Article信州医学雑誌 30(2): 264-269(1982)journal articl

丸山,  雄造

五味,  英一

古川,  厚

吉村,  一彦

百瀬,  邦夫

緒方,  洪之

草間,  昌三

須沢,  博一

Japanese

Shinshu University Institutional Repository

信州医誌，30（2）：264～269，1982巨大皺襞形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例五味英一）　須沢博一1）　古川厚1）吉村一彦）　草間昌三1）　丸山雄造2）百瀬邦夫3）　緒方洪之4）　　　　　1）信州大学医学部第1内科学教室　　　　　2）信州大学附属病院中央検査部　　　　　3）市立大町総合病院内科　　　　　4）市立大町総合病院病理Gastric Malignant Lymphoma Showing Giant Rugal Pattern Eiichi GOMI1）, Hiroichi SUZAWA1）, Atsushi FURUKAWA1）Kazuh1ko YOSHIMURA1）, Shozo KUSAMA1）, Yuzo MARUYAMA2）Kunio MOMOSE3） and Hiroyuki OGATA4）1）Z）ePartment　o／lntereal　Medicine，　Shinsh”University　School　oアルtedicine2）Cen〃α」α伽げcσ♂Laboratories，　Shinshu　UniverSめ’・Uospital3）1）ePartment　o∫lnternal　M召dicine，　Ohmachiα砂Hospital4）Del）αアtm召フ¢’o／Pathology，　Ohmachiα砂∬032りital　　A68－year－01d　male　was　admitted　to　Ohmachi　City　Hospital　with　dizziness　as　the　chief　com．plaint．　Roentgellographic　and　endoscopic　study　of　the　stomach　revealed　arl　irregular　ulcer　andagranular　mucosal　pattern　in　the　posterior　wall　of　the　body．　Though　histological　study　of　thebiopsy　specimens　was　negative　for　malignancy，　he　was　diagnosed　as　having　a　malignant　Iymp－homa　or　a　gastric　cancer　of　Borrmann　type　IV．　Total　gastrectomy　was　performed　on　May　24，1979．　The　extirpated　stomach　revealed　enlargemellt　of　the　mucosal　folds　from　the　fornix　tothe　body　arld　a且ulcerative　lesion　in　the　posterior　wall　of　the　body．　Histologically　the　Iesionwas　diagnosed　as　malignant　Iymphoma　involving　the　serosa．　AII　dissected　lymph　nodes　containedmetastatic　cells．　Shinshu　Med．ノ．，80：264－269，ヱ982　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（Received　for　publication　December　7，1981）Key　word：gastric　malignant　lymphoma胃悪性リンパ腫　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　主訴：めまい。　　　　　　　　　　1　緒　　　言　　　　　　　　　　　家族歴：特記すべきことなし。　　　　　　　　　　i　胃悪性リンパ腫は比較的稀な疾患であるがJその臨　　　既往歴：24才時，黄疽。床診断の困難性を述べる報告は少なくない。最近，わ　　　現病歴：1979年5月13日，畑仕琳中に突然激しいめ　　…　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　トれわれは，術前診断に苦慮した巨大緻嚢型胃悪性リン　　まい，下腹部痛，冷汗が出現。