早大学位記番号:新9196博士(人間科学)早稲田大

Kanekon Naoko

金今 直子

早稲田大学博士(人間科学)早大学位記番号:新9196doctoral thesi

Kanekon, Naoko

133662

金今, 直子

Waseda University Repository

- 1 - 2023年 1月10日  博士学位審査 論文審査報告書（課程内）  大学名 早稲田大学 研究科名 大学院人間科学研究科 申請者氏名 金今 直子 学位の種類 博士（人間科学） 論文題目（和文） 統合失調症患者の感情情報の評価と特徴分析に基づく精神科リハビリテーションへのICT利用に関する基礎的研究 論文題目（英文） A basic study on the ideal use of ICT for psychiatric rehabilitation based on the evaluation and feature analysis of emotional information of schizophrenia  公開審査会 実施年月日・時間 2022年12月 6日・13:00-14:00 実施場所 早稲田大学 所沢キャンパス 100号館 第一会議室  論文審査委員  所属・職位 氏名 学位（分野） 学位取得大学 専門分野 主査 早稲田大学・教授 松居 辰則 博士（理学） 早稲田大学 知識情報科学 副査 早稲田大学・教授 菊池 英明 博士（情報科学） 早稲田大学 言語情報科学 副査 早稲田大学・准教授 杉森 絵里子 博士（教育学） 京都大学 認知心理学 副査 東京工業大学・教授 小池 康晴 博士（工学） 東京工業大学 認知神経科学  論文審査委員会は、金今直子氏による博士学位論文「統合失調症患者の感情情報の評価と特徴分析に基づく精神科リハビリテーションへのICT利用に関する基礎的研究」について公開審査会を開催し、以下の結論を得たので報告する。  公開審査会では、まず申請者から博士学位論文について30分間の発表があった。 1 公開審査会における質疑応答の概要 申請者の発表に引き続き、以下の質疑応答があった。 1.1 Q: 研究の総括においてドーパミンとセロトニンとを対比する理由は何か？ A: ドーパミンは注意やワーキングメモリ、セロトニンは知覚や聴覚の認知のモニタリングに作用している点で異なっていることを説明するために対比させた。 1.2 Q: このことと本研究との関係が不明確である。 A: 感情選択テストを用いた人またはロボットへの感情知覚の結果について、ドーパミンやセレトニンの働きとの関係から考察を行っている。この結果をバイオタイプとして分類することによってリハビリテーションに活用できることを期待している。 - 2 - 1.3 Q: 本研究の成果は感情知覚の訓練プログラム開発に適応可能か？ A: 現状の訓練では特定の画像や映像を用いて行っている。今後は患者の特性に応じた画像や映像の自動生成が期待される。そこでは、本研究の知見が活用できるものと考えている。また、統合失調症患者の感情知覚は、患者同士のコミュニティにいることが多いことなど環境的側面の影響が大きいため、訓練プログラムを開発して健常者を含むより多くの人とのインタラクションを行うことが感情知覚の訓練に効果的であることも期待される。 1.4 Q: 第Ⅱ部と第Ⅲ部との関係をより明確にする必要がある。 A: 精神科リハビリテーションの現場では、統合失調症患者とのインタラクションにはロボット等の非人間の介入による有効性が経験的に共有されていた。将来的には第Ⅱ部で得られた知見をロボットに実装し現場での利用を検討したい。本研究ではその基礎的な研究として統合失調症患者のロボットへの感情知覚に関する研究（第Ⅲ部）を行った。 1.5 Q: 本研究で用いたロボットの感情表出パターンの作成方法が不明である。 A: 先行知見を用いた。患者、健常者ともに感情の認識精度（50%程度）が高まるようなロボットの感情表出パターンの検討は今後の課題である。 1.6 コメント: 本研究の主軸は「（AI活用の前提となるような）数値化可能な側面ではなく敢えて数値化困難な側面に焦点を当ててその形式化を試みている」にあるはずである。この点をさらに主張するべきである。そのことによって、本研究における各実験のデザインや分析手法の妥当性も明確になるはずである。  2 公開審査会で出された修正要求の概要 2.1 博士学位論文に対して、以下の修正要求が出された。 2.1.1 中間発表会段階の研究3は学術論文として掲載されなかったため削除されたが、本論文の研究3の前提として重要であるため適切な場所に概要を記載すること。 2.1.2 質疑応答において指摘された点について明確になるように加筆修正を行うこと。 2.2 修正要求の各項目について、本論文最終版では以下の通りの修正が施され、修正要求を満たしていると判断された。 2.2.1 適切に加筆され本論文の研究3の位置づけが明確になった。 2.2.2 適切に加筆され質問事項や指摘事項に対しての説明が明確になった。  3 本論文の評価 3.1 本論文の研究目的の明確性・妥当性：本研究は申請者が統合失調症患者を対象にした精神科リハビリテーションに従事する作業療法士としての経験知の理論知化が研究目的の根底にある。その上で、統合失調症患者を対象にした精神科リハビリテーションへの ICT 利用に関する基礎的な知見を得ることを目的にしている。具体的には、１）病状評価の形式化に必要となる病状と関連した患者の顔情報を- 3 - 解明し、２）精神医療へのロボット利用において課題となる患者のロボットへの感情知覚の特徴抽出を試みることにあり、研究目的は明確である。また、統合失調症患者特有の治療の継続困難性を客観的データの提示によって改善しようとする研究は当該分野での重要課題であることからも本研究の目的は妥当である。 3.2 本論文の方法論（研究計画・分析方法等）の明確性・妥当性：本研究は 3 つの研究で構成されている。いずれの研究も各目的に即して適切に計画されており、分析方法も明確かつ妥当である。特に、統合失調症患者、リハビリテーションの医療従事者を被験者として実データを取得しており、少数サンプルながらも量的・質的分析法を適切に組み合わせて多面的な分析を行っている点は結果の信頼性を高めている。 