Mitsuhashi Miwa

TAKAGI Chika

三橋 美和

高城 智圭

application/pdfAN0016561X-20230109-117研究資料departmental bulletin pape

三橋, 美和

2004

ミツハシ, ミワ

1000060347474

60347474

高城, 智圭

7196

タカギ, チカ

Mitsuhashi, Miwa

5986

9000387479267

TAKAGI, Chika

7197

DWCLA Academic Repository

Ⅰ．はじめに　わが国の精神保健医療福祉は2004年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において「入院医療中心から地域生活中心へ」との基本方針が打ち出され、様々な地域移行・地域定着支援のための施策が展開されてきた（厚生労働省 2004）。さらに2017年からは精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加（就労）、地域の助け合い、教育が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことが新たな理念として明確にされた（厚生労働省 2017）。精神障害の中で統合失調症は全人口の１％と罹病率が高く、認知症とともに入院患者（１年以上）に占める割合も大きいため、統合失調症を有する人の退院移行支援と地域定着支援は重要な課題である。　地域での生活安定の基盤となるのは生活リズムを始めとする生活習慣の安定・健全化であるが、統合失調症はその疾病特性から睡眠障害、生体リズムの乱れや不健康な生活習慣に陥りやすい。不眠は慢性期や外来通院者でも40％に上るほか、睡眠随伴症状が多く、また日中の眠気が強く睡眠・覚醒リズムの乱れがある（井上 2010）。そして、統合失調症を持つ人にとって睡眠と生活リズムの乱れは、精神症状の憎悪因子となり得るなど病状の安定と密接に関連する（内山 2013）。これらの背景には、統合失調症による神経機構の異常や精神症状による二次的な不眠とともに、日中の活動性や社会性の低下及び不適切な睡眠衛生などがあると考えられており、陰性症状や薬物療法のために無気力で動作も不活発になりがちであること、コミュニケーション能力の障害のために社会性が低下しやすいことなど、身体的、精神的、社会的に不健康な生活習慣に陥りやすい（山田 2010）。その結果、疾患を多く有し（越野 2004）、平均寿命が短く心血管疾患による死亡率の高いこと（Tiihonen, 2009）、メタボリックシンドローム発症リスクが一般成人の数倍も高いこと（清水 2010）などが報告されている。すなわち、統合失調症を持つ人にとって生活リズムや生活習慣の乱れは病状の安定のみならず、生活習慣病をはじめとする身体的健康や精神的・社会的健康に影響を及ぼす要因でもある。　生活リズムや生活習慣に関する支援は、一般成人では認知行動療法などの非薬物療法により不眠が改善することや、薬物よりも長期に効果が持続することが確認されており研究資料統合失調症を有する人への多職種による睡眠と 生活リズムに関する支援教材開発のための基礎的研究１三　橋　美　和　　１高　城　智　圭１同志社女子大学・看護学部・看護学科・教授Development of an Educational Materials for Multi-professional Support about Sleep and Daily Rhythm among People with Schizophrenia: A Preliminary Study１MITSUHASHI Miwa　　１TAKAGI Chika１Department of Nursing, Faculty of Nursing, Doshisha Women’s College of Liberal Arts, Professorキーワード：統合失調症、睡眠と生活リズム、地域精神保健福祉117同志社女子大学　学術研究年報　第 73 巻　2022年してきた生活リズムや生活習慣のセルフマネジメントの支援を、保健医療はもちろん福祉分野の支援者も共に活用できるプログラム教材の開発に向けた基礎的資料を得ることを目的として、地域精神保健医療福祉にかかわる機関、特に福祉職が主となって支援を行っている地域生活支援センターと就労移行（継続）支援事業所を対象に統合失調症を有する人の生活習慣に関する支援の実態と課題に関する調査を実施した。本報告では、主として就労移行（継続）支援事業所の調査結果を報告する。Ⅱ．