某医受診し貧血を指摘　　1パ腫の1例を経験したので報告する。　　　　　　　　され，同年5月14日精査加療匹1的で市立大町総合病院　i　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　に入院した。　　　　　　　　　U症　例　　　　入騰朧・体榊等麟拍92整，血FLE・13・／・・m・i　患its　：　68才，男性。　　　　　　　　　　　　　　Hg，眼瞼糸吉膜に貧血を認める。眼球結膜黄染なし。264　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　信州医誌　Vol．30巨大搬襲形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例　fノ図1　立体充満像　　　胃体中部後壁大轡寄りに巨大な潰瘍（矢印）　　　と大轡の軽度伸展不良ならびにけば立ち像を　　　認める。図3　圧迫像　　　潰瘍辺縁は比較的整で，潰瘍周辺の粘膜ひだ　　　の集中，融合などはみられない。A・Bの2　　　枚の写真のごとく，潰瘍より上部の粘膜は粗　　　大願粒状を呈している。（矢印）図2　背臥位二重造影像　　　胃体中部後壁に2×4cmの巨大潰瘍を認め，　　　1司部位の大轡側に攣入を認める。No．2，1982　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　265五味・須沢・古川・吉村・草間・丸山・百瀬・緒方　　　　　　　　　　図4　胃内視鏡像体中部後壁に巨大潰瘍を認める。潰瘍底は浅くはみ出しをもち，淡いクリーム状の白苔を有している。周囲粘膜は平滑で軟らかい。　　　　　　　後壁を中心に一部前壁にも及ぶ・　　　　　　腫大した搬嚢を認め，その後壁　　　　　　　める。　　　　　　　・．麟・・三『1『1@　 　．」　踏・ 」　「．：噛噂　、蜩蜩蜩蜩蛛@ ?P難簗三，灘1鋸ゴξ鋸三・、三三灘継三三三轄、．．。．．、．．．謂鱒麟磯槻懸　　　　　　　　・鮒；：3：3三；：：ご∫5：灘　　’2灘置3嘗三：ご；°㌔：幽：’》：’：：：幽　　　　　　　　　　i：i：i：i：i：i：：：：：i：i：：跡｝：：：：：：：：i：i：i：：，：♪ン．．・　　　　　　　　．．’一：：：：：：漁撒：：掛漸敵：：：：：：：：：y・㌔゜・ン》：・㍉：・：’”七，ヒF：：計ひ；：：：：：：：：’　　　　難撚繍蕪翠・i・i・i雛難　灘　　　　　．．r　　　　．’．撚：：：難撚｛　　撒，澱灘騰欄＿「：：：：：：：：：：：：：：：：：：旅麟婁継籔灘’　・無灘・’ザ．　撒膚欺轄帯’　繍　　　　　総、 ’酬 ?E鐡塾　全層v筋層L筋層ｯii；i歪i漿膜難織iiiiiiiiiiiiii簿奪灘　灘講燃　陵　　　　　　　　　　、’，，”漿膜 …，……………………i…iiiiiiiiiii華卜懸、　’灘瀞噸……………………………i…i…i…il蓬難難灘・灘図6　構　　築　　図266　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　信州医誌　Vo1．30巨大搬漿形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例篠薦一　一・　置／’tt’t””蝋縄F了輔烈．一．・「獣織縦ge・澱冊『…漁・蕊　・色素量6．69／d1，白血球数5，300。便潜血反応陽性，尿異常なし。血液化学では総蛋白4．5g／d1（alb．54．7％，α191．4．6％，α2gl．　12．7％，　βgl．12．7％，γgl．15．3％），総ビリルビソ0．6mg／dl，　GOT　14mU／m1，　GPT13mU／ml，　AI－P　54mU／m1，　LDH　65mU／ml，総コレステロール182mg／dl，　BUN　14．5mg／dl，　Na145mEq／，　K　4．2mEq／1，　C1105mEq／1，　Fe　53．3γ／dl。血沈1時間82mm，　CRP　4（十）。胸部X線，心電図野常なし。　胃X線検査所見：立位充満像では図1の如く，胃体中部後壁大轡寄りに潰瘍の辺縁を認めるが（矢印），粘膜ひだの集中や中断は認めず，大攣の軽度の伸展不良とケバ立ち像がみられている。また噴門下部から潰瘍上縁にかけて，粘膜面は不整で粗大である。背臥位二重造影像では，図2の如く，体中部後壁に2×4cmの潰瘍を認め，第一斜位像では，潰瘍に一致して大攣側の攣入を認める。圧迫像では，図3の如く，潰瘍は不整形であるが，潰瘍周辺の粘膜ひだの腫大や融合像はみられない。潰瘍より上部の粘膜は粗大顯粒状を呈　　　　　　図7　病理組織学的所見（H．E染色）　　　　　　　　　A　弱拡大　B　強拡大異型性の著しくないリンパ球の一様なびまん性増殖が認められる。