Department Archaeology  Kanazawa University

金沢大学 人文学類考古学研究室

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金沢大学考古学研究室2021年修士論文・卒業論文概要著者 金沢大学 人文学類考古学研究室著者別表示 Department Archaeology  Kanazawa University雑誌名 金沢大学考古学紀要号 43ページ 67-70発行年 2022-03-14URL http://hdl.handle.net/2297/00066114Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja67修士論文概要 A Study of the Terracotta Figurines of Goddess in Greco-Roman Egypt. エジプト、グレコ・ローマン時代における テラコッタ製女性像に関する一考察　人間社会環境研究科人文学専攻 　　　　岡部　睦 　本論文ではローマ支配時代のエジプト人による異文化の受容の様相を明らかにすることを目的にエジプトのテラコッタ製女神像を対象に分析を行なった。分析の結果、グレコ・ローマン時代のテラコッタ製女神像の類型における変容の様相が明らかとなった。 　第 1 章では、エジプトのグレコ・ローマン時代における歴史的背景と研究史について述べた。先行研究では、各博物館に所蔵されているテラコッタ製像または、それぞれの遺跡から出土した資料について分類や編年を試みているが、これらの検証は遺跡毎にされており、総合的に研究することは十分に行われてこなかった。このような類型に加え、出土コンテクストが明らかな資料を扱うことで、テラコッタ製女神像の用途や人々の受容の様相を検討する余地がある。そこで、出土記録が比較的明瞭な遺跡について、出土場所、共伴遺物、類型の 3 つの観点からテラコッタ製女神像の変容を比較し、受容の実態を明らかにすることを試みることとした。 　第 2 章では、テラコッタ製女神像の出土場所とその共伴遺物について分析を行った。分析の結果、紀元前4 世紀から紀元前 1 世紀において住居遺構からの出土が多いことから、テラコッタ製女神像は私的な用途に使われた可能性が高いことが明らかになった。一方、紀元前 2 世紀以降は浴場や宗教施設、工房などの公的な場所からの出土が増える傾向にあるが、埋葬に見られるような私的利用は継続されていたことが判明した。また、プトレマイオス朝時代には、他のテーマのテラコッタ製像と共伴して出土する例はわずかであった。しかし、プトレマイオス朝末期からローマ支配時代にかけては、ハルポクラテスやベスを中心とした様々なテラコッタ製像と共伴して出土する傾向にあることが明らかとなった。  　第 3 章では、テラコッタ製女神像の類型を行い、それぞれの遺跡と年代の違いから分析を行なった。デルタの遺跡から出土するテラコッタ女神像の類型はプトレマイオス時代末期からローマ時代初期にかけて変容していることを指摘した。また、テラコッタ製女神像は出土する遺跡の性格による差異が看過される可能性が高いことが明らかとなった。 　第 4 章では、エジプト出土の女神像の受容と統合について考察し、第 5 章において、本論文の結論を述べた。卒業論文概要越後地域における大型バケツ形製塩土器底部の成形技法とその変遷について　フィールド文化学コース　特別プログラム：考古学  歌代 若菜　新潟県において土器製塩が盛んになるのは 8世紀以降であり、11 世紀に至って鉄釜が用いられるようになるまで、各地で土器による塩生産が行われた。古代における土器製塩などの手工業生産は国家による影響が大きく、地方の生産力の向上を図るため、大規模生産地である佐渡地域だけでなく、塩生産に適さないと考えられる越後地域の海岸砂丘や内陸砂丘での塩生産も行われるようになった。　県内の大型でバケツ型を呈する製塩土器は、中央に塩を貢納していた若狭地域で使われていた船岡式製塩土器が大きく影響していると考えられている。小嶋氏は若狭と能登を対象に、船岡式製塩土器をはじめとする平底製塩土器の詳細な底部分類を行い、さらに年代観を検討した。また、近年では『新潟県の考古学Ⅲ』の中で、尾﨑氏により新潟県の製塩土器及び製塩遺跡についてまとめられた。　それらを踏まえ、本稿では越後地域における大型でバケツ型の製塩土器（本稿では大型バケツ型製塩土器と呼ぶ）の底部成形技法から、新潟県における大型バケツ型製塩土器の実態を明らかにすることを目的とし、底部の分類を行った。　分類の結果、9 世紀後半以降に底部から器壁にかけ金沢大学考古学研究室 2021 年修士論文・卒業論文概要金沢大学 人文学類 考古学研究室金沢大学考古学紀要 43　2022,　67-70.68ての頑丈さを志向したものや、底部の厚みを持たせるものが多くなることが分かった。また、それに伴って成形方法の多様化も推測できた。