名古屋市立大学博士 (看護学)doctoral thesi

Tanaka, Atsuko

田中, 敦子

Japanese

NCU Repository

  Nagoya City University Academic Repository    学 位 の 種 類     博士 (看護学)   報 告 番 号  甲第１９７７号  学 位 記 番 号   第３１号  氏    名     田中 敦子   授 与 年 月 日     令和 5 年 3月 24日      学位論文の題名     精神医療福祉領域のリカバリー支援に関する研究 (A Study of Recovery-oriented Care in the Psychiatric Care and Welfare Area)  論文審査担当者     主査： 香月 富士日   副査： 樋口 倫代, 門間 晶子, 安東 由佳子  氏   名    ：田中 敦子 学位の種類  ：博士（看護学） 学位記番号  ：第 31 号 学位授与年月日：令和 5 年 3 月 24 日 学位授与の要件：学位規則第４条第１項該当 論文題目   ：精神医療福祉領域のリカバリー支援に関する研究         A Study of Recovery-oriented Care in the Psychiatric Care and Welfare Area.  論文審査委員：主査 教授   香月 富士日             副査 教授   樋口 倫代 副査 教授   門間 晶子 副査 教授  安東 由佳子    博士論文要旨  Ⅰ.はじめに  日本では、ノーマライゼーションの理念のもと、精神障害者（以下当事者）を入院中心医療から地域生活中心へと移行する取り組みを続けているが、海外と比べてその取り組みは遅れている。リカバリーとは、精神の病気による制限があっても満足のいく人生を送ることや地域社会に参加できるようになるプロセスであると言われている。海外では、当事者の地域生活のための政策にこのリカバリー概念を取り入れている。日本においても、従来の医学モデルによる医療者主体から当事者主体のリカバリー支援へと転換することが求められている。  Ⅱ.精神科デイケアの利用者と専門職者によるリカバリー・ストレングス思考の支援に対する認識についての研究 1．目的 本研究の目的は、デイケアの利用者、専門職者によるリカバリー・ストレングス志向の支援の認識についてその特徴を記述し、利用者ニーズと専門職者 の支援課題を明らかにすることである。 2．方法   中部地方にあるデイケアを便宜的に抽出し無記名自記式質問紙調査を行った。専門職者 50 名と利用者 67 名の回答を分析した。スタッフ版ストレングス支援態度尺度の実施度得点（専門職者がストレングス志向の支援を実施しているという認識を示す。以下専門職者による支援の実施度）と利用者版ストレングス志向の支援態度得点（利用者が担当専門職者からその支援を受けたとの認識を示す。以下利用者による支援評価）、日本語版 INSPIRE得点（利用者のリカバリーにとって大切なことに対し専門職者から受けた支援の程度）、各属性との関連について Spearmanの相関分析を行った。専門職者の認識する支援の実施度と自信度を Willcoxon 符号付き順位検定で比較した。また、利用者のデイケアの利用意志を卒業希望、継続希望、どちらでもないの 3 群に分け、利用者による支援評価、日本語版 INSPIRE得点、専門職者による支援の実施度について Kruskal Wallis検定でそれぞれ群間比較した。 3．結果   利用者による支援評価は、専門職者の認識する支援の実施度と正相関（r = 0.39, p = 0.003）し、専門職者の年齢とは負の相関（r = -0.32, p = 0.029）を示した。利用者のデイケア利用意志との 3 群比較について、利用者による支援評価のうち下位尺度の shared decision-making得点において、どちらでもない群は卒業希望群よりも低い評価を示した（H = 7.558，p = 0.023）。日本語版 INSPIRE 得点は、どちらでもない群が有意に低く（H = 8.249，p = 0.016）、疾患管理や偏見対処、日常生活管理の支援項目において卒業希望群よりも低い評価を示した。専門職者の認識する支援の実施度と自信度の比較では、自信度が低かった（Z = -3.140, p = 0.002）。 4．考察  どちらでもない群は、卒業希望群よりも意思決定に関する支援を受けているという認識が薄く、疾患管理や偏見対処、日常生活管理の支援を必要としていることが推察された。利用者の地域生活のための支援として、地域資源を活用した利用者との関係づくりやデイケアプログラムの再検討、成功体験の機会の積極的な提供が考えられた。専門職者の支援に対する自信向上のための方策検討も必要である。   Ⅲ.精神科看護師が抱く当事者のリカバリーの可能性に対する希望に影響する要因についての研究 1．目的   本研究の目的は、当事者がリカバリーできるという可能性に対し精神科看護師が抱く希望（以下リカバリーの可能性に対する希望）に影響する要因を特定することである。 2．方法 日本精神科病院協会の病院検索サイトおよび地方厚生（支）局の届出受理指定訪問事業所名簿から抽出した施設に勤務する精神科看護師に対し、無記名の自記式質問紙または Web入力による回答を求めた。384 名の回答を分析対象とした（有効回答率 61.4％）。日本語版 RAQ得点（リカバリーの可能性に対する希望）の高低群（低群 0、高群 1）を目的変数とし、説明変数を看護経験に関する項目、リカバリーの知識や研修に関する項目、リカバリーに関する認識、リカバリー支援環境の有無、個人特性としてロジスティック回帰分析を行った。 