Sakoda, Kumiko

Yanamoto, Daichi

Japanese

Hiroshima University Institutional Repository

広島大学学術情報リポジトリHiroshima University Institutional RepositoryTitle「ICT利用の日本語教育を考える会」2021年度活動報告Author(s)迫田, 久美子; 柳本, 大地Citation広島大学留学生教育 , 26 : 86 - 89Issue Date2022-09-30DOISelf DOI10.15027/53192URLhttps://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00053192RightRelation「ICT利用の日本語教育を考える会」2021年度 活動報告  迫田久美子・柳本大地  【発会の経緯と趣旨】  「ICT利用の日本語教育を考える会」は、2017 年 11 月に発会した。この度、初めての活動報告を紹介するにあたり、経緯と趣旨およびこれまでの活動を報告し、2021 年度の活動をまとめる。  本会は、ICTを通して中四国の地域が繋がり、ネットワークを形成することで留学生への日本語教育の活性化、拡充化を図るという趣旨で立ち上がった。反転授業や CLIL などの新しい外国語指導法の登場、ITの発達による学習や指導のコンテンツが開発されていたことに刺激を受け、これからの日本語教育に ICTをいかに利用するかという課題を考える会として位置づけ、中四国の日本語教育関係者の授業の実践報告や、知識や技能を学ぶための研修を行ってきた。 2017 年の第一回の研究会では、大学や日本語学校の日本語教育関係者が集い、それぞれの大学の現状について情報交換を行い、当時はほとんど知られていなかった「ZOOM」についての講習が行われた。 2017 年秋の段階では、2020 年のコロナ禍は全くの想定外であったが、コロナ禍に対応する手段としての ICT利用は日本語教育のみならず、社会全体に大きな影響を及ぼしてきたが、当時は参加者のほとんどが ZOOMを初体験した。初回が、ZOOM学習であったことは本会の先見の明と言える。 【これまでの活動】  １年に１～２回のペースで中四国の日本語関係者（大学や日本語学校、地域の日本語教育に関わる教員、日本語教育を学んでいる大学院生など）を対象に活動を行ってきた。 表１ 2017年度～2020年度までの本会の活動履歴         （表作成 柳本） 回 開催年月日 セミナー名 講演者（セミナー開催時の所属） 第 １ 回 2017年 11月 12日 ICTセミナー 「ZOOMによる ICT利用の教育」 筒井洋一氏（京都精華大学） 大隅紀子氏（東京大学） 《内容》ZOOMを使って、オンラインによる活動を紹介。交通事情で、広大で参加できない研究会のメンバーにも、ZOOM を使ってセミナーに参加できる試みを実証し、これからの教育に ZOOM を活用する可能性を示した。 － 86 －第 ２ 回 2018年 6月 2日 ICTセミナー 「ICTを使った日本語指導の技術」 山田智久氏（北海道大学） 《内容》ZOOMを使った具体的な指導技術を北海道大学での実践を紹介し、ワークショップ形式で研修を行った。会話練習のための Breakout Sessionやホワイトボードの使い方など、さまざまな実践例を示し、ICT利用の可能性を学んだ。 第 ３ 回 2018年 8月 8日 ビジネス日本語セミナー 「日本企業で活躍できる留学生」 菅原裕子氏（日本語教育研究所） 武田聡子氏（日本語教育研究所） 《内容》日本での外国人就労者の急増に伴い、卒業や修了後、日本企業への就職を希望する留学生が多くなってきている。そこで、日本の企業や官公庁で求められる日本語力を養成するための指導を現場での実践例も含め、研修した。 第 ４ 回 2019年 2月 16日 漢字セミナー 「非漢字圏留学生のための漢字学習」 「筑波大学での漢字指導の試み」 ヴォロビヨワ・ガリーナ氏   （キルギス・ビシケク人文大学） 加納千恵子氏（元筑波大学） 魏 娜氏（国際交流基金） 《内容》多くの日本語学習者にとって、学習困難点は漢字表記である。日本語能力試験でも漢字語彙に強い漢字圏の留学生は容易に N1や N2を取得する。そこで、非漢字圏のための漢字指導を3名の講師に紹介していただき、書いて覚えさせるだけではない授業を学ぶ。 第 ５ 回 2019年 7月 27日 日本語教育セミナー 「社会文化学における日本語教育」 「わたしの ICT教育実践」 トムソ千尋氏（NSW大学・豪州） 古本裕美氏（長崎大学） 川崎千枝見氏（広島国際学院大学） 《内容》来日していた豪州 NSWUのトムソン氏を迎え、社会文化的アプローチの日本語教育の講演後、2名の講師から ICTを利用した日本語指導実践をシャドーイングや教室活動の実践者から具体事例を学ぶ。 第 ６ 回 2020年 9月 26日 「明日のための ICT講座」 倉本文子氏（カイ日本語スクール） 《内容》コロナ感染拡大により、2020年開始から多くの大学が ICTを利用したオンライン授業に切り替わった。5年前から ICT利用で実績の高い東京の日本語学校の講師を招き、学校体制における ICT利用の取り組みと具体例を学ぶ。 第 ７ 回 2021年 3月 13日 「オンライン授業の多様性と可能性」 荒見泰史氏（広島大学） 名塩征史氏（広島大学） 《内容》コロナ感染の収束が定まらず、多くの森戸国際の日本語授業がオンラインを使うことを余儀なくされた。現場教員の実践例を学ぶことで、個々の授業の効率の高い学習を目指すICT化の研修を行った。具体的には、講師の各大学の授業での実践例を学んだ。 － 87 － 表１は、これまでの活動をまとめたものである。