Article信州大学農学部農場報告 5: 11-19(1990)departmental bulletin pape

南,  峰夫

Japanese

Shinshu University Institutional Repository

ネパール産 トウモロコシにおける支柱根の形成と系統間変異南 峰 夫信州大学農学部生物資源生態学講座Variation of brace root davelopment in Nepalese maize (Zea mays L.)Mineo MINAMI緒 昌イネ科作物は地下部の節近傍部から節根 (nodalroot)または冠板 (crownroot)と呼ばれる一次根を出して根系を形成する｡トウモロコシでは節の直上部,すなわち節問の下端部から一次根を出すが,しばしば地上部の節問下端部からも出根し,支柱根 (braceroot,proproot)と呼ばれ,地中根とともに根系を構成する｡支柱根の働きについては植物体を支えるとともに養水分の吸収を行う (浦野1963)とされてきたが,従来のトウモロコシの根に関する報告は地下部のみを扱ったものばかりで,支柱根に注目したものはほとんどみられず,その生理生態的性質については十分解明されてこなかった｡この理由の一つは支柱根形成についての大きな変異が得られなかったことであろう｡筆者は耐倒伏性育種の観点から支柱根に注目し,支柱根数と椴系の物理的強度の関係ならびに栽培条件による支柱根出根数の変化について検討してきた (南 ･俣野1985)0一方,支柱根は出穂期前後に出根,伸長して著しく太い二次根を多数分岐し (山崎 ･帰山1983),それらは最も新しく形成された若い根であることから,出穂後の登熟期における養水分吸収に重要な働きをしていることが指摘されている (ALDRICH etal.1975)｡したがって,支柱根の形成に関与する要因あるいは品種系統問差を明らかにしておくことが耐倒伏性だけでなく多収性育種の立場からも必要である｡本報では以上のような観点から支柱根の出根に大きな系統間変異の観察されたネパール産 トウモロコシを供試して,支柱根出根要素数の系統間差,ならびに個体内の部位別の支柱根数の変化と生育諸形質の関係を調査し,支柱根形成に関与する要因について考察した｡材料及び方法供試材料はIBPGR (国際植物遺伝資源理事会)が1985年にネパール国から収集したトウモロコシ86系統 (南ら1988)と,比較として日本在来系統14系統を用いた｡1986年5月15日に信州大学農学部附属農場において,1列 1系統20個体を播種した｡栽植密度はうね幅90m,株問20m (55,600本/ha)で,施肥量はN,P,Kそれぞれ120,120,90kg/haとし,その他の栽培管更別ま慣行法で行った｡なお培土は行わなかった.調査は10月下旬に行い,根系の記載には要素 (shootunit川田ら 1963)の概念を用いた｡この概念によれば,従来の第n節根は第n+1要素根に相当する｡-ll-支柱根は出根基部が地上部に露出しているものとし,1cm以上伸長したものを発達支柱根,長さが lc皿以下及び根原基のふくらみが肉眼で確認できるものを未発達根として計数 し,両者の合計を根原基形成数とした｡さらに発達支柱根のうち,伸長して地中まで到達して椴としての機能を果たしているものを有効支柱板,途中で生育を停止し,根の機能を果たしていないものを無効支柱根とした｡また,発達支柱根が1本以上ある要素を支柱根出根要素,･未発達支柱根だけの要素を未発達支柱根要素とした｡まず全系統について支柱根出根要素数,及び有効支柱根出根要素数を1系統7-16個体調査した｡次に支柱根の形成に差の観察された6系統を選び,各系統 5ないし6個体を掘 り取 り,地下部から地上部までの要素別の根原基形成数とその発達程度,ならびに節間長と節間中央部の梓直径 (長径,短径)を測定した｡結果及び考察支柱根出根要素数の系統間差ネパール産 トウモロコシ86系統の支柱根出根要素数は系統平均値で0-4.8の変異巾がみられ,系統間差が認められた (第 1表)｡また個体別にみた場合には最高で地上部第6要素,約90cmの高さからの支柱根の出板が観察された (第 1図)｡これらのうちで地表面に到達 し,地中に仲人した有効支柱根の出根要素は系統平均値では地上部第2要素が最高で,個体別では第3要素まで観察されたが,それ以上の要素では全て無効支柱根で,根としての摸能を果たしていなかった｡