長崎大学学位論文 [学位記番号]博（医歯薬）乙第57号 [学位授与年月日]令和元年12月4

BUNDI MWEBIA MARTIN

Nagasaki University's Academic Output SITE: NAOSITE

マーチン・ブンディ 論文内容の要旨   主  論  文  Characterization of Vibrio cholerae O1 isolates responsible for cholera outbreaks in Kenya between 1975 and 2017  1975 年から 2017 年までにケニアでコレラのアウトブレイクを引き起こしたコレラ菌株の性状分析に関する研究  Martin Bundi, Mohammad Monir Shah, Eric Odoyo, Cyrus Kathiiko, Ernest Wandera, Gabriel Miring’u, Sora Guyo, Daniel Langat, Kouichi Morita, Yoshio Ichinose  Microbiology and Immunology, 2019, 63:350-358  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻 （主任指導教員：森田公一教授）  緒   言 コレラの流行は有史以来、特にアフリカや東南アジアなどの地域で発生し、未だ収束はしていない。この約 10 年間でも世界的に流行するコレラ菌に遺伝学的変異が見られた。1961 年、新たな生物型としてインドネシアで出現したエルトールコレラの流行（第 7次世界流行）の前後で分離されたコレラ菌株のゲノム解明はコレラ菌の進化の理解を深めているものの、本態は不明な点が多い。1971 年、エルトールコレラがアフリカ大陸へ侵入した後、ケニアにおいて発生したコレラの流行はいくつかの流行の波として記録されている。近年、生物型判定が困難なハイブリッド型コレラ菌株(Nair et al.)が出現し、全世界的規模で従来のエルトールコレラと置き換わり、しかもこの新たな変異コレラ菌の病原性は次第に強くなってきていると云われている。エルトールコレラはクラシックコレラとは異なる新たな生物型として定義されてきたが、コレラ菌の生物型を規定する生化学的性状に焦点を当て、1975 年から 2017 年までにケニアで分離されたコレラ流行菌株の生化学的性状および分子生物学的性状の経時的な変遷を分析し、併せてコレラ菌の生物型別の意義についても考察した。  対象と方法 本研究は 1975 年から 2017 年までにケニアで発生したコレラ流行発生時に分離・保存されたコレラ菌株 146 株とアジアで分離されたコレラ菌株 19 株を含めて、生物型に焦点を当てた生化学的、分子生物学的分析を行った。生物型別試験は従来法に準拠し、羊赤血球を用いた溶血反応、ポリミキシン B 感受性、Voges-Proskauer 反応、ニワトリ赤血球凝集反応、ファージⅣ感受性などの５種の生化学試験について検討し、さらにこれまで報告された ctxA, tcpA, toxR, rstC, rtxA, hlyA, ctxB, rstR, rsxC などの菌種鑑別並びに生物型別の際に分析されてきた遺伝子について分子生物学的分析を行った。また分離年で選択した 26 株のコレラ菌株の系統樹解析については制限酵素 Not1 を用いたパルスフィールド電気泳動試験を行い、BioNumerics software V7.6 (Applied Maths Inc., Belgium)を用いて分析した。  結   果 1984 年までのケニア分離コレラ菌の血清型は小川型で、生物型は典型的なエルトールコレラ菌であった。クラシック型並びにエルトール型の性状を共に持つ新変異株は2007 年に出現した。2015 年から 2017 年の間には分離されるほぼ全ての株が新変異株に置き換わり、さらにこれらの株は生物型別試験の一つであるポリミキシンＢ感受性試験については感受性であった。更に保有するコレラ毒素 B サブユニット遺伝子はクラシック型およびエルトール型の遺伝子を共に保有することが明らかとなった。また全ての新変異株はファージⅣに対しては耐性であり、且つエルトール型コレラ菌に特徴的な rstR, RtxC, hlyA, tcpA 遺伝子を保有していることが判明した。パルスフィールド電気泳動による分析では、14 型の pulsotyps があることが判明し、クラスタリングは、ほぼ発生したコレラ流行が異なる生化学的並びに分子生物学的性状をもつ流行の波としてそれぞれの分離年に符合していた。  考   察 1975 年から 1984 年までに分離されたコレラ菌株は典型的なクラシック型、エルトール型の性状を示した。したがって従来法のコレラ菌の 5 種の生化学試験による生物型別は可能であった。1984 年までのケニア分離コレラ菌は典型的なエルトールコレラ菌であったが、2007 年にクラシック型およびエルトール型のコレラ毒素Ｂサブユニットを保有するハイブリッド型の変異株であることが明らかとなり、2017 年には全てのコレラ菌株はこの新変異株に置き換わった。この変異株はこれまでの菌株よりさらに病原性が強く、容易に集団の中で伝播することが推定された。またこの変異株はエルトール型コレラ菌に特徴的な rstR, RtxC, hlyA, tcpA 遺伝子保有していることから、分子生物学的には基本的に 1961 年からアジアから伝播してきたエルトール型コレラがバックボーンであることが推定された。しかし今日の変異株は生物型鑑別性状の一つであるファージⅣ感受性については依然として耐性であるものの、ポリミキシン B 感受性に対しては、耐性から感受性に経年変化してきていることが判明した。以上のことからエルトールコレラ菌が出現した 1961 年当時から現在まで温存されている生化学的性状はファージⅣに対する感受性のみであり、もはや生化学的性状検査による生物型別には限界があることが改めて示唆された。 

1975年から2017年までにケニアでコレラのアウトブレイクを引き起こしたコレラ菌株の性状分析に関する研究

https://nagasaki-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=425&item_no=1&attribute_id=70&file_no=2

1975年から2017年までにケニアでコレラのアウトブレイクを引き起こしたコレラ菌株の性状分析に関する研究

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Nagasaki University's Academic Output SITE: NAOSITE