付記する学位プログラム名: 京都大学卓越大学院プログラム「先端光・電子デバイス創成学」京都大学新制・課程博士博士(工学)甲第24623号工博第5129号新制||工||1980(附属図書館)京都大学大学院工学研究科電子工学専攻(主査)教授 木本 恒暢, 教授 川上 養一, 准教授 浅野 卓学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

Ito, Koji

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Study on Electron Trapping andTransport in SiC MOSFETs(Abstract_要旨 )Ito, KojiIto, Koji. Study on Electron Trapping and Transport in SiC MOSFETs. 京都大学, 2023, 博士(工学)2023-03-23https://doi.org/10.14989/doctor.k24623許諾条件により本文は2024-03-20に公開 京都大学 博士（工学）   氏 名 伊藤 滉二 論文題目 Study on Electron Trapping and Transport in SiC MOSFETs (SiC MOSFETにおける電子捕獲および輸送に関する研究) （論文内容の要旨）  本論文は、高効率電力変換素子として有望な炭化珪素(SiC)パワートランジスタの高性能化を目指して、金属-酸化膜-半導体構造の電界効果トランジスタ(MOSFET)における界面準位への電子捕獲と反転チャネル内の電子輸送機構に関する基礎研究をまとめたものであり、6章からなる。  第1章では、電力変換機器で用いられる半導体パワーデバイスの重要性とパワーデバイスに要求される性能を紹介した後、SiC半導体の性質とSiCパワーデバイスの有用性を述べている。最近、実用化が始まったSiCパワーMOSFETの優位性と課題、および課題解決に向けた研究の現状を概説し、SiC MOSFETに関わる研究課題を整理している。特に、SiCパワーMOSFETの性能を決定する酸化膜/SiC界面近傍に存在する高密度欠陥に関する理解が極めて不十分であり、この欠陥がMOSFET特性に及ぼす影響や欠陥低減の指針が未確立であることを指摘している。さらに、MOS界面近傍に存在する界面準位への電子捕獲と反転チャネル内の電子輸送機構を定量的に解明し、物理モデルを構築することの重要性を説明し、当該分野における本研究の位置付けと目的を明らかにしている。 第2章では、p型ボディ領域のアクセプタ密度を広範囲で変化させて作製したSiC(0001) MOSFETのゲート特性を解析することによって、酸化膜/SiC界面に存在する界面準位密度のエネルギー分布を求め、これを元に界面欠陥の起源を考察すると共に、MOSFETのゲート特性を再現する物理モデルを構築する方法について述べている。従来のSiC MOS界面に関する研究では、MOSキャパシタの容量－電圧特性の解析により伝導帯端近傍のエネルギー領域に存在する界面準位密度を求めていたが、原理上、最も重要な伝導帯端の極近傍の界面準位密度を得ることは困難であった。申請者は、MOSFETの反転チャネル近傍に対してポアソン方程式とシュレディンガー方程式を連立させて解くことにより、電子のポテンシャル分布と電子密度分布をゲート電圧の関数として求めた。次に、MOSFETのゲート特性を広い電圧範囲で再現するように界面準位密度のエネルギー分布を逆算することにより、伝導帯端の極近傍の界面準位密度を得ることに成功した。この結果、従来、半導体分野で通常行われる方法である、三次元物質としての伝導帯端をエネルギーの基準として界面準位密度分布をプロットすると、界面準位密度がp型ボディ領域のアクセプタ密度を上げると顕著に減少するという理解しがたい結果となることを見出した。そこで、反転層チャネル内の量子閉じ込め効果を考慮して、二次元系の伝導帯端（量子効果を考慮した第一サブバンドの底）をエネルギーの基準とすると、界面準位密度がp型ボディ領域のアクセプタ密度に依存せず、ゲート酸化膜の形成条件で一意に決定するという物理的に説得力のある結果を得た。つまり、SiC MOSでは、界面準位密度のエネルギー分布がSiC反転層内       京都大学 博士（工学）   氏 名 伊藤 滉二 の量子閉じ込め効果に追従していることを見出し、界面欠陥の主要成分が酸化膜/SiC界面ではなくSiCバルク側に存在していることを指摘している。 