京都大学新制・課程博士博士(工学)甲第23576号工博第4931号新制||工||1770(附属図書館)京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻(主査)教授 佐々木 隆之, 教授 横峯 健彦, 准教授 小林 大志学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

Moniruzzaman, Mohammad

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Solubility Studies on LanthanideOxides, Hydroxides, and Their SolidSolutions( Abstract_要旨 )Moniruzzaman, MohammadMoniruzzaman, Mohammad. Solubility Studies on Lanthanide Oxides, Hydroxides, andTheir Solid Solutions. 京都大学, 2021, 博士(工学)2021-11-24https://doi.org/10.14989/doctor.k23576 京都大学 博士（工学） 氏名 Moniruzzaman Mohammad 論文題目 Solubility Studies on Lanthanide Oxides, Hydroxides, and Their Solid Solutions （希土類酸化物、水酸化物およびそれらの固溶体の溶解度に関する実験的研究） （論文内容の要旨） 高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性評価の観点から、長半減期アクチノイドやその化学アナログとしての希土類元素の酸化物や水酸化物の溶解度については、熱力学的なデータベースを得るために多くの研究がなされてきた。これらパラメータを用いる実環境での挙動予測モデルに資するため、溶解度制限固相の詳細な特性評価が行われてきたが、複数核種が共存する条件下で生成する可能性があるこれら酸化物･水酸化物の固溶体の固相特性を伴う溶解度研究は殆どなされていない。本論文は、廃棄物処分場での希土類酸化物および水酸化物の溶解挙動を確実に予測するために、それらの溶解性に加えて構造的な特徴の解明に関する実験研究をまとめたものである。 第 1章では、放射性廃棄物の発生、特に核燃料サイクルにおける高レベル放射性廃棄物の発生およびその処分方法である地層処分の安全評価の現状をまとめている。廃棄物に含まれる長半減期放射性核種であるアクチノイド(An) およびその化学アナログとされるランタノイド（Ln）の処分環境における化学的挙動を把握する上での溶解度および溶解挙動に関わる熱力学的解析の重要性と理論について、既往研究をもとに説明している。さらに、複合核種が共存することによりアクチノイドやランタノイドの酸化物･水酸化物の固溶体が形成され、単一固相におけるこれまでの評価と異なる溶解度を示す可能性を指摘し、本研究の動機および目的を説明している。 第 2章では，溶解度を制限する固相を明らかにするため，中性からアルカリ性の pH領域における 3価のランタン（La），ユーロピウム（Eu），ツリウム（Tm）の溶解度と構造特性を包括的に議論している。溶解度実験は，3種の結晶性酸化物の固相（La2O3(cr)，Eu2O3(cr)，Tm2O3(cr)）を 25～90℃，pH 6～12の試料溶液に添加して不飽和状態にて緩やかに振とうする（エージング）方法で行い、La，Eu，Tmの溶解度を測定して熱力学的解析を行うとともに，X線回折法により相状態を調べ、両者の相関を見出した。また XRDスペクトル，溶解度、溶解度の温度依存性に基づく溶解度積の温度依存性から得た反応エンタルピーから，主に次のことを明らかにした。軽希土である La では、初期固相 La2O3(cr)が La(OH)3(cr)に変化して La の溶解度を律している一方、中希土である Euでは、Eu2O3(cr)は 90℃でのエージング後にのみ Eu(OH)3(cr)に変化し，25℃では固相は変化せず安定であることを確認し、それぞれの固相が Eu の溶解度を制御している。また、重希土である Tm は 25～90℃において Tm2O3(cr)が制限固相として安定であることを見出した。以上の結果により、軽希土から重希土になるにつれ、端成分の Ln2O3(cr)の酸化物は Ln(OH)3(cr)の水酸化物に比べてより安定であり、Ln-OH 水系において溶解度を制限する固相として機能することを明らかにした。 第 3章では、溶解度を制御する固相としての混合希土類、すなわち様々なモル分率の 2元系および3 元系の混合希土類酸化物を合成した。軽希土としてネオジム（Nd）を追加し、粉末 X 線回折から構造的研究を行っている。有機重合体立体的捕捉法により合成される酸化物固相は、２元素の組み合わせ方により固溶体を形成することを見出し、さらに溶解度実験の前後での相状態の変化を X線回折パターンのリートベルト解析により評価している。溶解度試験前の(La,Nd)2O3は、任意の La/Nd 混合比で三方晶系の単一の固溶体を形成した一方、(La,Eu)2O3 および(Eu,Tm)2O3 は異なる固溶体の混合物を 京都大学 博士（工学） 氏名 Moniruzzaman Mohammad 生成することを明らかにした。また、(La,Nd,Eu)2O3や(La,Eu,Tm)2O3のような 3 元系酸化物の形成は，2 元系(La,Nd)2O3，(La,Eu)2O3，(Eu,Tm)2O3相の知見の重ね合わせにより説明しうることを見出した。さらに、中性 pH、60℃の水相に固相を浸漬した場合、(La,Nd)2O3と(La,Eu)2O3が、(La,Nd)(OH)3および(La,Eu)(OH)3 の完全な固溶体に変化することを明らかにした。なお比較対象として、La2O3 と Nd2O3の混合物を熱処理せずに用いており、この場合は La(OH)3と Nd(OH)3が分離した状態となることを見出した。