京都大学新制・課程博士博士(工学)甲第23171号工博第4815号新制||工||1752(附属図書館)京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻(主査)教授 田中 茂信, 准教授 田中 賢治, 准教授 佐山 敬洋学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

Try, Sophal

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Impact of Climate Change on FloodInundation in the Lower Mekong BasinConsidering Various Sources of ClimateOutputs( Abstract_要旨 )Try, SophalTry, Sophal. Impact of Climate Change on Flood Inundation in the Lower Mekong BasinConsidering Various Sources of Climate Outputs. 京都大学, 2021, 博士(工学)2021-03-23https://doi.org/10.14989/doctor.k23171許諾条件により本文は2022-03-01に公開 - 26 -  京都大学 博士（工学） 氏名 Try Sophal 論文題目 Impact of Climate Change on Flood Inundation in the Lower Mekong Basin Considering Various Sources of Climate Outputs （様々な気候変動予測を用いたメコン川下流域の氾濫への気候変動影響） （論文内容の要旨） 本論文は、メコン川流域を対象として、降雨流出氾濫モデルを作成し、様々な気候変動予測結果を用いて、気候変動が洪水氾濫特性に及ぼす影響について検討したものである。本論文は以下の 7 章から構成されている。   第１章は、序論である。洪水現象に関する研究の重要性を述べるとともに気候変動の洪水への影響が住民の生命と資産、農業、経済および絶滅に瀕している生態系など多岐に及び被害の総合的な評価が難しいことを指摘しており、IPCC の第 5 次評価報告書を概括し、本研究の背景と目的および本論文の構成を示している。  第２章は、研究対象地域の概要を説明するとともに本研究で用いる洪水氾濫モデルについて述べている。メコン川は流域面積 795 千㎢の世界的な大河川であり、カンボジアに位置するトンレサップ湖で代表されるように、毎年発生するメコン川下流部(LMB)の洪水氾濫が生態系の生産性や多様性に重要な役割を果たしていて、沿川住民以外に漁業や観光など多様なセクターが関係しており、この環境は水文循環の変化に対して脆弱であることを指摘している。メコン川の洪水概況を示すとともに LMB、なかでも、特徴的な挙動を示すトンレサップ湖の拡大・縮小を含めた下流域の洪水氾濫再現が可能なモデルとして、二次元拡散波近似による降雨流出氾濫モデル（RRI）を適用し、空間分解能を全流域 2.5 分、下流域については、より詳細に氾濫を検討するため 1.5 分として流域モデルを構築し、2000 年から 2007 年の地上観測降水量、流量および氾濫範囲を用いて SCE-UA 法によりモデルパラメータを設定している。  第３章はメコン川流域をカバーする観測降水量が時空間的に十分得られない中で、RRI モデルで用いる降水量データとして、比較的長期間のデータを有する APHRODITE、GPCC、PERSIANN、GSMaP および TRMM の 5 種類のグリッド降水量プロダクトについて、中流部、下流部およびトンレサップ湖の流入部の 4 地点での流量ハイドログラフを観測値と比較し NS 係数や相関係数で評価するとともに、氾濫範囲を MODIS と比較評価した結果、気候値や極値の推定に用いる基準プロダクトとして GPCCを選択している。  第４章は、気温 4℃上昇下での極端洪水氾濫の特性を調べるため、空間解像度 60km、過去実験（1951-2010）および将来実験(2051-2110)の d4PDF を用いた解析を実施している。感度分析により、極端洪水氾濫を表現するのに最も適した期間降水量として 90 日降水量を選択し、極端洪水の解析を行なっている。LMB の Kratie 地点における年最大流量について、バイアス補正無しの過去実験 100アンサンブルの確率分布の平均と 1934-2011 年の観測値の確率分布はほぼ一致していることを示している。また、低頻度極端事象の推定精度を確保するため 20 年間をブロックとするブロック最大値を用いて一般極値分布で確率評価を行い、過去実験で 50 年、100 年および 1000 年の再現期間に対する推定年最大流量が 61,600m3/s、67,400m3/s および 84,800m3/s であることと、これらが将来実験90 アンサンブルでは 25、33 および 40％、氾濫範囲が 19、29 および 36％とそれぞれ増加すること 京都大学 博士（工学） 氏名 Try Sophal を明らかにしている。  第５章は、気象庁気象研究所が開発した空間解像度 60km の全球気候モデル(MRI-AGCM3.2H)と 20kmの超高解像度の全球気候モデル(MRI-AGCM3.2S)を用いて 20 世紀末と 21 世紀末の洪水氾濫を比較している。