研究種目：若手研究(B)研究期間：2016～2018課題番号：16K17114研究代表者：青木　周平研究者番号：00584070Other2016～2018年度科学研究費助成事業（若手研究(B)）研究成果報告書　課題番号：16K17114　研究代表者：青木　周平research repor

青木, 周平

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Shinshu University Institutional Repository

信州大学・学術研究院社会科学系・准教授科学研究費助成事業　　研究成果報告書様　式　Ｃ－１９、Ｆ－１９－１、Ｚ－１９ （共通）機関番号：研究種目：課題番号：研究課題名（和文）研究代表者研究課題名（英文）交付決定額（研究期間全体）：（直接経費）１３６０１若手研究(B)2018～2016動学的一般均衡モデルによる経済格差拡大要因の解明と政策分析Dynamic General Equilibrium Analysis on the Cause of the Increase in Economic Inequality and the Policy Implications００５８４０７０研究者番号：青木　周平（AOKI, Shuhei）研究期間：１６Ｋ１７１１４年 月 日現在  元   ６ ２４円     2,400,000研究成果の概要（和文）：1970年代以降、先進諸国で、経済格差が拡大している事実が報告されるようになり、その原因を解明することが課題となっている。本研究では、政策の変化が格差の拡大に与えた影響に焦点をあてマクロ経済学的に分析を行った。主となる研究では、所得税などの税制の変化が人々の間の所得格差に影響を与える効果を分析するため、マクロ経済理論の構築と分析を行った。研究期間中に、数値計算方法の開発と開発した理論の現実妥当性の検討を行った。研究成果は英文学術誌に公刊した。研究成果の概要（英文）：Since the 1970s, the developed countries have experienced increases in income inequality. It becomes an important task to analyze the causes. In this research, I focus on how policy changes since the 1970s have contributed to the increase in income inequality. I constructed a macroeconomic model to analyze how the changes in tax rates such as the income tax affected income inequality. During the implementation period, I developed numerical computation methods of the model and verified the theoretical predictions of the model. The research outcomes were published in academic journals.研究分野： マクロ経済学キーワード： 格差　所得分配　経済政策  ３版令和研究成果の学術的意義や社会的意義1970年代以降、先進諸国で、経済格差が拡大していることは、各国で大きな政治問題となっている。格差を縮小させる効果的な政策を立案するためには、「なぜ格差が拡大したのか？」を分析する必要がある。これまで、ファクト・ファインディング的な研究は多かったが、その原因について、理論的・定量的に分析したものはあまりなかった。本研究では、1970年代以降のアメリカの上位1%シェアの上昇を、所得税などの税率の変化により理論的かつ定量的に説明できることを示した。様 式 Ｃ－１９、Ｆ－１９－１、Ｚ－１９、ＣＫ－１９（共通）  １． 研究開始当初の背景  1970 年代以降の先進諸国において、人々の間の所得の不平等が拡大している事実が、2000年代以降の研究によって明らかになってきている。その中で注目を浴びているものは、Pikettyや Saez らによる一連の研究である(その研究成果の概観として、Alvaredo et al., 2013, “The Top 1 Percent in International and Historical Perspective,” Journal of Economic Perspectives などを参照)。