第 1図 ネパール産トウモロコシにおける支柱板形成の系統間変異-12-一方,日本産系統の出根要素数は0.1-1.7で,変異の幅,最高値ともにネパール産系統より小さかった｡しかし,日本産系統の供試系統数は少なく,絹糸抽出期まで日数をはじめ,生育諸形質の変異幅もネパール産系統より小さいことから,単純に比較することはできないと考えられる (第 1表)｡そこで支柱根出根要素数と生育諸形質の相関関係を検討した (第 2表)0ネパール産系統では支柱根出椴要素数と絹糸抽出期まで日数の間で高度に有意な正の相関関係が認められた｡また相互間及び絹糸抽出期と正の相関関係がみられた辞長,葉数,梓径,及び子実収量との問にも有意な正の相関が認められ,晩生長梓で真数の多い系統ほど支柱根出根要素数が多い傾向が認められた (第 2区l)0第1表 支柱坂出根要素数と詩形質の系統問変異 (系統平均値)支柱根出根要素数 辞長 梓 径 子実収量 絹 糸 期由 来 全要素 有効板1) cn 葉 数 皿 kg/ha まで日数平均 1.4 1.0 236. 19.8 17.0ネパール 最高 4.8 2.0 369 27.8 21.5最低 0 0 97 10.8 10.85430 929080 1251030 67平均 0.8 0.7 215 19.1 17.2日 本 最高 1.7 1.6 316 21.8 21.4-最低 0.1 0.1 150 13.4 10.86210 9310890 1022170 811)有効支柱根を持つ要素数第 2表 文柱取出板要素数および詩形質問の単相関係数1)形 質 支柱板要素数 辞 長 真 数 梓 径 子 実 収 量 絹糸日数支柱根要素数 一一一 0.722* … 0.793… 0.664書目 0.562… 0.813…# & 0.518 --1 0.856日' 0.849日 . 0.696日' 0.736日'* & 0.589' 0.679日 --1 0.732日' 0.729日' 0.938日'# 8 0.519 0.535' 0.290 0.639日' 0.615'日子実収量 0.450 0.779日 0.509 0.726日 --- 0.620日'絹糸まで日数 0.410 0.298 0.593■ -0.176 -0.0461)右上 :ネパール産 (n-86),左下 :日本産 (n-14)2)*,**,*** :5,1,0.1%水準で有意-13-支柱坂出根要素数432r-0.7748日Y-0.187Ⅹ-2.358一ノ○.;･｡tk...｡VOt<●+ネ/'-ル産○日本産JITo･-叩 2'D ' 3To葉 数第2図 葉数と支柱取出板要素数と関係藤井 ･田中 (1959)はトウモロコシで2葉の出葉と1節からの出椴が同調して進む規則性を報告しており,晩生系統ほど乗数が多く,したがって出根要素数も多くなる｡しかし地下部出板要素数はほぼ一定であることから (第3図),上位出根要素は地上部に現れ,その結果として晩生系統はど支柱板出板要素数が多くなるものと推察される｡また,日本産系統ではネパール産系統と同様に支柱根出根要素数と生育諸形質との間に正の相関係数が得られたが,その係数は小さく,有意となったのは葉数だけであった｡これは供試系統の変異巾が小さかったことに起因すると考えられ,極早生から梅晩生系統まで供試系統を増やして再検討する必要があるが,葉数との間で有意な相関が認められたことは上述の推測を裏付けるものであろう｡以上のことから支柱根出根要素数は菓数 (全要素数),あるいは妻数を規定する絹糸抽出期まで日数により基本的に決定されていると考えられる｡地下部と地上部出根要素数の系統問変異ネパール産 トウモロコシは上述した様に支柱根出根要素数に大きな変異が観察されたが,莱統問差を解析して行くためには地下部と地上部の出梅要素数の関係を明らかにしておく必要がある｡そこで6系統について地下部と地上部の出根要素数の関係を検討した｡これら6系統の絹糸抽出期まで日数は95日から105日までの変異があり,個体内における根原基の形成は第8要素までから最高第15要素まで観察された｡しかし,地下部の要素数は大部分が7または8で,分散分析の結果,有意な系統問差は認められず (第3表),また系統内変異も小さく,ネパール産 トウモロコシの地中板要素数はほぼ一定と推測される (第 3図)｡ したがって,今後支柱板出板要素数の系統問差を論議する上で,地中根要素数との関係は考慮しなくてもよいと考えられる｡