京都大学新制・課程博士博士(経済学)甲第23401号経博第643号新制||経||298(附属図書館)京都大学大学院経済学研究科経済学専攻(主査)准教授 菊谷 達弥, 教授 関口 格, 教授 文 世一学位規則第4条第1項該当Doctor of EconomicsKyoto UniversityDGA

Hashizume, Ryo

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Essays on Network Effects andThird-degree Price Discrimination(Abstract_要旨 )Hashizume, RyoHashizume, Ryo. Essays on Network Effects and Third-degree PriceDiscrimination. 京都大学, 2021, 博士(経済学)2021-07-26https://doi.org/10.14989/doctor.k23401学位規則第9条第2項により要約公開  （ 続紙 １ ）                             京都大学 博士（  経済学  ） 氏名 橋爪 亮 論文題目  Essays on Network Effects and Third-degree Price Discrimination（ネットワーク効果と第三級の価格差別に関する研究）  （論文内容の要旨）   本論文は、ネットワーク効果並びに第三級価格差別に関する産業組織論の諸問題を理論的に検証している。  論文は全６章からなる。第１章は関連文献のサーベイを行いつつ、これによって浮かび上がる諸論点について整理し、論文全体の問題意識を論じるとともに、他の各章の内容を要約している。  第２章は、差別化されたネットワーク財複占市場における企業間の競争形態に関して、生産量と価格のどちらの戦略変数が内生的に選ばれるかという視点から分析を行っている。主な結果として、財が代替的であっても、ネットワークの互換性の程度が製品の差別化の影響を上回るほど大きい場合、各企業は戦略変数として価格を選択するということが示されている。 これは、非ネットワーク財市場において財が代替的であるならば、各企業は数量を戦略変数として選択するというよく知られた結果と相反する貴重な指摘である。 なおこの結果は、 携帯電話のように互換性が高いネットワーク財の市場では価格競争が起こりやすいことを示唆している。  第３章は、ネットワーク財独占市場における第三級の価格差別がもたらす経済厚生の評価について検討している。本章では、各々の市場の内部で働くネットワーク効果と、市場の間で働くネットワーク効果という二つのタイプの効果の強さを、効用関数における各変数のパラメーターで捉えている。このパラメーターの組み合わせが変化しても同一の需要関数が導かれることを示す一方で、パラメーターの変化に応じて経済厚生の評価の仕方は異なることを示している。この結果に基づき、理論モデルの設定を（効用関数を明示することなく）特定の需要関数を前提として始めた場合、その背後でどのようなタイプのネットワーク効果が働いているかを判別することができず、適切な経済厚生の評価ができなくなること、そのため、モデルは効用関数の設定から始めて、働いているネットワーク効果のタイプを明示しなければならないことを主張している。  第４章は、ネットワーク財独占市場における第三級価格差別がパレート改善を起こす条件について分析を行っている。従来では、第三級の価格差別によってパレート改善されるためには、すべての市場の価格について価格差別前より価格差別後の方が低くならなければならないものと考えられてきた。これに対して本章では、一方の市場の価格が価格差別後に上昇してもパレート改善が生じうることを明らかにしている。これは価格差別によって、ネットワークの規模が大きくなることで得られる効用の増加という正の効果が、価格の上昇による負の効果を上回ることによって生じる。この結果については、数学的な煩雑さを厭わず一般的な効用関数並びに需要関数を用いて示されている。これに加えて、線形の関数に特定した場合には、価格差別がパレート改善をもたらすとき、独占企業は一方の市場で限界費用を下回る価格付けを行うことも示している。  第５章は、継起的独占下における下流独占企業による第三級価格差別の分析を行っている。通常、独占企業の利潤は、価格差別可能な場合に価格差別を実行で  きないときよりも少なくとも同程度には大きくなる。しかしながら、本章の設定のもとでは、第三級価格差別を実行できず各市場に統一価格を設定しなければならないときの方が、価格差別可能な場合よりも、下流独占企業の利潤が厳密に大きくなることが示されている。このメカニズムは次のように説明される。価格差別可能な場合、下流企業はすべての市場で財を販売しようとするため、上流企業は高い出荷価格を付けることができる。一方で統一価格の設定時には、出荷価格が高いと下流企業は需要規模の小さい市場への販売をあきらめようとするため、上流企業は低めの出荷価格を設定する。結果として、価格差別可能な場合と比べて、統一価格の設定時には、価格付けに制約が加わるため利潤への負の効果が働くが、出荷価格低下による利潤への正の効果がそれを上回るため、下流独占企業の利潤は高くなっている。この結果は、価格差別を行わないという、No-Haggle Pricingなどのコミットメントが、直接の競争相手が存在しない独占企業にとっても有効なビジネス戦略になり得ることを含意している。 最後に第６章で、各章の結論について整理した上で、本研究の限界と今後の研究の方向性について議論している。         （続紙 ２ ）                             （論文審査の結果の要旨）  本論文の貢献は、ネットワーク効果並びに第三級価格差別に関する産業組織論の理論的諸問題にいくつかの新たな知見を提供した点にある。本研究では、既存の研究において従来当然とみなされてきた理論的成果に対して反例となる結果を導くモデルを提示することに成功していること、および、これまで見過ごされてきた問題を明るみに出して分析を加えその重要性を指摘していることなど、その学術的価値は高く評価できる。  具体的な各章の学術的貢献は以下の通りである。 第２章のもととなっている論文は、査読付き雑誌であるManchester Schoolに公表済みであり、その学術的価値はすでに認められている。論文では、代替財の競争において、企業が数量を戦略変数として選択するという従来よく知られた結果と異なり、ネットワークの互換性が大きい場合には、価格が戦略変数として選ばれることを理論的に明らかにしている点で、独自性のある結果といえる。  第３章の研究も、すでに査読付き雑誌のEconomics Bulletinへの掲載が認められており、近く公表予定である。この論文では、ネットワーク効果が存在する状況の下で、第三級の価格差別がもたらす経済厚生を評価するために、需要関数を前提とするのではなく、消費者の効用関数から出発し、関数の要素として、市場内ネットワーク効果と市場間ネットワーク効果のもたらす便益を分けて導入することを提唱している。これによって各タイプのネットワーク効果を区別することが、価格差別の厚生評価を正しく行うために重要であることを指摘している。これは、当該分野において従来見逃されてきた論点であり、簡潔な論文でありながらパンチの効いた結論を得ている。  第４章の研究では、ネットワーク効果が存在する場合、これまで知られていなかった条件の下で、第三級の価格差別がパレート改善をもたらすという状況が生じることが示されている。これは、一方の市場の価格が価格差別後に上昇してもパレート改善が生じることを指摘するものであり、意外性のある結果であるといえる。また、規制当局が価格差別を許容しうる状況があることを示している点で、規制政策に関する貢献としても評価に値する。  第５章の研究は、第三級の価格差別ができないという制約がある場合の方が、価格差別可能で価格付けに制約がない場合よりも、独占者の利潤が大きくなるという驚くべき結果が、継起的独占の下では生じることを示している。これは新奇性が高いばかりでなく、現実の企業の販売戦略にも応用できる知見である。  このように、本論文は、従来の通説に果敢に挑戦し、それに反する結果を多く導いており、その学術的内容は学位論文として十分優れたものであるが、なお検討すべきものとして、以下の点が指摘できる。 まず、第２章のパラメーターの設定に関するものである。先行研究との対比を明確にするために対称的なパラメーターを設定しているが、これにより分析の幅が狭まっているともみなすことができる。各市場の内部で働くネットワーク効果の強さが異なり、また、市場間でのネットワーク効果の強さも非対称な場合へと分析を拡張することによって、これまでに知られていない新たな結果を導ける可能性がある。 同じく第２章について、より俯瞰的な観点からいえば、企業が戦略変数として価格か数量かを自由に選べることを前提としている点である。実際の市場競争のあり方は、市場の制度的・構造的・物理的な諸側面から制約を受けるものと考  えられる。先行研究の流れをただ継承するに留まらず、例えばネットワーク財固有の論点に関連付けながら設定の妥当性を主張するなどすれば、さらに意義深い貢献となっていただろう。 次に、第３章について、ネットワーク財市場においては、需要関数の形状だけでは捉え切れない消費者の効用関数の形状が、経済厚生の評価に際して重要であるという主張は非常に鋭い指摘であるが、これは、本来、需要関数が一致するケース内の比較に留まらない洞察・含意を与えうるものである。ネットワーク財市場の厚生分析一般について、新たな視座を提供する後続研究を期待したい。 また第5章では、下流企業が統一価格を採用すると、上流企業の出荷価格が下がり、チャネルの利潤が増加しうることを主張するが、しかしながら、それにとどまらず消費者厚生も向上する可能性がある。二部料金契約の採用を含め、経済厚生についても検討する必要があろう。 最後に、論文全体を通して指摘できる点であるが、モデルで想定している状況に対応する現実の経済現象や企業行動に関する説明が乏しいことが挙げられる。すなわち、得られた理論的帰結が現実をどのように、またどの程度説明しうるか、実証的な検討がほとんど加えられていない。全く触れられていないわけではないが、説明は少なく、著しく理論に偏った研究となってしまっている点は否めない。 とはいえ、これらの点は、本論文の価値をいっそう高めるために改善が望まれる今後の検討課題であり、本論文の不備を意味するものではない。 以上の評価に基づき、本論文は博士（経済学）の学位論文として価値あるものと認める。なお、令和3年6月17日に論文内容とそれに関連した口頭試問を行った結果、合格と認めた。        

ネットワーク効果と第三級の価格差別に関する研究

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/265173/2/ykeik00643.pdf

ネットワーク効果と第三級の価格差別に関する研究

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