Article信州大学医学部附属病院看護研究集録 1988: 124-131 (1988)departmental bulletin pape

上嶋,  照子

並木,  奈緒美

中村,  君枝

久保田,  千雪

五十嵐,  すみ子

北澤,  志珠子

坂井,  和代

宮沢,  幾美

小林,  直美

後藤,  美加

柗沢,  咲子

百瀬,  領子

矢ケ崎,  智子

石川,  節子

野口,  千里

鎌原,  圭子

降旗,  るみ子

Japanese

Shinshu University Institutional Repository

広範囲重症熱傷患者の自立への援助北 3 階 病 棟 : 発 表 者  後 藤 美 加矢ケ崎智子　中村君枝　降旗るみ子　鎌原圭子久保田千雪　坂井和代　野口千里　小林直美〓沢咲子　五十嵐すみ子　上嶋照子　宮沢幾美並木奈緒美　北澤志珠子　石川節子　百瀬領子Ⅰ はじめに近年熱傷治療の進歩により,重症熱傷患者の救命率は向上してきた｡ しかし我が国では熱傷面積70%以上の患者の救命率は極めて低く,Ⅲ度90%以上の受傷者の救命の報告はない｡又救命できた場合も療病拘桁のため日常生活さえ国華と考えられている｡そこで急性期離脱後は,早期より拘縮予防,機能回復に対する治療,看護が重要となる｡今回私たちは熱傷面積94% (Ⅲ度86%)で救命できた症例を経験した｡当初は身動きひとつできない状態で, 日常生活の自立は不可能と思われたが, リ-ビリテーション部の方を含め,まず自分で食事ができることを目標に援助したところ,外泊できるまでに至ったので,ここに経過を報告する｡Ⅱ 研究期間昭和62年8月～12月Ⅲ 患者紹介及び経過氏名 :F 氏 (以下F氏とする)39才 男性職業 :調理師性格 :短気の面もあるが我慢強い受傷範囲 :94% (Ⅲ度86%) 【資料①〕経過 :昭和62年4月10日,灯油をかぶり受傷する｡某病院で初期治療をうけ4月25日当科へ転科となる｡救命と創面の被覆を目標に,エアベットの使用,計11回のデブリードメント,異種,他家,自家植皮術にて重篤な感染症もおこさず,8月には創面の被覆は,ほぼ完了した｡機能回復訓練 (以下リハビリとする)は,6月より手指 ･上下肢の屈曲運動,坐位訓練を徐々にすすめ,7月理学療法士 (以下PTとする)による訓練がはじまった｡Ⅳ 看護の実際<第 Ⅰ期 床上でのリハビリが中心の時期 (8月～10月)>1.患者の状態指先のわずかな力でナースコールを押すこと以外,何もできない状態だった08月に入りPT,-124-当科医師,整形外科医師にて今後の方針が話 し合われたが,ゴールの設定ができぬままリ-ビリは続けられた｡2.看護目標リ-ビリで回復した機能を日常生活に応用する｡1)物をもち口まで運ぶことができるようにする｡2)尖足を予防し下肢の筋力を増強する｡3)寝返りができるようにする｡4)自動坐位がとれるようにする｡3.実施及び結果四肢の関節運動,筋力強化運動,ストレッチ運動がPTにより継続されている｡1)について私達はPTによる訓練に加え,看護計画 〔資料㊥)にそって,肘関節,手関節の屈曲伸展運動,手浴,テニスボールによる掌握運動,また身近にある軽く小さな物 (ストロー ･スプーン･フォーク･コップetc)から持つ (指問にはさむ ･指にかける･握る)訓練を進めていった｡しかしなかなか口に指が届かず;マジック,ボールペンを指間にはさみ近づける訓練を行なったところ,9月中旬,拘縮の少ない左手でストローが使え末には手が口に届くようになった010月初めには,左手に持ったスプーンで食事がとれ中旬には右手でも食べられるようになった｡そしてなんとか歯磨きもできたのでさらに顔面清拭,胸腹帯の紐結び,新聞を読むことなど自分でできることを増やすよう援助した｡2)について右下肢は昼間箱けり運動,挙上運動などを看護計画 〔資料㊥〕にそい行なった.左足関節は軟骨破壊のためシーネ固定をしていたが,10月末 リ-ビリが開始されシーネ固定は夜のみとなった｡またPTによる訓練前にモビリゼ-ション (強直をおこした関節を動くようにする運動)を行ない疲労の軽減をはかった｡3)について一般ベットに移ってから裾創予防と圧迫による柊痛緩和のため2-3時間毎の体位変換を行なっていた｡9月下旬より腹茄,背筋の強化により反動をつけ側臥位になることができた｡そこで体位変換はなるべく自力で行なうようにしたところ,10月末にはス トレッチャーへの移動もできるようになった｡4)についてエアーベット使用時は専用バ ックレス トにて60分程半坐位がとれていたが,9月下旬一般ベットに移ると,圧迫による背部痛が強く5分程しか坐位はとれなかった｡ しかし,フローテンションマット,スポンジ枕,円座等のあてものを工夫する事により,徐々に時間を延長することができた｡10月下旬には毎食 1時間前後坐位が可能となったが,最終的には自動坐位はとれなかった｡<第Ⅱ期 離床をめざした時期 (11月～12月)1. 患者の状態予想以上に機能は回復し,.自分で体位変換,ギヤッチアップによる坐位が可能となり食事,歯-125-磨き,顔面清拭ができた｡2.看護目標1)床上での動作をさらに拡大する｡2)離床に向けて訓練がスムーズにすすみ,車椅子移動ができるようにする｡3.実施及び結果1)について作業療法士 (以下OTとする)による訓練も開始され,12月には夜間装具で指の矯正を行なった｡私たちはPTの助言を得て,アームバンドによる上肢の運動プログラムを作成し進めるとともに,第 Ⅰ期で可能となった動作の他に新たな項目 (前頭部ブラッシング,電気カミソリによるひげ剃りetc)を加え,チェックリス トを作り評価していった｡ 【資料④〕次第に字を書く,ハサミを使うなど細かい動作も可能となった｡ しかし排尿に関しては仰臥位,坐位ともに自分では,尿器を陰部に持っていくことはできなかった｡2)について11月に入り,車椅子に座る訓練が始まった｡短時間ではあるが,なんとか車椅子に座れるようになり,初めて家へ電話をかけられ患者にとって大きな励みとなった｡更に起立,歩行へと進めるために,理学療法室でチル トテーブルから訓練が開始された｡F氏は積極的に取り組んでいったが,プログラムが濃厚になると疲労感が増し将来への不安がつのってきた｡そこで私たちは,会話を多く持ちながら病室ではモビリゼーションに重点をおき,理学療法室での訓練にも積極的にかかわっていった｡そしてF氏は,車椅子への移動,ベットに腰掛けることなどがスムーズになり,歩行訓練も平行棒,歩行器,四点杖と進んだ｡外泊の話があがるとF氏はさらに意欲的に取り組み,歩行,車椅子移動もまだ訓練中の段階ではあったが,PTの制止を振り切り理学療法室から病室まで歩行し私たちを驚かせた｡そして12月末 (9泊10日)外泊が実現できた｡Ⅴ 評価 ･考案救命したもののどこまで機能回復が可能か全く予想がつかなかった｡せめて食事だけでも自分でできるようにと援助をはじめたが試行錯誤の連続だった｡11月に車椅子に座れた事がF氏にとって劇的な出来事であった｡初めてF氏を車椅子で詰所まで連れてきたとき｢これが詰所か｣としみじみ眺め,拘縮した手で看護婦と握手をかわし,ともに戻した｡ ｢この感激を家内に伝えたい｣ともらしたので公衆電話まで連れていくと,F氏は,感激で声をふるわせ話していた｡この日の出来事は私たちにも大きな期待をもたらし,又,F氏にも自信となり｢外泊できそうだね｣という言葉を口にするようになった｡F氏は予想以上に意欲的に取り組み看護計画が追い付かないほどの回復状態であった. しかし決してスムーズにいったわけではなく,圧迫部の痔痛,全身の掻揮感,食欲不振,旺章などの身体的問題,受傷のショック,将来への不安など数多くの精神的問題を持ちながらの訓練だった｡ここまで回復できたのは,① F氏が意欲的であったこと㊥ 家族が常に支えてくれたこと-126-㊥ 医療チーム (医師 ･PT･OT･ケースワーカー ･看護婦)が患者中心に協力しあい援助できたこと④ 回復した機能を日常生活に結び付け評価していったことI- -･-にあると考える｡今回の症例では,とくに患者が意欲的であったことが機能回復に大きくつながったと思われ,今後熱傷患者のリハビリにおいては,患者の意欲の向上を第 1目標に挙げて援助していくことが必要である｡Ⅵ 終わりに今回94%の熱傷患者の救命例を経験し,初めて熱傷患者のリ-ビリを考える機会となった｡まず自分で食事ができることを目標に援助 したところ,患者の積極的姿勢により歩行できるまで回復した｡今後はこの経験を生かしながら早期よりリ-ビリを念頭においた看護を目指していきたい｡この研究にあたり御指導ど協力下さいました皆様方に深く感謝いたします｡参考文献1)赤羽 睦,他 :重症熱傷患者の看護, 〔昭和60年度看護研究集録コ信州大学医学部付属病院看護部,1985,P81-92.2)小幡 好子,他 :広範囲熱傷後植皮術を受けた患者の看護,看護技術,31(9):65-71,1985.3)秀働由美子,他 :熱傷患者のリ-ビリテ-ションとその実際,看護技術,27(7):83-90,1981.4)杉本 ･大杉武彦 :熱傷,第一刷,南江堂,第10章一植皮術,第11章一リ-ビリテーション,1982,P483-526,527-534.5)千野 直- :熱傷のリ-ビリテ-ション,総合 リ-, 7(4):277-281,1979.6)岡谷 修,他 :熱傷患者の作業療法,総合リ-, 7(4):290-291,1979.7)神谷 啓子,他 :重症熱傷患者におけるリ-ビリテ-ションの看護,熱傷,9(2):92-96,1984.8)武政 誠一 :熱傷のリ-ビリテ-ション, ⊂第11回熱傷学会抄録コ, 1985,P31.