TAKAMURA, Yuta

Japanese

Okayama University Scientific Achievement Repository

 氏     名 授与した学位 専攻分野の名称 学位授与番号 学位授与の日付 学位授与の要件  学位論文の題目  論文審査委員           髙村 祐太 博 士 薬科学 博甲第 6827 号 令和 5年 3月 24 日 医歯薬学総合研究科 薬科学専攻 （学位規則第４条第１項該当） レチノイド X 受容体作動薬 NEt-3IB の炎症性腸疾患治療薬としての実用化に向けた研究 教  授  上田 真史 （主査） 教 授  好光 健彦  准教授  髙杉 展正  学位論文内容の要旨 レチノイド X受容体（RXR）は、ホモ二量体もしくは他の核内受容体とヘテロ二量体を形成し遺伝子発現を制御する核内受容体の 1つであり、糖脂質代謝、炎症、免疫応答など包括的な体内環境の改善に寄与する。RXR 作動薬である bexarotene は、リンパ腫の治療薬として用いられているほか、パーキンソン病や COVID-19 の治療薬へと展開するドラッグリポジショニング研究も行われてきた。しかしながら、bexarotene を含む既知の RXR 作動薬は、血中トリグリセリド上昇といった副作用が問題なっている。筆者の属する研究グループでは、これらの課題を解決する新たな RXR 作動薬として NEt-3IB を報告した。本化合物は bexarotene を凌駕する RXR 結合性および同程度の転写活性化能を有する。また、マウスへ経口投与した場合、全身血流に循環しにくく下部消化管に移行しやすい。このような特徴と RXR 作動薬の抗炎症性に注目し、筆者らは NEt-3IB の炎症性腸疾患モデル動物での治療効果を明らかとし、その腸炎治療薬としての医薬開発を進めている。本研究では、NEt-3IB の医薬開発に向けて解決すべき課題であった以下の３項目についてその解決に取り組んだ。①安定かつ大量に供給可能なプロセス合成法の開発を行った。②当該合成法により得られる無水結晶について経時的な重量増加が観察されたことから、その原因追求を施した。③RXR 作動薬で懸念される副作用の 1 つに催奇形性が挙げられる。炎症性腸疾患は、若年層に多く見られる疾患であることに鑑み、NEt-3IB の催奇形性評価とそのメカニズムについて、bexarotene との比較解析を行った。 ①既存の NEt-3IB の合成法にて使用する有機溶媒について、回収および再利用が可能な脂溶性エーテルに変換し、大量合成に適した再結晶による精製操作を検討した。その結果、高純度かつ大量の NEt-3IB合成を可能とするプロセス合成法の確立に成功した。本手法は、環境的な合成法の指標として知られるE-factor および製造コストの大幅な削減を達成した。②確立した上記合成法により得られた NEt-3IB の無水物は、密閉保存により経時的な重量増加が認められた。これが NEt-3IB への水和に起因し、プロセス合成法により得られる NEt-3IB には一水和物と無水物の 2つの結晶形の存在が明らかとなった。これらのうち、上部消化管での吸収を抑えることで、全身性の副作用を軽減と効率的な下部消化管への薬物送達が期待される一水和物としての利用が最適と判断された。③NEt-3IB の催奇形性について、ゼブラフィッシュ胚モデルおよび妊娠ラットを用いた評価により、bexarotene に比べた軽減が示された。NEt-3IB は bexarotene に比べ発生過程で重要なレチノイン酸受容体活性を低減しており、これが催奇形性軽減に寄与すると考えられた。また、薬物の胎仔移行性の観点からも、母体の全身血流へ移行しにくい一水和物として利用することが好ましいと判断された。 本研究により得られた成果は、NEt-3IB の医薬開発に貢献するとともに、新たな RXR 標的薬の研究開発に有益な知見を提供するものである。   論文審査結果の要旨 提出された学位論文初稿を基に、令和５年１月２５日に口頭試問を実施した。審査委員の専門性に基づいて種々質疑応答を行うとともに、初稿で修正すべき点（論文題目の再考、序論や考察の拡充、データ解釈の客観性の担保、誤字脱字の修正など）についても指摘した。質疑応答の過程で、主たる論文内容が申請者の研究成果であることが確認できた。再提出された改訂稿では、指摘事項に対する適切な修正がなされており、論文形態・書式についても問題ないものであった。また論文の内容は、NEt-3IB の新規プロセス合成法を確立した点、副作用低減に資する結晶形を同定した点、対照薬と比較して NEt-3IB の低催奇形性を実証した点で新規性・進歩性を有しており、NEt-3IB の実用化やレチノイド X受容体を標的とした創薬研究に貢献できると考えられた。これらの理由により、【合】と判断した。   

レチノイドX受容体作動薬NEt-3IBの炎症性腸疾患治療薬としての実用化に向けた研究

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