京都大学新制・課程博士博士(工学)甲第23494号工博第4906号新制||工||1766(附属図書館)京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻(主査)教授 高野 裕久, 教授 米田 稔, 准教授 上田 佳代学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

PAOIN, KANAWAT

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Investigation on the effects of air pollution oncardiovascular disease risk factors using epidemiologicalapproaches：A longitudinal cohort studies in Thailand(Abstract_要旨 )PAOIN, KANAWATPAOIN, KANAWAT. Investigation on the effects of air pollution on cardiovascular disease risk factors usingepidemiological approaches：A longitudinal cohort studies in Thailand. 京都大学, 2021, 博士(工学)2021-09-24https://doi.org/10.14989/doctor.k23494   京都大学 博士（工学） 氏名 PAOIN  KANAWAT  論文題目 Investigation on the effects of air pollution on cardiovascular disease risk factors using epidemiological approaches: A longitudinal cohort studies in Thailand （疫学アプローチを用いた大気汚染の循環器疾患リスクファクターに対する影響の研究：タイにおける縦断コホート研究）   本論文では、都市化と工業化が進むタイにおいて、2 つの代表的なコホートデータに疫学的アプローチを適用し、大気汚染物質曝露から循環器疾患発生に至るまでの経過を明らかにしようとしたものである。特に、大気汚染物質（粒子状物質(PM10), オゾン(O3), 二酸化窒素(NO2), 二酸化硫黄(SO2), 一酸化炭素(CO)）曝露と循環器疾患の危険因子（高血圧、脂質代謝異常、高血糖）および動脈硬化に与える影響について検討し、それぞれについて論じた結果をまとめたものである。以下の５章からなる。  第 1 章では、詳細な文献レビューにより、大気汚染と循環器疾患の危険因子（高血圧、脂質代謝異常、糖尿病）や動脈硬化の進展との関連について検討した過去の疫学知見結果について整理した。大気汚染曝露と循環器疾患の危険因子、動脈硬化との関連について検討した疫学知見は欧米を中心に数多く報告されているが東南アジアからの報告はほとんどない。タイを含む経済発展著しい東南アジアでは、都市化・工業化に伴い、様々な発生源からの大気汚染が排出されているにも関わらず、上記疫学知見が限られていること、特に大気汚染曝露と動脈硬化の進展との関連の疫学研究は、いずれも横断調査(Cross-sectional study)であり、ある 1 時点のデータを用いた検討でしかないため、必ずしも因果関係を示唆するものではないことを示した。また、大気汚染の疫学研究に用いられる大気汚染の曝露評価について概説した。大気汚染物質の短期曝露（日々の濃度変動）に着目した疫学研究では、対象地域での測定局データを用いることが多いが、数か月以上の長期曝露と健康事象との比較では、空間変動を評価する必要があるため、１つの測定局のみ用いることはできない。空間的な分布を検討するための空間補間法について、Land Use Regression を例にして説明し、その妥当性評価についても説明している。これらの過去の疫学知見を踏まえたうえで、本論文の目的、すなわち大気汚染の長期曝露から循環器疾患発生に至るまでの危険因子（高血圧、脂質代謝異常、高血糖）と動脈硬化との関連について検討することが述べられた。  第２章では、Sukhothai Thammathirat Open 大学卒業生を追跡した Thai Cohort Study (以下 TCS)のデータを用いて、大気汚染物質曝露と、高血圧/脂質代謝異常/糖尿病の発症との関連について検討した。対象地域はバンコク首都圏で、追跡期間は 2005～2013年であり、高血圧/高コレステロール血症/糖尿病の発症は、2009 および 2013 年に行われる追跡調査の質問票調査により記録された本人申請により評価された。本論文で用いる大気汚染物質濃度の空間的分布を推定するために、バンコク首都圏内にある 22 の一般大気観測局および 7 の自動車排出局で観測された大気汚染物質濃度のデータにordinary kriging 法を適用して推定した。推定された大気汚染物質濃度の妥当性については、1 個抜き交差検証(leave-one-out cross-validation)を行った。約 25,000 人を対象とした解析では、どの大気汚染物質も糖尿病発症との有意な関連は見られなかったものの、PM10, SO2 が高血圧/高コレステロール血症発症の増加と関連していた。すなわち、PM10 濃度の四分位範囲（15.3μg/m3）上昇は、高血圧、高コレステロール血症の新規発生はそれぞれ 13%(95%CI: 4, 23), 7%(95%CI: 2, 12)の増加と関連した。また、 SO2 濃度の四分位範囲（ 4.2ppb）の上昇は、それぞれ 22%(95%CI: 8, 38), 20%(95%CI:11, 30)の増加と関連した。本章の検討は、PM10 や SO2 への長期間の曝露は、高血圧や脂質代謝異常を増やす可能性を示唆する。 京都大学 博士（工学） 氏名 PAOIN  KANAWAT   第３章では、血液検査結果（総コレステロール(TC), 中性脂肪(TG), LDL コレステロール(LDL-C), HDL コレステロール(HDL-C), 空腹時血糖(FG)）と大気汚染との関連について解析を行った。本検討では、タイ発電公社（Electricity Generating Authority of Thailand、以下 EGAT)コホートの情報を用いた。