内原 照仁

我謝 正平

有馬 聖志朗

當銘 玲央

赤嶺 盛和

那覇 唯

有馬, 聖志朗

我謝, 正平

當銘, 玲央

那覇, 唯

内原, 照仁

赤嶺, 盛和

Japanese Red Cross Repository / 赤十字リポジトリ

令 和 ５ 年 ３ 月沖縄赤十字病院医学雑誌第28巻，第１号　別刷尿中抗原陰性であったが病歴や臨床的所見からレジオネラ肺炎を疑い診断に至った 1 例有馬聖志朗１，我謝　正平２，當銘　玲央２，那覇　　唯２，内原　照仁２，赤嶺　盛和２沖縄赤十字病院　１初期臨床研修医　２呼吸器内科現病歴　来院５日前に38.5度の発熱が出現した．　来院４日前にかかりつけのクリニックを受診しSARS-CoV-2 抗原検査陰性であり対症療法で経過観察となった．　来院２日前に同院を受診しSARS-CoV-2 PCR検査陰性であった．その後も解熱薬で対応していたが，発熱持続と倦怠感，食思不振，腰痛が出現し来院日に前医を再受診した．胸部CTで右肺上葉にすりガラス影，コンソリデーションを認め，入院治療目的に当院紹介となった．既往歴　高血圧，２型糖尿病，脂質異常症常用薬　メトホルミン500mg，ルセオグリフロジン2.5 mg，ピオグリタゾン15mg，バルサルタン80mg，ビソプロロールフマル酸５mg，ピタバスタチン１ mg，アムロジピン５mg生活社会歴　ADL：自立　アレルギー：食事（－） 薬（－）はじめに　レジオネラ属は，元来土壌細菌であるが，人工環境にも広く分布するグラム陰性桿菌である．肺炎の重要な起炎菌の一つであり，重症化する傾向が強い．その血清型は少なくとも70以上存在するが，臨床で同定された菌種の90％以上がLegionella pneumophilaである１）．　レジオネラ症の診断は尿中抗原検査が広く用いられているが，検出可能な血清型は主にL. pneumophila血清型１であり，検出できないレジオネラ属菌がある．　今回，入院時の検査が陰性であり，後日レジオネラ肺炎と診断された症例を経験したため報告する．症例　69歳　男性主訴　発熱要　旨　レジオネラ肺炎は迅速診断法として尿中抗原検査が広く用いられている．本検査の特異度は高いものの感度は60～90％と低く，偽陰性を示す場合があることに注意しなければならない．今回，入院時の尿中抗原検査は陰性であったが，その後レジオネラ肺炎の診断に至った症例を経験したため報告する．尿中抗原陰性であったが病歴や臨床的所見からレジオネラ肺炎を疑い診断に至った 1 例有馬聖志朗１，我謝　正平２，當銘　玲央２，那覇　　唯２，内原　照仁２，赤嶺　盛和２沖縄赤十字病院　１初期臨床研修医　２呼吸器内科Keywords：レジオネラ肺炎，尿中抗原陰性（令和４年９月30日受理）著者連絡先：有馬聖志朗（〒902-8588）沖縄県那覇市与儀1-3-1沖縄赤十字病院　初期臨床研修医－21－沖縄赤十字医誌 28（1）：21-24，2022　COVID-19ワクチン：３回接種済み　飲酒歴：ビール350ml/日　喫煙歴：10本/日（20歳から）　暮らし：妻，娘と３人暮らし　ペット：ミニチュアダックスフンド　趣　味：園芸　よく土を混ぜて作業している．　　　　　循環式浴槽，温泉利用歴なし入院時現症【バイタルサイン】　意識レベル：清明　　体　温：38.1℃　血　圧：152/80mmHg　　脈　拍：112回/min　　呼吸数：22回/min　　SpO2：96％（室内気）【身体所見】　身　長：161cm　　体　重：64.9kg　　ＢＭＩ：24.9 kg/m2　　眼　：眼瞼結膜貧血なし　眼球結膜黄染なし　頚　部：リンパ節腫脹なし　項部硬直なし　呼吸音：肺雑音・左右差なし　心　音：整　心雑音なし　腹　部：平坦・軟・圧痛なし　腸蠕動音正常　四　肢：下腿浮腫なし　皮疹なし　趣味の園芸について尋ねると，よく土を混ぜて作業しており来院11日前には大量の腐葉土を扱ったという情報あり．Legionella longbeachaeによる肺炎の可能性まで踏まえて精査していく方針とした．