216）と AF を持たない患者（n＝112）は除外した。以前の研究で、前方循環系脳梗塞は後方循環系脳梗塞よりも閉塞血管部位と強く関連したことが示されており、後方循環系脳梗塞の患者（n = 222）を除外した。最後にビタミン K 拮抗薬を服用している患者（n＝193）を除外した。発作性 AF は 7 日以内に自己収束する AF と定義し、持続性 AF は 7 日以上持続する AF と定義した。性別、年齢、発症前の modified Rankin scale（mRS）スコア、および各種心血管リスク因子をデータ抽出した。重症脳梗塞は、過去の報告に基づき、入院時の National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS)スコア> 20 と定義した。統計解析法として、まず発作性 AF と持続性 AF の臨床的特徴を比較した。次に重症脳梗塞と非重症脳梗塞(NIHSS スコア 20 点以下)の２群間の臨床的特徴を比較した。年齢、性別、入院前の mRS、単変量解析で p 値＜0.05 の因子を多変量ロジスティック回帰モデルに入力し、重症脳梗塞と独立して関連する因子を同定した。  結果 脳梗塞患者 300 人を解析対象とした（女性 119 人［40％］、年齢中央値 79［interquartile range (IQR)、73-85］歳、NIHSS スコア中央値 10［IQR、2-18］点）。このうち 246 人（82.0％）が持続性 AF、54 人（18.0％）が発作性 AF であった。年齢、性別、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病、慢性心不全、喫煙、飲酒、入院前 mRS は、発作性 AF 患者と持続性 AF患者では有意差がなかった。持続性 AF 患者では発作性 AF 患者よりも内頸動脈閉塞の割合が高かった（11.4％ vs. 1.9％、p = 0.03）。NIHSS スコアの中央値は持続性 AF 群と発作性 AF群で差がなかったが（7 vs. 5、p = 0.08）、重症患者の割合は、持続性 AF 患者で発作性 AF 患者より有意に高かった（22.0% vs. 5.7%、p = 0.006）。多変量解析の結果、持続性 AF は重症脳梗塞と独立して関連していた（オッズ比 4.31、95％信頼区間 1.24-15.0）。  考察 本研究では、第一に、DOAC 服用中の前方循環系脳梗塞患者において、持続性 AF が重症脳梗塞の独立した関連因子であることが示された。第二に、発作性 AF 患者よりも持続性 AF患者の方が内頚動脈閉塞の頻度が高いことが示された。いくつかの報告では、発作性 AF よりも持続性 AF の患者において、左心耳内のもやエコーの頻度が多く、左心耳流速が遅いことが示されている。また、別の研究では、AF の持続時間は脳梗塞リスクと関連することが報告されている。持続性 AF の患者は、発作性 AF の患者よりも非洞調律の期間が長く、心内血栓の形成につながる可能性がある。さらに、持続性 AF 患者は発作性 AF 患者よりも大きな血栓を形成しやすく、梗塞体積が大きくなる、大血管が閉塞しやすいという研究報告もある。本研究では、DOAC 服用中でも持続性 AF 患者では発作性 AF 患者よりも内頸動脈閉塞の頻度が高く、脳梗塞の重症化に寄与していると考えられた。また、今回の研究により、持続性 AF の患者は、DOAC を服用していても、脳卒中予防のために適切な治療が必要であることが示された。最近の報告では、AF 患者において、レートコントロールにリズムコントロールを追加することで、脳卒中、心血管イベントによる死亡、全死亡が有意に減少することが示されている。カテーテルアブレーションや抗不整脈薬で AF の暴露時間を短くすることで、脳卒中の発症だけでなく重症化も抑制できる可能性がある。本研究にはいくつかの限界があった。第一に、この観察研究の性質上、選択バイアスの可能性があった。第二に、脳卒中発症前の抗凝固薬治療期間、抗不整脈薬による治療歴、AF の持続時間に関するデータを収集することができなかった。  結語 多施設前向き観察研究のデータを用い、持続性 AF は DOAC 内服中であっても重症脳梗塞と関連している可能性が示唆された。  日本医科大学大学院医学研究科 神経内科学分野 大学院生 林俊行 Journal of the Neurological Sciences 第 434 巻 (2022) 掲載 

Sustained atrial fibrillation is related to a higher severity of stroke in patients taking direct oral anticoagulants

https://nms.repo.nii.ac.jp/record/2000001/files/1651_hayashi_ronbun.pdf

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