彼らは、最も豊かな層とそれ以外の人々の間の所得の不平等を測定する指標である上位 1%シェアを、各国について、第二次世界大戦前から現在までの時期について測定している。彼らは、1980 年代以降、先進諸国で上位 1%シェアが上昇傾向にあり、最も豊かな層とそれ以外の人々の間の所得の不平等が拡大傾向にあること、先進諸国の中で特にアメリカにおいて不平等の拡大が著しい事実を発見した。あわせて彼らは、先進諸国において、第二次世界大戦前後を境に、所得の不平等が平等化していることや、現在のアメリカの所得格差の状況が、戦前とほぼ同じ不平等のレベルであることなども確認している。 このように、不平等の実態に関する様々な事実が明らかになっている。PikettyやSaezらは、政策の変化が格差の拡大に与えた点を強調している。彼らは、1980 年代以降、アメリカなどで所得税の最高税率が低下したことが所得の不平等の拡大に寄与したことを強調している。しかし、これらの現象が起きた要因について理論的かつ定量的に分析した研究は 2010 年代頭までは乏しかった。特に、「なぜ、過去 30 年にわたり、一部の高所得者層とそれ以外の人々の経済格差が拡大しているのか」といった現実の問題を、経済モデルを用いて分析することに関しては、十分にはなされていなかった。高所得者層の所得分布はパレート分布といわれる格差の大きな特殊な分布に従うことが知られている。不平等を分析するためには、この事実と整合的な理論を構築する必要がある。 また、所得の不平等の拡大は、企業の CEO などの経営陣がストック・オプション等から莫大な収入を得るようになったことなどから生じている。彼らの収入は、彼らが経営している企業のパフォーマンスに強く連動することになっている。その企業のパフォーマンスはマクロ経済学的にいうと、その企業の生産性の変化に連動している。企業の生産性ショックは、ある主のランダム・ウォークに従うことが知られている(ジブラの法則と呼ばれている)。また、この生産性ショックにより生じる企業の規模の分布は、上述の所得分布の場合よりも格差の大きなパレート分布の一種に従うことが知られている(ジップの法則と呼ばれている)。所得の不平等は、こうした企業の生産面の構造と密接な関係がある。所得の不平等の拡大が生じた要因を検討する際には、家計の側だけでなく、企業の側も含めて分析する必要がある。このためには、経済全体を分析するモデルである、動学的一般均衡モデルを使って分析することが有用である。しかしながら、動学的一般均衡モデルを用いて所得の不平等の拡大を分析する研究は、2010年代頭までは乏しかった。  ２．研究の目的  本研究では、政策の変化が格差の拡大に与えた影響に焦点をあてマクロ経済学的に分析を行うことである。主となる研究では、1980 年代以降のアメリカの所得の不平等の拡大を理論的に説明可能かどうか分析した。具体的には、上述した家計側および企業側の事実と整合的な動学的一般均衡モデルを構築する。次に、その理論モデルが、重要な点においてアメリカ経済と整合的なモデルかどうかを確認する。そして、アメリカの所得の不平等の拡大の要因として、1970年代以降の所得税などの税率の変化を取り上げ、税率の変化により現実の所得の不平等拡大を説明できるかを、理論モデルを用いて検討する。 以上が主となる研究であるが、このほかの従となる研究では、「格差を広げる政策が日本の国立大学の研究活動にどのような影響を与えたか」を成長会計というマクロ経済学の分析手法を用いて分析した。  ３．研究の方法  研究の方法として、具体的には、 (1) 家計側および企業側の事実と整合的な動学的一般均衡モデルを構築する、(2) 理論値と現実のデータを比較するために、モデルを数値計算する、(3) 理論値と現実のデータを比較する、という方法を取った。以下で、それぞれを具体的にどのように実施したかを説明する。  ４．研究成果  (1) 家計側および企業側の事実と整合的な動学的一般均衡モデルを構築する 家計側については高所得者層の所得分布はパレート分布に従う事実と整合的であり、企業側については、ジブラの法則およびジップの法則と整合的な動学的一般均衡モデルを構築した。研究期間中は、特に企業側の理論モデルを構築した。企業の生産性ショックを単に外生的にランダム・ウォークに従うとしただけでは、ジブラの法則は成立するもののジップの法則は成立しない。