従来、高解像度の気候モデルでメコン川流域の検討を行なったものは単一排出ガスシナリオであったが、本研究では 4 種類の温暖化ガス排出シナリオと 4 種類の SST 条件に対して、GPCC を参照したバイアス補正値で検討している。その結果、20 世紀末に比べ 21 世紀末において、洪水ピーク流量の発生時期はほとんど変化しないものの、年降水量の 6.6-14.2％増加に対し Kratie 地点の年間上位 5％流量が 13 - 30％、LMB での氾濫範囲が 19 - 43％、氾濫ボリュームが 24 - 55％増加することを示している。  第６章は、最新の CMIP6 と IPCC の第 5 次評価報告書に用いられた CMIP5 から、それぞれ 8 種類のモデルを選んで、バイアス補正なしの状態で降水量を GPCC と比較し、性能を評価した結果を Taylor図により分かりやすく示しており、CMIP5 に比べ CMIP6 は、グリッド毎およびメコン川流域平均でGPCC との相関が良くなっていること、また、Kratie 地点における年最大流量の平均が観測値と比べ、CMIP5 では過小評価気味であるが CMIP6 ではほぼ同レベルであること、2025-2100 年では 20 世紀末に比べ、共有社会経済パス SSP2-4.5 シナリオで 10.1 - 17.2％、SSP5-8.5 で 9.9 - 28.9％増加することを示している。  第７章は、結論であり、本論文の主要な結果をまとめている。                      氏 名 Try Sophal （論文審査の結果の要旨）  本論文は、メコン川流域を対象として、降雨流出氾濫モデル(RRI)を適用し、様々な気候変動予測結果を用いて、気候変動が洪水流出やメコン川下流域の洪水氾濫特性に及ぼす影響について検討したものであり、主な研究成果は以下のように要約できる。  １）メコン川流域を対象に、2 次元分布型モデルである降雨流出氾濫（RRI)モデルを適用している。空間分解能を全流域では 2.5 分、メコン川下流域についてはより詳細に氾濫を検討するため 1.5 分として流域モデルを構築し、2000 年から 2007 年の地上観測降水量、流量および氾濫範囲を用いてSCE-UA 法によりモデルパラメータを設定している。 ２）メコン川流域をカバーする観測降水量が時空間的に十分得られない中で、RRI モデルで用いる降水量データとして、5 種類のグリッド降水量データセットについて、中流部、下流部およびトンレサップ湖の流入部の 4 地点での流量ハイドログラフを観測値と比較し NS 係数や相関係数で評価するとともに、氾濫範囲を MODIS と比較評価した結果、気候値や極値の推定に用いる基準プロダクトとして GPCC を選択している。 ３）1951-2010 年に対応する過去実験 100 アンサンブルおよび 2051-2110 年に対応の将来実験 90アンサンブルという巨大なアンサンブルデータベース d4PDF を用いて、過去実験の累積分布のアンサンブル平均がほぼ観測値の累積分布と等しいことを確認した上で、メコン川下流域の洪水氾濫の極値を推定し 50 年、100 年および 1000 年の再現期間に対する Kratie 地点における年最大流量が、25、33 および 40％、下流域の氾濫範囲が 19、29 および 36％それぞれ増加することを明らかにしている。 ４）気象研究所が開発した水平解像度 60km の高解像度全球気候モデル(MRI-AGCM3.2H)と 20km の超高解像度全球気候モデル(MRI-AGCM3.2S)の 4 種類の温暖化ガス排出シナリオと 4 種類の SST 条件に対して、GPCC を用いてバイアス補正して比較検討した結果、21 世紀末において、20 世紀末に比べ年降水量の 6.6-14.2％増加に対し、Kratie 地点の年間上位 5％流量が 13 - 30％、メコン川下流域での氾濫範囲が 19 - 43％および氾濫ボリュームが 24 - 55％それぞれ増加することを示している。 ５）最新の CMIP6 と IPCC の第 5 次評価報告書に用いられた CMIP5 から各 8 種類のモデルを比較し、バイアス補正なしの状態で CMIP5 に比べ CMIP6 は精度が高く、Kratie 地点における年最大流量の平均がほぼ観測値と同レベルであること、2025-2100 年では 20 世紀末に比べ、共有社会経済パスSSP2-4.5 のシナリオで 10.1 - 17.2％、 SSP5-8.5 で 9.9 - 28.9％増加することを明らかにしている。  以上のように、本論文は、メコン川流域を対象として、最新の気候予測結果を含む多くの予測結果を用いて、洪水氾濫リスクの将来変化を多面的に検討したものであり、学術上、実際上寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和 3 年 2 月 15 日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行って、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。  

様々な気候変動予測を用いたメコン川下流域の氾濫への気候変動影響

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