Nakatani, Shintaro

Nishida, Shin-ichiro

Japanese

Tottori University Research Result Repository

       1/4   手術ロボット鉗子と臓器との接触検知のための 強制加振システムの設計*  Design of the Forced Vibration System  for Detecting the Robotic Forceps Contact with the Organ  中谷真太朗*1，西田信一郎*2 (Shintaro NAKATANI) (Shin-Ichiro NISHIDA)   1． はじめに  1990 年代後半から実用化されたロボットによる外科手術は人間の手首にも負けない多数の自由度を持ち，人間が行うよりも安全で侵襲性が低い場面もあることから広く実用化されている 1)．一方でロボット手術では人の指先のような繊細な感覚フィードバックが期待できず，手術中の様子は画像によってのみ確認することができる．触覚の欠如は術者の学習効率の低下や手術時間の増加，医療事故の危険性にもつながる可能性があるため，これまでにも手術用ロボットの指先の鋏部分(robotic grasper) に圧力センサを取り付け，掴んだ圧力を術者に帰還させるなど数多くのシステムが提案されてきた 2)～7)．  しかし，実際に起きたロボット手術の事故を調べると，手術中の患部そのものへのダメージだけでなく，術野の視覚を確保するために患部以外の臓器を鉗子シャフト部によって圧迫したことによるものも発生している 8)．このようにシャフトが臓器を圧迫した場合，これまでに提案されてきた触覚フィードバックシステムでは対応が難しい．  シャフトと臓器との接触を検知できる仕組みとして，シャフト上にセンサを貼り付け，直接圧力を計測する手法が考えられる．しかし直接センサを取り付ける手法は，力の加わる部位や方向をあらかじめ特定しておく必要があり，また，シャフト径の増大やセンサの脱落等の問題を招くおそれがある．  そこで我々は，現在の鉗子に手を加えることなくシャフトに加わった圧力を検知する機能を付加する手法として，鉗子シャフト部に対するアクティブセンシングを提案している．この手法は，シャフト部に対して強制的に振動を与えた際のシャフトの振動モードを観測するものであり，振動モードの変化から間接的にシャフトに加えられた圧をリアルタイムに検知することができる． 提案手法の実証のため，我々は手術ロボットとして da Vinci Surgical System (Intuitive Surgical Inc., USA)を対象とし，1 つの振動子と 2 つの加速度センサから鉗子のシャフトが柔軟物（スポンジ）に接触した際の押し付け力を検知できることを確認した 9)．本稿では，提案したシステム実現のためにとった設計手順について述べる． 2． 提案するシステム 2.1 システムの構成  提案するシステムの概要図を図 1 に示す．Da Vin-ci 等の手術ロボットで用いられる鉗子ユニットは，ギアボックスとシャフト，および鋏部からなる．本システムでは図 1に示すように，鉗子ユニットのシャフトに 1 つの振動子と 2 つの加速度センサを設置する．2 つの加速度センサの値から 2 点間の伝達関数を求め，あらかじめ決定しておいた特定の振動モードの変化を常時モニタしておく． 一定以上の力がシャフトに加わったことを検知した時，システムが術者に対して警告を行うことで事故を未然に防ぐ安全装置のような働きを担う． 解説  Fig. 1 Schematic diagram of the pro-posed system. GearboxBody wallOrganOrganAccelerometersAmplifier& A/D converterSignal generator& amplifierGrasperForcepsVibrator*   原稿受付：2019 年 5 月 10 日 日本設計工学会 2018 年度秋季研究発表講演会(2018 年9 月 29 日)にて発表  *1  非会員，鳥取大学工学部(〒680-8552 鳥取県鳥取市湖山町南 4 丁目 101 番地) *2  正会員，鳥取大学工学部(同上)        2/4  2.2 片持ち梁の振動モード ここでは鉗子のシャフトに対して外力が働き，曲げ振動する場合について考える．鉗子シャフトの長さは断面寸法に比べて十分に長いため，この曲げ振動はオイラー・ベルヌーイはりに近似できる．