ジブラの法則が成立するためには、追加の設定が必要である。本研究では、先行文献を参考に経済学的に不自然とならない仮定を検討し、各企業で最少の雇用者数(モデルでは 1人とした)が存在し、それ以下に雇用者数を下げることはできない、とする仮定を導入した。さらに、研究期間中に、各企業の付加価値は複数のプロダクト・ラインから生まれるという設定を考案した。理論モデルにおいては、企業の生産性ショックは、より正確には、各プロダクト・ラインへの生産性ショックとして記述される。この設定で、各企業はどのように最少の雇用者数を維持するか説明する。仮に、ある企業が保有するプロダクト・ラインに負の生産性ショックが起き(これは現実との対応で考えると、ある生産技術が時代遅れとなり採算が合わなくなり用いられなくなる、などのことを表していると解釈できる)、このままではその企業の雇用者数が 1人分を下回るような状況になったとする。このとき、最少の雇用者数を維持するために、その企業は、他の企業からプロダクト・ラインを追加で購入する、と仮定する。現実には、各企業で最少の雇用者数を下回るようになりそうな企業は退出を選択するかもしれない。しかし、企業の参入退出をモデルに導入するとモデルの性質が複雑になり、各企業の企業価値がその企業の生産性に完全に比例しなくなってしまう。各企業の企業価値がその企業の生産性に完全に比例するようにモデルを構築すると分析が容易になるため、本研究ではこのような設定を導入した。  (2)  理論値と現実のデータを比較するために、モデルを数値計算する アメリカにおいて、1970 年代以降、所得税などの税率の変化が少しずつ変化していくにつれて、GDP などのマクロ経済の変数および所得分布が毎年少しずつ変化した。その結果、所得分布の指標の 1 つである上位 1%シェアも変化した。税率の変化により現実の所得の不平等拡大を説明できるか動学的一般均衡モデルを用いて検討するためには、理論モデルの中で、マクロ経済の変数および所得分布が毎年少しずつ変化していく様を数値計算する必要がある。所得分布のある動学的一般均衡モデルを数値計算することには、技術的な難しさがあることが知られている。また、本研究では、既存研究の大部分が採用している離散時間の定式化を採用せず、連続時間の定式化を採用した。これは連続時間の定式化を採用することで、本研究で構築した理論モデルにおいて、「企業の生産性ショックがジブラの法則に従うと仮定することで、事実と同様に企業の規模分布がジップの法則に従い、家計の所得分布がパレート分布に従う」などの結果を解析的に示せる利点があるからである。一方で、既存研究で使われていない連続時間のモデル化を採用することで、数値計算の方法などを独自に検討する必要性も生じることになった。 本研究期間中には、数値計算のパートでは特に以下の 2 点を行った。1 つは、連続時間の理論モデルにおいて、所得税などの税率が現実のアメリカ経済と同様に変化していくときのマクロ経済の変化を、所得分布の状態を直接考慮することなく数値計算する方法を開発したことである。本研究は、理論モデルのマクロ経済の動学は、数本の所得分布の状態に依存せずマクロの変数のみが関係する常微分方程式で表せることを示した。この結果により、マクロ経済の動学の数値計算が容易になった。 もう 1 つが、所得分布が時間を通じて変化していく様を数値計算する手法を検討し開発したことである。本研究の理論モデルにおいて、所得分布は、マクロ経済の動学を数値計算した後で動学の情報を使って数値計算し求めることができる。本研究では、所得分布の変化をフォッカー・プランク方程式で表現した。そのように記述された所得分布全体を MATLAB の偏微分方程式ソルバー(pdepe 関数)を使って数値的に解く方法を開発した(図 1 参照)。        図 1 税率の変化による所得分布の確率密度関数の変化  (3) 理論値と現実のデータを比較する アメリカの所得の不平等の拡大の要因を、1970 年代以降の所得税などの税率の変化により説明できるか理論モデルを用いて検討するための前提条件として、その理論が現実のアメリカ経済をうまく記述できているかを確認・検証する必要がある。本研究のモデルは基本的には、マクロ経済モデルとして標準となっている新古典派成長モデルの一種である。GDP や資本の動きなどの部分は、他の新古典派成長モデルと理論的に同じであるため、それらの理論モデルと同程度に現実経済を説明できる。