KIYOSE, Katsuya

Japanese

Okayama University Scientific Achievement Repository

氏    名 清瀬 勝也 授与した学位 博 士 専攻分野の名称 学 術 学位授与番号 博乙第 ４５４７ 号 学位授与の日付 ２０２３年 ３月 ２４日 学位授与の要件 博士の論文提出者  （学位規則第４条第２項該当） 学位論文の題目 オオツノコクヌストモドキにおける環境要因と性選択の相互作用 論文審査委員 准教授 福田 宏   教授 廣部 宗    准教授 岡田 賢祐  学位論文内容の要旨 オス内競争とメスの配偶者選択は性選択の主要な原動力であり、様々な形質の進化に大きな影響を及ぼします。近年、生育環境や個体群密度、温度などの環境要因が性選択に影響を与えることが議論の対象になっています。その一方で、性選択の研究は一定の環境下で実験が行われることが多く、野外の環境条件に即していないことが指摘されています。したがって、オス内競争とメスの配偶者選択を理解するためには、環境要因を考慮する必要があります。本研究では、性選択の研究が進んでいるオオツノコクヌストモドキを用い、環境要因がオス内競争とメスの配偶者選択に与える影響について調査しました。 本種のオスは縄張りを保持し、同種のメスとオスを誘引します。個体群密度が低い場合、闘争頻度は低く、オスは縄張りの維持が容易なので、縄張りを維持するオスが入れ替わる機会は少ないです。メスは闘争に強いオスとの同居が長くなるので、このオスとの繰り返し交尾によって、メスの適応度が増加します。ただし、強いオスはメスに攻撃を加えることがあり、適応度の増加率が低下します。一方で、メスに選り好まれる魅力的なオスは縄張りを保持できず、メスと同居・交尾する可能性は低いので、低密度下ではオス内競争に比べ、メスの配偶者選択の選択圧は弱くなります。反対に、高密度環境下ではオスは縄張りを防衛するために多くのオスと戦う必要があるので、防衛に失敗する頻度が増加します。この時、メスは複数のオスと出会うことになるので、その中から質の高い魅力的なオスの精子を選ぶことができます。その結果、メスは魅力的な息子を生むことができ、適応度が間接的に増加します。従って、高密度環境では、オス内競争よりもメスの配偶者選択が強く作用します。また、幼虫時の密度環境も成虫時の形態や行動に大きな影響を及ぼすことが分かりました。すなわち、大きなオスでは闘争によってメスを獲得し、小さなオスではスニーキング戦術やサテライト戦術などの代替戦術によってメスを獲得します。低密度環境ではほとんどの幼虫が成長に十分な餌資源を利用できるので、小さなオスの出現割合は低く、大きなオスでは高くなります。上述のとおり、低密度環境では大きなオスが縄張りを防衛しやすいので、オス内競争の選択圧が強くなります。一方、高密度環境では縄張りをめぐる闘争が増加し、幼虫時の採餌競争が激しくなることで代替戦術を使用する小さなオスの出現割合が高くなります。そのため、オスはメスや縄張りの防衛が困難になり、オス内競争の選択圧は弱くなります。その結果、メスは複数のオスと出会うことになるので、上記のとおり、メスの配偶者選択は強く作用します。従って、幼虫期の密度環境も成虫期と同じようにオス内競争とメスの配偶者選択に作用することが明らかになりました。  論文審査結果の要旨 本論文では、環境要因と性選択による相互作用が生物の進化に及ぼす影響を調べている。具体的には、オオツノコクヌストモドキを実験材料とし、その行動や生態に影響を及ぼしうる環境要因として個体群密度に着目し、個体群密度の変化と雌雄の適応度の関係性を調査している。 本論文は5章から構成されており、第1章は総合序論である。ここでは性選択に関する研究は一定の環境下で実験が行われることが多く、環境要因による性選択への影響を考慮していないことを指摘している。 近の性選択に関する総説においても、同様の指摘がされている。第2章では、成虫時の個体群密度が低い場合における性選択によって生じる選択圧について考察している。オス内競争とメスの配偶者選択が性選択の原動力であることを踏まえ、低密度下ではオス内競争に比べ、メスの配偶者選択の選択圧が弱くなることを室内実験と先行研究から明らかにした。第3章では、成虫時の個体群密度が高い場合、オス内競争よりもメスの配偶者選択が強く作用することが示されている。第4章で幼虫時の個体群密度がどのような影響を及ぼすかを調べている。実験結果から、幼虫期の密度環境が成虫期密度環境と同じようにオス内競争とメスの配偶者選択に影響を及ぼすことが分かった。以上の結果をまとめた総合考察が第5章であり、個体群密度と性選択による相互作用が生物の進化に大きな影響を及ぼすことを示唆するとともに、個体群密度だけでなく他の環境要因を考慮して性選択の研究を進めていく必要性も主張している。1章で述べているように、性選択の研究の大部分で環境の効果が考慮されていない。本論はそれに逸早く気づき、性選択の研究を行う上で環境要因の重要性を明らかにした非常に価値の高い内容である。 以上のことから、博士学位論文としてふさわしいと判断できる。  

オオツノコクヌストモドキにおける環境要因と性選択の相互作用

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