前者の結果により、尾﨑氏によって指摘された 9世紀後半以降に器形が大型化することを裏付ける結果になったと考えられる。また成形技法の多様化は、坂井氏によって指摘された9 世紀中葉以降の越後地域における土器製塩の小規模化と副業化に伴う変化であると思われる。越中における管玉つくりの特徴　フィールド文化学コース　特別プログラム：考古学  大橋 春斗　本論文では、越中の弥生時代における玉つくり遺跡から出土した管玉に対する分析を行い、そのデータを時代・地域ごとなどの観点から分類することで越中の管玉つくりの特徴を見出す。越中は縄文時代前期より玉つくりが行われており、特にヒスイを用いた玉つくりが盛んだったことで有名である。現在の富山県の朝日町東部の通称「ヒスイ海岸」と呼ばれる宮崎・境海岸では現在でも新潟県の糸魚川市から流れてきたヒスイを拾うことが可能である。　弥生時代に入ると縄文時代から続く勾玉に加え、朝鮮半島から伝わった管玉が現れ、弥生時代前期に山陰地方で管玉作りが始まった。弥生文化の広がりとともに日本海側沿いに広がり、弥生時代中期に北陸に伝わり、後期にはより一層玉つくりが盛んになった。北陸地方では管玉の原料となる石材である緑色凝灰岩が豊富なため全国的に見ても特に管玉作りが盛んだった地域である。　今回の分析では県内 16 遺跡、管玉計 266 点を対象とした。内訳として弥生時代中期の遺跡が 5 遺跡、管玉が 75 点、弥生時代後期の遺跡が 12 遺跡、管玉が191 点である（下老子笹川遺跡は弥生時代中期と後期の 2 時期において玉つくりをおこなっているため中期と後期の両方で計上）。遺跡数や管玉の数から分かる通り、越中では弥生中期よりも後期において管玉製作が隆盛を迎えていることが分かる。　今回の分析の結果、弥生中期と後期の管玉では長さと幅の分布では大きな乖離はみられなかったが、細かな点では違いを読み取ることができた。中期の管玉は大半のものが幅 2mm から 3 ㎜、長さは 10mm にまで収まっているのに対し、後期のものの幅は中期よりも大きくなる。幅 4mm までのものが最も多いが、4mm以上のものもかなりの数が存在している。また長さに関しては 10 ～ 15mm のものが最も多かった。ただ全体的に見ると遺跡や管玉の絶対数はまだ少ないといえるので今後も調査が必要だろう。南加賀地方における弥生時代中期・後期の住居跡の検討　フィールド文化学コース　　　　　　　金延 季輝　弥生時代中期から後期にかけて北陸地方は、前期に出現した八日市地方遺跡が大規模化し、拠点集落へと発展することで、東西の文化交流の地点として重要な役割を果たしていたことが分かっている。八日市地方遺跡の周辺集落の情報をもとに、近くの梯川流域や、加賀三湖地域で中期から後期にかけて出現した遺跡の建物跡の情報を集成することで、弥生時代中期・後期における住居形態を分析しようと試みた。　この論文では、北陸地方における弥生時代の住居跡の研究、八日市地方遺跡の北陸地方における役割を確認し、より地域を絞った対象となる地域での情報を集成・分析することで南加賀地方の遺跡の建物跡の考察を行った。　八日市地方遺跡の近くの梯川流域や、加賀三湖地域では、中期以降の集落の移り変わりが多いため、遺構の中でも建物跡の検出例が少ないこともあり、分析方法の甘さを実感した。竪穴系住居跡、平地式住居跡、掘立柱建物跡に分類しての規模の比較などをしたが、検出の条件が整っていないことや、検出例の偏りからも正確な分析は行えなかった。今後の調査に際しての注意としたい。末期古墳出土の横瓶と祭祀―対蝦夷政策中断期（737～ 757 年）における移民の可能性―」　歴史文化学コース日本史学専攻　特別プログラム：考古学　　　　　　　　椿野智之　秋田県横手市をはじめとする雄勝地方を取り上げ、奈良時代前期の律令国家の支配拡大について解明することが、本論文の目的である。また、日本海側の人の移動を探るため、特に北陸地方での出土例が多いとされる須恵器の器種、横瓶について取り上げる。横瓶が出土した蝦夷塚古墳群は、横手市にある末期古墳である。横瓶のほかに、意図的に割られている穿孔土器が見つかっており、古墳築造後に祭祀が行われていたことが想定される。青森県・岩手県の末期古墳では、周溝で祭祀を行っていた可能性は低い。東北地方の横瓶出土遺跡は、8 世紀から９世紀にかけて広がり、律令国家の支配領域と関連があると考えられる。同時期に金沢大学考古学研究室 2021 年度卒業論文概要69横瓶の胴部は平坦化が進行する。蝦夷塚２号墳の横瓶は形態から、８世紀の前半から中頃には製作されていると考えられる。横瓶を用いた祭祀は北陸地方でも行われており、蝦夷塚２号墳から出土した横瓶についても、こうした北陸地方から移住した人々が祭祀を行った可能性がある。律令国家により東北地方への移民は主に「柵戸」と呼ばれ、天平 9（737）年以前を前期、以降を後期としてその在り方に変化がある。「戸」単位から「人」単位への変化、後期では浮浪人が充てられることが挙げられる。