また三元系固溶体である(La,Nd,Eu)2O3 および(La,Eu,Tm)2O3 が，それぞれ単一の三元系水酸化物に変化しており、格子定数の傾向を含む三元系の固相変態の傾向は、二元系化合物の知見により解釈できることを明らかにした。 第 4章では、放射性廃棄物や使用済燃料に含まれる 3価の Anおよび Lnにより、処分サイトの水質条件下で多成分の酸化物や水酸化物の固溶体を形成することを予想し、合成した希土類固溶体の溶解性を熱力学的解析とともに議論している。二元系，三元系，多成分系のランタノイド酸化物固溶体（Ln2O3）について，60℃で 4週間熟成させた後の溶解度を調べている。その結果、水相中の軽希土 La3+のモル分率が固相中の La(OH)3のそれより大きく、2 元系および 3 元系の水酸化物固溶体の調和溶解とは不一致があることを見出した。逆に，重希土の Tm2O3 ベースの酸化物固溶体が水と接触しても保持される 2元系（Eu, Tm）および 3元系（La, Eu, Tm）において，固相中の Tm2O3と溶液中の Tm3+のモル分率を観測し，両者が一致した溶解挙動を示すことを見出した。さらに溶解度データをもとにリップマン相図理論による全溶解度積(ΣΠ)を評価し、固相および液相の両曲線との対比を用いて議論している。ΣΠに基づく熱力学的解析の結果、水酸化物固溶体の溶解度が熱力学的平衡によって制御された一方、酸化物固溶体の溶解度は調和溶解に支配される傾向にあることを明らかにした。さらに，14 種の希土類を含む多成分系 Ln2O3に関しては、軽希土の溶解度が顕著に低下することを見出した。多成分系酸化物は、重希土酸化物に見られる立方晶系の固溶体を形成しており、軽希土がこれに取り込まれて溶解が抑制されうる可能性を示唆した。このような軽希土の重希土酸化物への取り込みは，2元系および 3元系の酸化物固溶体では見られず、軽希土から重希土までの Lnが連続的に共存する他成分系の Ln2O3の特徴であることを明らかにした。 第 5章では、本論文で得た知見を総括している。放射性廃棄物や天然岩石に含まれる放射性、非放射性希土類元素の存在比は多岐にわたる。また 3価アクチノイドが地下水中でこれら希土類と類似した振舞いを見せる。固相すなわち希土類水酸化物の 2元系および 3元系固溶体、の高温エージング後の溶解度が、従来の地層処分安全評価において考えられてきた液相 Ln3+との熱力学的平衡によって解釈できる可能性、その一方で、同酸化物の固溶体が調和溶解によって制御された可能性を示唆した。また Euや Ceは地下還元環境により、水中でのイオンの酸化状態が異なる可能性があり、それにより他の希土類の溶解性に影響を及ぼす恐れがあることを指摘している。放射性廃棄物処分の安全性評価には、放射性核種の溶解度を確実に予測することが必要であるため、任意の液性条件における溶解度を制御する固相の特徴を明らかにすることは重要である。本論文では、これらの知見が、放射性廃棄物処分に関連する水系での Am3+,Cm3+の溶解再沈殿による酸化物生成、さらにはより複雑な多成分固相状態の予測のための基礎となることを指摘している。   氏 名 M o ni r uz z am an  Mo h am ma d （論文審査の結果の要旨）   論文は、希土類元素の酸化物、水酸化物、および同元素を複数種含む固溶体や混合物の水への溶解性に係る熱力学的解釈を目的として、種々の固相の合成および固相状態の評価、不飽和法による溶解度の液性依存性に注目した実験的研究を実施し、その結果得られた成果を纏めたものであり、得られた成果は以下の通りである。 1. 単一希土類元素の結晶性酸化物固相である La2O3(cr)，Eu2O3(cr)，および Tm2O3(cr)の溶解度実験により、中性からアルカリ領域における 3価 La，Eu，Tmの溶解度の pH依存性および温度依存性（25～90℃）、ならびに溶解度制限固相の水浸漬による相変化とその元素依存性について、熱力学的に解釈できることを明らかにしている。 2. La,Nd,Eu,Tm のうち、2 種および 3 種の希土類母溶液を様々なモル比で混合し、有機重合体立体的捕捉法により酸化物固溶体を調製し、粉末 X線回折のリートベルト解析により浸漬前後の相状態および格子定数を明らかにしている。2 元系（La-Nd）では完全固溶し、水浸漬後は溶解・析出により水酸化物固溶体に相変化する一方、（La-Eu）、（Eu-Tm）では固溶体が混合物を形成した。全溶解度積(ΣΠ)をリップマン相図理論により求め、溶解性が固相構成元素のモル比に依存することを明らかにした。また、3元系の固相状態および溶解性は２元系固相の知見により解釈できることを見出している。 3. 14 種の希土類元素を含む多元系酸化物固溶体の溶解度実験により、軽希土類元素の溶解度が単一酸化物のそれより大きく低下することを見出している。この傾向は、より低溶解度の重希土類酸化物への軽希土類元素の固溶による安定化に起因し、1～3 元系希土類酸化物および水酸化物で得た知見に基づいて解釈できることを見出している。 以上のように、本論文では複数の希土類元素で構成される酸化物等を合成し、その水への溶解性について、固相状態の変化と関連付けて新たな知見の創出を試みている。また、本研究による成果が、核燃料再処理で生じる放射性廃棄物(Am,Cm)の処分安全評価に資する知見として有用であることを述べ、工学的な応用展開についての提言も行っており、詳細実験によって評価した結果を纏めたものであり、学術上、実際上寄与するところが少なくない。 よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和 3 年 10 月22日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行って、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。    

希土類酸化物、水酸化物およびそれらの固溶体の溶解度に関する実験的研究

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