はりの軸方向に座標𝑥𝑥をとり，はりの曲げ方向に座標𝑦𝑦を取る．𝑥𝑥地点におけるはりのたわみを 𝑦𝑦(𝑥𝑥, 𝑡𝑡)とし，断面積を𝐴𝐴，断面２次モーメントを 𝐼𝐼，はりの縦弾性係数を 𝐸𝐸，単位面積当たりの質量を 𝜌𝜌とする．はりは均一で， 𝐸𝐸𝐼𝐼が一定である場合，強制振動をさせるような外力𝐹𝐹(𝑥𝑥, 𝑡𝑡)が働く場合の運動方程式は 𝜌𝜌𝐴𝐴∂2𝑦𝑦𝜕𝜕𝑡𝑡2+ 𝐸𝐸𝐼𝐼𝜕𝜕4𝑦𝑦𝜕𝜕𝑥𝑥4= 𝐹𝐹(𝑥𝑥, 𝑡𝑡)  となる．なお，鉗子の根元を固定端，先端を自由端と考えると境界条件は 𝑦𝑦(0) =𝜕𝜕𝑦𝑦(0)𝜕𝜕𝑡𝑡= 0, ∂2𝑦𝑦(𝑙𝑙)𝜕𝜕𝑡𝑡2=∂3𝑦𝑦(𝑙𝑙)𝜕𝜕𝑡𝑡3= 0  であり，この時，はりの強制振動時の変位が， 𝑦𝑦(𝑥𝑥, 𝑡𝑡) = �𝑌𝑌𝑘𝑘(𝑥𝑥)𝑞𝑞𝑘𝑘(𝑡𝑡)∞𝑘𝑘=1  で表されると仮定する．なお，振動モードは境界条件によって決定され，𝑖𝑖次の振動モード𝑌𝑌𝑖𝑖(𝑥𝑥)に対応する時間関数𝑞𝑞𝑖𝑖(𝑡𝑡)は以下の関係 ?̈?𝑞𝑖𝑖(𝑡𝑡) + 𝜔𝜔𝑖𝑖2𝑞𝑞𝑖𝑖(𝑡𝑡) =∫ 𝐹𝐹(𝑥𝑥, 𝑡𝑡)𝑌𝑌𝑖𝑖(𝑥𝑥)𝑙𝑙0 𝑑𝑑𝑥𝑥𝜌𝜌𝐴𝐴∫ 𝑌𝑌𝑖𝑖2(𝑥𝑥)𝑑𝑑𝑥𝑥𝑙𝑙0  から求められる． 本システムにおいて鉗子は，鉗子の先端がどこにも触れていない時は片持ちはりに近似できる一方で，シャフトが臓器に接触した場合には境界条件が変化し一端固定-他端支持に近くなる．このことが振動モード関数の変化に寄与する． 本研究では，特に鉗子への加圧による影響が大きい振動モードをあらかじめ実験的に求めておき，手術中に当該の振動モードの変化を常時モニタすることによってシャフトへの加圧を検知する． 3． 設計条件 本システムの実現においては，特に以下の 3点の決定が必要となる． (i) 注目する振動モードの決定 加圧によって特に大きく変化する振動モードについてあらかじめ決定する．シャフト内部に存在する機械構造などによって力学的なモデルから解析的に振動モードを予測することが困難であるため，実験的に求める必要がある．モニタリングする振動モードは必ずしも単一である必要はなく，いくつかの振動モードの変化を利用することも考えられる． (ii) 振動子の設置か所の決定 シャフト先端部は患者の体内に入るため振動子が設置できない．(i)で選択した振動モードに対応する周波数で加振する場合，固定端付近でも効率よくシャフトが振動する位置を選定する． (iii) 加速度センサの設置か所の決定 加速度センサもまたシャフトの固定端付近に設置する必要がある．(ii)で選択した位置に振動子を設置し，(i)で選択した振動モードで加振した場合における腹と節となる位置を求める．複数の振動モードを利用する場合には，センサ設置場所ができるだけ同位相とならないように注意する． 以下では，装置類の詳細について述べる． 3.1 振動子 本研究では，圧電セラミクス振動子 (PAC133C, NTK CERATEC CO., LTD.)を振動子として利用した．この振動子の振幅は最大で数µm 程度と小さいものの，数 10 kHz の高い帯域まで安定した振動特性を持つ．図 2(a) に示すようにこの振動子を 3D プリンタで製作した冶具に取り付け，さらに上から重りを取り付けることでシャフトを強制的に加振した． な お 振 動 子 に は オ ー デ ィ オ ア ン プ (A100a, YAMAHA)を通して PC から M 系列信号(Maximum length sequence)10)（周期 232 − 1, 10 kHz）を与えた．M 系列信号は様々な時間間隔でシステムにインパルス性の入力を加えることができるため効率的に伝達関数を求めることができる． 3.2 加速度センサ シャフト上の加速度を計測するために，電荷出力型加速度検出器（NP-2910, ONO SOKKI CO.,LTD.）を用いた．図 2(b)に示すように 3D プリンタで冶具を作製しシャフト上に固定した．加速度の測定にはチャージアンプ（CH-1200, ONO SOKKI CO.,LTD.）を用い，PC 上にサンプリング間隔 20 kHz で記録した．3.3 模擬臓器 本研究では，シャフトの模擬臓器への押し付け力はそれぞれ 0 gf (非接触), 20 gf, 40 gf, 60 gf, 80 gf, 100 gf の 6 通りとし，模擬臓器の下に設置したロードセルの値をモニタしながら図 2(c)に示すように手動でリニアスライダを動かして押し付け力を設定した．  4．