版図拡大中断期における移民は、兵士として男性が先に移住する「浮浪人」であった可能性を指摘した。三河地域の円筒埴輪━三河型の再検討━　フィールド文化学コース　特別プログラム：考古学　　　　　　　橋詰 祐香　円筒形埴輪（以下、円筒埴輪と呼ぶ。）は埴輪の中でも最も古い段階から存在し、全国的に数多く出土している。弥生時代後期の特殊器台に起源をもち、ほどなくして儀礼祭祀的性格から発達した朝顔形埴輪が成立した。　円筒埴輪の研究は早くからハケメ等の調整技法に注目がなされ、須恵器生産技術の導入を踏まえた全国的な編年が行われた。その後、地域ごとの特徴的な円筒埴輪それぞれにおいて埴輪生産工人集団の移動や技術伝播、埴輪の置かれた古墳の性格や中央王権との位置づけといった議論がなされている。　本稿では鈴木敏則氏が集成した円筒埴輪に加え、のちに報告された円筒埴輪・朝顔形埴輪を集成し、三河地域における円筒埴輪の調整技法および形態的特徴から分析を行った。尾張地域に展開する「尾張系円筒埴輪」・和泉国淡輪地方を祖とし、伊勢や遠江で在地化した「淡輪系埴輪」と対比される、三河地域特有の在地系円筒埴輪について特徴を辿ろうとした。特に埴輪を特徴づける要素の中でも突帯の形態、底部の調整、内外面の調整技法に着目して分析を行った。突帯の形態では西三河地域において断面形が高い台形および断面形が低い M字形の突帯、東三河地域においては上端が高く下端が低い台形を呈す、高さの低い突帯が多くみられ、「三河型」にみられる隆帯状突帯の確認に加え、埴輪製作技法が伝播する過程での時期差および地域差であることが分かった。底部の調整に関しては未調整のものが大多数を占め、従来の「三河型」の特徴を示した。底部の他形態の出土は少なく、「三河型」の生産の元、須恵器技法である底部ケズリや淡輪技法が導入され始めた時期に埴輪生産の縮小を迎えたと考えられる。最後の外面調整に関しては、一次調整タテハケとタテ板ナデに着目し、西三河地域ではタテハケが多く、東三河地域ではタテ板ナデが多いことが分かった。これは従来の VC 類・VD 類に当てはめると、西三河地域では VC 類、東三河地域では VD 類に偏っていることがわかる。以上のことから、先行研究の「三河型」を追認することができたといえる。　諏訪地域における縄文時代中期の土壙墓の特徴　フィールド文化学コース　特別プログラム：考古学　　　　　　　速見 透花　縄文時代中期は約千年の間、日本列島で縄文文化がもっとも繁栄した時期であると言われている。縄文時代前期の墓制を継承しつつ、各地で様々な墓制が成立した。その中でも土壙墓は縄文時代を通じて最も普遍的な墓であり、多数報告されている。しかしこれまでの土壙墓を中心とした研究は人骨が出土したものに大きく偏り、それ以外のものに関しては数が少ない。長野県においても「縄文王国」と称されるほどの遺跡が存在し、膨大な数の土壙墓とみられる遺構が報告されているにもかかわらずそれらについて詳細な分析を行った研究はほとんどみられない。そこで今回は長野県内でも特に縄文時代中期の遺跡が多い諏訪地域の遺跡の土壙墓の集成・分析を行った。さらに同時期の遺跡で人骨が多量に検出された北村遺跡との比較を行い、当時の諏訪地域における墓制の理解を深めるとともに土壙墓の傾向を探っていくことを目的とした。土壙墓を集成し①平面形、②長軸長、③出土遺物の三つの観点から分析を行った結果、諏訪地域の遺跡では楕円形に類する平面形を持つ土壙が最も多く、次いで円形の土壙が多いことが分かった。さらに土壙規模は長軸長 80 ㎝から 120 ㎝の間に収まるものが高い割合を占めており、長軸長 80 ㎝以下の小型の土壙や 200 ㎝を超える大型の土壙はあまり見られない結果となった。出土する遺物は諏訪地域内でも遺跡によって非常に多様であったがヒスイ製品やコハク製品、石匙などの装身具類が多数出土する遺跡がある点が印象的である。以上のような特徴を北村遺跡と比較すると北村遺跡と諏訪地域の遺跡ではかなり異なった様相が明らかになり、少なくとも諏訪地域の拠点的集落と北村遺跡では異なる文化が存在した可能性が高いことを指摘することができた。金沢大学考古学紀要 43　2022,　67-70.70金沢大学考古学紀要第 43 号　ISSN 0919-2573発　行　日：2022 年 3 月 14日発行：金沢大学人文学類考古学研究室　　　　　　920-1192 金沢市角間町　　　　　　Tel. 076-264-5328　　　　　　Fax. 076-264-5362　　　　　　Department of Archaeology　　　　　　School of Humanities　　　　　　Kanazawa University　　　　　　Kakuma-machi, Kanazawa,              Japan 920-1192.編集・レイアウト：足立拓朗印　刷・製　本　：前田印刷株式会社

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