-14-第3表 ネパール産トウモロコシの出板要素数に関する分散分析表変 動 因 自 由 度平 均 平 方地中根要素数 支柱板要素数 全出板要素数系 統 5 0.945 9.906暮= 13.893…誤 差 28 0.440 0.865 1.2251)*** :0.1%水準で有意要素数313 338 346 348 360 391系 統 番 号第3図 地下部と地上部出椴要素数の系統問変異国中の縦線は標準偏差を示す他方,地上部の出椴要素数,すなわち支柱根出板要素数は1.2-4.8で,0.1%水準で有意な系統問差が認められた｡その結果として,全出板要素数も有意な系統間差が認められた (第3義)｡また,未発達椴 (板原基)だけを形成した要素数は0.3-1.5で,系統問差が見られたが,系統内変異が大きく,統計的に有意な差とならなかった｡個体内要素別の支柱根数の変化個体内では上位要素になるほど板原基数が多くなることが全個体で共通して認められた｡しかし,地上部要素の板原基形成数は系統内個体問で大きな変動が見られ,系統平均値として示すことは不適当と考えられた｡そこで,第4図に調査個体の具体例を示して,個体内要素別の変化について述べる｡-15-一･▲0 10 20 30 0 10 20 30支 柱 根 数第4匡Ⅰ板原基形成数と発達の個体内要素による変化要素順位は地表面から上に数えた系統346の個体5では地上部第7要素まで板原基の形成が観察され,根原基形成数は上位要素ほど多かった.そのうち第 1-4要素は全楓頁基が発達支柱根となったが,第5要素では伸長せずに未発達椴の状態でとどまるものが出現し,第6要素ではさらに発達支柱板が減少 し,第7要素では未発達支柱根のみとなり,発達支柱板数は第5要素で最高となった｡しかし有効支柱根は第 3要素までで,第4要素以上ではみられず,有効支柱根数は第3要素が最高であった｡ 391-2では地上部第5要素まで板原基の形成と発達支柱板がみられ,上位要素ほど根原基数は多かった｡しかし,その発達伸長は上位要素はど不良で,第4,5要素は未発達根が多く,発達支柱椴数は第3要素で最多となった｡また有効支柱板は第2要素まで観察されたが,第2要素の一部は無効支柱根となり,有効支柱椴数は第 1要素が最も多かった｡このように系統及び個体間で変動はあるが,楓京基形成数は地中から地上部までを通じて要素順位が高くなるほど多くなっていた (第4医l).一方,楓京基の発達は上位要素ほど悪く,6系統全個体の平均としてみると,地上部第 1,2要素で形成された板原基はそれぞれ95,80%が発達支柱板となり,その全部,または大部分が有効支柱根となるのに対し,第3要素では板原基の70%が発達支柱根となるが,有効支柱根は10%以下であった｡さらに第4要素以上の上位要素では発達支柱根の割合が減少し,伸長せずに未発達根の状態にとどまるものが大部分となり,第7要素まで未発達支柱根の形成が観察された (第5図)0-16-5要素順0 20 40 60 80 100比 率 (%)第5図 支柱根発達程度の要素による変化要素順位は地表面から上に数えたこれらの結果として,発達支柱根数はそれぞれの個体の最上位板原基形成要素の1ないし2つ下の要素で最多となり,有効支柱根は地上部第3要素以下でのみ認められた｡この要素別の発達支柱根数の変化は山崎 ･帰山 (1982),南 ･俣野 (1985)の報告と一致した｡支柱根数と梓形質の関係次に各要素における板原基形成数と辞形質の関係を検討すると,地下部の要素についてすでに報告されている,根数と辞直径,及び節間長との密接な関係 (MARTINandHERSHEY1935,山崎 ･帰山1982)が,地上部の要素においても認められ,各要素における板原基形成数と辞直径,節間長は対応した変化が観察された (第 6図)0一 ‥ ● ∴0 10 2t) 3D 0 IO 2EI 30 t) 10根原基形成数･梓径 (mm)･節間長 (cn)20 3t) 40第 6図 板原基形成数 (▲)と梓径 (■),節間長 (●)の個体内要素による変化要素順位は地表面から上に数えた-17-根原基数 21】10 1t】8 1000節問辞体積 (cnf)第7図 節間辞体積と板原基形成数の関係そこで,両形質から産出した節間梓体積 (-1/4 × 7X 梓長径 × 梓短径 ×節問長)と板原基形成数の関係を検討したところ,各系統内及び全系統の地下部,地上部を通じて,梶原基形成数と節聞梓体積の対数変換値の間に高度に有意な正の相関関係が認められ,各要素を構成する節間辞体積と根原基形成数の間に密接な関係があると考えられた (第 7図)0山崎 ･帰山 (1982)は主として地下部の観察から板と梓形質の関連を認め,要素の考え方を用いて両者の関係を説明している｡