研究方法１）対象及び方法　統合失調症を有する人の生活支援を行う機関として、地域生活支援センター２か所、就労継続支援事業所１か所の計３ヶ所について、スタッフ各１名を対象に、睡眠と生活習慣に関する支援の実態と課題について聞き取り調査を実施した。実施時期は、2020年２～３月である。調査内容は、機関の概要、睡眠と生活リズムに関する支援の実態と課題である。調査は１機関１回で所要時間は30分～１時間程度であった。聞き取りの内容は調査担当者が記録するとともに、記録を補うため対象者の了承を得て IC レコーダーに録音した。　なお、本研究は同志社女子大学倫理審査の承認（2019-15）を得て実施した。Ⅲ．結果１．対象施設の概要　３事業所の概要は以下のとおりである。　地域生活支援センターＡ（以下「Ａ事業所」とする）は、精神科診療所併設型で、主たる利用者は精神障害者である。睡眠と生活リズムに関連するニーズは、昼夜逆転・起床困難が多く、発達障害の人に多い傾向である。統合失調症を有する人には病状悪化・不安定で関わることが多く、薬物療法で対応することが多い。スタッフは医療職が主で診療所を経験してからセンターに勤務するため、診療所の勤務で睡眠や生活リズムに関する知識、支援方法を習得しており、また随時診療所医師から助言を受けることができる。　地域生活支援センターＢ（以下「Ｂ事業所」とする）は、単独型で、スタッフは精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士等福祉職が主であり、主たる利用者は知的障害者である。睡眠と生活リズムに関連するニーズとしては、昼夜（Morin 1994, 1999）、我が国でもうつ病患者、高齢者、勤労者、児童・生徒に対する非薬物的な援助が積極的に進められている（Tanaka 2002、尾崎 2010、古谷ら 2011、上原 2008）。一方、統合失調症を有する人では薬物療法が主となっており、芳香療法や日中のエクササイズなどを試みた報告はいくつかあるが、対象は入院患者に限られており、対象者数も少ない（向井ら 2000、土居ら 2004、後藤ら 2006）。　そこで筆者らは地域で生活する統合失調症を有する人を対象に、睡眠衛生に着目した睡眠と生活リズムのセルフマネジメントを支援するプログラムの開発を試みた。これは生活習慣チェックと具体的な行動目標を立案・実施し、１～２週毎の面接で実践状況を確認し、継続を支援するものである。精神科デイケアで小グループを対象にプログラムを実施したところ、対象数は少ないが実行可能性と有効性についての示唆が得られた（三橋 2013）。また、これらの支援の必要性と有効性の量的な裏付けを得るために、対象を拡大して質問紙調査を実施した。その結果、「睡眠と生活リズム」は保健行動による影響が大きく精神機能の状態や服薬量からの影響は小さいこと、保健行動の実践は社会的・物理的環境から影響を受けており、非薬物的な援助が有効である可能性が示唆された。さらに、「睡眠と生活リズム」を整える保健行動をとることは身体的健康を高め、QOL にも影響していた（三橋 2016a、 2016b）。近年の研究において、統合失調症等精神疾患に併存する不眠に対する非薬物療法は十分に効果があり、疾患の一症状としてではなく独立した睡眠障害としてとらえ、薬物療法と補完させながら積極的にアプローチすることの重要性が確認されている（小鳥居 2018）。　精神障害は疾病と障害の二面を併せ持っており、疾病のコントロールと障害による生活のしづらさの両面への支援が必要であるため、保健・医療・福祉の機関が連携して支援を行う。主に入院による急性期の治療により病状が安定すると、地域での定着を支援する機関は、医療機関の外来、デイケア、訪問看護、訪問介護、地域生活支援センター、就労移行（継続）支援事業所等となり、治療を行う医療サービスから生活の安定と社会性の拡大・QOL の向上を図る福祉サービスに主体が移行していく。そのため福祉サービス機関を含めた多様な機関が睡眠衛生に着目した睡眠と生活リズムのセルフマネジメントを支援するプログラムを的確に行えるような教材や手引きの開発が必要であると考えた。　そこで本研究では、これまで研究者が看護職として実施118 同志社女子大学　学術研究年報　第 73 巻　2022年検索を行い、その人が取り入れやすい方法を一緒に探してみるなどを行っている。　事業所のプログラムとして時間を設定することは、スタッフの体制や作業との兼ね合いの問題から、就労訓練の作業と並行して実施することが難しく、個別の支援の中に取り入れる形の方が実施しやすい。Ⅳ．考察　地域で生活する統合失調症を有する人の生活支援を行う機関として、地域生活支援センター２ヶ所、就労継続支援事業所１ヶ所に聞き取り調査を実施したところ、地域生活支援センターは設立母体により主たる利用者が精神疾患を有する人であったり、知的障害者であったりするが、精神疾患、発達障害、知的障害を有する人にはいずれも睡眠や生活リズムの問題があり支援ニーズがあった。