Hisae Ono

Hitomi Hirokawa-Ueda

Miyu Imai

Y. Sawamura

今井 みゆ

小野 久江

廣川（上田） ひとみ

澤村 勇希

Kwansei Gakuin University Repository

COVID-19流行時における大学生の抑うつ状態に影響する因子の検討著者 廣川（上田） ひとみ, 今井 みゆ, 澤村 勇希, 小野 久江雑誌名 関西学院大学心理科学研究巻 49ページ 1-4発行年 2023-03-16URL http://hdl.handle.net/10236/00030688新型コロナウイルス感染症（COVID-19）は，2019年12月に中国の武漢ではじめて報告された（重村他，2020）。その後，世界各地で感染が拡大し，日本では2020年 4月 7日に 7都府県，同月 16日には全都道府県に緊急事態宣言が発令され，2020年 4月に新年度を迎えた大学は，対面講義をオンライン講義へと切り替えるなどの対応を余儀なくされるなど，大学生を取り巻く教育環境は大きな変化を示した。COVID-19パンデミックにより，孤独感や抑うつ状態が高まったことが報告されており（藤本，2020），その一因として感染予防症対策の一つである外出自粛そのものが影響しているとの報告もある（和田，2020）。大学生においても，COVID-19流行により抑うつ状態が高まっていることが報告されており（Batra et al., 2021），その原因として COVID-19に対する恐怖や（Tillman et al.,2020），アルバイトなど就労機会を失うことによる収入減などの経済的問題（勝間，2020）が指摘されている。そこで，本研究では，COVID-19流行時おける大学生の抑うつ状態に対して，COVID-19に対する恐怖とCOVID-19感染予防対策の程度及び学生特有のストレス因子の影響について検討した。対象と方法2021年 6月から 7月にかけて，A 大学生を対象として Google フォームを用いたオンラインによる横断的調査を行った。オンライン上で，調査の手順と所要時間を説明するとともに，本研究の参加は任意であり，本研究に参加しないことや，途中でやめた場合であっても不利益を被ることはないこと，得られたデータは統計的に処理し，個人が特定されることはないことを説明した。その上で，本研究への参加の同意をオンライン上で示した場合にのみ，回答をしてもらった。評価方法日本語版 The Quick Inventory of Depressive Symptoma-tology Self Report（QIDS-J）：抑うつ状態を測定するために QIDS-J を用いた（藤澤他，2010）。各項目 0点から 3点となっており，得点が高いほど重症度が高いとされている。得点範囲は 0点から 48点である。QIDS-J では，正常は 0～5点とされているため（厚生労働省，2009），本研究では，QIDS-J 得点が 5点以下を抑うつ状態低群，6点以上を抑うつ状態高群とした。日 本 語 版 Fear of Coronavirus- 19 Scale（FCV-19S）：COVID-19に対する恐怖度を測定するために FCV-19SCOVID-19流行時における大学生の抑うつ状態に影響する因子の検討廣川（上田）ひとみ＊・今井 みゆ＊＊・澤村 勇希＊・小野 久江＊＊＊抄録：【背景と目的】新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の流行はメンタルヘルスに様々な影響を与えている。本研究では，COVID-19流行時における大学生の抑うつ状態に対する COVID-19関連事項および学生特有のストレス因子の影響を調べた。【対象と方法】A 大学の学生 272名を対象として横断調査研究を行った。抑うつ状態は日本語版 The Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Self Report（QIDS-J）で評価した。COVID-19への恐怖は日本語版 Fear of Coronavirus-19 Scale（FCV-19S），COVID-19感染予防対策は自作アンケート，学生特有のストレス因子は，Stressor Scale for College Student（SSCS）を用いて評価した。抑うつ状態の高低 2群を従属変数，COVID-19への恐怖心，COVID-19感染予防対策，及び SSCS における5ストレス因子の高低 2群を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。【結果】COVID-19への恐怖と COVID-19感染予防対策の程度は抑うつ状態に影響せず，SSCS の学業ストレス因子，アルバイトストレス因子が影響した。【考察と結語】COVID-19流行時においても，大学生の抑うつ状態には，COVID-19関連事項が直接抑うつに影響するのでなく，学業，アルバイトなどが影響していることが考えられた。