早大学位記番号:新9187博士(学術)早稲田大

Dong Congli

董 聡利

早稲田大学博士(学術)早大学位記番号:新9187thesi

Dong, Congli

134297

董, 聡利

Waseda University Repository

Form HJ (S→O) アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨 松本重治研究 ―「世界の日本」をめぐる模索― 学籍番号 4019SD01–0 氏名 董聡利 E. 主指導教員 篠原初枝教授 Keywords : 松本重治,日米関係, 日中関係 1930 年代初期から 1960 年代末まで、日本は対外侵略、被占領、再出発、大国化という激動期を走り、外部世界との関係が大きな変化を遂げた。こうした激動のなかで、日本の知識人が日本の進路をいかに考えたのか、そして実際にいかなる活動を行って対応したのかは興味深い。本論文はこの問題意識をもって、戦前から戦後までの長期間にわたって、学問研究や論壇投稿といった知識人の一般活動にとどまらず、日本の外交・対外関係の実際展開にも深く関与した松本重治を取り上げる。各時期において、日本の進路に対する松本の思考、彼の活動と日本の政策との関係、日本の外交・対外関係における彼の役割、そして彼の活動を支えた思想面の特徴を検討する。 第一章「青年期のアメリカ研究：社会改革と新外交」は、1920 年代後半から満州事変直後までの松本のアメリカ研究を考察して、松本のアメリカ像を明らかにする。松本は労働問題への関心からアメリカに接近した。アメリカが人類文明の頂点に立つ国だと考えた松本は世界の大勢と日本の進路を考えながらアメリカ研究を展開したのである。彼の理解では、満洲事変をめぐるアメリカ外交の特徴は国際条約への支持と国際連盟との協調であり、不承認主義が国際法の進展に寄与できる上、その提起によってアメリカが外交の面においても世界を率いるようになった。 第二章「日中戦争下の『和平工作』参与：政策遂行者へ」は、1938年における松本の「和平工作」参与を中心に日中戦争下の松本の姿勢を再検討する。松本は終始、戦争の早期解決を目指したが、その実現方法に関しては、蔣介石と交渉し続けることから、蔣を下野させて汪兆銘と交渉することに変化した。彼は自分の中国認識と日本の対華政策との間にバランスをとろうとして、両立できる折衷案を試みたが、次第に日本の政策に傾向して、国民政府を分裂させることに協力した。 第三章「同盟通信社から民報社へ：二つの『戦い』」は、戦時期の松本が平和主義を貫いたかという問題をめぐる意見対立を意識しながら、まず編集局長など同盟通信社の幹部を担当した時期における松本の活動を考察する上、占領初期の松本が戦争を発動した日本を懲罰する性格をもつ非軍事化・民主化改革にいかに対応したのかを検討する。1930 年代末–1940 年代前半における松本の姿勢は以前よりさらに後退して、日本の思想戦の担い手を務めた。占領初期の松本は日本が再び世界で立ち上がるという思いをもって民主主義の旗を掲げた。一方、A 級戦犯容疑者への弁護に関する彼の提言と公職追放該当後の自己弁護からみれば、占領初期の松本は侵略戦争及び自分の戦争協力行為を深く反省したとはいえない。 第四章「松本と国際文化会館の創設：新生日本の国際復帰」は、松本に焦点を当て、ロックフェラーとの協力と国内支持への求めという二つの面から IHJ の創設経緯を再検討する。松本は新生日本の国際復帰という文脈で IHJ の創設を理解したのである。左翼的社会風潮の中で、彼は IHJ の非政治性と非政府性を強調したと同時に、学者の学問的需要を満たすことに尽力した。日本におけるマルクス主義の影響を弱めるという内的目標より、日本に対する外国人の理解の増加、世界における日本のイメージの改善そして地位の向上という外的目標こそは、1950 年代における松本の望みであった。 第五章「松本と 1960 年代の日米中関係：日米対話から日中国交正常化へ」は、中国と日中関係に対する松本の認識を考察して、日中国交正常化の実現をめぐって松本が 1960 年代の日米中関係でいかなる役割を果たしたのかを考察する。松本は力関係の視点に立ち、蔣介石の限界を認識して日中国交正常化を日本外交の目標として設定すべきだと考えた。しかも、松本は日中関係を日中両国間の問題より、むしろ日米間の中国問題として取り扱っており、日中国交正常化の実現がアメリカの対中政策の緩和、米中関係の改善を前提とすると認識していた。彼は日米民間人会議といった日米知的交流活動を行うことで、中国問題をめぐる日米間共通認識の増加や対中政策における日本の自主性の向上、アメリカの対中姿勢の緩和を促し、日中国交正常化の実現に寄与した。 結論では、知識人と政策との関係という視点に立ち、松本の活動と日本の政策との関係を検討する上、松本の思想面における特徴を提示する。松本の活動は日本の政策と常に一致したのではなく、対立したのでもなく、変化していたのである。満洲事変から日本敗戦まで、戦争の拡大につれ、彼は政策の批判者から政策の遂行者、協力者へとなった。戦後の松本は対米協調を日本外交の基軸とすることを支持しながら、国際文化交流活動を通じてより主体性のある、より広い空間のある日本外交の実現に努め、政府による外交を補足する色彩を強くもっていた。松本の思想面の特徴について、外交が内政と連動している視点、日本の島国根性を特に警戒する傾向、現実主義的国際政治観・外交観という三点は挙げられる上、彼の対米認識の変化を指摘する。   [主要参考文献] 『松本重治関係文書』、日本国立国会図書館憲政資料室所蔵 『高木八尺文庫』、東京大学アメリカ太平洋地域研究センター所蔵 アジア歴史資料センター 日本国会議事録 日本国立公文書館 Rockefeller Archive Center U.S. Declassified Documents Online British Foreign Office Files for Japan    ＊本論文は早稲田大学アジア太平洋研究科と北京大学国際関係学院との博士後期課程学生共同育成プログラム学位論文である。  

松本重治研究 -「世界の日本」をめぐる模索-

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Shigeharu Matsumoto : Incessant Quest for "Japan in the World"

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