京都大学0048新制・論文博士博士(農学)乙第12985号論農博第2825号新制||農||1038(附属図書館)学位論文||H28||N4960(農学部図書室)32455京都大学大学院農学研究科林学専攻(主査)教授 谷 誠, 教授 北山 兼弘, 教授 舟川 晋也学位規則第4条第2項該当Doctor of Agricultural ScienceKyoto UniversityDFA

小南, 裕志

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Title暖温帯広葉樹二次林における炭素循環に関する研究(Abstract_要旨 )Author(s)小南, 裕志CitationKyoto University (京都大学)Issue Date2016-01-25URL http://dx.doi.org/10.14989/doctor.r12985RightType Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University - 1 -  （ 続紙 １ ）                             京都大学 博士（  農 学  ） 氏名 小南  裕志 論文題目  暖温帯広葉樹二次林における炭素循環に関する研究  （論文内容の要旨）  日本の森林のうち、天然性広葉樹林の面積は約42%を占めている。コナラ林に代表される里山の広葉樹二次林はその利用減少により多くが放置されてきたが、近年、そのCO2吸収能力評価の必要性が高まっている。そこで本論文は、京都府南部の落葉常緑広葉樹混交林（山城試験地）において、暖温帯広葉樹林のCO2吸収量と群落内炭素循環の総合的な定量評価研究を行った結果をまとめたものである。 測定は、気象観測タワーを用いた乱流変動法によるCO2交換量（NEE）、群落炭素蓄積量の変動調査による炭素収支（ΔC）、およびチャンバー法を用いた群落コンパートメントのCO2交換量測定による生態系生産量（NEP）の3つの手法を用い、それぞれの手法の利点、問題点を明らかにするとともに、各測定によって得られる個別のプロセスの推定値から広葉樹二次林の炭素循環過程を明らかにした。NEEでは、尾根と谷に2本の気象観測タワーを設置して複雑地形の影響をチェックしたうえで評価したこと、ΔCにおいては、全木の毎木調査による植物炭素蓄積（ΔW）に加え、過去に試験地が裸地であった特徴を利用した土壌炭素蓄積速度（ΔS）推定を組み合わせることによって、植物と土壌の双方の炭素蓄積量を推定したこと、またNEPにおいては、葉、幹、土壌、枯死木などの各コンパートメントのCO2交換量測定に適したチャンバー法の開発を行ったことなど、新しい試みを加えた多角的な炭素収支評価を実施した。 2000年から2004年までのタワー観測によるNEE（一般にはNEPと符号を反対にして表示されるが、ここではNEP同様、吸収をプラスで表示する）、蓄積量変動調査によるΔC、およびチャンバー法によるNEPはそれぞれ1.23、1.72、0.91tC ha-1 y-1であった。これら3つの値の誤差絶対値は最大で0.81 tC ha-1 y-1であり、既存研究と比較すると精度が高く、炭素収支が良好に評価されていると考えられた。また、タワー観測からは環境変動に対する時間単位での群落CO2吸収の応答が、チャンバー法からは群落内コンパートメント毎のCO2吸収・放出量の大きさと環境応答が、蓄積変動調査からは群落構造の変遷に伴う群落CO2吸収量の長期間の変動が明らかになった。 一方、総光合成量（GPP）10.36 tC ha-1 y-1に対する各CO2吸収量の比が10～20%と比較的小さかったため、呼吸量の推定誤差の積み重ねによって大きな相対誤差が発生した。これらの誤差要因として、タワー観測においては、夜間の大気安定時の呼吸量推定が、蓄積変動調査では、バイオマス量推定に用いるアロメトリー式の代表性や土壌炭素蓄積速度推定精度が、チャンバー法では、葉、幹、土壌など各コンパートメントでのCO2交換の平均値を求めるための測定点数の限界が問題点として指摘された。 これらの課題を抱えながらも、約60年生の広葉樹二次林が行うCO2吸収が樹木への炭素蓄積だけではなく、土壌への炭素蓄積とこれに関わる分解系の関与、あるいは枯死木を含んだ枯死有機物の多様性とその経時的な変動に強く依存していることが示された。すなわち、純一次生産量（NPP）は5.07 tC ha-1 y-1、NEPは1.72 tC ha-1 y-1、土壌炭素蓄積量（ΔS）は0.31 tC ha-1 y-1となり、GPPの値10.36 tC ha-1 y-1に対する比で - 2 - は、それぞれ48.9%、16.6%、2.9%に相当し、植物呼吸量（Ra）と分解呼吸量（Rh）による再放出がそれぞれ51.5%と32.3%になると評価された。また植物体への炭素蓄積量（ΔW）（1.08 tC ha-1 y-1）に対する枯死木発生量(0.61 tC ha-1 y-1)の割合は56.5%を占め、その年々変動が非常に大きかった。