第3章では、非常に低い界面準位密度が得られるリン処理を施したゲート酸化膜を有するSiC(0001) MOSFETの特性を解析し、当該分野の標準プロセスである界面窒化処理を施したSiC MOSFETと比較した結果について述べている。現在、界面窒化処理を施した耐圧1~3 kV級のSiCパワーMOSFETは実用化が進み、電気自動車、電車、産業用機器等で大きな省エネ効果を発揮しているが、そのMOS界面を流れる電子の実効移動度は20~30 cm2/Vsに留まっている。一方、SiCを熱酸化して表面にSiO2膜を形成した後、POCl3雰囲気でのアニールを施すと（リン処理）、界面準位密度が約一桁低減し、90~100 cm2/Vs程度の比較的高い実効移動度が得られる。そこで、申請者は様々なアクセプタ密度を有するp型SiC上にリン処理あるいは窒化処理を施したMOSFETを作製し、そのゲート特性から実効移動度を求め、その界面垂直電界依存性を詳細に調べた。この結果、リン処理を施したMOSFETでは最高147 cm2/Vsという高い実効移動度が得られること、界面準位への電子捕獲効果が無視できるほど小さいことを見出した。さらに、MOSFETのp型ボディ領域に負電圧を印加することによってゲート電圧やp型ボディ領域のアクセプタ密度とは独立にMOS界面の垂直電界を広い範囲で変化させたときのMOSFET特性の変化を調べている。この結果、高濃度ドープされたp型ボディ領域上のMOSFETの実効移動度の垂直電界依存性は、ボディバイアスが印加された低濃度ドープp型ボディ領域上のMOSFETの実効移動度の垂直電界依存性とほぼ完全に重なることを初めて見出している。この結果は、特に高い界面垂直電界において、半導体内のイオン化不純物（アクセプタ）は主要な散乱源ではないことを示している。さらに、高い界面垂直電界領域における移動度の減少度合いを解析し、界面準位密度の低いSiC MOSFETでは、高垂直電界下で界面のラフネスに起因する散乱が支配的になることを示唆している。 第4章では、様々なプロセスにより形成したゲート酸化膜を有するSiC(0001)面上 MOSFETに対してHall効果測定を行うことで、反転層内の自由電子密度と界面準位への捕獲電子密度を切り分けて評価し、かつ真の自由電子移動度を求めた結果について述べている。上述のように、SiC MOSFETでは、一般に界面準位への電子捕獲効果が大きいために、通常のMOSFET特性から直接的に計算される実効移動度は、見かけの移動度であり、散乱や輸送を反映する真の移動度ではない。真の移動度を求めるためには、MOS-Hall効果測定が必須である。申請者は独自に設計した極めて多数のSiC MOS-Hall効果素子を作製し、かつゲート酸化膜形成条件、p型ボディ領域のアクセプタ密度、ゲート電圧、測定温度を広範囲で変化させた体系的なデータを初めて得ることに成功している。例えば、典型的な動作条件における反転層電子の捕獲率は、熱酸化のみの場合約97%、窒化処理MOSFETでは約77%、リン処理MOSFETでは約20%であることを示し、リン処理MOSFETのみ電子捕獲効果が小さいことを明らかにしている。この結果、リン処理MOSFETで得られた電子移動度は、過去に窒化処理SiC MOSFETで報告されたユニバーサル移動度（フォノン散乱    京都大学 博士（工学）   氏 名 伊藤 滉二 で決まる移動度の上限）を明らかに上回っており、ユニバーサル移動度の見直しが必要であることを指摘している。また、窒化処理MOSFETでは高垂直電界領域で急激に電子移動度が低下する一方、リン処理MOSFETでは垂直電界が高い領域でも移動度の低下が大変緩やかであることを見出している。さらに、申請者はフォノン散乱、クーロン散乱、ラフネス散乱過程を考慮した理論計算によってSiC MOSFETの反転層内の電子移動度を求め、実験結果と比較している。ここで、SiC特有の界面準位に捕獲される電子密度がゲート電圧の関数であることに注意しながらクーロン散乱による電子移動度を計算している点は特筆される。この理論計算を通じて、界面窒化処理を施したMOSFETでは界面欠陥に捕獲された電子と界面固定電荷によるクーロン散乱が支配的であること、界面準位密度の少ないリン処理を施したMOSFETでは界面固定電荷によるクーロン散乱と界面ラフネス散乱が支配的であることを明らかにしている。いずれのMOSFETでも、独自に構築した物理モデルを用いた理論計算結果が、実験結果をほぼ完全に再現できている成果は世界初であり、特筆される。 第5章では、SiC(112＿0)および(11＿00)面上に作製した界面窒化処理を施したMOSFETに対してHall効果測定を行い、自由電子移動度や界面捕獲電子密度を定量的に解析している。