すなわち各要素を構成する器官である節問と根が相互に密接に関連を持って発育することによるものであり,本実験の結果はそれがさらに地上部の上位要素まで適用されることを示すものと考えられる｡また,系統内だけでなく系統間を通じて有意な相関関係が認められたことは興味深い｡結 論以上の結果を総括すると,支柱根出根要素数は葉数 (全要素数)により,また各要素における形成板瞭基数は節間梓体積により決定されると考えられ,ネパール産トウモロコシにおける支柱根形成の系統間変異は,出穂期とそれにともなう栄養生長量の大きな系統問変異に起因していた｡しかし,同じ葉数の系統間においても差が見られることから (第2図),これらとは別の支柱根形成を支配する遺伝的要因が存在する可能性も考えられる0また,上位要素の支柱根の伸長が低位要素にくらべて悪いこと,より上位の要素では板原基の形成さえも認められないことの原因として,上位要素における支柱板原基の分化と発達時期が,上位節間の急激な伸長及び生殖器官の発達時期と競合していることが考えられる｡さらに同一品種内でも栽培条件により支柱根数に差が観察されることから (南 ･俣野1985),その分化と発達は根原基分化時またはそれ以後の植物体の栄養生理学的条件により影響されると思われる｡今後これらの点について明らかにし,育種的,耕種的に支柱板の発達を制卸可能にすることが耐倒伏性だけでなく,収量の改善にも寄与するものと考えられる｡-18-摘 要1. トウモロコシの支柱板形成に関与する要因を明らかにし,育種的操作を行なうための基礎として,支柱根の多く観察されたネパール産 トウモロコシを供試して,支柱根出根要素数の系統間差,ならびに個体内要素別の支柱根数の変化と生育諸形質の関係を調査し,支柱根の分化と発達に関与する要因について考察した｡2.支柱根出根要素数には大きな系統間変異があり,絹糸抽出期まで日数,梓長,及び葉数と有意な正の相関関係が認められ,晩生長梓で葉数の多い系統ほど支柱根出梅要素数が多かった｡3.要素別の板原基形成数は地下部から地上部まで要素順位が高くなるにつれて多くなり,各要素の板原基形成数と節問梓体積の対数値の間に高度に有意な正の相関が認められた.しかし,上位要素ほど形成された板原基の発達が悪 く,未発達根の状態でとどまるものが多かった｡4.以上の結果から,支柱根出根要素数は葉数 (全要素数)により,また要素別の板原基形成数はその節問梓体積により決定され,その発達は根原基分化時,またはそれ以後の植物体の栄養生理学的条件により影響されると考えられた｡引 用 文 献1)ALDRICH,S.R‥W.0.SCOTT,andE.R.LENG 1975ModernCornproduction2ndedit.:5-7 A & L Publications,Ilinois.2)藤井義典･田中典幸 1959 とうもろこしの取における生育の規則性 日作紀28:217-2183)川田信一郎･山崎耕宇･石原 邦･芝山秀次郎･頼 光隆 1963 水稲における根群の形態形成について,とくにその生育段階に着E]した場合の-例 日作紀32:163-1804)MARTIN,∫.N‥ andA.LHERSHEY 1935 0ntogenyofthemaizeplant.Theearlydiferentiationofstem androotstructuresandtheirmorphologicalrelationships.IowaStateColl.∫.S°i.9:489-5035)南 峰夫･俣野敏子 1985 トウモロコシの1次枚数の品種間差と栽培条件による変動について日作案己54別冊 1:224-2256) ･高田 健･橋口 靖･氏原時男 1988 ネパールにおけるトウモロコシの分化と適応3.諸形質の地域間差 育雑38別冊 1:442-4437)浦野啓司 1963 作物学捧系 第3編雑穀編Ⅰ トウモロコシ:1-3 養賢堂8)山崎耕宇･帰山長憲 1982 トウモロコシ根系を構成する1次根の外部形態およびその伸長方向日作案己51:58415909) ･日作案己52:59-641983 トウモロコシにおける1次根の直径と2次根の形成- 19-

Variation of brace root davelopment in Nepalese maize (Zea mays L.)

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