Article信州医学雑誌 39(5): 601-605(1991)journal articl

中辻,  良幸

中野,  善之

古田,  精市

吉沢,  要

堀米,  直人

大久保,  喜雄

曽根,  秀尚

梶川,  昌二

清沢,  研道

田中,  栄司

薄田,  誠一

袖山,  健

飯田,  太

Japanese

Shinshu University Institutional Repository

信州医誌，39（5）：601～605，1991B型肝硬変に合併した有石急性胆嚢炎手術後に発症した結核性腹膜炎の1例薄田誠一1）　袖山健1）　田中栄司1）吉沢要1）　中野善之1）　中辻良幸1）曽根秀尚1）　清沢研道1）　古田精市1）堀米直人2）　梶川昌二2）　飯田太2）大久保喜雄3）　　　　1）信州大学医学部第2内科学教室　　　　2）　信州大学医学部第2外科学教室　　　　3）信州大学医学部第1内科学教室A Case of Tuberculous Peritonitis after Cholecystectomy in a Patient with Hepatitis B Virus-Associated Liver CirrhosisSeiichi USUDA1), Takeshi SODEYAMA1), Eiji TANAKA1) Kaname YOSHIZAWA1), Yoshiyuki NAKANO1), Yoshiyuki NAKATUJI1) Hidenao SONE1), Kendo KIYOSAWA1), Seiichi FURUTA1) Naoto HORIGOME2), Shouji KAJIKAWA2), Futoshi IIDA2) and Yoshio OKUBO3)　　　　　　D砂α吻昭傭of　1漉maal　Medicinesi）3）and　Surg召7プ），　　　　　　　　　Shinshz‘砒勿ers吻School　q〆Medicine　　A37・year・old　man　suffered　from　tuberculous　peritonitis　after　cholecystectomy　for　acute　calculouscholecystitis　associated　with　type　B　liver　cirrhosis．　In　this　case，　we　diagnosed　tuberculous　peritonitis　not　byculture　of　the　ascitic且tlid，　but　by　performing　the　puri丘ed　protein　derivative　lymphQcyte　stimulation　test（PPD－LST）on　morlonuclear　cells　from　the　ascitic　fluid．　The　disease　was　then　successfully　treated　with　anti加ber－culous　agents．　　The　PPD－LST　appears　to　be　useful　for　diagnosing　tuberculous　peritonitis．Shinshu　Med．　f．，39’601－605，ヱ99ヱ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Received　for　publication　May　2，1991）Key　wordS　：tuberculous　peritonitis，　purified　protein　derivative　lymphocyte　stimulation　test（PPD－－LST）結核性腹膜炎，精製ッベルクリソによるリソパ球増殖反応　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水中に結核菌が証明されれば容易であるが，培養も陰　　　　　　　　1はじめに　　　　性の。とが多く，腹灘検ウ。て雛学的に診断腰す結核性腹膜炎は抗結核療法の進歩に伴い減少してい　　ることもある。今回我々は腹水中結核菌培養では診断る。多くの結核性腹膜炎は肺，腸結核既往者に続発す　　できず，腹水中単核球の精製ツベルクリγによるリソるが中には結核症の既往のない症例も多い。診断は腹　　パ球増殖反応（以下PPD－LSTと略す）により結核No，5，1991　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　601B型肝硬変に合併した結核性腹膜炎の1例表1　入院時検査成績　　　　　　　　　　　既往歴：機会飲酒の他，特記すべきことなし。ESR　　　　　　46mm／1hrUrinalysis　　　　　Prot（一）　Glu（一）　occult　blood（一）Stool　　　　occult　blood（一）PPD　skin　test　　　　12×13／18×20mmHematological　exaln．　RBC　　　380×104／mm3　Hb　　　　　　　　　　　9．Og／dl　Ht　　　　　　　30，9％　Plt　　　16．