本研究では、他の理論モデルと共通しない理論的設定について、その理論的予測が現実と整合的かどうか検証した。 本研究では、「CEO などの企業の経営陣の資産が、企業の業績の変動によってどのように変化するか」に関する理論的予測と現実のアメリカ経済のおける測定値が整合的かどうかを検討した。1980 年代以降のアメリカにおいて、経営陣に対してストック・オプションなどのインセンティブ給が導入されるようになった。株価上昇によりインセンティブ給が増大したことが、CEOの収入増の原因となり、これが不平等の拡大の要因の 1つになったことが指摘されている。本研究のモデルでは、現実において「CEO がインセンティブ給としてのストック・オプションを保有し、そこからの収益の一部が所得税として課税される」ことを、「CEO は市場での価格よりも格安で自社株を保有し、そこからの収益の一部が所得税として課税される」こととしてモデル化している。本モデルにおいては、所得税の税率が下がったときに、CEO はより多く自社株を購入するようになることが、所得の不平等が増大する原因となっている。本モデルにおいては、CEO の資産がどの程度その企業の業績と連動するかが、モデルにおいて重要な要素となっている。そのため、確認を行い、「CEO などの企業の経営陣の資産が、企業の業績の変動によってどのように変化するか」に関する理論モデルの定量的予測が現実と整合的であることを確かめた。  上記(1)(2)(3)の研究成果の大部分は、Aoki and Nirei (2017)として公刊された(下記５．主な発表論文等‐〔雑誌論文〕‐(1)の論文)。  (4) 格差を広げる政策が日本の国立大学の研究活動にどのような影響を与えたか 「研究の目的」でも述べたように、従となる研究では、「研究資金の重点化（選択と集中）」と呼ばれる大学間の研究予算の格差を広げる政策が、日本の国立大学の研究活動にどのような影響を与えたかを分析した。1990 年代以降、競争的研究資金制度が強化されるようになり、一部の研究者に研究資金が集中するようになった。また、2004 年の国立大学法人化以降、国立大学運営費交付金は減額されるようになり、その結果、大学間で教員・学生数等に応じて平等に分配されていた研究資金は減額されることになった。一方で、日本における研究成果を測る指標である日本の論文数は、2000 年代以降伸び悩むようになっている。本研究では、「研究資金の重点化（選択と集中）」と日本の論文生産の減少の間にどのような関係があるのかをマクロ経済学の成長会計の手法を使い分析した研究成果を公刊した(Aoki and Kimura, 2017、下記５．主な発表論文等‐〔雑誌論文〕‐(2)の論文)。分析では、「研究資金の重点化（選択と集中）」による国立大学間の予算の偏りは、2000 年代には論文生産に大きな効果を与えなかったことと、論文生産に大きなマイナスの効果を与えたのは、研究者の研究時間が大きく減少したためだとする結果を示した。  ５．主な発表論文等  〔雑誌論文〕（計 2 件）  (1) Aoki, Shuhei and Makoto Nirei (2017) “Zipf ’s Law, Pareto’s Law, and the Evolution of Top Incomes in the United States,” American Economic Journal: Macroeconomics, Vol. 9, No. 3, pp. 36-71. (査読有)  (2) Aoki, Shuhei and Megumi Kimura (2017) “Allocation of Research Resources and Publication Productivity in Japan: A Growth Accounting Approach,” Public Policy Review, Vol.13, No.3, pp. 287-303. (査読無)  ６．研究組織 (1) 研究分担者 なし  (2) 研究協力者 なし  ※科研費による研究は、研究者の自覚と責任において実施するものです。そのため、研究の実施や研究成果の公表等については、国の要請等に基づくものではなく、その研究成果に関する見解や責任は、研究者個人に帰属されます。 

動学的一般均衡モデルによる経済格差拡大要因の解明と政策分析

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