-127-資料-①資料-㊨- 受傷範囲と深度 -- 病棟での訓練 -部 位 訓 練 内 容 (1日10回ずつ施行)手 関 節 背屈,掌屈,回施,掌握---ヰ 浴後行なう肘 関 節 屈伸上 肢 挙上,内転,外転.- --挙上は砂のうにて負荷する下 肢 挙上,開排,箱けり--同 上膝 関 節 屈伸-128-資料-㊥ 一 機能回復経過表一上 肢 の 動 作 下 肢 及 び 全 身 の 動 作 そ の 他8-月 上 (7月下旬 指先一口までの距離40α)指先～口までの距離20m下 第11回手術9月 上 バツ.クレスト挿入にて坐位下 ストローでうがい ギヤツジアップにて坐位5分 一般ベッドに移る左手指ロに届く 自力で側臥位になるベット柵に3分つかまっている10月 上 左手でポテトチップを食べるガーゼを使い顔を拭くスプーンを使い 事中 歯みがさ 寝がえり右手でガーゼを使い顔を拭くスプーンを使い食事 自分でストレッチャーへ移る下 雑誌を読む(ページをめくる)胸 .腹帯 ひも結び開始新聞 めくる ギヤツジアップ90 0坐位1時間 左足もリハビリ開始ll月 上 介助にて車イスに座る車イスに15分座るで散歩 18分 家へ電話する中 コップがしっかり持てる 車イスを自分で動かしてみる リハビリへおりる両手で歯みがきみそ汁のふたを自分でとる チルト開始下 前頭部ブラッシング 力ひもにて坐位 平行棒開始歯みがさ ローリング法 平行棒一往復電気カミソリにてひげそり 車イスからベッド-介助で移動12月 上 パジャマのボタンをかける ベッドサイドに足をたらし,ひもをリンゴの皮をむいて食べる 使って自分で起きる指矯正開始 リ-ビリテ-シヨン部～病室まで歩行 (歩行器にて)中 四点杖を使い自分で起立歩行 20m下 ひげをハサミでカット 312号室～汚物処理室へ歩行(歩行器にて)-1Z)-資料-@[ A D L チ ェ ッ ク◎ :スムーズにできる ○:何とかできる △ :できない月 / 日 ll/ 20 ll/ 21 ll/ 23歯みがさ .右手でローリング ◎ オーバーテーブルに準備し,すべて0Ⅹ･コップを持ちうがい洗 面頭部ブラッシング ○ 左手で頭部半分位迄届くが力が入 らない食事 .右手で摂取 ○ ◎･はしを使う △ フォーク使用 △衣類の着脱尿器操作 △ 陰部まで手が届かない △握力強化 ･テニスボール ○ 左は指先で握っている ○ 両方 lC0回行なう ◎ 積極的に施行手浴 .指数え ○ 右は手掌まで指先が付 く ○ 左母把がほとんど曲がらない･手関節屈伸運動 ○ 左 )右 屈曲)伸展が上まわる ○･じゃんけん ○ 指がしっかり伸びない ○ ○その他の手の運動箱けり (⊃ ○ かかとを付けると痛く,足祉のみ行なう ◎坐位 .力ひも △ 前腕にかけ300位上がる･肘関節腹筋を使ってス トレッチャーへの移動 ○評 価 ●テニスボールは終始 AM中は眠気が先立つ自由記録 持って行なっている ている･手浴 :肘関節の拘縮 ｢リ- ビリの休みの日が強く,すっぽり くらい一 日ゆっくりし手をつけられない●リ-ビリ中,ス トップウオッチの速押 しをしている たい ｣という発言あり-130-リ ス ト コ12/ 2 12/ 3 12/ 4◎ ◎ ヽ◎ ◎ 巨 でに削 されている◎ ◎○ うどん :フォークでなんとかとれる ◎ 柿 .リンゴの皮を包丁でむく△ △△ 上着のボタンかけはできるが他は介助を要す△ △ △◎○ 小指 .母指の拘縮強い○ ○ ○○手浴 :手をこすり,ガーゼで手を拭 く△ ◎力ひもを利用して上体 を起こ-し,下肢をベットサ イ ドより下ろし15分位坐位になる◎ ○･チル ト 300,600,800 ●砂のうにて上肢筋力upをは平行棒 2往復 かることを始める起立 2分 1枚-1.5kgへ後方のバランスがとりにくい ･鉛筆を持ち,字を書く･手指の拘縮予防の装具を着け ･歩行器にて20m-131-

広範囲重症熱傷患者の自立への援助

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/record/8773/files/Nurshing_Research19-15.pdf

広範囲重症熱傷患者の自立への援助

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