2×104／mm3WBC　　　7，800／mm3Serological　exam．　CRP　　　　　2．89mg／dl　HBsAg　　　　　　20．OCI　anti－HBs　　　　　O．6CI　anti－HBc　　　　　99．8％　HBeAg　　　　　　　3．8CI　anti・HBe　　　　　　32．0％　HBV－DNA－P　　120cpm　αFP　　　　＜5．Ong／ml　CEA　　　　　　1．1ng／ml　CA19－9　　　　11．3U／mlBiochemical　exam．　　　現病歴：1988年4月にHBe抗原陽性のB型慢性肝　TP　　　8．99／d1　　炎として経過観察されていた。1989年3月20日より　　Alb　　35．7％　　　38～39℃の発熱，同30日より右季肋部痛が出現し，　　α1　　　2，2％　　　当科外来受診，胆石合併急性胆嚢炎と診断され4月19　　α・　　　4・2％　　　日胆嚢摘除術を施行した。手術時の肝の肉眼所見は斑　　β　9・6％　縮肝で，生検肝組雛膿死後i生肝骸の像であ幽、1驚。舗後1・E9・・治療抵抗i生の発熱（37－・8・C・　TTT　　36．4KU　　　と腹水が出現してきたため5月17日当科転科となった。　T．Bil　1、lmg／dl　　　入院時現症：身長170cm，体重60kg，栄養やや不良。ALP　86mlU　脈拍90／鰹，血圧126／82㎜Hg，体温37．3℃，意識　γ’GTP　　17mlU　　　清明。軽度の貧血を認めるが黄疸なし。表在リソパ節盟11鼎は・虫知せ一・・’e胸部で・・ク・状血甑雄化乳房を認　LDH　　139U／dl　　めたが・心肺には異常なし・腹部は腹水により膨隆し・　ChE　O．32△pH　　　肝脾腫は不明，腹壁静脈の怒張なし。下腿浮腫なし。　T．Chol　68mg／dl　　神経学的異常所見なし。　BUN　　17mg／dl　　　入院時検査成績（表1）：赤沈は促進し，　CRP　2．89　C「　　0・7m9／dl　　mg／dl。血算では軽度の貧血を認めるカ㍉白血球増多ICG・・5 @35・8％　なし．生化学髄で、、。lb。mi。の低下と7－、1。b。lin　　　　　　　　　　　の上昇，GOT，　GPT，γ・GTP，　ALP，　ZTT，　TTT　　　　　　　　　　　の上昇，ChEの低値，　HBs抗原陽性，　HBe抗原陽性　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　でありB型肝硬変に特徴的な所見であった。また，ツ性腹膜炎と診断し，抗結核薬にて治癒せしめたB型肝　　ベルクリン反応は12×13㎜と陽性であった。硬変に合併した胆嚢摘除術後の結核性腹膜炎の1例を　　　腹部単純X線写真では腹水による両側の横隔膜挙上報告する。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とX線透過性の低下を認めるほか，異常な石灰化はな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かった。　　　　　　　　II症　　　例　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　腹部CT（図1）：大量の腹水，肝辺縁の凹凸不整　患　者：37歳男性，会社員。　　　　　　　　　　　　および脾腫を認めた。　主　訴：腹部膨満感。　　　　　　　　　　　　　　　　腹水の性状は表2に示したように滲出性，ブドウ糖　家族歴：姉にB型肝硬変あり，結核症者なし。　　　　84mg／dl，沈渣では白血球（リンパ球52％，好中球30図1　腹部CT　（1989年6月23日）602　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　信州医誌　Vo1．39薄田・袖山・田中ら表2　腹水検査所見　　　　　　　　　ため術創より滲出液が腹腔内に貯留していると考え，Appearance Ye11Qw。　Turbidity（十）Speci且c　grav・ 1，035　　　　，oroteln 5．79／d1LDH 90mIUSugar 841ng／dlADA 27。OIU／1CytologyLeukocyte　1，200／mm3@　Lymphocyte　predominance（52％）`typical　cell（一）BacteriologyMtuberculosis@　　　Acid・fast　smear（一）@　　　Cultures：4weeks（一）@　　　　　　　　　　　12weeks（一）nthers（一）　　　　　　　　Y，11。w。　T。，bidi、y（＋）　　　f・・。・emid・・　・pi…。1act・n・搬与した・腹水は一　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　旦減少傾向にあったが発熱は持続した。抗生剤投与に　　　　　　　　1’035　　　　　　　　　　　　　　　対しても熱型に変化はなく腹水も再び貯留傾向となっ　 　　　　　5・79／dl　　　　　　　　　　　　　た。