キーワード：抑うつ状態，COVID-19，大学生，ストレス因子――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――＊関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程 2年＊＊関西学院大学文学部 2021年度卒業生＊＊＊関西学院大学文学部教授関西学院大学心理科学研究 Vol. 49 2023. 3 １を用いた（太刀川他，2020）。FCV-19S は 5件法で 7項目からなっている。各項目 1点から 5点となっており，総得点の範囲は 7点～35点である。得点が高いほど，COVID-19への恐怖が強いことを示す。本研究では，先行 研 究（Midorikawa et al. , 2021 ; Tsipropoulou et al. ,2021）から 16.5点を基準とし，16点以下を COVID-19に対する恐怖低群，17点以上を COVID-19に対する恐怖高群とした。COVID-19 感染予防対策アンケート：COVID-19感染予防対策（感染予防対策）をどの程度行っているかについては，自作アンケートを用いて測定した。アンケートは，厚生労働省の資料（厚生労働省，2021a, 2021b,2021c）を参考に，①換気の悪い密閉空間を避ける，②多くの人が密集している場所を避ける，③互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や共同行為を避ける，④外出時にマスクで鼻からあごまでを確実に覆い隙間がないようにつける，⑤こまめに石鹸で手を洗う，⑥こまめに手指を消毒する，⑦咳をする際にマスク，ティッシュ・ハンカチ，袖，肘の内側などを使って口や鼻をおさえる，の 7項目について尋ねた。回答方法は，その出来事に関して 1点（全く当てはまらない）から 4点（とてもあてはまる）とし，7項目の合計得点が高いほど，感染予防対策を行っているとした。本研究では合計得点が平均値よりも低い群を感染予防対策低群，高い群を感染予防対策高群とした。Stressor Scale for College Student（SSCS）：大学生の一般的なストレス因子を測定するために SSCS（菊島，2002）を用いた。SSCS は 38項目で構成され，家族ストレス 10項目，友人ストレス 11項目，学業ストレス 6項目，充実感の乏しさ 8項目，アルバイトストレス 3項目の 5下位尺度からなる。それぞれの項目について，出来事に関する経験頻度を 0点（なかった）から 2点（よくあった）の 3段階で，また不快度を 0点（全然気にならなかった）から 3点（非常に嫌だ）の 4段階で回答し，経験頻度の得点と不快度の得点を掛け合わせたものをストレス得点とし，ストレス得点をそれぞれの項目数で割ったものをストレス平均得点とする（岡安他，1992；嶋，1992）。ストレス平均得点が高いほどそのストレス因子が強いことを示す。また，ストレス基準値はストレス平均得点 3.9点と便宜的に設定されることから（菊島，2002），本研究では 3.9点以下をストレス低群，3.9点越えをストレス高群とした。評価項目抑うつ状態高低に対する，COVID-19に対する恐怖，感染予防対策の程度，SSCS の 5下位尺度ストレス（家族ストレス得点，友人ストレス得点，学業ストレス得点，充実感の乏しさ得点，アルバイトストレス得点）が及ぼす影響を調べた。統計解析方法抑うつ状態高低 2群を従属変数，COVID-19に対する恐怖高低 2群，感染予防対策高低 2群，COVID-19に対する恐怖高低 2群と感染予防対策高低 2群の交互作用項，SSCS の 5下位尺度ストレス度高低 2群，およびCOVID-19に対する恐怖高低 2群と SSCS の 5下位尺度ストレス度高低 2群の交互作用項，感染予防対策高低 2群と SSCS の 5下位尺度ストレス度高低 2群の交互作用項を独立変数とする変数増加法（尤度比）による二項ロジスティック回帰分析を行った。統計には SPSS Statis-tics 29 For Windows を使用した。有意確率は両側 5％とした。結 果対象者数は 272名（男性 61名，女性 210名，その他1名）で，年齢は 19.62±1.61（平均±標準偏差）であった。QIDS-J 得点は 6.34±4.81点あった。FCV-19S は16.26±4.52点，感染予防対策は 21.96±3.32点であった。SSCS の家族ストレス平均得点は 1.53±1.32点，友人ストレス平均得点は 1.58±1.22点，学業ストレス平均得点は 2.56±1.47点，充実感の乏しさ平均得点は 1.87±1.37点，アルバイトストレス平均得点は 0.95±1.27点であった。各項目における高低 2群の人数と割合を Table1に示す。変数増加法（尤度比）による二項ロジスティック回帰分析の結果を Table 2に示す。COVID-19恐怖と感染予防対策，およびこの 2要因を含む交互作用項は抑うつ状態の高低に影響しなかった。