【喀痰塗抹】　白血球 （２＋）　 上皮細胞 （１＋） 　貪食像 （－） 　　グラム陽性球菌 （少量） グラム陽性桿菌 （少量） 　グラム陰性球菌 （少量） グラム陰性桿菌 （１＋）【血液検査・尿検査】表１　白血球，好中球分画，CRPの上昇，　CK高値，低Na血症を認めた．　レジオネラ尿中抗原検査は陰性であった．　糖，ケトン体，潜血が強陽性であった．【画像検査】画像１a，１b　胸部Ｘ線：右上葉にすりガラス影　胸部ＣＴ： 右上葉にair -bronchogramを伴うすりガラス影，右胸水少量あり画像１a：入院時 胸部 X 線血算WBC 9700 /μLNeut 85.3 %Lymph 6.5 %Mono 7.9 %Eosin 0.0 %Baso 0.3 %Hb 16.4 g/dLHt 48 %Plt 26 万/μL生化学TP 6.9 g/dL Glu 115 mg/dLALB 3.5 g/dL HbA1c 7.3 %T-Bil 0.6 mg/dL BUN 27.3 mg/dLAST 51 U/L CRE 0.91 mg/dLALT 37 U/L eGFR 63.8 mL/min/1.7m2LD 241 U/L Na 132 mEq/LALP 84 U/L K 3.6 mEq/Lγ-GTP 48 U/L Cl 92 mEq/LCK 188 U/L CRP 31.52 mg/dL凝固PT 12.3 秒PT活性 93.8 %PT-INR 1.03aPTT 33.4 秒D-dimer 1.1 mg/mL静脈血液ガスpH 7.356PaCO2 33.5 mmHgHCO3- 18.3 mEq/LLactate 1.8 mEq/L尿定性・尿中抗原色調 淡黄色蛋白 1+4糖 +潜血 3+ビリルビン －ウロビリノーゲン －ケトン体 3+亜硝酸 －白血球 －細菌 －尿中レジオネラ抗原 －表１　受診時の血液検査，尿検査－22－沖縄赤十字医誌　第28巻　第１号　Med. J. Okinawa Red Cross Hosp.Vol.28（1）【喀痰培養検査】　Legionella （－）　α-streptococcus （１＋）経過　表３，４　市中肺炎としてABPC/SBT静注を開始したが解熱・症状改善が得られなかった．　入院３日目，精査目的に気管支鏡検査を施行し，気管支肺胞洗浄液（Bronchoalveolar lavage fluid：BAL液）を回収，遺伝子検査（Loop-mediated Isothermal Amplification ：LAMP法）へ提出した．BAL液はオレンジ色で単核球比率の上昇，赤血球を認めた（画像２，表２）．　腐葉土との接触歴，低Na血症，CK高値，BAL液の性状といった所見より，レジオネラ肺炎を疑いLVFX静注を開始した．　入院４日目以降，36度台にて経過し解熱と共に倦怠感等，他症状も消失した．　入院11日目にレジオネラ核酸同定（LAMP法）で陽性となりレジオネラ肺炎と診断．　ABPC/SBTは計10日間で終了し，LVFXを計14日間投与して終了．胸部X線でも肺炎像の改善を認め，経過良好にて退院とした．１か月後，外来にてフォローアップの胸部単純CTで肺炎像および胸水の消失を認めた（画像３）．画像２：オレンジ色のBAL液右B ２ 75ml / 150ml左から１回目，２回目，３回目画像３：退院１か月後　胸部単純CT画像１b：入院時　胸部単純 CTBAL所見単核球比率 92.6 %多核球比率 7.4 %赤血球数 8000 /μL細胞数 3968 /μLNeut 1.0 %Lymph 83.0 %Eo 0.0 %Baso 0.0 %組織球 16.0 %結核菌DNA PCR －M. avium PCR －M. intracellulare PCR －Day 1 3 8 15WBC（/μL） 9700 8000 6800 4900CRP（mg/dL） 31.5 14.1 2.9 0.17CK（U/L） 188 116 34 28Cre（mg/dL） 0.91 0.63 0.71 0.87表２　BAL液の検査結果表３　血液検査推移－23－沖縄赤十字医誌 28（1）：21-24，2022考察　レジオネラ症の診断は尿中抗原検査が広く用いられているが，L. pneumophila血清型１以外のレジオネラ属検出率は低い．