腐敗問題が関わる国際投資仲裁の受理要件

Abstract

 国際投資において,投資家が,投資受入国の公務員に賄賂を提供するなどの腐敗行為が存在する。この問題の存在は,国際投資仲裁を機能させなくする危険性がある。いかなる機能不全があるのか。投資家が,投資受入国による投資家に対する「公正かつ衡平な待遇」(Fair and Equitable Treatment)の不供与を主張して損害賠償請求を申し立てた場合に,投資受入国が腐敗行為の存在を抗弁として主張する。この結果として,⑴仲裁申立が受理されず,⑵仲裁が受理されても請求が却下され,⑶仲裁判断が示されても承認・執行が拒否されるといった問題が生じている。このことは,国際投資を増やす阻害要因ともなる。これに対する対策が講じられなければならない。そこで,⑴腐敗行為が問題となる場合の仲裁可能性(受理要件),⑵腐敗行為と認定される基準,⑶腐敗行為があった場合の仲裁手続への影響について検討をする。 腐敗行為は,国の経済発展と優れたガバナンスの達成を阻む。ICSIDは,腐敗行為を処罰する機関ではない。しかし,ICSIDは,しばしば,腐敗行為に関わる紛争に直面している。特に,投資受入国が,投資家の申立てに反対して,ICSIDの管轄権に対する異議申立の根拠として腐敗行為の存在を援用する場合に問題となる。しかし,投資の合法性は,投資の性質が投資受入国の法律に適合しているか否かである。投資の合法性は,投資の許認可,事業運営の過程における非合法性にあるわけではない。仲裁廷は,投資過程における賄賂の供与があることを理由として,安易に自らの管轄権を否定するべきではない。仲裁廷は,投資家に対して,投資に際して国際法の義務を遵守することを求め,腐敗行為を禁じる役割も担うと考える。このための対策を講じるために,投資仲裁における腐敗問題を考え,腐敗行為の仲裁可能性につき検討する意味がある

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