2019年度海外農学実習（ドイツ）が9月15日から22日にかけて開催され，信州大学からは教員2名と学部学生5名が参加した。学生は現地研修のほか，事前学習と事後学習を履修した。現地では12の施設等を巡検したが，これらは森林，林業，教育の3分野に大別された。いずれの分野においても，ドイツ市民の持続可能性に対する意識が強く反映されていた。Article信州大学農学部AFC報告 18: 79-83(2020)departmental bulletin pape

城田, 徹央

宇津木, 佑夏

安部, 有佳子

小嶋, 宏亮

小栁津, 有香

山﨑, 千種

福山, 泰治郎

Japanese

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Article, Bull. Shinshu Univ. AFC No.18 p.79-p.83 March 2020 79　2019年度海外農学実習（ドイツ）の報告城田徹央₁・福山泰治郎₁・宇津木佑夏₂・小栁津有香₂・小嶋宏亮₂・安部有佳子₂・山﨑千種₂₁）　信州大学学術研究院農学系環境共生学分野₂）　信州大学農学部要　　約　2019年度海外農学実習（ドイツ）が₉月15日から22日にかけて開催され，信州大学からは教員₂名と学部学生₅名が参加した。学生は現地研修のほか，事前学習と事後学習を履修した。現地では12の施設等を巡検したが，これらは森林，林業，教育の₃分野に大別された。いずれの分野においても，ドイツ市民の持続可能性に対する意識が強く反映されていた。キーワード：海外農学実習，ドイツ，持続可能性は じ め に　信州大学農学部は，2014年より国内複数の大学が共催する日独林業サマースクールに参加した。ドイツ側はロッテンブルク林業大学がホスト校を勤め，日本側は連携協定を締結している大学が主体となる。サマースクールのスタイルは貸し切りバスを利用して南西部のバーデン＝ビュルテンブルク州内の森林関連施設を巡検するものである。信州大学の学生はサマースクール参加のほか，規定の事前学習および事後学習を完了することで「海外農学実習」の単位を取得できる。本稿では2019年度海外農学実習（ドイツ）の概要とその学習成果について報告する。訪問先の詳細な情報については参加学生による報告書1）を閲覧いただきたい。なお本報告に掲載した写真は同報告書1）より許可を得て転載したものである。年間スケジュール　2019年₄月19日および26日を，それぞれ第一次および第二次募集締め切りとした。この間，₄月22日および24日，昨年度の参加学生による海外農学実習（ドイツ）の紹介の機会を設けた。26日までに₃年生₃名，₂年生₂名から応募があった。日本学生支援機構（JASSO）奨学金の受給資格等と照合した結果，全員が要件を満たしていることから，参加者として確定した。この参加者を対象としたメーリングリストを開設し，連絡体制を構築した。　₅月から₇月にかけて，事前学習として参加学生によるドイツの森林・林業事情に関する資料収集，レポート作成および非公開プレゼンテーションを行った。並行して週₁回の実践的な英会話クラスを受講した。この英会話クラスは学内版 GP「2019年度農を基盤とした理工系グローバル人材養成のための英語習熟プログラム」により設置されたものである。加えて，危機管理対策として，予防接種ガイダンス，危機管理ガイダンス「治安編」，危機管理ガイダンス「衛生編」を受けた。出発前に海外渡航届（学内）の提出，外務省海外安全情報配信サービス「たびレジ」の登録を義務付けた。　₉月13日夜にフランクフルトに集合し，安否確認を行った。15日から22日にかけて日独林業サマースクールのプログラムを履修し，23日に現地解散とした。サマースクール期間の移動はすべて貸し切りバスによる移動によりトラブルを最小限に抑えた。また，宿泊先もフロイデンシュタットとシュトゥットガルトの₂箇所に限定した。帰国直後，メーリングリストを用いた報告によりすべての学生の帰学を確認した。　帰国後，教員・学生それぞれが終了報告書を作成し，農学部に提出した。事後学習として実習の報告書を作成した。さらに12月11日に国際農学概論受講生を対象にした報告会，12月18日に松本キャンパスにおける₁年次生を対象にした報告会を実施した。報告会は20分のプレゼンテーションと10分間の質疑応答から構成された。現地スケジュール　スケジュールと訪問地を以下に示した。数値は地図（図₁）の番号に該当する。₉月15日（日）フランクフルト駅前集合，貸し切り受付日　2019年12月22日受理日　2020年₂月₃日信州大学農学部 AFC 報告　第18号　（2020）80バスで宿泊先に移動₉月16日（月）林冠ウォーク体験⑴，国立公園自然保護区⑵および風倒観察地区⑶₉月17日（火）素足公園（Barfußpark Hallwangen）⑷，Echtle 製材所⑸₉月18日（水）自然公園⑹，景観タワー⑺，ロッテンブルク林業大学（8,9）₉月19日（木）森の家⑽，シュツットガルト市有林⑾₉月20日（金）Komatsu Forest 会社⑿，伐採現場⒀，ボーデン湖₉月21日（土）予備日，解散式₉月22日（日）シュツットガルト解散現地研修内容⑴　ドイツの森林と自然保護　ドイツは北緯40度から58度に位置するが，大西洋の海洋性気候の影響を受け，高緯度の割には比較的寒気が弱く，湿潤である。