また過去の攪乱影響による枯死木プールからの枯死木分解呼吸量（RCWD）の影響が長期にわたってNEPに影響を与えていた。さらに1.6 haの群落内においても、高いΔWを作り出している場所はごく限られていること、枯死個体そのものが少ないためにNEPが小さい場所、植物成長自体はあるものの成長・枯死の回転が速いことによって結果的にNEPが小さくなってしまう場所があり、それらが混在していることもわかった。この結果から、群落平均NEPを推定するためには、明瞭な攪乱がない場合であっても、十分な面積を持ったΔWの測定が必要であることが理解された。 以上の調査によって、これまでの研究で困難とされてきた課題、すなわち、山地の複雑地形における複数のタワーに基づいたCO2吸収量の評価、および、土壌炭素蓄積速度など地下部の炭素収支をも含む群落の各コンパートメントの炭素蓄積プールおよびフラックスのトータルな評価が達成され、広葉樹混交林の炭素循環プロセスの総合的な理解が可能になった。                     注)論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は１頁を３８字×３６行で作成し、合わせ て、３,０００字を標準とすること。 論文内容の要旨を英語で記入する場合は、４００～１,１００wordsで作成し 審査結果の要旨は日本語５００～２,０００字程度で作成すること。   - 3 - （続紙 ２ ）                            （論文審査の結果の要旨）  人間活動拡大にともなう化石燃料放出は、海洋と陸域の生態系によって保たれていた地球の炭素循環における動的平衡状態に大きな攪乱を与えている。その結果として大気中二酸化炭素濃度が増加し、深刻な気候変動問題が引き起こされている。森林生態系はこの変動を受けて、内部の複雑なプロセスを経て大気環境にフィードバック影響を返してゆく。それゆえ、森林科学にはこのプロセスを解明して気候変動抑制対策に貢献する責務が課せられている。本研究はこうした問題意識に基づき、かつて生活に利用されてきた里山の広葉樹二次林における多角的な調査によって、森林生態系の炭素循環のどのプロセスがCO2吸収量に対してどのような影響を与えるかを定量的に明らかにしたものであり、特に評価できる点は次の5点である。 1. 乱流変動法、炭素蓄積量の変動調査、チャンバー法を暖温帯の広葉樹二次林に適用し、それぞれの手法の問題点を丹念に点検することによって、森林のCO2吸収量が定量的に推定された。この成果は、炭素循環研究において個別の調査結果を超えた手法検証の意義を有し、今後参照すべき基本的情報として高く評価できる。 2. 対象森林は地形の複雑な山地にあり、CO2の大気との交換過程がその影響を受けると考えられる。そこで尾根と谷の2本のタワーで乱流変動法観測を同時に行い比較することによって、地形影響を検討したうえでのCO2吸収量が求められた。 3. 対象森林はかつてはげ山であり、その緑化によって成立している二次林である。そこで、これまでの炭素収支の研究では無視されることが多かった土壌炭素蓄積速度を、この経緯を利用して推定した。この情報は、森林生態系の炭素循環研究において特に貴重なものとみなされる。 4. 新しい工夫を加えて実施されたチャンバー法を中心とし、乱流変動法、炭素蓄積変動の結果を参照して森林の炭素循環にかかわる素過程が定量的に評価された。この測定においては空間不均質性の影響など多くの問題が含まれるが、詳細な調査・解析を通じて、植物呼吸量と分解呼吸量の分離評価、枯死木発生量、枯死木分解呼吸量の炭素循環への長期影響など、新しい知見が数多く見いだされた。 5. 対象森林は複雑地形上の天然林であるため、植物体への炭素蓄積量の変動の平均量を求めるためには、成長と枯死との回転速度の場所毎の多様性を把握する必要があり、本論文で行ったような大面積の調査が欠かせないことが明らかになった。 以上のように、本論文は、複雑地形上の天然林という厳しい調査条件を対象とし、多角的で綿密な調査と総合的な解析を実行することによって森林生態系の炭素循環に新しい研究水準をもたらしたものであり、森林水文学、森林生態学の発展に寄与するのみならず、地球環境変動を考慮した森林管理に貢献するところが誠に大きい。 よって、本論文は博士（農学）の学位論文として価値あるものと認める。 なお、平成27年11月12日、論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果、博士（農学）の学位を授与される学力が十分あるものと認めた。 注）論文内容の要旨、審査の結果の要旨及び学位論文は、本学学術情報リポジトリに掲載し、公表とする。 ただし、特許申請、雑誌掲載等の関係により、要旨を学位授与後即日公表することに支障がある場合は、以下に公表可能とする日付を記入すること。  要旨公開可能日：   年   月   日以降（学位授与日から３ヶ月以内）  

暖温帯広葉樹二次林における炭素循環に関する研究

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