システムの詳細設計        3/4  以下の手順で振動子および加速度センサの注目帯域および設置位置を決定した．シャフトの根本からの距離を加速度センサ A, B は𝑥𝑥A,𝑥𝑥B，振動子は𝑥𝑥Vとそれぞれ設定する． 4.1 注目する振動モードの決定 鉗子のシャフト上の適当な位置に振動子と加速度センサを設置し，疑似ランダム信号を入力することで加速度センサ間の伝達関数を求め，そこから共振周波数を求めた．得られた共振周波数のうち，特にシャフトへの圧力によって変化する帯域について選択した． 図 3に，押しつけ圧を連続的に変化させた際に計測された伝達関数のゲイン線図を示す．このとき，中央の実線が平均値，周囲の灰色の領域が最大値と最小値を表している．押し付け圧の変化によって変化しやすい帯域ほど灰色で塗られた部分の面積が大きくなると期待できる．ここでは，2.2 kHz 周辺の帯域を利用することとした． 4.2 振動子の設置か所の決定 図 4に，シャフト先端(𝑥𝑥V = 42 cm)に振動子を設置し，2.2 kHz の正弦波で振動させた際のモード形状を示す．加速度センサ A はシャフト先端(𝑥𝑥A =42 cm)に設置したまま固定し，加速度センサ B の位置を先端から根元まで順に1 cm ずつ移動させる．この時の加速度センサ間の伝達関数を求め，得られたゲインに位相の符号sign(sin(𝜃𝜃)) をかけることで，実験的にモード形状を描く(sign(⋅) は0 以上のとき+1，それ以外の時−1を返す符号関数)． なお，縦軸は振幅の最大値が 1 になるように正規化して表示しており，破線は７次の多項式近似を行った結果である．ここから，根本に近く，最大振幅を得られた𝑥𝑥V = 7 cm の位置に振動子を設置した． 4.3 加速度センサの設置か所の決定 振動子を上記で決定した𝑥𝑥V = 7 cm の位置に設置し，加速度センサ A は振動子の近傍(𝑥𝑥A = 7 cm )に設置し，加速度センサ B の位置を先端から根元まで順に 1 cm ずつ移動させる．この時の加速度センサ間の伝達関数を求め，先ほどと同様，シャフトを2.2 kHz の正弦波で振動させた際のモード形状を図 5に示す． 本システムでは振幅の小さい場所（節）を加速度センサ A の設置位置，振幅の大きいか所（腹）を加速度センサ B の設置位置とし，𝑥𝑥A =15 cm，𝑥𝑥B =21 cm と決定した． 5．リアルタイム弁別能評価実験 前章で決定した位置に振動子と加速度センサを設 Fig. 3 The determination of the intended reso-nance frequency.   Fig. 4 The determination of the vibrator position.   Fig. 5 The determination of the positions for the accelerometers. 0 1 2 3 4 5Frequency [kHz]Gain [dB]-100102030400 5 10 15 20 25 30 35 40Position [cm]VibratorRatio-1-0.500.510 5 10 15 20 25 30 35 40Position [cm]VibratorAccelerometer AAccelerometer BRatio-1-0.500.51 (a) A photograph of the vibrator.   (b) A photograph of the accelerometer.   (c) A schematic image of the experiment. Fig. 2. Experimental setup.        4/4  置し，シャフトから模擬臓器に加える負荷を変化させた場合の伝達関数の変化を求めた．加速度センサA, B から計測された信号の 2.15-2.25 kHz のパワースペクトル密度𝑃𝑃�A,𝑃𝑃�Bを 100 ms ごとにオーバラップなしで求め，その比𝑃𝑃�𝐴𝐴/𝑃𝑃�𝐵𝐵を用いて押し付け力を検知することを試みた．1 元配置の分散分析および多重比較検定を行い，p<0.01 で有意であるとした． この時，図 6に示すように，20 gf と 40 gf 間を除くすべての組み合わせにおいて有意な差が確認できた．大まかな傾向として，押し付け力が 0－100 gfの間で増加するに従い，𝑃𝑃�𝐴𝐴/𝑃𝑃�𝐵𝐵は増加した．これはシャフトの先端付近に力を加えることで片持ちはりから先端支持はりへと境界条件が変化することによるものと考えられる．