発達障害、知的障害においては睡眠リズムの障害が多く、QOL や社会生活維持に大きな影響を与えることが指摘されている（瀧井 2020）。著者らは精神疾患を有する人を対象としたプログラムの検討を行ってきたが、地域精神保健福祉機関の支援対象である発達障害、知的障害において睡眠と生活リズムに関する支援ニーズが大きいことが改めて確認された。　事業所のニーズとしては、医療職のスタッフは服薬支援や睡眠の生理に関する知識があり、知識提供のニーズは述べられなかったが、具体的にどのように支援するのかについて統一したものはなく個人に委ねられていた。医療職とはいえ、現在の日本において睡眠と生活リズムに関する基礎教育は十分ではない。また、医療においては薬剤が身近にあるゆえ過剰投与に陥りやすく、日中の眠気の増強などQOL を下げる結果となりがちであることが指摘されている（瀧井 2020）。精神疾患併存の睡眠障害であっても非薬物療法を十分に活用した支援が対象者の QOL を高め安全な治療であることを啓発する点において、医療スタッフのいる事業所に向けても支援教材を提供することは意義があると考える。　スタッフが福祉職あるいは非専門職であり、就労を視野に入れた日々の生活支援を行う就労支援事業所においては、睡眠と生活リズムに関する支援ニーズが高いことが示された。しかし、集団を対象としたプログラムとして実施するにはスタッフの体制や訓練としての作業との兼ね合いなど様々な課題があり、個別支援として実施できる教材開発の必要性も示された。　本調査は対象施設が限られているため、今後も調査を継逆転・起床困難が多い。通所系の福祉サービスを利用しながら睡眠・生活リズムを整え、社会性を身につけることにより社会的な活動の拡大を支援することが一般的で、利用開始時のサポートを行っているが、その際社会参加への動機づけが難しい対象者の支援に困難を感じている。　就労継続支援事業所（以下「Ｃ事業所」とする）の主たる利用者は精神障害者である。生活リズムの乱れや夜間の不眠が事業所利用に影響を与えたり、病状悪化のきっかけとなったりするなど睡眠と生活リズムに関する支援のニーズは高い。スタッフは福祉職または非専門職であるため、生活支援の情報元はインターネット等によることも多い。２．Ｃ事業所の状況　Ｃ事業所は、自立訓練（生活訓練）、就労継続支援Ｂ型の２つの機能をもつ多機能型の事業所で、利用者は約60名、年齢は20～70歳代で平均年齢は51歳、男女比は６：４である。NPO 法人を母体としており、スタッフ（支援員）のうち常勤５名は精神保健福祉士または社会福祉士の有資格者、非常勤８名は非専門職である。聞き取りの対象は施設長（支援員）で支援員としての経験は15年以上である。　Ｃ事業所利用者の支援ニーズは、働きたい、収入を得たい、パートナーが欲しいなど様々であるが、その中で睡眠に関連する相談は最も件数が多い。利用者を病者（病気を持つ人）ではなく「生活者」としてとらえることを重要視する支援において、睡眠は生活に直結しているため相談として出されやすく、年齢に関係なく相談がある。また、利用者の体調や病状の変化、特に悪化と直結している点からスタッフも重要な支援と考えているとのことであった。　内容は、眠れない、夜間に目が覚める、起床時の眠気が強く起きられなかったり、頭がぼぉっとしたりするなどであり、病状の変化や処方薬の変化、年齢（加齢）による睡眠状態の変化、生活リズムの乱れによるものなど、様々な背景がある。　これらへの支援の現状としては、睡眠や生活リズムの乱れの理由を利用者が自分なりに分析した上での相談が多いため、訴えや考えをよく聞いて一緒に整理し、内容に応じた支援を行う。例えば、病状や服薬に関することは必要に応じて利用者が通院している医療機関のケースワーカーや主治医に連絡をとり、本人の訴えを伝えたり、客観的・専門的な情報・助言を得てフィードバックしたりするなど、本人の理解や対応のための支援を行う。もう少し一般的な生活リズムの改善等、例えば寝つきや起きづらさの改善に対しては、利用者の特性に合わせて一緒にインターネット119統合失調症を有する人への多職種による睡眠と生活リズムに関する支援教材開発のための基礎的研究向井登樹美他（2000）：精神科疾患患者に対する芳香作用の有効性、日本精神科看護学会誌、43（1）、130-2．尾崎章子（2010）：地域における睡眠の健康づくり―実践家と研究者が模索しながら生み出した睡眠に関する集団健康教育プログラムの開発プロセス―、CBPR研究会著、地域保健に活かす CBPR、120-31、東京：医歯薬出版株式会社．清水惠子（2010）：地域で生活する統合失調症患者のメタボリックシンドローム発症に関連する要因の検討、日本精神保健看護学雑誌、19（1）、44-54．