SiC(112＿0)および(11＿00)面は、SiCパワーMOSFETの究極形と言えるトレンチMOSFETのチャネル部に相当するため、学術面だけでなく産業応用の観点でも重要である。MOSFET特性やMOS-Hall効果に関しては、SiC(112＿0)と(11＿00)共に高い移動度が得られること、およびSiC(112＿0)と(11＿00)面上MOSFETは、ほぼ同じ特性を示すことを明らかにしている。これらの結晶面上MOSFETでは、反転チャネルにおける電子捕獲率が約35%と比較的小さく、高い垂直電界領域における電子移動度の低下も緩やかであることを見出している。さらに、前章と同様に複数の散乱過程を考慮した移動度の理論計算を行い、実験データをほぼ再現することに成功している。また、この結果から、これらの結晶面上MOSFETでは(0001)面に比べて界面ラフネス散乱が低減されていることを明らかにしている。 第6章は結論であり、本研究を通じて得られたSiC MOSFETにおける界面準位密度と界面準位への電子捕獲の関係、界面欠陥の起源、MOSFET動作時の反転チャネル内における電子輸送機構の解明、および複数の電子散乱過程を考慮した電子移動度の物理モデルの構築についての知見をまとめている。また、当該分野における今後の研究課題を提示し、これらの課題解決に向けた研究指針を提案している。          氏 名   伊藤 滉二  （論文審査の結果の要旨） 本論文は、炭化珪素(SiC)パワートランジスタの高性能化を目指して、金属-酸化膜-半導体構造の電界効果トランジスタ (MOSFET) における界面準位への電子捕獲と反転チャネル内の電子輸送機構に関する基礎研究をまとめたものであり、得られた主な成果は以下の通りである。 １． SiC(0001)面上にp型ボディ領域のアクセプタ密度を広範囲で変化させて作製した nチャネルMOSFETのゲート特性を解析することによって、伝導帯端の極近傍における界面準位密度のエネルギー分布を求めることに成功した。この界面準位密度のエネルギー分布がSiC反転層内の量子閉じ込め効果に追従することを見出し、界面欠陥の主要成分が界面や酸化膜中ではなく、SiCバルク側の界面極近傍に存在していることを提案した。 ２． 低い界面準位密度が得られるリン処理を施したSiC MOSFETの特性を解析し、当該分野の標準プロセスである界面窒化処理を施したSiC MOSFETに比べて顕著に高いチャネル移動度が得られることを示した。さらに、基板のボディバイアス効果を詳細に調べることにより、界面近傍の実効垂直電界が高い領域では、界面のラフネス散乱が支配的であることを明らかにした。 ３． 様々なプロセスにより形成したゲート酸化膜を有するSiC(0001)面上 MOSFETに対してHall効果測定を行うことで、反転層内の自由電子密度、界面準位への捕獲電子密度、真の電子移動度に関する系統的なデータを得た。 ４． フォノン散乱、クーロン散乱、ラフネス散乱を考慮した独自の物理モデルによりSiC MOSFETにおける電子移動度の界面垂直電界依存性を計算し、MOS-Hall効果測定の実験結果を再現できることを示すと共に、電子の主な散乱過程を議論した。特に、SiC MOSFET特有と言えるゲート電圧と共に顕著に増大する界面捕獲電子によるクーロン散乱の影響を定量的に記述する物理モデルの構築に成功した。 ５． 高い移動度が得られるSiC(112＿0)および(11＿00)面上に作製したMOSFETに対してHall効果測定を行い、電子移動度や界面捕獲電子密度を定量的に明らかにした。移動度の理論計算を行い、これらの結晶面上MOSFETでは界面ラフネス散乱が低減されていることを明らかにした。 以上、要するに、本論文は高電圧電力変換用デバイスとして有望なSiCパワートランジスタにおける酸化膜/SiC界面近傍の欠陥密度とエネルギー分布を明らかにし、かつ実験と理論計算の手法により反転層内電子の移動度を記述する独自の物理モデルを構築したもので、学術上、実際上寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和5年1月23日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行って、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。   

SiC MOSFETにおける電子捕獲および輸送に関する研究

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SiC MOSFETにおける電子捕獲および輸送に関する研究

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