Fujii, Yoshitaka

Kanari, Kei

Maekawa, Toru

Matsuda, Yusuke

Miyanishi, Yuta

Mizushina, Haruki

Monno, Yasunaga

Morimoto, Takuma

Nagai, Takehiro

Negishi, Ippei

Sakano, Yuichi

Sakurai, Masato

Tanahashi, Shigehito

Japanese

Tokushima University Institutional Repository

1 視覚光学研究がもたらす未来水科晴樹 1・坂野雄一 2・櫻井将人 3・永井岳大 4・棚橋重仁 5・藤井芳孝 6・根岸一平 7・前川亮 8・松田勇祐 9・金成慧 10・門野泰長 11・森本拓馬 12, 13・宮西雄太 14 1 徳島大学 〒770-8506 徳島県徳島市南常三島町 2-1 2 情報通信研究機構 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘 1-4 CiNet 棟 2B6 3 静岡理工科大学 〒437-8555 静岡県袋井市豊沢 2200-2 4 東京工業大学 〒226-8502 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259-G2-1 5 新潟大学 〒950-2181 新潟県新潟市西区五十嵐 2 の町 8050 6 熊本大学 〒860-8555 熊本県熊本市中央区黒髪 2-40-1 7 金沢工業大学 〒924-0838 石川県白山市八束穂 3-1 8 広島大学 〒734-8551 広島県広島市南区霞 1-2-3 9 豊橋技術科学大学 〒441-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘 1-1 10 宇都宮大学 〒321-8585 栃木県宇都宮市陽東 7-1-2 11 立命館大学 〒567-8570 大阪府茨木市岩倉町 2-150 12 Justus-Liebig-Universität Gießen, Abteilung Allgemeine Psychologie I, Otto-Behaghel-Strasse 10F, 35394, Gießen, Germany 13 University of Oxford, New Radcliffe House, Radcliffe Observatory Quarter, Woodstock Road, OX2 6GG, Oxford, UK 14 Tampere University， Korkeakoulunkatu 1, 33720 Tampere, Finland Future image realized by vision science research Haruki MIZUSHINA1, Yuichi SAKANO2, Masato SAKURAI3, Takehiro NAGAI4, Shigehito 本著作物は著者稿です（出版社版ではありません）。2  TANAHASHI5, Yoshitaka FUJII6, Ippei NEGISHI7, Toru MAEKAWA8, Yusuke MATSUDA9, Kei KANARI10, Yasunaga MONNO11, Takuma MORIMOTO12, 13, Yuta MIYANISHI14  1Tokushima University, 2-1 Minamijosanjima-cho, Tokushima-shi, Tokushima 770-8506, Japan 2National Institute of Information and Communications Technology, 2B6, CiNet, 1-4 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan  3Shizuoka Institute of Science and Technology, 2200-2 Toyosawa, Fukuroi, Shizuoka 437-8555, Japan  4Tokyo Institute of Technology, 4259-G2-1 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226-8502, Japan  5Niigata University, 8050 Ikarashi 2-no-cho, Nishi-ku, Niigata 950-2181, Japan  6Kumamoto University, 2-40-1 Kurokami, chuo-ku, Kumamoto-shi, 860-8555, Japan  7Kanazawa Institute of Technology, 3-1 Yatsukaho, Hakusan, Ishikawa 924-0838, Japan  8Hiroshima University, 