瀧井稔他（2020）：精神疾患と睡眠障害、日本臨床、78（6）、76-82．Tanaka, H., et al. (2002): Short nap and exercise improve sleep quality and mental health in the elderly. Psychiatry and Clinical neuroscience, 56, 233-4.Tiihonen, J., et al. (2009): 11-year follow-up of mortality in patients with schizophrenia: a population-based cohort study (FIN11 study), Lancet, 374(9690), 620-7.内山直尚（2013）：精神疾患の治療過程における生活リズムの重要性、日本睡眠学会第38回定期学術集会抄録集、152．上原恵美（2008）：丹波市における睡眠を通じた健康づくり、地域保健、39（9）、34-7．山田尚登（2010）：精神疾患における睡眠・覚醒リズムの評価とその意義、精神神経学雑誌、112、928-32．続して実施し、ニーズの違いや支援機関の体制に応じたプログラムの形態、必要な教材、手引きについて引き続き検討を行いたい。　なお、本研究は、同志社女子大学科学研究費助成事業対象奨励金の助成を受けた。Ⅴ．文献土居慎太郎他（2004）：不眠傾向の統合失調症患者へのアロマテラピー、松山記念病院紀要、11、34-9．古谷由紀子他（2011）：睡眠を通じた地域の健康づくりの取り組み、保健師ジャーナル、67、599-602．後藤広行他（2006）：エクササイズがもたらす精神疾患患者への効果、日本看護学会論文集・精神看護、37、99-101．小鳥居望他（2018）：統合失調症維持期の睡眠障害への対応と注意点、臨床精神薬理、21、1051-9．厚生労働省（2004）：精神保健医療福祉の改革ビジョンhttps://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0902-1.html厚生労働省（2017）：精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築について　https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/chiikihoukatsu.html（2022年８月30日最終閲覧）越野義文（2004）：身体合併症、佐藤光源他、統合失調症ガイドライン、302-8、東京：医学書院．井上雄一（2010）：統合失調症の睡眠・生体リズム．Schizophrenia Frontier, 11(1), 23-8.Morin, C. M., et al. (1994): Nonpharmacological interventions for insomnia: a meta-analysis of treatment efficacy, American Journal of Psychiatry, 151, 1172-80.Morin, C. M., et al. (1999): Nonpharmacologic treatment of chronic insomnia. Sleep, 22, 1134-56.三橋美和他（2013）：精神疾患を持つ人の睡眠セルフマネジメントに向けた援助の試み、日本精神保健看護学会第23回学術集会・総会プログラム・抄録集、210-11．三橋美和他（2016a）：統合失調症をもち地域で生活する人の睡眠と生活リズムに関する保健行動とその関連要因、第75回日本公衆衛生学会総会．三橋美和他（2016b）：統合失調症をもち地域で生活する人の睡眠と生活リズムに影響する要因、日本睡眠学会第41回定期学術集会．120 同志社女子大学　学術研究年報　第 73 巻　2022年

Development of an Educational Materials for Multi-professional Support about Sleep and Daily Rhythm among People with Schizophrenia : A Preliminary Study

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統合失調症を有する人への多職種による睡眠と生活リズムに関する支援教材開発のための基礎的研究

統合失調症を有する人への多職種による睡眠と生活リズムに関する支援教材開発のための基礎的研究

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