KIMURA, Noriyoshi

NAKANURA, Fumiko

Japanese

Wakayama University Academic Repository

１.はじめに中学校理科の気体の性質の単元 で、酸化マンガン(Ⅳ)(二酸化マンガン)を用いた過酸化水素水の分解反応により酸素と水を得ることを学び、同時に実験を通して酸素の捕集技術や性質を習得する。この実験は30年以上前から教科書に記載されている定番の実験であり、各々の薬品を安全に取り扱えれば、簡単で良好に行える実験である。この実験で使用する酸化マンガン(Ⅳ)は触媒として働き、反応の前後で変化しない。このことから、実験後、酸化マンガン(IV)を回収すると、酸化マンガン(Ⅳ)は次回の実験に用いることができる効率のよい化学物質である。しかし、現実は酸化マンガン(Ⅳ)をうまく回収できず廃棄しているケースも少なくない。また、酸化マンガン(IV)は重金属に含まれるため廃棄も簡単ではなく、さらに特定化学物質に属し、取り扱いに注意を要する化学物質である。そこで、今回、酸化マンガン(Ⅳ)以外の物質で安全で簡単に廃棄でき、我々の身のまわりにある物質であるドライイースト を用い、過酸化水素水の分解実験が中学校の理科教材として適当であるか検証することとした。ドライイーストは主にパンを製造する過程に利用されており、カタラーゼという酵素を含んでいるため過酸化水素を容易に酸素と水に分解する。また、本研究で用いる過酸化水素も消毒剤として使用されている市販のオキシドール(３%過酸化水素水)を用いることにした。２.実験２.１ 酸化マンガン(IV)とオキシド－ルの実験本研究の主題であるドライイーストとオキシドールを用いた実験の前に、酸化マンガン(IV)を用いたオキシドールの分解反応でどれだけの酸素が発生するかを測定した。２.２ 準備物●試薬酸化マンガン(IV)オキシドール (市販品 健栄製薬 500mL)●器具(図１)試験管(内径24mm)５本以上、気体誘導管(ガラス管付ゴム栓とガラス管付ゴム管のセット)、100mL三角フラスコ、水槽、メスシリンダー(50、250mL)、スタンド、 ムッフ、クランプ、100mLビーカ－、駒込ピペット実験操作に入る前に、気体(酸素)を捕集するための装置(水上置換法)(図１)を組み立てた。そして、水上置換法で集めた酸素の発生量をメスシリンダーの目盛りで確かめた。２.３ 実験方法①酸化マンガン(IV)を約１g測りとり、試験管に入れた。In the present study,we tried to develop teaching materials for hydrogen peroxide decomposition experi-ment using dry yeast.As a result,it was found out that the amount of obtained oxygen gas was almost the same as that using manganese(IV)oxide.Abstractドライイーストを用いた過酸化水素の分解実験Decomposition Reaction of Hydrogen Peroxide Using Dry Yeast中 村 文 子NAKANURA Fumiko木 村 憲 喜KIMURA Noriyoshi(和歌山大学教育学部化学教室)2021年９月29日受理図１ 水上置換法― 113―ドライイーストを用いた過酸化水素の分解実験②酸化マンガン(IV)を入れた試験管にオキシドール20mLを加えた。③直ちに気体誘導管を取り付け、水上置換法で発生した酸素をメスシリンダーで捕集した。２.４ 実験結果酸化マンガン(Ⅳ)を用いたオキシドールの分解反応によって発生した酸素の量を図２に示す。オキシドールの分解反応は激しく、数分で試験管４本分以上の酸素を確保できた。そして、酸素の捕集量は約200mL以上であることがわかった。この数値を参考にドライイーストを用いたオキシドールの分解反応を行った。３.実験３.１ ドライイーストとオキシドールの反応酸化マンガン(Ⅳ)の代わりに粉末のドライイーストと水に溶かしたドライイーストに分けてオキシドールの分解反応を行った。３.２ 準備物●試薬 (図３)ドライイースト(市販品 Home Made 55g×１)オキシド－ル(市販品 健栄薬品 500mL)●器具実験Ⅰと同じものを用いた。水上置換法(図１)を用い、メスシリンダーで酸素の発生量を測定した。３.３ 実験方法●粉末ドライイーストとオキシドールの実験①粉末ドライイースト0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0gをそれぞれ試験管に入れた。②粉末ドライイーストを入れた試験管にオキシドール20mLを加えた。③直ちに気体誘導管を取り付け、水上置換法でメスシンダーに発生した酸素を捕集した。同時に各々の時間ごとの酸素の発生量を測定した。●液体ドライイースト(ドライイースト水溶液)とオキシドールの実験①１、２、３、４、５%ドライイースト水溶液をそれぞれ作成した。ドライイーストは水には溶けにくいため、本実験では各濃度のドライイースト水溶液をあらかじめ準備した。②各濃度のドライイースト水溶液を駒込ピペットで５mLずつ、各試験管に入れた。③ドライイースト水溶液を入れた試験管にオキシドール20mLを加え、直ちに気体誘導管を取り付け、水上置換法で酸素の発生量を測定した。●さまざまな体積の５%ドライイースト水溶液とオキシドールとの実験実験操作３.４の実験で、ドライイースト水溶液の量を５mLと固定したが、加える量を変え酸素発生量との関係を調べた。①５%ドライイースト水溶液１、２、３、４、５mLをそれぞれ駒込ピペットで測りとり、各々の試験管に入れた。