なお、本論文で実施した実験の手続きについては、早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」（承認番号：2017-304、2019-366、2021-397）、医療法人社団東京愛成会高月病院の倫理審査委員会の承認を取得し、実験の前には参加者に対して実験内容についての十分な説明を行い、インフォームドコンセントが得られた上で実施したとしており、倫理的な配慮が十分になされていると評価した。 3.3 本論文の成果の明確性・妥当性：本研究の成果として以下のような知見を得ている。１）医療従事者は、患者の視線や顔の向き、表情の硬さなどの状態遷移や怒りの検出から精神症状を推定して病状評価を行っている、２）ロボットへの患者の感情知覚の特徴として、健常者に比べて正答率が有意に低く、人への感情知覚の正答率と相関がある。いずれも実験結果に基づき精緻に議論され、適応限界も明らかにしつつ過度な一般論への展開も行われていないため、結果の妥当性も高い。さらに、脳内のネットワークや情報処理機構と関連付けて多面的に考察しており、その説明の合理性が高いことから本研究で得られた知見の妥当性も高い。 3.4 本論文の独創性・新規性：本論文は、以下の点において独創的である。 3.4.1 精神科リハビリテーションへの ICT 利用を志向した研究は国内外でも未開拓であり、本研究は極めて独創性・新規性が高い。 3.4.2 統合失調症患者、精神科リハビリテーション現場の医療従事者を被験者としており、申請者の立場ならではの独自性の高い研究である。 3.4.3 統合失調症患者の平均顔の作成、意味構造分析の新しい可視化手法の提案など、研究の随所に申請者の独創性が反映されている。 3.4.4 精神科リハビリテーションにおける患者とのインタラクションにおいてはロボット等の非人間の介入の有効性が経験的に共有されていたが、そのことを実証的に示した点は当該分野におけるロボット利用の新規な基礎的知見を提供する。 3.4.5 感情知覚に関して、数値化可能な側面ではなく敢えて数値化困難な側面に焦点を当ててその形式化を試みており、昨今のデータ駆動型の AI研究では実現できない知見を得ている。 3.5 本論文の学術的意義・社会的意義：本論文は以下の点において学術的・社会的意義がある。 - 4 - 3.5.1 3 つの研究から得られた成果や知見を統合失調症の病態モデルや RDoC（Research Domain Criteria）と関連付けて総括し、実験結果の理論的説明を試みている。 3.5.2 統合失調症患者の表情からの感情推定に関して、AI を用いた結果と現場の医療従事者による結果の構造的な相違点を導いている。この点は現状での AIによる感情知覚の限界を示しており、今後の AIと人間との共生した精神科リハビリテーションの可能性に重要な知見を提供している。 3.5.3 ICT 利用で表出パターンや感情知覚の傾向から患者をバイオタイプとして分類し、最適化された治療の実現可能性を示唆している。 3.5.4 今後の精神科リハビリテーションにおける感情知覚の訓練プログラムの開発の可能性を示唆している。 3.6 本論文の人間科学に対する貢献：本論文は、以下の点において、人間科学に対する貢献がある。 3.6.1 情報科学、認知心理学、認知神経科学、精神科病理等の知見や研究方法論を学際的に結びつけてアプローチしており、人間科学研究の方法論性として参照性が高い。 3.6.2 申請者が医療従事者としての現場の経験知の理論知化に挑戦したものであり人間科学研究の意義としての参照性が高い。 3.6.3 感情知覚に関する ICTや AI利用の可能性と限界を示唆しており、技術と人間との共生という人間科学研究の重要課題としての参照性が高い。 3.7 不適切な引用の有無について：本論文について類似度を確認したうえで精査したところ、不適切な引用はないと判断した。  4 学位論文申請要件を満たす業績（予備審査で認められた業績）および本論文の内容（一部を含む）が掲載された主な学術論文・業績は、以下のとおりである。 ・金今, 大山, 田和辻, 松居: 意味構造分析を用いた統合失調症患者の顔映像に対する医療従事者の病状評価構造の形式化, 日本感性工学会論文誌, 17 巻 4 号, 381-393, 2018． ・金今, 大山, 清水, 坂東, 田和辻, 松居: ヒューマノイドロボットの目の動的色発光に対する統合失調症患者の感情知覚についての実験的検証, 日本感性工学会論文誌, 21 巻 1号, 123-133, 2022． ・Kanekon, Tawatsuji & Matsui: Characteristic Analysis of Facial Stiffness Using Average Faces of Schizophrenia, 9th International Conference on Kansei Engineering and Emotion Research 2022, Sept.8. SES C5, 2022.  5 結論 以上に鑑みて、申請者は、博士（人間科学）の学位を授与するに十分値するものと認める。 以上 

統合失調症患者の感情情報の評価と特徴分析に基づく精神科リハビリテーションへのICT利用に関する基礎的研究

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A basic study on the ideal use of ICT for psychiatric rehabilitation based on the evaluation and feature analysis of emotional information of schizophrenia

A basic study on the ideal use of ICT for psychiatric rehabilitation based on the evaluation and feature analysis of emotional information of schizophrenia

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