ドイツの国土面積は日本とほぼ同じであるが，森林面積は1,140万 ha（国土面積の32 %）と日本よりも少ない。主要な林冠木はナラ類（Quercus rubra, Q. petraea, Q.pyrenaica），ヨーロッパブナ（Fugus sylvestris），ドイツトウヒ（Picea abies）， ヨ ー ロ ッ パ モ ミ（Abies alba），ヨーロッパアカマツ（Pinus sylvestris）であり，一部にアメリカトガサワラ（Puseudotsuga menziesii）の人工林もある。針葉樹林と広葉樹林の割合を，それぞれ60 % と40 % とする統計もあるが，実際には両者が混在した針広混交林が数多く存在している（Prof. Hein　私信）。このうち純粋な針葉樹林は南部山岳地域に偏って分布している。今回の訪問先はその典型的な例であるシュバルツバルト周辺である。　₉月16日に訪問した Bad Wildbad の林冠ウォークは，針葉樹が₈割を占める混交林の中に高さ40 m の螺旋状のスロープが設置されている。森林の中をくぐりぬけるように上昇し，その上部から展望することができる人気施設である（図₂）。同日午後に訪問した国立公園の自然保護区と風倒被害地区も自然観察を目的としている。自然保護区では，フクロウの住み場所資源として利用されている枯死木などが紹介された。風倒地区では1999年に発生したサイクロン「ローター」による被害と，その後の図₁　訪問先の位置ドイツ南西部バーデン＝ビュルテンブルク州を訪問した。数値は本文中の訪問先に該当する。図₂　Bad Wildbad の林冠ウォークらせん状のスロープで高さ40 m の林冠部に車椅子でも達することができる。途中にはリスや小鳥の巣箱やアスレチックが設置されている。2019 年度海外農学実習（ドイツ）の報告 81森林回復を観察できる。リピーターも多く，回復過程を家族で学習しているケースもあるとのことである。　翌19日に訪問したシュツットガルト市有林では，キクイムシ被害への対応に追われていた。都市部に位置し，幹線道路に近いため，被害木は積極的に駆除される。被害木以外の木材生産も行うが，それをベンチや道の整備などレクレーションへの投資に用いるため，必ずしも黒字経営ではない。しかし，訪問する市民は多く，頻繁に利用されている。私たちの訪問時も老若男女を問わず，市民・観光客とすれ違った。⑵　ドイツの林業　ドイツの森林利用は生態系の過剰利用（overuse of ecosystem）に対する反動と反省でもある。中世には建材や家具材，薪として広葉樹林が，産業革命と共に針葉樹林が伐採され，それを補てんするように植林が行われてきた。そのため早い段階で持続可能性が市民に意識され，成長した分を伐採して植林する法正林思想や，変動する環境の中で森林を維持する恒続林思想が生まれ，定着してきた。　最近ではナラ類の輸入可能量が減少したことを受け，針葉樹林やブナ林からナラ類への樹種転換も促進されている。ナラ類には種子の豊凶があるため，豊作年に伐採を合せて行うことが望ましい。ただし，ナラ類の実生はシカの食害による減少が著しい。₉月18日に訪問したロッテンブルク林業大学では，集約的狩猟による駆除の効果を検証している。一方で，自然公園では鳥獣の生態に関する教材，鳥獣被害の制御の必要性を市民に理解してもらう教材が展示されている（図₃）。　₉月20日には林業機械メーカーである Komatsu Forest と，その製品を用いた伐採現場を訪問した（図₄）。ドイツの林業機械は，効率性だけではなく，労働者の安全性や環境負荷の軽減を重視している。そのような側面に目を向けることは，費用対効果では負の側面もあるが，逆に担保していかなけれ図₃　自然公園の跳躍力の展示動物の跳躍力が視覚化されている。砂場になっており実際に跳躍できる。図₄　ハーベスタによる伐採実演フォワーダーとの連携で効率的に伐採を進める様子を見学し，利用者との質疑応答の機会も得られた。図₅　素足公園五感で森林を学ぶスタイルはヨーロッパでは比較的主流である。ここでは足の裏で森林を感じること，林内の差異を感じることができる。図₆　森の家の年輪の展示砂を吹き付けることで年輪を強調し，視覚の弱い人々にも森林を体験してもらえるように工夫されている。信州大学農学部 AFC 報告　第18号　（2020）82ば今後持続可能な産業として生き延びられないという意識も強い。₉月17日に訪問した Echtle 製材所でも，同様のコンセプトをうかがい知ることができた。グレード化された製品管理は当然だが，チップ化された廃材によるエネルギー生産とその地域供給など再生可能エネルギーを主軸にした産業として市民権を有している。⑶　ドイツの森林教育　「ドイツの森林と自然保護」の項目で触れたように，ドイツ市民にとって森林は身近な存在であり，希求されるものでもある。そのようなドイツにおいても森林に対する教育は有益であり，必要だという。₉月17日に訪問した素足公園に代表されるように，森の幼稚園からの流れであろうが，五感を用いて森林を認識する手法がドイツでは好まれている（図₅）。一方，₉月19日に訪問した森の家で紹介されたように，ドイツでは様々な世代の市民が森林に入りやすい工夫がされていた。車椅子の休憩所が定期的に設置されて，老人も孫と一緒に森林に入ることができる。