本会では、ICT利用が主目的であるが、中四国地域の日本語教育関係者で ICT 利用の日本語教育に興味や関心のある関係者が中心となって活動を行ってきた。主に、広島大学・修道大学・高知大学・山口大学・島根大学・鳥取大学・徳山大学・広島県立 大学・香川大学・徳島大学・四国大学・愛媛大学および民間日本語学校の教員 20～30 名の参加者により開催している。 【2021年度の活動】  本節では、2021 年度の活動について報告する。 第 8 回のセミナーは、2021 年 8 月 1 日（日）13：00～16：00、コロナ対策のため、オンライン（ZOOM）で開催し、3人の講師がそれぞれの立場から実践報告を行った。 １．メディア授業経験のインパクト：日本語教育の本質の再考とインストラクショナル・デザイン 西口光一氏（大阪大学）13：10～14：10 この発表の目的は、(1) 約 10 年前に開発しすでに安定的に実践している⾃⼰表現活動中心の基礎日本語教育の紹介、 (2) 同教育のコロナ下での実施状況についての報告、 (3) コロナ後の展望であった。 西口氏は、表現中心の日本語教育で教育企画の基本として、学習者⾃身がさまざまなテーマについて話したり書いたりでき、相手の話を聞いて 理解でき、さらに相互行為的に話すことができるようになることを目指している。 同企画の教育を具体化するために、西口氏は『NEJ（New Approach to Elementary Japanese：テーマで学ぶ基礎日本語』（くろしお出版 2012 年）と『NIJ（New Approach to Intermediate Japanese：テーマで学ぶ中級日本語』（くろしお出版 2018 年）を出版した。前者は⾃⼰表現の基礎日本語教育を、そして後者はテーマ表現活動中心の中級日本語教育を、具体的に実践するためのリソースである。 講演では、言語習得の原理に関するさまざまな理論的な背景を示しつつ、登場人物のナラティブで段階的に進んでいくという『NEJ』『NIJ』をはじめとするリソースの特徴、さらに全体のテーマ構成や具体的な授業の進め方について解説が行われた。 ２．e-learning 教材の授業での活用：オンラインコース、サイト、アプリの特徴を踏まえて 熊野七絵氏（国際交流基金関西国際センター） 14：15～15：15 この発表の目標は、(1) 日本語学習のための e ラーニング教材（オンラインコース、サイト、アプリ）について知ること (2) オンラインコース、サイト、アプリの特徴を踏まえた eラーニング教材の授業での活用アイデアを得ること、であった。 － 88 －熊野氏が所属する関西国際センターで開発している日本語教育のさまざまなeラーニング教材が実際の画面や動画コンテンツを視聴しながら解説が進められた。日本で生活や仕事をする際に必要となる基礎的な日本語の	コミュニケーション力を身につけるための「いろどり日本語オンラインコース」には、練習のためのアプリやサポートコンテンツなども用意されており、自習用にも授業用にも利用できるように工夫されている。	その他にも、ひらがな・カタカナを自習で学べるアプリ「Memory	Hint」や日本語の俳句を詠んだり、作ったりする「俳句入門コース」や「茶」「星」「武」など、12のトピックに関する記事を読んだり語りを聞いたりできる「ひろがる―もっといろんな日本と日本語－」というサイトもあり、学習者のレベルや興味・関心に応じて利用できるようになっている。	熊野氏は、単にこれらの紹介だけでなく、これらをいかに授業で利用できるか、また自習用にアレンジできるかなどのヒントも示し、これからの日本語教育を考える上でのｅラーニング教材の活用や教材開発の重要性を示した。	３．シリア（JISR）日本語研修のシャドーイング報告	迫田久美子氏（広島大学森戸国際高等教育学院）15：20～15：50		 この発表は、「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム（通称	JISR）」によって渡日したシリア人研修生6人に対する日本語シャドーイングの実践報告である。		 シャドーイングは、聞こえてくる外国語を影のごとく即座に口頭再生する練習法であり、古くから通訳者養成の訓練に用いられている。英語教育では授業に取り入れられている例も多く、先行研究では「聴解力、復唱力、構音速度」に効果があることが報告されている。	日本語教育でもシャドーイングの研究は行われ始めており、シャドーイングが音読や書写よりも効果が高いことが明らかになっている。		 しかし、シャドーイングは「聞いて発話する」という個人作業であるため、実際の授業での活用が難しい面があった。この発表では、スマホを利用して行うペアワークやグループワークの練習場面を録画で紹介し、教室活動の一環としてのシャドーイング活動の一例を示した。一般的に、個別学習法として利用されることの多いシャドーイングであるが、教室活動としてもスマホやPCなどを使うことで授業に取り入れる可能性を報告した。		【おわりに】		 本年度の活動と共に本会の５年の軌跡を振り返った。ICT 教育を中心テーマに置いているが、現場のニーズに対応すべく、漢字教育やビジネス日本語などのテーマも取り入れてきた。コロナ禍でICT環境も含め、日本語教育の在り方にもさまざまな影響が出てきている。本会もこれらの変化に対応できる柔軟性を維持しながら、進化の道を歩みたい。	－ 89 －

「ICT利用の日本語教育を考える会」2021年度活動報告

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「ICT利用の日本語教育を考える会」2021年度活動報告

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