1-2-3, Kasumi, Minami-ku, Hiroshima, 734-8551, Japan  9Toyohashi University of Technology, 1-1 Hibarigaoka, Tempaku, Toyohashi, Aichi, 441-8580, Japan   10Utsunomiya University, 7-1-2 Yoto, Utsunomiya, Tochigi 321-8585, Japan  11Ritsumeikan University, 2-150 Iwakura-cho, Ibaraki, Osaka 567-8570, Japan 12Justus-Liebig-Universität Gießen, Abteilung Allgemeine Psychologie I, Otto-Behaghel-Strasse 10F, 35394, Gießen, Germany  13University of Oxford, New Radcliffe House, Radcliffe Observatory Quarter, Woodstock Road, OX2 6GG, Oxford, UK  14Tampere University, Korkeakoulunkatu 1, 33720 Tampere, Finland  E-mail: mizushina.haruki@tokushima-u.ac.jp   3  はじめに 視覚光学研究がもたらす 30 年後の未来と，それに向けてのロードマップについての議論を，視覚研究グループの若手〜中堅の研究者 12 名により行った．3 つのグループに分かれてオンラインで座談会を行い，各自が用意した資料に基づき未来についての夢を語った．その後，議論を通して各グループが考える視覚光学研究の未来像を策定し，最終的に第 1 著者（水科）が 3 つのグループの議論の結果を取りまとめて本稿に記している．また，本稿に即して，我々の考えるロードマップを図 1 に示した．  （図１ このあたりに挿入）  1. 皆が同じ知覚体験を共有できる世界の実現 他者が見たり感じたりしているものを，あたかも自分の体験であるかの如く感じることができ，自分と他者との垣根を取り払うことができるような技術があれば，さらに円滑な他者とのコミュニケーションが実現できると考えられる．その際，聴覚，触覚や体性感覚など，視覚以外の複数の感覚モダリティを含めた知覚体験の共有も必要になるだろう．現在でも，多感覚情報をどのように提示したら不自然さを感じずにリアルな体験ができるのかという，人間の感覚と感覚情報を提示するデバイスとの関係性についての研究は盛んに行われている．さらにその先の展開として，自分と他者の感じ方の違いを知り，それをどうすり合わせ，不自然さを感じないように適応させていくのかの研究が必要になってくると思われる． ディスプレイなどの情報提示デバイスの多くは，人間の知覚特性の最大公約数に基づいて作られている．また，比視感度関数や等色関数，錐体感度関数などの標準化されたデータも，平均的な値を基に決められている 1, 2)．一方で，視力や聴力に個人差があることから分かるように，人は皆，個々に異なる知覚特性を持っている．また，加齢による調節力の低下（老視）などのように，年齢によって知覚機能が変容することもよく知られてお4  り，高齢化が進む現代社会においてこの点は無視できない．色覚にも多様性があり，標準的な等色関数に基づく色度座標を用いた場合，意図していた色の見えが伝わらない場合も有りうる．さらにはロービジョンの方々のように，日常生活に不自由を来しているようなケースもあるだろう．皆が同じ知覚体験を共有するためには，これらの個人差を吸収する必要がある．そのためにはどのような知覚メカニズムの理解が必要になるのだろうか．これまでの視覚研究は，集団レベルでの視覚メカニズムの理解を目指してきたと言えるが，上記の多様性を考えると，今後は個人レベルのメカニズムの理解を目指す必要があるように思われる． 知覚特性の個人差が吸収できれば，情報バリアフリーの実現にもつながる．障害や視覚機能の欠損を補完するために，医学的あるいは生物学的なアプローチでは限界があるが，それを工学的な手段で解決できるかもしれない．例えば，現在，屈折力の矯正のためには一般的にはメガネが用いられているが，ライトフィールドディスプレイを用いることで屈折力を補正できる可能性も提案されており 3)，将来はメガネが不要になるかもしれない．また，個人の等色関数を簡易に測定あるいは推定できる方法が実現され，それに基づく色情報の表示が可能になれば，色覚の多様性によらず，皆が共通の色の見えを共有できるかもしれない．また，加齢による視覚機能の低下を補う技術が実現すれば，高齢者にとってはもちろん，将来に高齢者になるはずのすべての人々にとって朗報になるであろう． 2. 現実を超えた視覚世界の創出 仮想現実（VR）や拡張現実（AR）など，視覚情報の提示技術の発展は目覚ましく，あたかもその場所にいるかのような高い臨場感や，実物が目の前に存在するかのような高い実在感を目指してさまざまな研究開発が行われている．