伊藤 輝

李 越

藤澤 拓也

金 貞禮

金, 貞禮

李, 越

伊藤, 輝

藤澤, 拓也

Soka University Repository / 創価大学機関リポジトリ

─ 43 ─年次大会　講演要旨（令和三年十一月十二日）５・７・５、日本と韓国─「古池や」で見る韓日詩歌のリズムと詩情─金　貞禮　古い言語分類法によれば、同じ膠着語に属する日本語と韓国語は、言語的には類似しているものの、詩的表現の仕方はかなり相違しているように見える。自分の主観的な表現に控えめな日本に比べ、詩と詩人の社会的責任が強調される韓国では、詩は「志」を述べるという観念のもとに、自分の意見を述べるのをよしとされる。韓日両国の伝統詩歌の中で、それぞれもっとも短い詩型である俳句と時調（シジョウ）には、その様子がよく表れている。　俳句と時調のリズムは「４音１拍」を基本としている。俳句の「５・７・５」のリズムは、切れ字によってその流れが切られ、句の内容に膨らみを持たせる一方、読者の視線を句の頭に向かわせる。しかし、１行あたり４拍の３行詩（43文字前後）の時調は、悠長なリズムをもって先へ先へと流れていく。　松尾芭蕉の俳句「古池や蛙飛び込む水のおと」は、世界で一番有名な日本の詩であるだけに、韓国にもよく知られている。これまで９例以上の韓国語訳がなされた上に、多くの解釈がなされたにもかかわらず、韓国の読者の多くはこの句の理解に苦しむように見える。蛙についての詩的感性の違いはさることながら、どうしてもこの句の眼目の「静寂」にたどり着けないのである。　たとえば、私が教えている大学の教養科目の授業で、俳句についての講義を聞いた工学部の１年生は、次のような俳句を作った。　　　　蛙なく　　　　개구리 우네　　　　　勢いよくなく　힘차게 우는구나　　　　　うるさいな　　시끄럽구나　　日本と同じく四季があり、季節の風物も似ている韓国で、どこか自分の国の詩と違う表現をしている俳句に出会った学生たちは、その微妙に違うところをつかんで、「もじる」。そしてこれこそ蛙をよんだ詩だと、みんなで喜ぶ。遡っていけば、和歌や連歌へ向かって俳句がやっていたことを、今の韓国の若者は、日本の俳句に向かってやっているといえよう。彼らは、軽く、なおかつ明るく楽しく、お隣の詩型をもって隣国の人々に話かけているのである。（キ厶・ジョンレ、全南大学校日語日文学科教授）─ 44 ─年次大会　発表要旨（令和三年十一月十二日）日本の芸術表現について　――俳句の〈読み〉を中心に――　文化記号論的考察をめざして藤澤　拓也　俳句の鑑賞とは、わずか十七音のテクストから情景を想起する、高度な行為である。本発表では、この俳句を〈読む〉（鑑賞する）という行為の特徴と、その背景にある言語文化について考察を行った。　まず、俳句の表現形式の特徴が、言語学でいう〈省略〉の現象を包含していることに注目し、池上（２００７）の指摘した〈省略のストラテジー〉や、J.Hinds（１９８７）の指摘した日本語の〈聞き手責任性〉、池上・守屋（２００９）の先行研究等で示された〈日本語の主観性〉との関連性を示した。次に俳句を鑑賞してもらう調査を行い、その結果から、聞き手が話し手の言わんとすることを能動的に捉えようとする〈聞き手責任性〉の文化が俳句に見られることを確認した。その後、〈聞き手責任性〉の範疇に収まらない受け手の能動的な姿勢があることを調査結果から指摘し、受け手が俳句作品を自分ごととして捉え、主体的・主観的に鑑賞しようとする〈受け手主体的〉態度がある可能性を述べた。最後に再び調査を行い、実際に俳句の〈読み〉において〈受け手主体性〉が見られることを確認しながら、こうした受け手の姿勢に注目して、〈日本的〉なものの内実を検討する文化記号論的考察の可能性と有用性について言及した。（ふじさわ・たくや、創価大学文学部人間学科四年）川端康成『花日記』論――新「良妻賢母」像を体現する「なほみ」――伊藤　輝　川端康成『花日記』は、雑誌『少女の友』に昭和十三年四月から昭和十四年三月まで十二回にわたって連載された。作品の中心人物となるのは、官立女学校に通う少女「なほみ」である。「なほみ」は、自由奔放な性格であり、自分の意見を素直に伝え、家族や友人との対等な関係を築こうとする少女として描かれている。本発表では、近代の高等女学校の歴史を明らかにした上で、本作品における「なほみ」がどのような少女として位置づけられるのか考察した。　一八九九年に公布された高等女学校令、そして一九二〇年の高等女学校令中改正の内容からは、当時の高等女学校が「優美高尚ノ気風」、「温良貞淑ノ資性」、「従順さなどの婦徳」を養った「良妻賢母」の育成を目的としていたことが分かった。しかし実際の教育現場では、一九二〇年に設立された全国高等女学校長協会を中心にして学力重視の方向へと改革運動が進んでいく。同協会の理事長市川源三は、昭和九年に刊行された著書『現代女性讀本』─ 45 ─の中で「新良妻賢母主義」と題して「男女同格夫婦對等」を訴えた。しかし、従来の「良妻賢母」像を否定するとして東京府会で非難の的となり、この出来事を機に改革運動は退潮していくことが分かった。　以上の内容を踏まえて川端康成『花日記』を捉え直すと、「なほみ」は当時の女子教育が目標としていた「良妻賢母」像とは異なる少女であることが分かった。「なほみ」の言動には市川源三が提唱する「新良妻賢母主義」を彷彿とさせるものがあり、将来「男女同格夫婦對等」を実現する可能性を秘めた少女として登場していることを示した。（いとう・ひかる、創価大学大学院文学研究科人文学専攻博士前期課程）感謝の意識と表現をめぐる中日の対照研究李　越　異なる文化を持っている以上、日常生活でよく使われている感謝の言葉でも、違いが存在する。例えば、日本語には、感謝の意識を言葉にする習慣があり、これに関連して「先日はどうもありがとう」「この間はどうも」と言うような「後日の再感謝」という文化的習慣がある。それに対して、中国ではこれは一般的な習慣にはなっていない。従って、中国人学習者は適切なコミュニケーション行動をとっているつもりであっても、母国の文化に影響され、日本人に失礼だと誤解されてしまうという例がしばしばあるようである。そこで、本研究では、日本人、中国人日本語学習者と中国人を対象とし、アンケート調査を行った結果、中日での感謝の意識と表現の相違点が明らかになった。すなわち①他人に依頼する時、先に感謝の表現を言うかどうかについて、中国人は事前の感謝表現を多く使用するが、日本人はあまり使用しておらず、事前の謝罪、依頼の表現を使用する。②受益の場での感謝について、中国人は感謝の表現より感情の表現を多用するが、日本人は感謝の表現や謝罪の表現を多用する。③中国人は後日の感情の表現や物に対する評価の表現を多く使用するが、日本人は後日の再感謝をする習慣がある。④感謝の過程から見ると、中国語では、事前の感謝やその場での感情と後日の感情や物に対する評価を伴うが、日本語では、事前の謝罪や依頼、その場の感謝と後日の再感謝を伴うという違いがある。（LI･YUE 　創価大学大学院文学研究科国際言語教育専攻修士課程）

講演要旨/研究発表要旨

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