表在リンパ節を触知せず。胸部理学所見にて心尖部に　　　　内視鏡検査所見：前方視鏡にて観察した。図4の如収縮期雑音を聴取。呼吸音は正常。腹部は平坦，軟。　　　く，体中部後壁に巨大潰瘍を認め，潰瘍の辺縁にわず肝，脾は触知せず。神経学的に異常を認めない。　　　　かな周堤をみるも，周囲粘膜は平滑で反応性に乏しく，No．2，1982　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　267五味・須沢・古川・吉村・草間・丸山・百瀬・緒方びらんや炎症所見も認めない。むしろ光沢を帯び，軟　　極的に診断できなかった。内視鏡検査では，前方視鏡らかい印象を与えている。潰瘍底は浅く，はみだしを　　を使用したため，所見の全体像が十分につかめておらもち，淡いクリーム状の白苔を有している。　　　　　　ず，わずかな周堤やはみ出し像がみられたが診断の根　胃生検組織所見：生検は2度にわたり，潰瘍底及び　　拠に乏しい。本例にみられる潰瘍は，悪性リソパ腫の潰瘍内側より4ヵ所ずつ実施したが，いずれも好中球　　形態が大型潰瘍をとりまき花彩状であったことから・の散在する壊死組織のみで，表面の真菌が悪性腫瘍を　　中村ら9）が空間的な位置関係から，”潰瘍の悪性リソうかがわせるにすぎなかった。以上より，Borrmann　　パ腫化ttではなく，”悪性リンパ腫の潰瘍化”によるIV型胃癌や悪性リソパ腫も否定できないため，1979　　薯象の確立が高いと推測しているとおり，悪性リソバ年5月24日胃全摘術を施行した。　　　　　　　　腫が先に存在していて，二次的に発生したものである　切除胃肉眼所見：図5の如く，窓隆部から胃体中部　　　と考えられるが，潰瘍内側及び底部の2度にわたる生にかけて，後壁を中心に一部前壁に及ぶ，光沢の乏し　　検では壊死組織のみで確定診断に至らなかった。檜山い搬嚢の腫大が認められた。更に，肛門側に辺縁明瞭　　ら10）は，胃の悪性リンパ腫については，内視鏡診断にな2×4cmの潰瘍を認め，一見Borrmann　IV型胃　　比べ生検組織診断がすぐれているとしながらも，的中癌を疑わせる。図6は構築図である。　　　　　　　　　率は癌の場合より劣ると報告している。豊田ら11）も同　病理組織学的所見：異型性の著しくないリンパ球の　　様の見解を述べ，生検において確信に至らない原因は・一様なびまん性増殖が全層に及んでおり（図7），胃　　悪性リンパ腫では生検鉗子による細胞の挫滅が生じ易リンパ肉腫と診断した。郭清されたリンパ節は中等度　　いこと，潰瘍中心からの生検組織は，表層の浸出層おに腫大しており，腫瘍細胞の転移が認められた。　　　　よび壊死層の採取にとどまることが多いからで，むし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ろ潰瘍辺縁からの生検組織のほうが正診率が高いと指　　　　　　　　m考　察　　　　胤ている．本例でも溜齢、ら胃体中撒壁にか　胃肉腫が胃悪性腫瘍の中に占める頻度は，1～4％　　けて，腫瘍細胞が粘膜及び粘膜下組織に広範な浸潤を前後で1），その殆どが悪性リソパ腫と平滑筋肉腫であ　　示して，X線上異常なArea像が描出されているが，る。両者の比は，3：1ないし2：1である2）3）。胃悪　　生検施行時に潰瘍の周辺粘膜への留意が不足していた性リソパ腫は50才台に最も多く，男女別では男性がや　　ため有効な生検片が得られず，術前，正しい組織診断や多い4）。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　に至らなかったと思われる。　八尾ら5）は胃悪性リソパ腫252例について新たに検　　　従来胃悪｛生リンパ腫の臨床診断の困難性を述べる報討を加えたが，肉眼型別頻度は，切除標本の検討から，　告は多い10）　14）。しかし，胃病変が全身性悪性リンパ表層拡大型20．2％，巨大鐵嚢型4．4％，腫瘤形成型　　腫の部分症である場合があり，また癌に比し非手術例54．　0％，その他21．4％であり，それらを修飾する潰　　でも化学療法に反応する例が少なくないため，臨床的瘍形成は252例中229例（90．9％）にみられたとしてい　　に診断確定することは不可決である。それゆえ，胃悪る。本例は切除標本上，巨大搬嚢が認められたが，　　性リンパ腫の診断に際しては，X線，内視鏡所見を詳X線及び内視鏡像ではそれが目立っていない。この　　細に把握するとともに，生検施行時には，特に潰瘍辺discrepancyについては，悪性リソパ腫では，巨大　　縁に留意し採取部位を慎重に検討し，熟練した生検者搬嚢が細胞集団のみから成るため比較的柔かく，胃全　　が，よく切れる鉗子を用いて生検を実施することが肝体も収縮が少ないため6），空気量にょり腫大したFalte　　要であると考えられる。