30 年後の未来には，リアルな世界を再現することは当然として，付加価値を付けた上で，リアルに勝る視覚世界を提供できるようになっていると考える． 例えば，現実では体験不可能な身体変化体験が可能になったり 4)，感情や感性をコントロールする超現実的映像表現，人の心理状態の全てを予測・操作し，心理状態を自在に操5  作できる感覚情報提示（睡眠導入照明など）の実現が考えられる． その前段階として，まずは現実社会における知覚上の諸問題を解決する技術の確立が望まれる．個別事例として，例えば「快適な自動走行車の実現」が挙げられる．自動車の自動運転技術は，現在は安全性に最も注力して研究が進められているが，安全な自動運転技術が確立された後に重要になるのは，乗客が快適に乗車できるような制御技術ではないだろうか．自分が自動車を操作している運転手は車に酔いにくいが，自分の意図が車の動きに反映されない同乗者で乗り物酔いが発生しやすいことは多くの方が経験的に感じているところであろう．自動走行車では，この問題がより顕著になると思われるが，視覚誘導自己運動感覚（ベクション）や映像酔いの基礎研究の知見が，その解決法の糸口を与えるかもしれない．このような基礎研究の知見の現実問題への応用が，今後さらに重要になっていくのではないだろうか． 3. 視覚研究の方向性 視覚研究の大きな 2 つの方向性として，メカニズムの解明を目指したサイエンス型アプローチと，応用を見据えたアプリケーション型アプローチがある．サイエンス型は長い歴史を持ち着実な知見の蓄積が進んでいる一方で，研究のスピード感に欠ける傾向がある．一方でアプリケーション型は社会貢献につながる方向性であるが，個々の研究は場当たり的であるなど，科学的な知見の蓄積にあまり寄与していない場合も多い． そこで，この 2 つのアプローチの間でポジティブなループを回すことを常に意識する必要があると考える．サイエンス型での知見の集積を高速化し，応用を見据えた「使える」形での知見を蓄積する．これをアプリケーション型の研究に活用すると同時に，基礎研究の課題の洗い出しを行い，それをサイエンス型アプローチに還元する． 別の観点から見ると，科学的知見を提供するシーズベースの研究だけでなく，ニーズベースの研究も増やすことで，分野外の方に視覚光学研究の重要性や面白さに気づいていただき，分野の裾野を広げる努力も必要であろう． 4. おわりに 6  以上，視覚研究グループの若手〜中堅のメンバーによる議論から導かれた，視覚光学研究から描かれる未来とそこまでの道のりについて述べた．研究者が自分の研究のゴールを見据えるのは当然としても，微妙に異なる分野のメンバー同士の意見交換により，一段高い視点からのゴール設定ができたように感じられた．本記事を読んだ初学者の方々に視覚研究の目指すところを知っていただき，興味があればこの分野に飛び込んでいただきたい．また，この記事をきっかけに他分野の方とのコラボレーションが実現できれば幸いである．  文 献 1) 池田光男：テレビジョン学会誌：37 (1983) 711-716. 2) A. Stockman: Current Opinion in Behavioral Sciences: 30 (2019) 87-93. 3) G. Wetzstein: SID's Digest of Technical Papers, 51 (2020) 41-44. 4) K. Kilteni, J. M. Normand, M. V. Sanchez-Vives and M. Slater: PLoS ONE, 7 (2012) e40867.  現在 10年後 20年後 30年後皆が同じ知覚体験を共有できる世界の実現• メガネが不要な屈折力矯正技術• 多様性を考慮した色覚モデル• 加齢に伴う視覚機能の低下を補う技術• 視覚機能の回復/獲得（人工網膜）• ブレインマシンインタフェース（BMI）による日常生活のサポート現実を超えた視覚世界の創出• リアルに勝る視覚体験• 感情や感性をコントロールする超現実的映像表現• 現実では体験不可能な身体変化体験• 心理状態を自在に操作できる感覚情報提示技術サイエンス型アプローチ（シーズベース）アプリケーション型アプローチ（ニーズベース）• 知覚の個人差（高齢者，子ども，障がい者，プロ選手等）• 多感覚統合，時間知覚• ブレインイメージング etc.• VR/ARデバイスの進化• 映像酔い• 3Dディスプレイ（ライトフィールドディスプレイを含む）• ヘッドアップディスプレイ（HUD）• オンラインコミュニケーション etc.• サイエンス-アプリケーションのポジティブループで研究を加速• 「使える」形での科学的知見の集積• 他分野研究者とのコラボレーション現実世界における知覚上の諸問題を解決• 個人差を考慮した等色関数の測定法• 臨場感を評価する心理的指標の確立• オンライン知覚実験の方法論の確立• 快適な自動走行車の実現• より使いやすいVR/ARデバイス• 高い臨場感の遠隔会議システム• ロボや重機の遠隔操作• メガネ型ディスプレイ• デザインやマーケティングへの応用

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