②各々の５%ドライイースト水溶液を入れた試験管にオキシドール20mLを加え、直ちに気体誘導管を取り付け、水上置換法で酸素の発生量を測定した。●保管方法が異なる５%ドライイースト水溶液とオキシドールの実験５%ドライイースト水溶液を冷蔵庫(10℃以下)に保管したものと常温(約20℃)で保管したものを比較した。①保管方法の異なった５%ドライイースト水溶液をそれぞれ駒込ピペットで５mL採取し、各々の試験管に入れた。②各々の試験管にオキシドール20mLを加え、直ちに気体誘導管を取り付け、水上置換法で酸素の発生量を測定した。３.４ 実験結果●粉末ドライイーストとオキシドールの実験における酸素発生量得られた酸素発生量を図４に示す。図４から粉末ドライイースト量0.4g以下では、酸素の発生量が少ない図２ 酸化マンガン(Ⅳ)を用いたオキシド－ルの分解反応における酸素発生量の時間経過図３ 試薬― 114―和歌山大学教育学部紀要 自然科学 第72集（2022)ため気体の性質を調べることが難しいことがわかった。次に、粉末ドライイーストが0.6gから１g以内では、酸素を十分に捕集することができた。さらに、１g以上ではオキシドールが非常に激しく反応し、酸素を正確に捕集することが難しくなった。よって、粉末ドライイーストが0.6gから１gまでの範囲内であれば、酸素を正確に捕集できるとともに教材として適切であることがわかった。●ドライイースト水溶液とオキシドールの実験における酸素発生量ドライイースト水溶液の濃度と発生した酸素量を図５に示す。図５のように、ドライイースト水溶液の濃度が４-５%のドライイースト水溶液はなだらかなカーブを描くことから水上置換法で簡単に酸素を捕集できるとともに、200mL以上の酸素発生があるため気体の性質も十分確認できる。一方、ドライイースト水溶液が濃くなるほど(６%以上だと)、オキシドールの反応が激しく、その結果、酸素をうまく捕集できなくなるので教材として適さないことがわかった。●さまざまな体積の５%ドライイースト水溶液とオキシドールの実験における酸素発生量の関係これまでの実験では、５%ドライイースト水溶液の体積を５mLと固定していたが、体積の違いで発生する酸素の量がどのように変化するか調べてみた。得られた実験結果を図６に示す。この図から５%ドライイースト水溶液の体積が大きいほど酸素発生が徐々に増加することがわかった。このことから、５%ドライイースト水溶液の体積と発生する酸素量に相関があることが予想される。●保管方法が異なる５%ドライイースト水溶液とオキシドールの実験における酸素発生量の関係次に、５%ドライイースト水溶液の保管方法の違いとオキシドールとの反応から発生する酸素量と経日変化の関係を調べた。図７は、冷蔵庫に保管した５%ドライイースト水溶液とオキシドールとの反応による酸素発生量の経日変化の関係を示す。また、図８は常温で保管した５%ドライイースト水溶液とオキシドールとの反応による酸素発生量と経日変化の関係を示す。これらの実験結果から、冷蔵庫に入れた５%ドライイースト水溶液は発生した酸素量にほとんど変化は見られなかったが、常温に保管した５%ドライイースト水溶液は常温で酵母菌の分解が進み一定量の酸素の捕集は難しいことがわかった。図４ さまざまな量の粉末ドライイーストを用いたオキシド－ル20mLの分解反応による酸素の発生量図５ さまざまな濃度のドライイースト水溶液による酸素の発生量図６ さまざまな体積の５%ドライイースト水溶液を用いて発生させた酸素の量図７ 冷蔵庫に保管した５%ドライイースト水溶液を用いて発生させた酸素量の経日変化― 115―ドライイーストを用いた過酸化水素の分解実験４.考察本実験のドライイーストを用いたオキシドールの分解反応から発生した酸素量をみると、20mLのオキシドールに対して粉末ドライイーストが0.6g以上または４-５%程度のドライイースト水溶液５mLがオキシドールを容易に酸素と水に分解し、教材として適切であることがわかった。さらにドライイーストを水溶性にした方が粉末よりも、オキシドールとの反応が緩やかであるため、酸素の捕集も簡単であることが確認できた。また、水溶性にしたドライイーストのカタラーゼは常温に置き続けると壊れやすいため、酸素発生量に影響する。そのため、実験ごとに使い切ることが望ましいと思われる。５.おわりに本稿の実験は、薬品である過酸化水素水(オキシドール)の取り扱いに注意すれば非常に簡単な実験である。そして、ドライイーストやオキシドールは我々の身のまわりにあるので、生徒たちへの興味と関心が深められる。また、カタラーゼを含む身近な物質として、豚レバー や大根、ジャガイモ などが挙げられる。これらは生ものであるため不快な臭いや長時間の保管が難しい。しかし、さまざまな工夫をしたり、あらゆる材料を試したりして楽しみが持てる実験教材であると思われる。参考文献１)中学校教科書 「未来へひろがるサイエンス１」,pp.139,啓林館(2018).２)鹿児島県総合教育センターホームページ,http://www.edu.pref.kagoshima.jp/curriculum/rika/kou/top.html(2021.10.22).３)高等学校教科書「生物基礎」,pp.28,東京書籍(2021).４)日本化学会編「実験で学ぶ化学の世界２」,pp.29,丸善(1996).図８ 常温で保管した５%ドライイースト水溶液を用いて発生させた酸素量の経日変化― 116―和歌山大学教育学部紀要 自然科学 第72集（2022)

Decomposition Reaction of Hydrogen Peroxide Using Dry Yeast

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