が消失してしまうためではないかと推測される。胃悪性リンパ腫の肉眼形態については，報告者により多少　　　　　　　　　　　IV　結　　　語異なるか，本例は中村7）の分類に従えば，びまん漫潤　　　術前診断が困難であった，巨大搬嚢型胃悪性リンパ型に，佐野8）の分類によれば，巨大鐵嚢型に属すると　　腫の1例を報告し，その肉眼型および診断に関して考思われる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　察を加え，特に生検施行上の間題点を強調した。　本例の主たるX線像は巨大潰瘍で，潰瘍底は浅く，辺縁の不整がわずかに悪性をうかがわせるものの，周　　　本論文の要旨は，1979年9月第15回日本消化器内視辺の粘膜ひだに，腫大，融合等を認めず，胃壁の伸展　　鏡学会甲信越地方会にて発表した。障害も軽度で，Borrlnann　IV型癌やリンパ肉腫と積268　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　信州医誌Vol．30巨大鐡髪形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　文　　　献　　　　　　　　　　　　　　　　　・1）響量造，卿映五・下聡和，　Ptl本浩，渡辺弘・胃肉腫の病理．胃と腸，5・31・－321，197・2）高掴夫：消化管の肉暉・P・・gresS・f・Dige・ti…E・d・…Pア，4・；9－10，19743）Y°un9・　J・F・：Malignant　t・m・rs・f・he　st・mach・・h・・th・h　carci・・m・．1・IH．L．B・ck。、（，d．），　　Gast「°ente「°1°gy　V・L　1…d・d・，　PP・8・2惑16，　W・B・Saund・rs，・Phil・d・1phia　and　L。。d。。，19634）叢、。、認’号1撒響子’燭量造：原発｛蝟肉麟視鏡謙病理・・・…e・s・・D・・・・・…5）八尾搬沖沢三郎沖村恭一・貼健夫，望膵規，渡辺英伸溜悪性リンパ腫の集計囎．胃と腸，15：　　906－908，　19806）灘英伸，岩下明徳，坂・洋司・胃のGi・・t・ugae一槻形態面から一．胃と腸，・5、519－529，198。7）中村恭　一一：胃癌の病理．p．217，金芳堂，京都，19728）佐野量造：胃疾患の臨床病理・PP．260－267，医学書院，棘，19769）中糠一翻轍，鯖腎二，琳国夫・靴管の悪｛生リ・櫃一41棚と文献膀察．．一胃と腸，8：　　177－186，　19731°）榊護・福地創太郎，糊孝規・胃悪性〃噸の内視鏡診断と生検．胃と腸，8、165．、76，197311）豊礁生，禰隆一，糊糊，富永浩平，五離秀，小西文焔立野一良ll，肝正実，灘慶一一）細＿　　郎，久f細芳郎，鯛明・胃悪性リソ・腫の生検診断．胃と腸，16・413－419，198112）耕実，三穂乙実・伊東保源浩滴橋齢細隆男，幸総男，田代直，会沢寛美献昌　　輔：非癌性胃腫癌一全国93主要医療施設からの集計的調査一．外科，29：112－133，196713）Nels°n・R・S・　and　L・n・a・F・L・・E・d・sc・py　i・th・di・g…i・・f　g・・t・i，　lymph。ma　a。d、a，．　　coma。　Amer　J　Gastroenterology，50：37－46，196814）春腓髄加藤久，坪内実，・＼木gepwa，　Pttt岡酵・伊藤健清抽利，久野骸滴騨子，　x＊　勲：胃肉腫一内視鏡診断を中心に一，胃と腸，5：287－299，1970　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（56．12．7　受稿）INo．2，1982　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　269

Gastric Malignant Lymphoma Showing Giant Rugal Pattern

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/record/5013/files/Shinshu_med30-2-11.pdf

巨大皺襞形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例

巨大皺襞形成がみられた胃悪性リンパ腫の1例

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