本実験では特に押し付け力 80 gf において一時的な値の増加が生じており，実用的には 80 gf 程度の押し付け力を加えた際の変化を検知することによって術者への警告を行うことが考えられる． ６．おわりに 本研究では，手術ロボットシステムの鉗子に外力が加わったことを間接的に検知するため，シャフトを強制的に加振するシステムの設計手法とプロトタイプによる実験結果について述べた．実環境下での安定した検出に向け，今後は重力方向が変化した場合や作業中における接触検出などについて検討する必要がある． 参考文献 1) 橋爪誠： 手術支援ロボットの現状と将来, 日本ロボット学会誌, 22, 4 (2004), 423–425. 2) DiMaio, S., Hanuschik, M., and Kreaden, U.: The da Vinci Surgical System, Surgical Robotics, Springer US, (2011), 199–217. 3) Wottawa, C. R. et al.: Evaluating tactile feedback in robotic surgery for potential clinical application us-ing an animal model, Surgical Endoscopy, 30, 8 (2016), 3198–3209.  4) Okamura, A.: Haptic feedback in robot-assisted min-imally invasive surgery, Current Opinion in Urology, 19, 1 (2009), 102–107. 5) King, C.H. et al.: Tactile Feedback Induces Reduced Grasping Force in Robot-Assisted Surgery, IEEE Trans. Haptics, 2, 2 (2009), 103–110. 6) Culjat, M. O. et al.: Tactile Feedback in Surgical Ro-botics, Surgical Robotics, Springer US, (2011), 449–468. 7) 井上慎太郎, 岸宏亮, 高橋誠也, 佐久間一郎, 小野稔：エンコーダによる把持力推定技術とそれを用いたマスタスレーブ型手術支援システム, 日本ロボット学会誌, 31, 9 (2013), 928–935.  8) 名古屋大学医学部附属病院医療事故調査委員会：事故調査報告書（ロボット支援腹腔鏡下幽門側胃切除を受けた患者さんが，術後 5 日目に死亡した事例）, (2011), https://www.med. nagoya-u.ac.jp/hospital/departments/file/authora1fe4/ 2017/pdf/20110607houkokusyo.pdf． 9) Nakatani, S., Taniguchi, K. and Nishida, S.: Detec-tion of Robotic Forceps Contact with an Organ Using Forced Shaft Oscillation, ICIC Express Letters Part B: Applications, 9, 2 (2018), 111–116. 10) Steven, M. K.: Modern Spectral Estimation: Theory and Application, Prentice Hall, (1999).     Fig. 6 Gain ratio of the around 2.2 kHz band power spectrum.  0 20 40 60 80 100Load [gf]Ratio00.51.01.52.0*** *** ***2.5 *** ******  p<0.001

Design of the Forced Vibration System for Detecting the Robotic Forceps Contact with the Organ

https://repository.lib.tottori-u.ac.jp/files/public/1/14329/20220817105539103179/jsde54(8)_505.pdf

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