さらに視覚的弱者に対しても触れた感覚で森林を理解できる教材が多く設置されていた（図₆）。学 習 成 果　今回，参加学生にとっては初めてのドイツ訪問であった。ドイツの森林管理においては，生態系マネジメントの導入，作業者の安全性・快適性の確保，循環型エネルギー利用の促進，森林教育の高度化など極めて多面的な追求が行われており，新鮮な感覚を維持したまま現地の実習を終えることができた。特に森林保護，林業，森林教育など異なる方面の訪問先において，共通して「持続的開発」がキーワードとして挙げられていることは，参加学生にとって新鮮だったと感じられる。　もう一つ，多くの学生が共通して認識していたことは，ドイツでは市民と森林・林業との距離が近いということである。背景には歴史的なものや文化的なものもあるのかもしれない。日本でも森林・林業に対する市民の意識がもっと強くなったら，と期待を持つ学生，森林教育の重要性を改めて認識した学生が出てきたことは，成果の一つといえる。　また，現地研修に参加した学生には，「ドイツで日本を考える」という学習スタイルのものがいた。ドイツの森林・林業を学びつつ，日本の森林・林業と対比するというスタイルだ。さまざまな前提が異なるので，その方法にも限界はあるが，一定の学習効果は見込める。その一方で，事前学習で得た知識，感覚と対比する学習スタイルも認められた。その大半は，良い意味で期待が裏切られており，現地で学習したことをより新鮮なものとして受け止めていた。　彼らはドイツでさまざまな現象を体験してきたが，その場ですべてを消化できたわけではない。事後学習として報告書を作成し，プレゼンテーションの準備をする過程で伝えるべきことを選別することで，学んだことを整理してきた。これらの一連の学習が連携することで，単なる研修旅行としてだけではなくドイツと日本の森林・林業に関する学習成果が得られたと考えられる。謝　　　辞　本実習は農学部国際農学実習経費および「知の森」基金の支援を受けた。信州大学における実施に対しては，藤田智之農学部長，国際農学教育研究センターと森林・環境共生学コースの教職員のご理解，ご協力を得ることができた。₄月の説明会から，出発前のガイダンス，帰国後の報告書提出にいたるまで中村亜喜子コーデネーターの丁寧なご支援をいただいた。また，JASSO 奨学金支給手続きについては岩手大学の相川和慶氏にご担当いただいた。現地では岩手大学，鹿児島大学，岐阜県立森林文化アカデミー，島根大学，宮崎大学，宇都宮大学，愛媛大学の教員・学生の協力を得た。杉岡数幸氏，安井暁世氏のお二人には通訳兼ガイドとして同行していただき，数々の支援をいただいた。関係各位に改めて深く感謝する。引 用 文 献₁）城田徹央・福山泰治郎・宇津木佑夏・小栁津有香・小嶋宏亮・安部有佳子・山﨑千種（2020），　2019年度海外農学実習（ドイツ）実施報告書，　信州大学農学部　国際農学教育研究センター（編），　48　pp.2019 年度海外農学実習（ドイツ）の報告 83 A report of International Agricultural Experience in Germany, 2019Tetsuoh SHIROTA, Taijiro FUKUYAMA, Yuka UTSUGI, Yuka OYAIZU, Hiroaki KOJIMA,  Yukako ABE and Chigusa YAMAZAKI Faculty of Agriculture, Shinshu UniversitySummary The international agricultural experience in Germany was held from September 15 to 22 in 2019, with two faculty members and five undergraduate students from Shinshu University. The students took pre- and post-learning activities, in addition to the on-site practice. They visited 12 sites in south-western Germany and studied about three topics: forest ecosystem, forestry and forest education. In all topics, the German citizen's awareness of sustainability was strongly reflected.Keywords: International Agricultural Experience, Germany, sustainability

A report of International Agricultural Experience in Germany, 2019

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/record/21513/files/AFCbulletin18_10.pdf

2019年度海外農学実習（ドイツ）の報告

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