1985 年に始まった EGAT 研究は、タイ発電公社の勤務者を対象として追跡が行われているが、本論文ではバンコク首都圏に居住する約 1800 人の 2002～2012 年の血液サンプルの結果が用いられた。各個人について、血液検査の直前 3 か月の平均大気汚染物質濃度と血液生化学検査指標とを比較した解析結果では、PM10, SO2, CO 濃度の上昇は TC, LDL-C, TG, FG 値の増加と関連していることを示した。また、SO2, CO の上昇は、いわゆる善玉コレステロールである HDL-Cの低下と関連していた。これらの結果は、大気汚染への曝露が脂質代謝や糖代謝の異常に寄与する可能性を示唆している。一方、O3 はこれらの値と負の関連を示した。PM10, SO2 と脂質代謝の生化学指標は、第２章の結果を支持するものである。これらの結果と過去の毒性学的研究結果を踏まえたうえで、大気汚染物質への曝露により、全身の炎症や酸化ストレス、自律神経系の乱れが引き起こされ、その結果として脂質代謝の異常やインスリン耐性への影響をもたらす可能性について論じた。これまで、大気汚染の曝露と循環器疾患の発生との関連について検討した研究は数多く報告されているものの、曝露から循環器疾患に至る経路については十分には解明されておらず、本論文は疫学的アプローチを用いて、炎症から脂質・糖代謝異常を経る経路を明らかにした点で学術的意義は高い。  第４章では、第３章をさらに発展させ、EGATコホートでえられた動脈硬化の指標を用いて、大気汚染との関係性について明らかにした。本論文では EGAT コホートで動脈硬化の指標となるAnkle brachial index (ABI)、および Cardio-vascular index (CAVI)を 2002～2017年の間に複数回測定した約 1200人を対象とした解析を行った。動脈硬化の進展により ABIの値は低下し、CAVIは増加することが知られている。ABIおよび CAVIと、その測定の直前 5年間の平均大気汚染物質濃度とを比較したところ、PM10, NO2, SO2, COはいずれも ABIと負の関連が見られ、COとの関連は有意であり(CO濃度の四分位範囲（0.19ppb）上昇あたり、0.58％(95%CI: 0.01, 1.14)の低下)、NO2との関連は有意に近いもの（NO2濃度の四分位範囲（4.4ppb）上昇あたり 0.47％(95%CI: -0.1, 1.04))低下）であった。一方、CAVI と NO2, SO2, COは正の関連が見られたが、いずれも有意な関連は見られなかった。以上より、高濃度の CO や NO2 への長期曝露が動脈硬化を進展させる可能性を見出した。これまで、大気汚染と動脈硬化との関連について検討した報告はあるが、いずれも 1 時点のデータを用いる横断調査であり、時間的な前後関係は不明であった。本研究は縦断コホートにより大気汚染と動脈硬化の進展との関連について複数回の測定結果を用いて検討した初めての報告である。本論文により大気汚染の曝露が、動脈硬化の進展に寄与し、結果として循環器疾患発症に至る可能性を示した。  第５章は本論文で得られた成果について要約し、大気汚染曝露から循環器疾患発生に至るメカニズムについて、詳細に論じている。第３，４章で用いられたのは 1985年に始まった EGAT1コホートであるが、現在、タイの大気汚染は環境政策により改善しつつあり、1998 年から追跡が始まったEGAT2コホート, 2009年に始まった EGAT3コホートを用いたさらなる研究展開についても言及し、これらの結果を都市化・工業化が進むタイについて、大気汚染を含めた都市部の環境計画についても論じている。     氏 名 PAOIN  KANAWAT  （論文審査の結果の要旨）   本論文では、タイの二つのコホートを用い、都市部における大気汚染物質の長期曝露が循環器疾患の危険因子である高血圧、脂質代謝、糖代謝および動脈硬化の進展に及ぼす影響について、疫学的アプローチを用いて明らかにした。主な成果は以下のとおりである。 １．大気質改善がいまだに大きな課題である東南アジアの都市部において、既存のコホートデータと空間補間法により大気汚染物質の空間的分布情報を用い、大気汚染物質、特に PM10, SO2 への長期曝露が、循環器疾患の危険因子である高血圧・脂質代謝異常・糖尿病の発症を増加させる可能性を示した。 ２．また、大気汚染物質への長期曝露が、上記疾患の発生だけでなく、血液生化学指標や動脈硬化の生理学的指標（ABI や CAVI）の変化をもたらすことを示した。１の結果と合わせて、これまで明らかでなかった大気汚染物質への曝露から循環器疾患に至る経路の１つについて、多くの生体指標を用いて明らかにした。疫学的アプローチを適用することによって得られた本論文の結果は、毒性学的研究の知見と合わせることにより、大気汚染曝露から循環器疾患発症に至る詳細なメカニズムが明らかになることが期待される。 ３．本論文で得られた大気汚染と循環器疾患の危険因子への影響係数は、多くの交絡要因を考慮したものであり、この健康影響係数を東南アジアでの疾病負荷評価に用いることにより、大気汚染の健康インパクトを定量的ン評価することが期待できる。  2つのコホートを用いた 3つの疫学研究から構成される本論文は、大気汚染から循環器疾患に至る経路について、質問票調査による疾病発生、血液生化学指標、動脈硬化指標という異なる健康アウトカムを用いた検討から明らかにした。本論文で得られた結果は、今後、タイに代表されるような経済発展著しい中収入国において、都市型大気汚染による疾病負荷定量化のためのリスク関数構築に応用可能で、大気環境工学的にも公衆衛生学的にも大きく資するものであって、学術上、実際上寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和 3 年 8 月 19 日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行って、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。          

疫学アプローチを用いた大気汚染の循環器疾患リスクファクターに対する影響の研究：タイにおける縦断コホート研究

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