一方，ストレス因子の中で，学業ストレス高群は抑うつ状態高群に約 3倍なりやすく（OR: 2.971, 95％ CI: 1.540～5.731），アルバイトストレス高群は約 5.5倍なりやすいことが示された（OR:5.545, 95％ CI: 1.185～25.951）。Table 1 各項目における高低 2群の人数と割合低群 高群抑うつ状態COVID-19に対する恐怖COVID-19感染予防対策SSCS家族ストレス友人ストレス学業ストレス充実感の乏しさアルバイトストレス143（52.6％）152（55.9％）122（44.9％）259（95.2％）259（95.2％）217（79.8％）243（89.3％）257（94.5％）129（47.4％）120（44.1％）150（55.1％）13（ 4.8％）13（ 4.8％）55（20.2％）29（10.7％）15（ 5.5％）注）括弧内は行内での割合を示す。COVID-19：新型コロナウイルス感染症，SSCS: Stressor Scale forCollege Student関西学院大学心理科学研究２考 察COVID-19流行時（2021年 6月～7月）における大学生の抑うつ状態に対する COVID-19への恐怖，感染予防対策の程度，および学生特有のストレス因子の影響を検討した。結果として，COVID-19への恐怖や感染予防対策の程度は大学生の抑うつ状態に対して影響しないが，学業ストレス因子とアルバイトストレス因子が抑うつ状態を高めることが示された。対象学生の抑うつ状態は QIDS-J 得点の平均点 6.34が示すように軽度のうつ状態にとどまっており，COVID-19非流行時におけるにおける大学生の抑うつ状態と同等であった（塚原，2011）。FCV-19S の平均点は 17点を切り COVID-19への恐怖も高くなかった。感染予防対策の平均点は 22点に近く，それぞれの感染症対策項目で考えると 3点以上となり，適切に行われている場合が多くなっていた。また，すべてのストレス因子平均得点もストレス基準値を下回り，COVID-19流行時においても，対象学生のメンタルヘルスは悪化していないことが伺われた。今回の調査期間には，緊急事態宣言期間（4月 25日～6月 20日）及びまん延防止等重点措置期間（6月 21日～7月 11日）が含まれており，COVID-19の感染者数が増加していた期間であったが，大学では感染症対策を行いながら対面授業が行われていた時期でもあった。これより，この時期の大学生は感染症対策を行うことによって対面授業にも参加することが可能となり，非流行時と大差ない生活を送っていた可能性がある。また，最初の緊急事態宣言から 1年以上が経過している上に，大学生は COVID-19の重篤化や死亡リスクが少ないこともあり，COVID-19への恐怖は低いものであったと考えた。本研究の結果では，COVID-19への恐怖や感染予防対策は大学生の抑うつ状態に影響を示さず，学業とアルバイトに対するストレス因子が影響することが示された。ただし，COVID-19流行による学習方法の変更による学業への不安の増加や，アルバイト雇用の不安定さなどが考えられ，COVID-19流行が間接的に大学生の抑うつ状態へ影響している可能性も否定できないと考えた。今回の研究の結果で，学業ストレスの高い学生が約 20％も存在していたことから，COVID-19流行時でも学生が安心して学べる環境を作ることが，抑うつ状態の予防の観点からも重要であると考えられた。本研究の主たる限界点は 3つある。1つ目は，感染予防対策の程度を自作のアンケートで調べたため，感染予防対策の程度を適切に捉えられているかについて検討の余地があることである。2つ目は，研究参加者は研究参加に協力的な学生であったことから，抑うつ状態やストレス状態が低く示された可能性があることである。3つ目は，本研究は，COVID-19流行時の一時期における横断研究であり，様々な状況を呈する COVID-19の流行における検討ではないことである。今後は，評価方法の信頼性と妥当性をあげ，対象者の範囲と人数を増やし，縦断的調査研究などを行っていく必要があると考える。謝辞本論文は，2021年度卒業生である今井みゆの卒業研究データを COVID-19への恐怖と感染予防対策及び学生特有のストレス因子の観点から再解析をしてまとめなおしたものである。参考文献Batra, K., Sharma, M., Batra, R., Singh, T. P., & Schva-neveldt, N.（2021）. Assessing the Psychological Im-pact of COVID-19 among College Students: An Evi-dence of 15 Countries. Healthcare（Basel, Switzer-land）, 9, 222.https://doi.org/10.3390/healthcare9020222藤本 修（2020）．