そのため検査が陰性であってもレジオネラ症は否定できない．また，発症早期では抗原量が検出感度以上でないことから陰性を示すこともある．　培養やLAMP法，血清抗体価等が診断の一助となっているが結果が出るまでに数日を要するため臨床的に疑った場合には診断前に抗生剤投与が必要となる．　感染源として温泉や循環式浴槽が有名であるが，土壌細菌であるため水たまりから検出されることもある１）．オーストラリアの疫学調査では園芸用の腐葉土から高頻度にL. longbeachaeが分離されており，腐葉土が感染源と推測されている２）．L. longbeachaeは，尿中抗原検査で検出できないため他の迅速診断法が使用される．培養や抗体価は長い時間を要するため，LAMP法が迅速診断として用いられている．　本症例では腐葉土の接触歴と尿中抗原検査が陰性であることからL. longbeachaeによる肺炎を想定し精査した．喀痰培養は陰性であったがLAMP法で陽性となりレジオネラ肺炎と診断した．　気管支肺胞洗浄液（BAL液）は鮮やかなオレンジ色であった．オレンジ色の粘稠痰はレジオネラ肺炎を疑うキーワードである．レジオネラ肺炎の喀痰がオレンジ色になる機序は，L. pneumophilaが直接色素を産生するのではなく，L. pneumophilaが産生する因子が人体の上皮被覆液中のチロシンをオレンジ色に変化させるためと考えられている３）．　BAL液の所見では赤血球が多数検出されており，溶血がオレンジ色に映っている可能性もあると思われたが，臨床症状からもレジオネラ肺炎を疑っていたためBAL液をLAMP法へ提出した．本症例での喀痰はオレンジ色ではなかったが，肺炎が増悪した場合気管支内の成分が痰として喀出されてオレンジ色の喀痰を呈する可能性がある．丁寧な病歴聴取から本疾患を疑ったことがスムーズな検査，診断につながり重症化を予防できた要因と考える．結語　尿中抗原検査が陰性であったレジオネラ肺炎を経験した．病歴聴取を丁寧に行い，経過を見て必要に応じて尿中抗原検査の再検査や気管支鏡検査等を行う必要がある．　また，レジオネラ肺炎は経過が早く急激に重症化することも多いため，疑った場合には尿中抗原検査が陰性でも早期にレジオネラをカバーした抗生剤を使用することが重要である．　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【文献】１） 国立感染症研究所　レジオネラ症　IASR Vol. 34, No.6 （No. 400） June 2013２） T W Steele，C V Moore，N Sangster, ：Distribution of Legionella longbeachae serogroup 1 and other legionellae in potting soils in Australia. Appl Environ Microbiol，56：2984-2988，1990.３） Jiro Fujita，Masato Touyama，Kenji Chibana，et al．：Mechanism of formation of the orange-colored sputum in pneumonia caused by Legionella pneumophila．Intern Med，46：1931-1934，2007.3535.53636.53737.53838.53939.51 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17体温（℃）Day体温（℃）LVFXABPC/SBT気管支鏡検査Day1 Day8 Day17LAMP法：陽性表４　経過表－24－沖縄赤十字医誌　第28巻　第１号　Med. J. Okinawa Red Cross Hosp.Vol.28（1）

尿中抗原陰性であったが病歴や臨床的所見から レジオネラ肺炎を疑い診断に至った1 例

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