高蛋白，リソパ球主体の腹水である点より，腹水　　　　　　　　90ml 　　　　　　　　　　　　　　の結核菌培養は陰性であったが，結核性腹膜炎を疑い，　　　　　　　　841ng／dl　　　　　　　　　　　　　8月21日腹水中単核球の精製ツベルクリン（PPD）に　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　よるリンパ球増殖反応（PPD－LST）を施行した（表　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　3）1）。腹水中単核球はPPD非添加群に比べ，添加群　　　　　　　　Leukocyte　1・200／Mm3　　　　　　をよ70倍以上の増殖反応を示し，宋梢血ではPPD非添　　　　　　　　　L・mph°cyte　p「ed°minance（52％）　加群砒．㍉添加eWe、1：約13倍の騨を示した．。の結　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　果より腹水中にはPPDに対して特異的に増殖反応を　　　　　　　　Mtuberculosis　　　　　　　　　　有する単核球が末梢血に比べ多量に存在することが証　　　　　　　 　Acld”fast　smea「（一）　　明＄、2。，結核鹸綴の可能齢教られt。。9月7　　　　　　　　 12we k ＿）　　　　　　日より，streptomycinとisoniazidを利尿剤と併用投　　　　　　　　Others（一）　　　　　　　　　　　　与とした。投与後20日目に腹水は消失し，ほぼ同時期　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　より解熱を認め，CRPは投与後50日目に1．Omg／dlと％）の増加があり腹膜炎の所見であった。細菌培養で　　低下した。は一般細菌，結核菌とも培養は陰性で，細胞診では　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　III考　　　察class　IIであり，腹膜炎の原因は決定できなかった。　入院後経過（図2）：肝硬変による門脈圧充進症の　　　結核性腹膜炎は従来，肺，腸，生殖器などの結核病　　　　　CEZ翻　　　　 Sr器臨1／冊ekP・ednl・。b・・5・ng［：：：：：ur＝＝コ　　　　　　＿　　　　　　　－Furosemrde　80m已＝＝＝：＝＿＿＿＿体温　39℃　　4／19胆蟹摘除術1geg年　　5月　　　6月　　　7月　　　8月　　　9月　　　10月　　　11月（rn臼／dl＞CFIP　8．04、0CRP図2　臨床経過No，　5，　1991　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　603B型肝硬変に念併した結核性腹膜炎の1例表3末融轍球と腹水蝉購のPPD・…対する　蝉爾ぼかりでなく肺結核・健瀦末梢／騨核駒　　リンパ球増殖反応　　　　　　　　　　　　　　反応に比較して明らかに高値を示した。この結果は　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　PPDに対し特異的に増殖する単核球が胸腔内に多くC・n…1（・・pm±SD）　PPD（△cpm±SD）　存在して、、る・とを示唆し，　PPD特異的リ・パ囎PBLi｝　615．0±153．7　　　7，946．3±1，464．8　　　殖反応は結核性胸膜炎の診断的手段として有用であるAE2，　　403・8±104．0　　30・910・0±4，359・7　　　としている。本症例ではPPD－LSTを腹水中単核球　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　を用いて施行し，末梢血単核球に比べ高値であること1儲隣肖血　　　　・購灘灘炎の可EEI生・・高い・考％，　＃・結核療　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　法を開始した。巣を醗巣として血行性，リ・パ融・徽菌がmams　治醐始後に自他覚症状の改善CRPの低下耀に達して発病するものが多いとされていた。しかし化　　め，本症例を結核性腹膜炎と診断した。学療法の進歩に伴い，今日では活動性の肺結核病巣や　　　腹部外科手術後に発病した結核性腹膜炎は瀬合ら7｝他の彬病巣舗する例は必ずしも多くett・く，寺崎　謂麟出術後醗生し燃核性腹膜炎の1例を報告ら2）によると肺野に結核性病変を認めた結核性腹膜炎　　しており，開腹時e：は結核性腹膜炎の所見はなかった。は23．6％にすぎない。また小西池ら3｝によると結核性　　本症例でも開腹時に結核性腹膜炎を疑わせる腹膜の所腹膜炎の他臓器結核との合併率は55．6％と約半数であ　　見がないこと，手術時の胆汁培養で結核菌が検出される。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ないこと，摘出した胆嚢壁および生検肝組織に肉芽腫　診断は腹膜生検による組織学的検索や腹水中での結　　を認めないことより手術以後の感染が疑われた。