コロナ不安に向き合う 精神科医からのアドバイス 株式会社平凡社藤澤大介・中川敦夫・田島美幸・佐渡充洋・菊池俊暁・射場麻帆・渡辺義信・山口洋介・舳松克代・衛藤理沙・花岡素美・吉 村 公 雄・大 野 裕（2010）．日本語版自己記入式簡易抑うつ尺度（日本語版 QIDS-SR）の開発 ストレス科学，25, 43-52.勝間 靖（2020）．COVID-19の大学生への影響：日本における外国人学生を中心に 国際保健医療，35, 89-91. https://doi.org/10.11197/jaih.35.89Table 2 二項ロジスティック回帰分析の結果B SE p OR95％ CI下限 上限学業ストレス高低群アルバイトストレス高低群1.0891.713.335.787.001.0302.9715.5451.5401.1855.73125.951注）B：偏回帰係数，SE：標準誤差，p：有意確率，OR：オッズ比，95％ CI；95％信頼区間，モデル χ2検定：p＝.008, Hosmer-Lemeshow 検定：p＝.929，学業ストレス低群：0；高群：1，アルバイトストレス低群：0；高群：1３COVID-19流行時における大学生の抑うつ状態に影響する因子の検討菊島勝也（2002）．大学生用ストレッサー尺度の作成－ストレス，ソーシャルサポートとの関係から－愛知教育大学研究報告，51, 79-84.厚生労働省（2009）．QIDS-J 解説 厚生労働省 Re-trieved January 15, 2023 from https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf厚生労働省（2021 a）．新型 COVID-19に備えて 一人ひとりができる対策を知っておこう首相官邸Retrieved January 15, 2023 from https://www.kantei.go.jp /jp/headline/kansensho/coronavirus.html#c2厚生労働省（2021 b）．新型コロナウイルスに関するQ&A（一般の方向け）厚生労働省 RetrievedJanuary 15, 2023 from https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q3-1厚生労働省（2021 c）．感染対策の基礎知識－1 厚生労働省 Retrieved January 15, 2023 fromhttps://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdfMidorikawa, H., Aiba, M. , Lebowitz, A. , Taguchi, T. ,Shiratori, Y., Ogawa, T., Takahashi, A., Takahashi,S., Nemoto, K., Arai, T., & Tachikawa, H.（2021）.Confirming validity of The Fear of COVID-19 Scalein Japanese with a nationwide large-scale sample.PloS one, 16, e0246840.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0246840岡安孝弘・嶋田洋徳・丹羽洋子・森 俊夫・矢富尚美（1992）．中学生の学校ストレッサーの評価とストレス反応との関係 心理学研究，63, 310-318.https://doi.org/10.4992/jjpsy.63.310重村 淳・高橋 晶・大江美佐里・黒澤美枝（2020）．COVID-19（新型コロナウイルス感染症）が及ぼす心理社会的影響の理解にむけて 日本トラウマティック・ストレス学会誌，18, 1-9.嶋 信宏（1992）．大学生におけるソーシャルサポートの日常的ストレスに対する効果 社会心理学研究，7, 45-53.https://doi.org/10.14966/jssp.KJ00003725159高倉 実・崎原盛造・與古田孝夫（2000）．大学生の抑うつ症状に関連する要因についての短期的縦断研究 民族衛生，66, 109-121.https://doi.org/10.3861/jshhe.66.109太刀川弘和・根本清貴・田口高也・高橋あすみ・小川貴史・白鳥裕貴・高橋 晶（2020）．新型コロナウイルス恐怖尺度について 筑波大学 医学医療系 絵印象医学域 災害・地域精神医学 Re-trieved January 15, 2023 fromhttps://plaza.umin.ac.jp/̃dp 2012/data/fcv19sj.pdfTillman, G., March, E., Lavender, A. 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COVID-19流行時における大学生の抑うつ状態に影響する因子の検討

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