3．結果 日本語版 RAQ得点を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った結果、日本語版 RAQ得点の高さに正の関連を示したのは、リカバリー知識が高い（OR = 2.62、95 %CI [1.60、4.27]）、リカバリー経験のある当事者との接触経験がある（OR = 2.11、95 %CI [1.19、3.74]）、リカバリーに興味・関心がある（OR = 2.11、95 %CI [1.21、3.68]）、リカバリー支援は難しい（OR = 1.80、95 %CI [1.08、3.00]）であった。負の関連を示したのは救急・急性期系病棟勤務であった（OR = 0.34、95%CI [0.17、0.67]）。 4．考察   精神科看護師が抱く当事者のリカバリーの可能性に対する希望を高めるために、リカバリー経験のある当事者との接触経験を増やし、リカバリー知識を向上することの有効性が示唆された。  Ⅳ．全体考察  デイケアの専門職者が実施するリカバリー・ストレングス志向の支援と利用者によるその支援評価は、専門職者の年齢や利用者のデイケアの利用意志によって相違が生じる可能性がある。そのため当事者のリカバリーニーズに合わせ た支援が必要である。しかし、精神疾患を抱えている当事者は自信を失いリカバリーニーズをもちにくいと言われている。そのような時でさえも、専門職者が当事者のリカバリーに希望をもって支援することが重要である。このようなことを克服するためには、リカバリー当事者と接触する機会やリカバリー知識の向上を目指した研修を検討する必要があることが示唆された。また、リカバリー支援に伴い専門職者が支援の難しさを感じる可能性があることも示された。支援の難しさに対しても具体的な内容などを詳細を調査していくことが必要である。                           論文審査結果の要旨  日本では、ノーマライゼーションの理念のもと、精神障害者（以下当事者）を入院中心医療から地域生活中心へと移行する取り組みを続けているが、海外と比べてその取り組みは遅れている。リカバリーとは、病気による制限があっても満足のいく人生を送ることや地域社会に参加できるようになるプロセスであると言われており、精神医療福祉領域での重要概念になっている。本研究は、精神科デイケアの利用者と専門職者および精神科病院または訪問看護に従事する精神科看護師を対象として、リカバリー支援に関する認識を横断的に調査し、支援課題を明らかにすることを目的として行った。 第 1研究は、デイケアの利用者、専門職者によるリカバリー・ストレングス志向の支援の認識について、その特徴を記述し、利用者ニーズと専門職者の支援課題を明らかにすることを目的として行った。中部地方にあるデイケアを便宜的に抽出し無記名自記式質問紙調査を行い、専門職者 50 名と利用者 67 名の回答を分析した。利用者のデイケアの利用意志を「卒業希望」、「継続希望」、「どちらでもない」の 3 群に分け比較したところ、利用者からの支援者ストレングス態度下位尺度 shared decision-making得点において、どちらでもない群は卒業希望群よりも低い評価を示した。日本語版リカバリー支援評価尺度得点は、どちらでもない群が有意に低く、疾患管理や偏見対処、日常生活管理の支援項目において卒業希望群よりも低い評価を示した。 第２研究は、当事者がリカバリーできるという可能性に対し精神科看護師が抱く希望（以下リカバリーの可能性に対する希望）に影響する要因を特定することを目的として行った。日本精神科病院協会の病院検索サイトおよび地方厚生（支）局の届出受理指定訪問事業所名簿から抽出した施設に勤務する精神科看護師に対し、無記名の自記式質問紙または Web入力による回答を求めた。384名の回答を分析対象とした（有効回答率 61.4％）。日本語版 RAQ 得点（リカバリーの可能性に対する希望）の高低群を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った結果、関連を示した項目は、リカバリー知識が高い、リカバリー経験のある当事者との接触経験がある、リカバリーに興味・関心がある、リカバリー支援は難しいという認識、であった。負の関連を示したのは救急・急性期系病棟勤務であった。 審査では、第１研究については、「どちらでもない」群の特性についての説明、 第 2研究では、ロジスティック回帰分析の目的変数の 2群への分け方の根拠、「希望」の操作的定義、サンプリング方法の記述についての正確性などが質問された。しかし、第 1 研究では調査対象者が専門職と利用者双方への調査であることや、第 2 研究の調査では全国の施設からの調査データであることが評価された。今後は、今回の研究の知見を活かした実際の臨床現場への支援が計画・実施されることが望まれる。  以上より、本論文は、本学学位規定に定める博士（看護学）の学位を授与することに値するものであり、申請者は看護学における研究活動を自立して行うことに必要な高度な研究能力と豊かな学識を有すると認め、論文審査および最終試験に合格と判定した。  

A Study of Recovery-oriented Care in the Psychiatric Care and Welfare Area

https://ncu.repo.nii.ac.jp/record/2000152/files/D12-31-tanaka-abstract.pdf

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