また核菌の証明が必要である。寺崎ら2｝によると昭和53年　　結核性腹膜炎は開腹にて良好な経過をとるという点かより昭和57年までの本邦の報告された結核性腹膜炎76　　らも術中，あるいは術後の感染が考えられた。例の確定診断の方法は腹腔鏡下腹膜生検46．1％，試験　　　　前述のごとく，結核性腹膜炎は近年まれな疾患であ開腹による腹膜生検26．3％，腹水培養5，3％，剖検後　　　る。確定診断には結核菌の証明あるいは腹膜生検によ診断2．6％の順になっている。また，小西池ら3）による　　る組織学的検索が必要であり，そのため診断は必ずしと全国の国立療養所における昭和53年から昭和57年ま　　も容易ではない。本症例のように基礎に肝硬変を有し，での結核性腹膜炎18例のうち組織診断を得たものは10　　術後の癒着が想定され，生検が困難と思われる症例に例，結核菌を証明したものは3例，残りの5例は臨床　　対して腹水中単核球PPD－LSTを施行することは結経過およびその他の所見からの診断であった。　　　　　核性腹膜炎を診断する上で有用と思われた。　ツベルクリソ反応は陽性率64．8％であり，陰性，偽　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　N　おわりに陽性もかなり存在することに注意をする必要があるZ）。　腹水adenosine　deaminase（ADA）活性の測定が結　　　B型肝硬変を合併し，胆嚢摘除術後に発症し，　PPD核性腹膜炎の診断上有用であるとの報告が多いが4，騙6》，　　－LSTにて診断した結核性腹膜炎の1例を報告した。本症例では腹水ADAは271U／1と軽度上昇を認めたの　　PPD－LSTは結核性腹膜炎の診断に有用であると考えみであった。このように結核性腹膜炎の診断は種々の　　　られた。検査を行っても確定診断が困難なことが多い。　Okuboら1）によると結核性胸膜炎の胸水中単核球の　　　本例は第86回日本内科学会信越地方会において発表PPDに対するリンパ球増殖反応は結核性胸膜炎宋梢　　した。文　　　献1）Okubo，　Y．，　Kusama，　S．　and　Yano，　A．：PPD・specific　proliferative　response　in　humans．　Microbio1　lmmunol，　　26：511－521，19822）寺崎　仁，大久保修一，大玉信一，吉沢靖之，森成　元，田中元一1腹膜生検が最初の診断根拠となった結　　核性胸・腹膜炎の1例，結核，60：371－377，19853）小西池穰一，海野雅澄，山本　暁：国立療養所における肺外結核の実態と化学療法．結核，61：243－252，　　1986604　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　信州医誌　Vol．39薄田・袖山・田中ら4）Martine仁z－Vazquez，　J・M．，　Ocana，　L　and　Ribera，　E．：Adenosine　deaminase　activity　in　the　diagnosis　of　　tuberculous　peritonitis．　Gut，27：1049－1053，19865）山中昭良，武永　強，山田愚弘，佐々部正孝，高清水一善，田村裕子，山本信彦，黒沢弘之進，藤本秀明、　　大草敏史，中村理恵子，久山　秦：アルコール性肝硬変に合併した結核性腹膜炎の1例．消化器内視鏡，　　32　：269－272，　19886）前田　亮，石田邦夫，山田博康，高橋浩一，妹尾秀隆，八田和彦，五明幸彦，石橋不可止，光山豊文，関口　　善孝，高科成良，岩本俊之：腹水中Adenosine　deaminase（ADA）活性上昇が診断上有用であった結核性腹　　膜炎の1例，広島医学，42：226－229，19897）瀬合秀昭，浜端寿美代，武田康代，中尾一清，松尾武文，宮崎吉平：胃癌摘出術後に発生した結核性腹膜炎　　の一例．神戸常磐短期大学紀要，4：111－116，1982　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（3，　5，　2　　受稿）No．　5．　1991　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　605

A Case of Tuberculous Peritonitis after Cholecystectomy in a Patient with Hepatitis B Virus-Associated Liver Cirrhosis

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/record/4595/files/Shinshu_med39-5-05.pdf

B型肝硬変に合併した有石急性胆囊炎手術後に発症した結核性腹膜炎の1例

B型肝硬変に合併した有石急性胆囊炎手術後に発症した結核性腹膜炎の1例

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