Koji Takimoto

瀧本 幸司

Kwansei Gakuin University Repository

飛翔体を用いた黄道光の近赤外線偏光観測による惑星間塵の研究

NEAR-INFRARED POLARIZATION OF ZODIACAL LIGHTOBSERVED BY FLYING OBJECTS TO STUDYINTERPLANETARY DUST著者 瀧本 幸司URL http://hdl.handle.net/10236/00030385－ 1 －論 文 内 容 の 要 旨　太陽系の惑星間空間にはサブミクロンからミリメートルまでのさまざまな大きさをもつ固体微粒子，いわゆる惑星間塵が存在することが知られている．惑星間塵は太陽系の原初天体である彗星が太陽にあぶられ噴出する彗星塵や小惑星同士の衝突破砕で放出された塵，および銀河系の星間空間から流入した星間塵に起源をもつとされており，惑星間塵の物質組成や空間分布などから太陽系の形成と進化を解明する手がかりが得られる．惑星間塵を研究する重要な手法のひとつとして，太陽光の惑星間塵による散乱光，いわゆる黄道光の観測が挙げられるが，黄道光は微弱であることから信頼のおける観測はあまり多くなく，また技術的に成熟している可視光の観測がほとんどである．塵の物質組成や大きさなどの物理的性質を知るためには広い波長域での観測が重要であり，特に可視光から連続する波長0.8~5μm の近赤外線での観測は重要である．しかし近赤外線では地球大気放射が極めて強く，大気圏外での観測の必要性が研究の障壁となり観測例が少ない原因となっている．また，塵の偏光散乱特性は物理的性質に関して分光散乱特性と独立な情報をもたらすためその重要性が認識されているが，技術的な難易度が高いため近赤外線での黄道光の偏光観測はアメリカの人工衛星 COBE による一例しかない．　論文提出者が所属する研究室では，NASA の観測ロケットを用いた近赤外線の宇宙背景放射を観測するCIBER と名付けた国際プロジェクトを進めてきた．銀河系外に起源をもつ宇宙背景放射を検出するには，手前にある黄道光を精度良く差引く必要があることから，４回の打上げ実験を行った CIBER の第３回実験では黄道光の高い偏光度を利用した差引きを試みた結果，大きな副産物として惑星間塵を詳細に研究しうる世界で初めての波長0.8~1.7μ m での偏光・分光観測データが得られた．前述の COBE 衛星による近赤外線３波長の測光バンドにおける全天偏光マップは，アーカイブデータとして公開されているが，不良なデータの混入が多くそのままでは正しい偏光度を示さないことから，初期解析に関する論文以降は手付かずの状態にあった．　論文提出者は，このような背景のもと，CIBER による黄道光の偏光・分光観測データと COBE 衛星の全天データを独自の手法で解析するとともに，さまざまな物質組成や大きさをもつ固体微粒子の光散乱特性のモデル計算を実施し，観測データと比較することで惑星間塵の物理的な性質に制限を与えるという研究課題氏 名学 位 の 専 攻分 野 の 名 称学 位 記 番 号学位授与の要件学位授与年月日学位論文題目論文審査委員 （主査）（副査）瀧　本　幸　司NEAR-INFRARED POLARIZATION OF ZODIACAL LIGHT OBSERVEDBY FLYING OBJECTS TO STUDY INTERPLANETARY DUST（飛翔体を用いた黄道光の近赤外線偏光観測による惑星間塵の研究）博 士（理学）甲理第214号（文部科学省への報告番号甲第776号）学位規則第４条第１項該当2022年３月16日瀬　田　益　道松　浦　周　二教 授教 授平　賀　純　子教 授大　坪　貴　文（自然科学研究機構国立天文台天文データセンター特任研究員）－ 2 －に取り組んだ．その結果，惑星間塵は光吸収の強い黒色物質からなり，数 μm 以上の大きな粒径をもつことが明らかになった．これは世界で初めての近赤外線における黄道光の偏光・分光観測から得られた惑星間塵に関する物理情報であり，未だによくわかっていない惑星間塵の起源を解明する緒となる成果である．　本論文は５章から成る．第１章は序論であり，本研究の背景として，黄道光の観測状況や光散乱特性を中心とする惑星間塵の性質について解説している．また，章末で第２章から第４章で述べる内容を要約している．　第２章では，論文提出者が主著者となり出版した学術論文の内容を中心とする CIBER による黄道光の偏光・分光観測について述べている．観測装置の構成や地上での偏光感度の較正手法を概観したあと，観測データの解析手法について述べ，さまざまな天域において黄道光の偏光度は有意な波長依存性を示さないことを明らかにしている．また，偏光度の太陽離角依存性を調べ，惑星間塵の分布や散乱位相関数を仮定した Mie理論を用いたモデル計算との比較を行なっている．　第３章では，COBE 衛星とそれによる全天偏光観測データを紹介した後，不良データを除外する新たな解析手法や得られた偏光度に対する系統誤差評価を述べている．第２章で述べた観測ではカバーできない広い天域の偏光データを追加し，第２章での惑星間塵の組成や粒径に関する結論の発展的検証に成功したことを述べている．　第４章では，第３章までに述べた観測結果とモデル計算との比較を基に惑星間塵の物質組成や粒径に関する観測的制限を得た成果について述べている．また，波長依存性をもたない偏光度という彗星塵の光散乱特性との類似性から惑星間塵の起源について議論している．章末では今後の研究課題を挙げるとともに将来の研究計画について展望を述べている．　第５章では本研究から得られた結果を要約している．論 文 審 査 結 果 の 要 旨　本論文は，近赤外線における黄道光の偏光度をロケットや人工衛星を用いて大気圏外から観測し黄道光の発生原因である惑星間塵の物理的性質に関する研究について述べたものである．本論文の新規性と重要な寄与をまとめると以下のようになる．（1）ロケット実験 CIBER により，世界で初めて近赤外線の黄道光の偏光・分光観測結果を得ることに成功し，可視〜近赤外域での黄道光偏光度が波長に依存しないことを明らかにした．（2）人工衛星 COBE の近赤外線全天偏光マップを独自の不良データ除去方法を用いて解析し，これまでになく広い天域にわたり黄道光の偏光度を測定することに成功した．また，その結果がロケット実験の観測結果と矛盾しないことを確認した．（3）さまざまな物理特性をもつ惑星間塵に対し Mie 理論を基にした光散乱のモデル計算を実施し，上記の観測データと比較することで惑星間塵が光吸収の強い黒色物質からなり粒径が数 μm 以上の大きな固体微粒子であるという制限を世界で初めて偏光観測から得た．これは惑星間塵の起源に関わる重要な情報である．　本論文の研究内容であるロケット実験の成果は，論文提出者を筆頭著者として，査読付国際専門誌であるAstrophysical Journal 誌に掲載済みである．論文提出者は本論文の研究成果について，筆頭著者として国際学会を含む８件の学会発表を行うとともに，共著者として国際学会を含む28件の学会発表を行っている．　審査委員会は，提出された論文の内容を充分に吟味し，さらに審査会において論文提出者との質疑応答を－ 3 －行うとともに博士学位審査論文発表会における発表技量も見極めた結果，著者が自立して研究活動を行うのに必要な研究能力およびその基礎となる学識を持っていると判断した．外国語能力については既に大学院外国語学力認定試験を合格しており，筆頭著者で英文論文が受理されていることより，十分であると判断した．　以上により，審査委員会は本論文提出者，瀧本幸司 氏が博士（理学）の学位を授与されるに足る十分な資格を有するものと認める．

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